
【脳梗塞治療エビデンス活用術】発症26時間の軽症脳梗塞。抗血小板療法は「DAPT」にすべき? - 14のエビデンスで治療戦略を見極める - vol.4
2026.03.28
軽症脳梗塞や高リスクTIAの急性期治療は、t-PAや血栓回収療法のようなダイナミックさはない一方で、最初の数日から数週間の方針が、その後の再発や機能予後を大きく左右します。
脳梗塞急性期における抗血小板療法に関する主な臨床疑問は以下の3点です。
① 単剤(SAPT)か、2剤併用(DAPT)か?
② DAPTの場合、2剤併用をいつまで続けるのか?
③ どの薬剤を選択するのか?
今回も架空症例を題材に、意思決定の流れに沿ってこれら三つの戦略をシミュレートしていきましょう。
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- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 脳梗塞治療エビデンス活用術
- 執筆者の紹介
- 編集者
- はじめに
- 症例提示とグレーゾーン
- 症例提示
- 本症例における臨床判断のグレーゾーン
- 臨床疑問(Clinical Question;CQ)の明文化
- ガイドライン・RCT・メタ解析の整理とその限界
- 土台となるSAPTのエビデンス
- DAPTの有効性と21日間限定という出口戦略
- 発症24時間を超えた症例へのエビデンスの適応
- RCTの限界や問題点
- 観察研究(RWE)とRCTの事後解析などによる補完
- 発症24時間を超えた症例への適応を補完
- 日本人を含む東アジア人特有の課題:CYP2C19遺伝子多型(効果修飾因子)
- RCTとRWEを踏まえた、症例に対する具体的治療戦略
- 治療戦略決定の補足
- 急性期の血圧管理と既存薬の考え方
- スタチンの急性期脳梗塞における位置づけ
- 消化管出血予防(PPIの併用)
- 15-22日目のシームレスなSAPTへの移行
- 総論の七つの問いで最終確認
- Team Communication Note
- Take Home Message
- 参考文献
- 【医学研究を学ぶならオンラインスクールmJOHNSNOW】
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
発症24〜72時間の軽症脳梗塞に対するDAPT導入のエビデンスと実践的アプローチ
14〜21日でDAPTを終了しSAPTへ移行するという出口戦略の重要性
脳梗塞急性期の抗血小板療法によるエビデンスの土台(アスピリン)と、RCTの限界を補う日本独自の治療(プラスグレル)の位置づけ
この記事は誰に向けて書いているか
軽症脳梗塞に対して漫然とDAPTを処方し、いつSAPTに戻すべきか迷っている医師
発症から24時間を超えて来院した軽症例への抗血小板薬選択に悩む方
急性期脳梗塞に対する抗血小板薬(アスピリン、シロスタゾール、クロピドグレル、プラスグレル)の使い分けを整理したい医療従事者
脳梗塞治療エビデンス活用術
vol.1 ガイドラインだけじゃない? 脳梗塞治療リアルワールドエビデンスという新たな武器
vol.2 「軽症脳梗塞、失語あり。t-PAを投与しますか?」 - 12のエビデンスで“攻めの治療”を見極める
vol.3 「広範な脳梗塞症例。リスクをとっても、血栓回収療法を行いますか?」 - 9つのエビデンスで“攻めの治療”を見極める
vol.4 発症26時間の軽症脳梗塞。抗血小板療法は「DAPT」にすべき? - 14のエビデンスで治療戦略を見極める(本記事)
執筆者の紹介
氏名:蒲生直希
所属:王子総合病院 脳神経内科 主任科長/札幌医科大学 内科学講座神経内科学分野 臨床講師
自己紹介:大学卒業後より脳神経内科医として研鑽を積み、現在は地域中核病院で急性期医療に従事。専門は脳卒中と頭痛で、日本内科学会総合内科専門医、日本神経学会神経内科専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医を取得。臨床の傍ら、研修医・専攻医教育、講演、Web記事や書籍の執筆を通じて、実践的なEBMの普及に取り組んでいる。現在はmJOHNSNOW fellowとして研究デザイン・統計手法も学びつつ、臨床研究にも取り組んでいる。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
はじめに
vol.2、vol.3と、超急性期の再開通療法(t-PAや血栓回収療法)におけるグレーゾーン症例におけるエビデンス活用法をシミュレーションしてきました。
今回は再開通療法の適応にならない、発症から少し時間が経過した急性期の軽症脳梗塞の内科的マネジメントの場面を取り上げます。
超急性期治療ほどダイナミックではないですが、抗血小板療法は脳梗塞再発や症状の進行を防ぐ大事な治療となりますし、出血合併症をできるだけ起こさないという安全面も重要になります。
今回は脳梗塞急性期における抗血小板療法について、迷いなく治療方針の決定を行うためのプロセスをシミュレーションしていきましょう。
症例提示とグレーゾーン
症例提示
まずは症例情報について簡単に提示します。
症例:61歳男性・右利き
現病歴:
昨日の午前8時頃に朝食中に突然の構音障害と右手の巧緻動作障害が出現したが、様子をみていた。一晩たった今朝も症状残存しているため、午前10時頃に救急外来を受診した(最終健常時間から26時間ほど経過)。
既往歴:高血圧と脂質異常症で投薬加療中。出血性疾患の既往はない。
生活歴:公務員で再雇用中(事務作業中心)、飲酒歴 機会飲酒、喫煙歴 10本/日、アレルギー歴なし
主な身体所見:血圧160/92 mmHg、脈拍 86・整。
主な神経学的所見:意識清明、NIHSS 3点(構音障害、右上下肢に軽度麻痺)。
心電図:洞調律で明らかな心房細動なし。
血液検査:
WBC 7800/μL Hb 13.6 mg/dL
Plt 23.0万/μL
BUN 15.6 mg/dL Cr 0.8 mg/dL
血糖 156 mg/dL HbA1c 6.0 %
TG 146 mg/dL LDL-C 130 mg/dL
PT-INR 1.04 APTT 32.5 sec
NT-Pro BNP 108 pg/mL D-ダイマー 0.4 μg/mL
画像所見:
頭部CTで出血なし。頭部MRI(DWI/FLAIR)で左放線冠に急性期脳梗塞(5mmスライス厚で1スライス)を認める。T2*WIでは微小出血は目立たない。頭頸部MRAでは、頸部血管に明らかな異常はないが、左中大脳動脈に中等度の狭窄を疑う所見を認める。
本症例における臨床判断のグレーゾーン
各種検査結果からは、心原性脳塞栓症よりもアテローム血栓性脳梗塞の機序が考えられます。
また、NIHSSは3点と低く現時点では軽症であるものの、構音障害と右手の巧緻動作障害は事務作業や対人業務に直結しうる症状です。
早期神経学的悪化(Early neurological deficit:END)を起こすリスクがあり、ひとたび進行すれば生活に支障のある後遺症につながる可能性があります。しかも、発症から24時間を超えており、後述するDAPTのエビデンスを確立したRCTのCHANCE試験やPOINT試験の枠組みからは外れてしまっています。
また、MRAでは、左中大脳動脈の狭窄が疑われ、再発やENDを生じる可能性も十分に考えられます。更に放線冠の病変であり、穿通枝起始部病変(=分枝粥腫病:BAD)の可能性も考えられます。
本症例に対して、抗血小板療法をどのように組み立てていくのが今回のテーマになります。
臨床疑問(Clinical Question;CQ)の明文化
本症例のCQをPICOでまとめます。
P(Patient):
非心原性の軽症脳梗塞または高リスクTIAで、発症24〜72時間にあり、再発リスクが高い患者
I(Intervention):
DAPT(抗血小板薬2剤併用療法)
C(Comparison):
SAPT(抗血小板薬単剤療法)※ 主としてアスピリン単剤
O(Outcome):
90日以内の脳卒中再発、早期神経学的悪化(END)、機能予後、出血リスク
ガイドライン・RCT・メタ解析の整理とその限界
土台となるSAPTのエビデンス
急性期抗血小板療法の骨格を考える上で、まず押さえるべきは土台となるSAPTのエビデンスで、ここではアスピリンについて考えていきましょう。
IST試験とCAST試験という超大規模RCTは、発症48時間以内のアスピリン投与が急性期の脳梗塞再発を抑制することを示しました(Chen ZM, et al. 2000)。従って、出血リスクなどの理由でDAPTが選択しにくい場合でも少なくともアスピリン単剤は使用するという考え方が標準になります。
DAPTの有効性と21日間限定という出口戦略
このアスピリンによるSAPTという土台の上にクロピドグレルを上乗せするDAPTの有効性を確立したのがCHANCE試験とPOINT試験です。両試験では、軽症脳梗塞や高リスクTIAに対するDAPTはSAPTに比べて虚血イベントを減らしましたが、POINT試験では出血合併症も増加しました(Wang Y, et al. 2013, Johnston SC, et al. 2018)。すなわち、DAPTはベネフィットがある一方で、出血というリスクも増える治療です。
更に、CHANCE/POINTの統合解析では、DAPTのベネフィットは開始後早期、特に最初の21日間に集中する一方、出血リスクは投与期間とともに蓄積することが示されており(Pan Y, et al. 2019)、DAPTは短期間のみ行い、21日前後でSAPTにするという出口戦略が支持されます。
発症24時間を超えた症例へのエビデンスの適応
一方で、CHANCEやPOINTのエントリー基準は発症12〜24時間以内であり、本症例のような24時間を超えて来院した患者にそのまま適応するには限界がありました。この壁を越えたのがINSPIRES試験です。
発症72時間以内で、動脈硬化性病変が疑われる軽症脳梗塞/高リスクTIAを対象としたINSPIRES試験では、DAPT群で90日以内の新規脳卒中が有意に減少した一方、中等度〜重度出血は低率ながら増加しました(Gao Y, et al. 2023)。
これを踏まえ、2026年AHA/ASA急性期ガイドラインでも、軽症脳梗塞/高リスクTIAに対するDAPTは発症24〜72時間を含めて考慮されるようになっています(Prabhakaran S, et al. 2026)。
RCTの限界や問題点
ただし、ここまでのRCTが示しているのは、あくまでRCTにエントリーできるような患者における平均的な効果です。
発症24時間と48時間で本当に同じように効くのか、日本人のようにCYP2C19代謝能が異なる集団でも同じようにクロピドグレルが効くのか、あるいはアテローム血栓性脳梗塞が疑われ、ENDリスクの高い患者においてベネフィットとリスクのバランスがどう変わるのかといった、“実臨床に即した複雑さ”までは十分に教えてくれません。
更に、急性期RCTの多くは追跡期間が90日前後にとどまり、長期における安全性や再発率のデータまで十分に揃ってはおりません。
従って、本症例ではRCTが示したエビデンスをそのまま当てはめるのではなく、次に示す観察研究としてのRWEやRCTの事後解析、薬効をみる臨床試験のデータを用いて、薬効の時間軸による変化や効果修飾因子などを読み解いた上で判断する必要があります。
観察研究(RWE)とRCTの事後解析などによる補完
では、RCTが示した標準的なエビデンスを、
”26時間程経過した軽症脳梗塞”
”M1狭窄によるアテローム血栓性脳梗塞疑い例”
”日本人”
という本症例のような患者にどう適応していけばよいのでしょうか。
ここで役立つのが、観察研究としてのRWE、RCTの事後解析、そして薬効をみるメカニズム寄りの臨床試験です。これらはエビデンスヒエラルキーの上ではRCTそのものを置き換えるものではありませんが、RCTが十分に教えてくれない時間依存性や効果修飾因子の問題を補完するために有用です。
発症24時間を超えた症例への適応を補完
まず、本症例において最も重要なのは“発症から26時間”という時間軸です。INSPIRES試験は発症72時間以内までDAPTの有効性を支持しましたが、72時間以内ならいつ始めても同じように効くのでしょうか?
20施設による前向き多施設コホート研究では、90日間の複合イベント(再発/心筋梗塞/死亡)に対するDAPTのベネフィットは0–24時間開始で最も大きく、24–72時間では明確なベネフィットが観察されず、約42時間で境界を跨ぐ可能性が示唆されました(Shin J, et al. 2026)。
つまり本症例は、ガイドラインの射程にはまだ入るものの、待ってもよい患者ではなく、1時間でも早くDAPTを開始すべき患者と捉えるべきかもしれません。
この時間依存的な効果は、RCTの事後解析でも示されています。ATAMIS試験の事後解析では、ENDに対するDAPTの抑制効果は0–24時間開始群で目立つ一方、24–48時間開始群では差が乏しく、開始時間との交互作用が示されました(Cui Y, et al. 2024)。

これらは、あくまで観察研究や事後解析であり、INSPIRES試験の因果推論を覆すものではありません。しかし、目の前の患者に対して時間依存性という実臨床のリアルを教えてくれる点で、極めて実用的なエビデンスになります。
日本人を含む東アジア人特有の課題:CYP2C19遺伝子多型(効果修飾因子)
次に重要なのが、日本人という集団における、効果修飾因子としての遺伝的背景です。クロピドグレルは肝臓のCYP2C19という酵素によって活性化されますが、遺伝子多型により代謝能が低下したり、代謝能が欠損している方がいます。
日本人集団におけるCYP2C19の代謝型に関する報告では、
正常:32%
機能低下型(IM:Intermediate Metabolizer):49%
欠損型(PM:Poor Metabolizer):17%
とされ、IM/PMが多数を占めます。
そのため、日本人集団ではクロピドグレルの薬効が減弱する可能性があります(Sawayama Y, et al. 2020)。従って、欧米のグローバルRCTで示された平均的な有効性を日本人集団にそのまま当てはめることには慎重になる必要があります。
この点を補う臨床試験が、ACUTE-PRASのような国内の臨床試験です。ACUTE-PRASは観察研究ではなく、急性期アテローム血栓性脳梗塞と高リスクTIA患者を対象にしたオープンラベルRCTであり、プラスグレルがCYP2C19多型に関わらず比較的安定した血小板抑制(P2Y12 Reaction Unitsの低下)を示すことを報告しました(Fujimoto S, et al. 2025)。
ただし、ここで示されているP2Y12 Reaction Units(PRU)は代替アウトカムであり、再発や重篤出血といった臨床アウトカムそのものではありません。従って、プラスグレルが臨床的に優れていると結論づけることはできず、あくまでクロピドグレルの効きが読みにくいこと自体がリスクになる局面での合理的な代替候補として扱います。
以上より、本症例ではRCTによるエビデンスだけでは不十分であり、観察研究などのエビデンスも参考にして、時間軸と効果修飾因子を加味した解釈が必要となります。
RCTとRWEを踏まえた、症例に対する具体的治療戦略
これまでのエビデンスを統合し、本症例(61歳男性、NIHSS 3点、発症26時間超、M1狭窄あり)に対する治療戦略を決定します。
RCTの結果だけを見ると、発症72時間以内であればDAPTを考慮できると言えます。しかし、観察研究などのエビデンスで補完すると、本症例はまだ射程内ではあるが、ベネフィットはすでに低下し始めている可能性があるため、今すぐDAPTを開始すべき患者と位置づけられます。
更に、日本人の遺伝的背景を踏まえて、クロピドグレルの効きが読みにくい可能性にも注意が必要です。つまり、ここで重要なのは単にRCT通りにDAPTを行うことではなく、時間軸と効果修飾因子を踏まえて、エビデンスを目の前の患者に翻訳して実装することなのです。
本症例では、M1狭窄を伴うアテローム血栓性脳梗塞が疑われ、再発や早期神経学的悪化(END)のリスクが高い一方、発症から約26時間超と、DAPTによるベネフィットがある可能性はあるものの、悩んで時間をかけて方針を決定する時間帯ではありません。
従って、出血リスクを評価した上で、直ちにDAPTを導入し、予め14-21日で1剤に減らすという出口戦略を当初から確定しておくのが実務的です。
薬剤選択としては、まずエビデンスの中核である アスピリン+クロピドグレル を第一選択とします。
ただし、本症例のようにアテローム血栓性脳梗塞が疑われるなど、再発リスクが高く、かつ日本人の遺伝的背景からクロピドグレルの薬効が読みにくいと考えられる場合には、急性期における血小板抑制の安定性を示したACUTE-PRAS試験の結果を踏まえ、プラスグレルを代替オプションとして検討する余地があります。
注意点として、ACUTE-PRAS試験は主としてPRUという代替アウトカムに基づくものであり、再発や重大出血といった臨床アウトカムで優越性が確立しているわけではありません。そのため、プラスグレルを第一選択に置き換える標準治療ではなく、クロピドグレルの効きが読めないこと自体がリスクになる局面やクロピドグレル内服下での再発例など効きが悪いことが予めわかっている場合での合理的な代替候補として位置づけます。
治療戦略決定の補足
急性期DAPTを安全かつ効果的に完遂させるためには、DAPTの薬剤選択以外の管理も重要となります。
急性期の血圧管理と既存薬の考え方
急性期脳梗塞で再開通療法を行わない場合、ガイドライン上は220/120 mmHg未満では一元的な降圧は必須ではありません。ただし、特にDAPT導入例では、著明な高血圧が持続すると出血性合併症の懸念が高まるため、神経症状や低灌流に注意しつつ急激な降圧は避けながら、過度な高値を是正していく運用が実務的です。
一方、既服用の降圧薬については、急性期に機械的に継続・再開しても明確な利益は示されていません。COSSACS試験では継続群で転帰の改善はみられず(Woodhouse LJ, et al. 2017)、ENOS試験のサブ解析では継続群でむしろ機能予後悪化が示唆されました(Woodhouse LJ, et al. 2022)。
従って、軽症脳梗塞であっても元々飲んでいた降圧薬だからすぐ続けるとはせず、血圧値、神経症状、嚥下、循環動態を踏まえて再開時期を判断するのが妥当です。
スタチンの急性期脳梗塞における位置づけ
スタチンにはLDL低下作用に加えて、抗炎症作用、内皮機能改善、抗酸化作用、抗血栓作用などの多面的作用があり、急性期脳梗塞にも有利に働く可能性があります。
もっとも、これをもって急性期に開始すれば転帰が確実に改善するとまでは言えません。実際にASSORT試験では、急性期脳梗塞患者におけるスタチンの24時間以内開始は、7日目開始と比べて90日機能予後の有意な改善を示しませんでした(Yoshimura S, et al. 2017)。
一方で、急性期脳梗塞において既服用のスタチンを中止すると、早期神経学的悪化や90日転帰不良と関連することが報告されており(Blanco M, et al. 2007)、既服用例では中止しないことが重要です。
消化管出血予防(PPIの併用)
抗血小板薬による主要出血の一つは消化管出血です。急性期はストレスもかかるため、ストレス潰瘍も出現するリスクがあります。
DAPT導入例において、消化管出血のリスクが高い症例では、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)等の併用を考慮します。ただし、クロピドグレルとPPIやP-CABはCYP2C19を介した相互作用が懸念されるため、影響の少ないPPI(ランソプラゾール等)の選択や、影響が少ないプラスグレルを使用するなど、細やかな配慮が求められます。
15-22日目のシームレスなSAPTへの移行
DAPTの最も多い失敗は、21日で切るのを忘れて漫然と継続してしまうことです。
転院時や退院時処方の段階で、「DAPTは発症21日目まで。翌日からはこの1剤を飲んでください」と日数を区切り、薬剤師からも減薬は悪化ではなく予定通りの安全策であると念押ししておく多職種連携が極めて重要です。
総論の七つの問いで最終確認
vol.1で紹介した、エビデンスを目の前の患者に当てはめる七つの問いに沿って、判断プロセスを最終検証します。
この研究の対象者と、自分の患者はどれくらい似ているか?
INSPIRES試験は、発症72時間以内の軽症脳梗塞/高リスクTIAを対象としており、本症例(発症から26時間超、NIHSS 3点)に合致しています。
臨床研究のセッティングは、自分の現場と近いか?
CHANCE試験やPOINT試験等の状況は日本の診療体制と大きく乖離しません。ただし、遺伝的背景という効果修飾因子において日本人はクロピドグレルが効きにくい集団に属するため、注意が必要です。
アウトカム指標は、自分と患者が大事にしたいものと一致しているか?
RCTの主要評価項目である90日以内の脳卒中再発抑制は、麻痺や失語の悪化を防ぎたいというニーズと一致しています。
介入と比較群は、自分の選択肢とズレていないか?
DAPT vs SAPTというRCTの二択は現場の悩みそのものです。日本の環境に合わせて、P2Y12阻害薬の選択肢にプラスグレルを加えることで選択の解像度が高まります。ただし、プラスグレルに関する急性期のデータは代替アウトカム中心であり、標準治療を置き換える根拠とまでは言えません。
リスクとベネフィットのバランスは、この患者ではどう見えるか?
DAPTによる重篤な出血リスクの増加というリスクは存在します。POINTやINSPIRESでも、出血は低率ながら増加しています。一方で、DAPTのベネフィットは主に最初の21日間にあることが示されており、短期間に区切ることでベネフィットが最大化され、リスクも最小限に抑えることができます。 本症例は中大脳動脈狭窄を伴うアテローム血栓性脳梗塞が疑われ、進行や再発によって障害が残るリスクが高いと考えられます。従って、DAPTの期間を14–21日に限定し、血圧管理や出血予防策を併用することで、ベネフィットがリスクを上回ると判断します。
自分の施設・地域のリソースで本当に実行可能か?
内服治療が主軸であり、高度なデバイスを必要としません。急性期病院では十分に実行可能です。
患者さん本人の価値観と合致しているか?
患者にとって最大の恐怖は、もう一度詰まって悪くなることです。これに対する共同意思決定(SDM)として、以下のようなコミュニケーションを図ります。
「今、一番怖いのは、ここ数日の間にもう一度血管が詰まって、言葉の症状が強くなることです。」
「これを防ぐために、最初の短い期間だけ2種類のサラサラの薬を併用します。」
「効果が高い一方で、長期に投与すると出血の副作用も増えるため、『最初の2-3週間だけ』に限定し、その後は安全のために1剤に戻す方針にします。血圧が高いと出血リスクが上がるので、血圧のコントロールも同時にしっかりやっていきます。」
Team Communication Note
抗血小板療法の治療戦略をチーム全体で共有し、エラーを防ぐためのメモです。
対象 | 医師と共有すべき方針や指示 |
|---|---|
To 看護師 | 【共有事項】 |
To 薬剤師 | 【指導】 |
To リハビリ | 【ゴール設定】 |
Take Home Message
軽症脳梗塞/高リスクTIAに対するDAPTは、発症72時間以内であれば有力な選択肢となりますが、ベネフィットは時間とともに弱まる可能性があり、“まだ間に合う”ではなく“今すぐ始める”という視点が重要です。
急性期DAPTの本質は、短期間でベネフィットを受けつつ、出血リスクを増やしすぎないことであり、14–21日でSAPTへ移行するという出口戦略を最初から設計しましょう。
RCTという理想的な集団の平均的な結果をそのまま当てはめるのではなく、時間軸やCYP2C19多型といった効果修飾因子を踏まえて、臨床での適応を考えます。
参考文献
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