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【脳梗塞治療エビデンス活用術】ガイドラインだけじゃない? 脳梗塞治療リアルワールドエビデンスという新たな武器 - vol.1

【脳梗塞治療エビデンス活用術】ガイドラインだけじゃない? 脳梗塞治療リアルワールドエビデンスという新たな武器 - vol.1

2025.12.30

脳梗塞診療に携わっていると、日々このような場面に出会います。

「85歳女性、心房細動による心原性脳塞栓症を発症して全介助状態。腎機能も悪く、元々車椅子生活でフレイルや認知症もあるー」

「ガイドラインでは抗凝固薬による再発予防が強く推奨されているが、この患者にも行った方がよいのだろうか?」

教科書やガイドラインの推奨は理解していても、目の前の患者に当てはめるところで、ふと手が止まってしまう。このような“治療判断のグレーゾーン”に出くわす事は、日常診療においては少なくありません。


本連載「医療職のための脳梗塞治療エビデンス活用術」では、脳梗塞治療に関するランダム化比較試験(RCT)やメタ解析・システマティックレビューに加え、近年急速に蓄積されている Real World Evidence(RWE:リアルワールドデータから得られるエビデンス)を取り上げ、「ガイドライン・RCT・RWEをどう読み、治療戦略にどう落とし込むか」という“現場の頭の中”を具体的に可視化していきます。


初回は、脳梗塞を例にしながら、

  • なぜガイドライン通りがそのまま通用しない患者が多いのか

  • RWEをどう位置づけ、どこまで信頼してよいのか

  • 個々の患者にエビデンスを適用する時、何を確認すべきか

といった“総論”を整理します。


次回以降の回では、超急性期治療(rt-PAやMT)、急性期内科的治療、二次予防の内科的治療、血行再建術、など、具体的なテーマに踏み込んでいく予定です。

明日からの診療で“その治療、本当にガイドライン通りでいいのか?”と迷った時に立ち戻れる、治療判断の羅針盤を一緒に準備していきましょう。

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この記事のまとめ

この記事を読むと分かること

  • ガイドラインと実臨床の間にギャップ(Evidence-Practice Gap)が生じる理由

  • RCTとRWEの違いと、それらを相互補完的に活用する視点

  • 忙しい臨床現場でも実践可能な論文の批判的吟味と実臨床への適用プロセス

この記事は誰に向けて書いているか

  • 脳卒中診療に携わるすべての医療従事者(医師、薬剤師、看護師、リハビリテーション専門職など)

  • 高齢者や併存症例への治療適応に悩み、ガイドラインと実臨床の乖離を感じている医師

  • 臨床疑問の解決手段として、リアルワールドデータ(RWD)や臨床研究に関心のある医療従事者

脳梗塞治療エビデンス活用術シリーズ 

  • vol.1 ガイドラインだけじゃない? 脳梗塞治療リアルワールドエビデンスという新たな武器

執筆者の紹介

氏名:蒲生直希
所属:王子総合病院 脳神経内科 主任科長/札幌医科大学 内科学講座神経内科学分野 臨床講師
自己紹介:大学卒業後より脳神経内科医として研鑽を積み、現在は地域中核病院で急性期医療に従事。専門は脳卒中と頭痛で、日本内科学会総合内科専門医、日本神経学会神経内科専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医を取得。臨床の傍ら、研修医・専攻医教育、講演、Web記事や書籍の執筆を通じて、実践的なEBMの普及に取り組んでいる。現在はmJOHNSNOW fellowとして研究デザイン・統計手法も学びつつ、臨床研究にも取り組んでいる。

編集者

氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。

1.“エビデンス通り”と“目の前の患者”との間にあるギャップ

ガイドラインを知らないから迷うのではなく、目の前の患者がガイドラインの想定から外れているから迷うのです。

1-1.医師・コメディカルそれぞれの Evidence–Practice Gap

脳梗塞の診療に限りませんが、臨床現場ではエビデンス(理想)と目の前の患者(現実)が食い違う場面に日々直面します。

例えば、心房細動を有する超高齢者の二次予防について考えてみましょう。

米国をはじめとする各国のガイドラインは、心房細動合併脳梗塞患者の二次予防としてDOACを含む抗凝固療法を推奨しています。

しかし、多くのRCTでは80歳以上や高度腎機能障害、多数の併存症を抱える患者、すでにADLが低下している患者は十分に含まれていません。


看護師であれば、急性期の降圧管理でこう感じるかもしれません。

「認知症が元々あるし、ガイドライン通りの厳格な降圧(持続静注)をすると、この高齢患者さんは夜間せん妄が出そうだ。」

「血圧はコントロールできていても、転倒やせん妄でADLが悪化したら本末転倒ではないか?」


薬剤師なら、ポリファーマシーや服薬アドヒアランスが気になるでしょう。

「根拠となるRCTの対象集団と違って、目の前の患者さんは内服が15種類もあり、軽度認知機能低下も見受けられる。退院後、この複雑な DOAC+降圧薬+スタチン を本当に正しくきちんと飲み続けられるのか?

「 RCTの再発予防効果は、この患者さんにおいても期待してよいのだろうか?」


リハビリスタッフなら、早期離床の具体的な開始時期や運動の強度に悩むはずです。

こうした“現場のモヤモヤ”は、単にエビデンスを知らないからではありません。

むしろ、エビデンスを知っているからこそ、「この人には当てはまらないのでは?」という疑念が生じる。

そのギャップはEvidence–Practice Gap(EPG)と呼ばれます【1】。

1-2.PICO/PECOで“ズレ”を言語化する

このEPGを整理する上で有用なのが、EBM(Evidence-Based Medicine:根拠に基づく医療)の実践でよく用いられている”PICO/PECO”です。

先程の”85歳・フレイル・腎機能低下”の女性症例を、改めてPICO/PECOに落とし込んでみます。

P(Patient):超高齢で出血リスクが高く、フレイルのある心原性脳塞栓症患者
I / E(Intervention / Exposure):経口抗凝固薬(ワルファリン、DOAC)
C(Comparison):抗凝固療法なし
O(Outcome):脳梗塞再発、全死亡、重大出血、機能予後(mRS)など

この時、

  • RCTに登録されている患者の“ P ”は、”比較的若く、併存症の少ない患者”

  • 目の前の患者の“ P ”は、”超高齢・腎機能低下・フレイル・多剤併用”

といったズレがあります。

つまり、「ガイドラインの元になっている“ P ”」と、「目の前の患者の“ P ”」が一致していないのです。

ここに、RCTの結果をそのまま実際の患者に適用できない理由があります。

2.なぜRCTをそのまま当てはめられないのか

RCTのエビデンスは『厳格な適格基準を満たした集団』のデータ。
しかし、私たちが実臨床で遭遇する患者さんはもっと複雑な場合が多いのです。

2-1.RCTが抱える構造的な限界

RCTは、因果関係の検証という点では非常に強力なデザインです。

しかし、RCTの対象となる集団は、現実の患者全体を代表しているとは限りません。

Rothwellらは、RCTの結果が”誰に当てはまるのか(外的妥当性)”という根本的な問いを投げかけています【2】。

RCTの外的妥当性を考える時、臨床現場では症例数、対象、併存症、追跡期間などの点で現実世界より“きれい”になりやすく、以下に挙げた”五つのToo”がRCTの問題点として指摘されています。

  • Too few:追跡対象の症例数が少ない

  • Too narrow:治療法や併用療法が限定されている

  • Too median-aged:比較的健康な中年層に偏り、高齢者や妊産婦、小児が除外されがち

  • Too simple:重度の併存症がある患者や多剤併用の患者が除外されている

  • Too brief:追跡期間が短く、長期アウトカムが分からない

つまり、ガイドラインや教科書に載っている“きれいなエビデンス”は、そもそも最初から「現実の患者全体」を反映していません。

教科書どおりに治療方針が当てはまらないのは、医療者のせいではなく、RCTの構造的な問題でもあるのです。

”五つのToo”がRCTの問題点

2-2.Evidence–Practice Gap(EPG)の正体

このような背景から、ガイドラインに書かれた推奨と、目の前の患者に対する最適な治療の間には常にズレ(EPG)が生じます。

問題は、医療者がエビデンスを知らないことではなく、エビデンスを知っていても、そのままでは目の前の患者に適用できないことにあります。

このギャップを埋めるための手段の一つとして、近年注目されているのがレジストリや電子カルテ、DPC などの Real World Data(RWD)を解析した Real World Evidence(RWE)です。

3.RWDとRWE:具材と料理というイメージ

RWE(リアルワールドエビデンス)はRCTの下位互換ではなく、RCTの隙間を埋める重要なパートナーです。

RCTとRWEの関係を考える時に、よく用いられるのが “Efficacy(効力)”“Effectiveness(有効性)” の区別です。

RCTは、選択・管理された理想的な条件のもとで”この薬は効くのか?”を問うデザインであり、主にEfficacyの検証に適しています。

一方、RWEは、併存疾患や多剤併用、アドヒアランス不良などが入り混じった日常診療の中で、”実際の現場でどれくらい効果が発揮されているのか?””安全性プロファイルはどうか?”を評価する、Effectivenessのエビデンスと位置づけられます。


実際の脳梗塞診療でも、rt-PADOACは、RCTでEfficacyが示された上で、レジストリやDPC・電子カルテデータによるRWEで高齢者や多疾患併存例におけるEffectivenessや安全性が検証されてきました。

以降では、このEfficacyとEffectivenessのギャップを意識しながら、RWD / RWE の役割を整理していきます。

3-1.RWD=具材、RWE=料理

RWD / RWEについて、まず用語の整理をしておきましょう。

本連載では、『データ(RWD)』『解析結果(RWE)』を区別するため、規制当局(例:米国FDA)の定義に沿って用語を統一します。

RWD(Real World Data):
電子カルテ、レセプト(DPC)、レジストリ、ウェアラブルデバイスなど、”日常診療の過程で自動的に蓄積される生データ”そのものを指します【3,4】。

例:脳卒中データバンクなど

RWE(Real World Evidence):
RWDを疫学・統計手法で解析した結果を指します。

例えば、80 歳以上の心房細動患者におけるDOACとワルファリンの有効性・安全性を比較した観察研究の結果などがRWEにあたります【3,4】。

具体的には、Fushimi AF Registry や ANAFIE Registry のような、高齢心房細動患者におけるDOACの実態を調査した観察研究の結果などがこれに該当します【5,6】。

料理に例えると、RWDは冷蔵庫の中にある食材、RWEはそれを調理して出来上がった料理、というイメージです。

RWDは冷蔵庫の中にある食材、RWEはそれを調理して出来上がった料理

3-2.RWEはRCTの下位互換ではない

かつてのエビデンスピラミッドでは、RCT > 観察研究 > 症例報告 のように、階層構造で示されていました。

しかし近年は、この縦の序列よりもエビデンスの確実性を軸に評価する考え方が主流になっています。

Muradらは新しいエビデンスピラミッドを提唱し、研究デザインのみでヒエラルキーを決めるのではなく、そのCQとアウトカムに対してどれだけ信頼できる結果かを総合的に評価するべきと述べています【7】。

エビデンスピラミッド

現在のガイドラインで用いられているGRADEシステムも同様に、個々のRCTや観察研究ではなく、あるCQ・アウトカムに対するエビデンス全体の確実性を高・中等度・低・非常に低の 4 段階で評価します【8】。

一般に、RCTを中心とするエビデンスは「高」から、観察研究を中心とするエビデンスは「低」から出発しますが、GRADEでは内容に応じて容赦なく格下げも格上げも行われます【8】。


格下げ要因としては、

  • リスク・オブ・バイアス(研究デザインや実施方法の問題)

  • 非一貫性(研究間で結果がバラバラ)

  • 非直接性(自分の患者・設定・アウトカムとズレている)

  • 不精確性(症例数が少なく信頼区間が広い)

  • 出版バイアス(都合のよい結果だけが公表されている)

といったものがあり、一方で格上げ要因としては、

  • 効果が非常に大きい

  • 用量反応関係がある

  • 残余交絡がむしろ「効果を小さく見せる方向」に働いている

といったものが挙げられます。

例えば、SITS-ISTRレジストリなどでは「80歳以上の超高齢者であっても、rt-PA 静注が良好な転帰(mRS 0–2)と関連している」ことが示唆されています【9】。

これはRCTであるIST-3の結果とも方向性は一致しています【10】。

観察研究である以上、バイアスは避けられませんが、それを差し引いてもなお効果が非常に大きい場合、そのCQに関するエビデンスは1段階格上げされることがあります。


一方で、RCTだからといって常にエビデンスの確実性が高いまま維持されるわけではなく、実施方法に問題があったり(リスク・オブ・バイアス)、結果がばらついていたり(非一貫性)、自分の患者像と大きく異なる集団で行われていたり(非直接性)すれば、GRADEでは1段階以上の格下げが行われます。

例えば、軽症(NIHSS≦3)、中国人、発症24時間以内という条件で行われたCHANCE試験【11】の DAPT の結果を、そのまま中等症(NIHSSがより高い)、発症24時間超、日本人といった患者に一般化してしまうのは、まさに非直接性が大きい状況であり、そのCQに関するエビデンスの確実性は1段階下げて評価せざるを得ません。

これはCHANCE試験の質が低いということではありません。

試験の設定と自分が診ている患者(日本人・中等症・発症後時間が不明など)の条件(PICO)がズレている、というだけの話です。

つまり、RWEはRCTの下位互換ではなく、RCTではカバーしきれない領域(超高齢者、多疾患併存、長期予後など)を補完するもう一つのエビデンスとして位置づける必要があります。

4.RWEに潜む“4つの罠”をどう見抜くか

RWEは、RCTでは見えない現実世界を映し出してくれる一方で、ランダム化されていない以上、必ずどこかにバイアスを含んでいます。

すべての統計手法を理解する必要はありませんが、代表的な“罠”を知っておくだけでも、論文を読む目は大きく変わります。

① 選択バイアス(Selection Bias)

治療群と非治療群が、スタートの時点ですでに違う集団になっている現象です。これでは、因果推論の識別3条件の一つである”交換可能性(exchangeability)”が担保されません。

例として、rt-PA静注のレジストリ研究を考えてみましょう。実臨床では、あまりに重症で予後不良と判断した患者やフレイルが強い患者は rt-PA を控えられがちです。

その結果、rt-PA群には「もともと回復の見込みがある患者」が集まりやすく、薬の効果以上に予後が良く見えてしまう可能性があります。

選択バイアス(Selection Bias)

選択バイアス(Selection Bias)の徹底解説はこちら

【疫学専門家監修】選択バイアスを徹底解説 - 消えた患者が結果を歪める?

交換可能性(Exchangeability)の徹底解説はこちら
【疫学専門家監修】Exchangeability(交換可能性)を徹底解説 - Randomization(ランダム化)が実現する因果推論の必須条件 -

② 適応による交絡(Confounding by Indication)

なぜその薬が選ばれたのか、という医師の意図が結果を歪めてしまう現象です。

DOACの不適切減量を考えてみましょう。

RWEで標準用量群と低用量群を比較すると、低用量群の予後が悪く見えることがあります。

しかし実臨床では、超高齢、低体重、出血リスクが高い、といった患者ほど医師が恐れて減量する傾向があります。

この場合、低用量群にもともと予後不良な患者が濃縮されており、単純比較では用量の違いと患者背景の違いが切り分けられないことがあります。

適応による交絡(Confounding by Indication)

③ 不死時間バイアス(Immortal Time Bias)

「治療を受けるためには、そこまで生存していなければならない」という条件が、治療群を有利にしてしまう現象です。

典型例が”脳出血後の抗凝固療法再開”に関する研究です。

再開群に含まれるには、再開できる状態になるまで(例:発症後14日など)生存していなければなりません。

一方、非再開群には早期に死亡して再開できなかった患者が含まれます。

このまま比較すると、再開群の生存率が良いのは、薬の効果だけでなく、生き残ったから薬を再開できたことによるバイアス、不死時間バイアス(Immortal Time Bias)かもしれません。

不死時間バイアス(Immortal time bias)の徹底解説はこちら
【疫学専門家監修】Immortal time biasを徹底解説 - 臨床研究に潜む「不死の時間」の罠

④ 情報バイアス(Information Bias)

曝露やアウトカムを測定する際、情報の取り違いや測定方法が不十分であるために一方向に偏って測定結果がでてしまうことです。

例えば、カルテやレセプトのデータ自体が実際の病態とズレている現象です。

特にレセプトによる病名は保険請求の病名なので、正確な病名を反映していない可能性があり、DPCデータを用いた脳梗塞研究では、脳梗塞の病型の区別が曖昧なことがあります。

情報バイアス(Information Bias)

5.忙しい臨床家のための“3ステップ批判的吟味術”

では、脳梗塞診療の合間にエビデンス(特にRWE)を読む時、最低限どこを見ればよいのでしょうか。

ここでは、多忙な臨床家でも使える三つのステップに絞って紹介します。

Step1:起こり得るバイアスについて予測する

論文の結果を見る前に、”このテーマでは、どんなバイアスが入り込みやすいか?”を臨床の感覚で予測します。

例えば、DOACの用量別の有効性や安全性を比較した研究なら、

  • 高齢・低体重・腎機能低下の患者ほど減量されやすい

  • 転倒リスクやフレイルなど、測定されていない要因も処方に影響しそう

といった“臨床現場の常識”から、低用量群にはハイリスク患者が集まっていそうだと予測できます。

その上で、その交絡にどこまで対処しているかを論文で確認していきます。

Step2:“統計学的な交絡調整”と”集団・アウトカムの定義の妥当性”をチェックする

次に、

  • 交絡因子をどこまで調整しているか(年齢・性別だけでなく、NIHSS、mRS、併存症など)

  • 対象集団(治療群/対照群)の定義、アウトカムの定義は妥当か

をざっくり見ます。

特に、脳卒中領域では NIHSS などの重症度指標が調整変数に入っていない単純比較は信頼性が低くなります。

また、レセプト研究では脳梗塞や再発の定義が妥当性検証(validation)されているかどうかも重要です。

近年の質の高い研究では、こうしたバイアスを統計的に取り除く工夫(Target Trial Emulationなど)がなされていますが、解釈には注意が必要です【12】。

Step3:報告ガイドラインへの準拠をざっと見る

質の高い研究は、RCTならCONSORT声明、観察研究ならSTROBE声明、RWD研究ならRECORD声明、システマティックレビューならPRISMA声明といった国際的な報告ガイドラインに準拠して記述されています【13–16】。

もちろん、ガイドラインに従って書いてあるから絶対に正しいというわけではありませんが、

  • 除外基準や欠測データの扱いが明確か

  • 交絡因子の定義や調整方法が妥当か

  • 使用した病名コードの妥当性検証が行われているか

といった点が丁寧に書かれている論文は、それだけで一定の信頼がおけることが多いのも事実です。

6.エビデンスを目の前の患者に当てはめるための“七つの問い”

ここまでがエビデンスを“どう読むか”の話でした。

最後に、読んだエビデンスを目の前の患者の治療方針に落とし込む時に考えるべき“七つの問い”を整理しておきます。

エビデンスを目の前の患者に当てはめるための“7つの問い”
  1. この研究の対象者と、自分の患者はどれくらい似ているか?

    年齢、併存疾患、NIHSS、mRS、フレイルの程度など。


  2. 臨床研究のセッティングは、自分の現場と近いか?

    三次救急専門施設なのか、地域の一般病院なのか。在宅やリハ病棟では再現できない治療ではないか。


  3. アウトカム指標は、自分と患者が大事にしたいものと一致しているか?

    mRS、再発、死亡だけでなく、施設入所を避けたい、せん妄やQOL低下を避けたいなど、患者の価値観に合っているか。


  4. 介入と比較群は、自分の選択肢とズレていないか?

    DOAC vs ワルファリンの試験結果を、どのDOACをどの用量で開始しようか悩んでいる場面にそのまま当てはめていないか。


  5. リスクとベネフィットのバランスは、この患者ではどう見えるか?

    有意差がついていても、サンプル数が多いだけで、実際にはごくわずかな差で臨床的には意味がないこともあります。なので、相対リスクではなく絶対リスク減少、NNT・NNHをイメージし、自施設の患者集団でのベースラインリスクを踏まえて判断できているかを確認します。


  6. 自分の施設・地域のリソースで本当に実行可能か?

    24 時間 t-PA /MT 体制をとれるか、外来フォローは可能か、服薬支援をできる体制か、スタッフ数などのリハビリ資源は潤沢か、などを踏まえて、理想論ではなく実現可能な最適解になっているか。


  7. 患者さん本人の価値観と合致しているか?

    多少再発リスクが上がっても出血は極力避けたいのか、多少の出血リスクを負っても再発は避けたいのか。エビデンスだけでは決められない部分を含めて、Shared Decision Making(SDM)で埋めていけているか。

7.まとめ:この連載で一緒に目指したいこと

最後に第1回の内容を、明日から意識したい三点にまとめます。

  1. エビデンスの“階層”にとらわれず、RCTとRWEを両輪として“羅針盤”を描く

    かつてのエビデンスピラミッドにとらわれず、RCTとRWEを相互補完的に組み合わせることで、目の前の患者にフィットする治療戦略を組み立てる視点を持つ。


  2. エビデンスがないのではなく、探していない、読み切れていない、だけかもしれない

    ガイドラインに記載のない超高齢者や多疾患併存例でも、質の高いRWEの中にヒントが隠れていることは少なくありません。


  3. “読む力”ではなく“吟味する力”が患者を守る

    RWEは強力な武器になり得る一方で、バイアスの影響を受けやすく、使い方を誤れば毒にもなり得ます。起こりやすいバイアスを想定し、どこまで信用してよい結果か?を自分の頭で吟味する習慣が、患者を守る最後の砦になります。

次回以降は、本稿で整理した視点をもとに、

その脳梗塞の治療、本当にガイドライン通りでいいのか?という問いに、具体的に迫っていきたいと思います。

参考文献

  1. Grol R, Grimshaw J. From best evidence to best practice: effective implementation of change in patients’ care. Lancet. 2003;362(9391):1225–1230.

  2. Rothwell PM. External validity of randomised controlled trials: "to whom do the results of this trial apply?". Lancet. 2005;365(9453):82–93.

  3. U.S. Food and Drug Administration. Framework for FDA’s Real-World Evidence Program. FDA; 2018.

  4. U.S. Food and Drug Administration. Considerations for the Use of Real-World Data and Real-World Evidence to Support Regulatory Decision-Making for Drug and Biological Products: Guidance for Industry. FDA; 2023.

  5. Yamashita Y, Uozumi R, Hamatani Y, et al. Current Status and Outcomes of Direct Oral Anticoagulant Use in Real-World Atrial Fibrillation Patients - Fushimi AF Registry -. Circ J. 2017;81(9):1278–1285.

  6. Koretsune Y, Yamashita T, Akao M, et al. Baseline Demographics and Clinical Characteristics in the All Nippon AF in the Elderly (ANAFIE) Registry. Circ J. 2019;83(7):1538–1545.

  7. Murad MH, Asi N, Alsawas M, Alahdab F. New evidence pyramid. Evid Based Med. 2016;21(4):125–127.

  8. Guyatt GH, Oxman AD, Vist GE, et al. GRADE: an emerging consensus on rating quality of evidence and strength of recommendations. BMJ. 2008;336(7650):924–926.

  9. Mishra NK, Ahmed N, Andersen G, et al. Thrombolysis in very elderly people: controlled comparison of SITS International Stroke Thrombolysis Registry and Virtual International Stroke Trials Archive. BMJ. 2010;341:c6046.

  10. IST-3 collaborative group, Sandercock P, Wardlaw JM, et al. The benefits and harms of intravenous thrombolysis with recombinant tissue plasminogen activator within 6 h of acute ischaemic stroke (the third international stroke trial [IST-3]): a randomised controlled trial. Lancet. 2012;379(9834):2352–2363.

  11. Wang Y, Wang Y, Zhao X, et al. Clopidogrel with aspirin in acute minor stroke or transient ischemic attack. N Engl J Med. 2013;369(1):11–19.

  12. Hernán MA, Robins JM. Using Big Data to Emulate a Target Trial When a Randomized Trial Is Not Available. Am J Epidemiol. 2016;183(8):758–764.

  13. Vandenbroucke JP, von Elm E, Altman DG, et al. Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology (STROBE): explanation and elaboration. Epidemiology. 2007;18(6):805–835.

  14. Benchimol EI, Smeeth L, Guttmann A, et al. The REporting of studies Conducted using Observational Routinely-collected health Data (RECORD) statement. PLoS Med. 2015;12(10):e1001885.

  15. Moher D, Hopewell S, Schulz KF, et al. CONSORT 2010 explanation and elaboration: updated guidelines for reporting parallel group randomised trials. BMJ. 2010;340:c869.

  16. Page MJ, McKenzie JE, Bossuyt PM, et al. The PRISMA 2020 statement: an updated guideline for reporting systematic reviews. BMJ. 2021;372:n71.

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