
【脳梗塞治療エビデンス活用術】急性期脳塞栓症のDOACを「いつ」始める? - 9つのエビデンスで「1-2-3-4 Day rule」を見極める - vol.5
2026.04.29
心原性脳塞栓症の急性期では、抗凝固療法が必要であること自体にはあまり迷わなくても、「いつ始めるか」で悩みがちです。早く始めれば早期の再発を防げる可能性がある一方、急ぎすぎれば出血性変化を助長するのではないかという不安もあります。
この場面で長く使われてきたのが 1-3-6-12 day rule ですが、これはもともとRCTで確立されたものではなく、エキスパートオピニオンに基づく実務的な目安でした。
その後、日本発のRWEから 1-2-3-4 day rule という実臨床ベースの考え方が提案され、更にTIMING、ELAN、OPTIMASといったRCTによるエビデンスが積み重なったことで、DOAC早期開始の妥当性はより高いレベルで支持されるようになってきました。
今回も架空症例をベースにエビデンスをどう実臨床に落とし込むかを考えてみましょう。
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- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 脳梗塞治療エビデンス活用術
- 執筆者の紹介
- 編集者
- はじめに
- 症例提示とグレーゾーン
- 症例提示
- 本症例における臨床判断のグレーゾーン
- 臨床疑問(Clinical Question;CQ)の明文化
- ガイドライン・従来ルール・RCTの整理とその限界
- 従来のルール:1-3-6-12 day rule
- RWEが現場の違和感を形にした
- RWEで見えた仮説をRCTで検証
- それでもRCTだけでは足りない理由
- 観察研究(RWE)による外的妥当性の補完―RCTの後に、何を学ぶか―
- RCTとRWEを踏まえた、症例に対する具体的治療戦略
- 治療戦略決定の補足
- 血圧管理
- 画像再評価の重要性
- 慢性期を見据えた内服継続の重要性
- 総論の七つの問いで最終確認
- Team Communication Note
- Take Home Message
- 参考文献
- 【医学研究を学ぶならオンラインスクールmJOHNSNOW】
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
心房細動関連脳梗塞急性期における抗凝固薬開始時期の考え方
1-3-6-12 day rule と 1-2-3-4 day rule の位置づけの違いとRWEが先に仮説を提示し、RCTが追認したという、エビデンスの変遷
TIMING、ELAN、OPTIMASの各RCTと最近のメタ解析を踏まえた、DOAC早期開始の妥当性とその限界
この記事は誰に向けて書いているか
心房細動関連脳梗塞の急性期において、DOACを早く始めるべきか、しばらく待つべきか迷う医師
1-3-6-12 day ruleは知っているが、最近のRCTを踏まえた運用に自信がない方
梗塞サイズ、NIHSS、出血性変化をどう統合してDOACの開始時期を決めるか整理したい医療従事者
脳梗塞治療エビデンス活用術
vol.1 ガイドラインだけじゃない? 脳梗塞治療リアルワールドエビデンスという新たな武器
vol.2 「軽症脳梗塞、失語あり。t-PAを投与しますか?」 - 12のエビデンスで“攻めの治療”を見極める
vol.3 「広範な脳梗塞症例。リスクをとっても、血栓回収療法を行いますか?」 - 9つのエビデンスで“攻めの治療”を見極める
vol.4 発症26時間の軽症脳梗塞。抗血小板療法は「DAPT」にすべき? - 14のエビデンスで治療戦略を見極める
vol.5 急性期脳塞栓症のDOACを「いつ」始める? - 9つのエビデンスで「1-2-3-4 Day rule」を見極める(本記事)
執筆者の紹介
氏名:蒲生直希
所属:王子総合病院 脳神経内科 主任科長/札幌医科大学 内科学講座神経内科学分野 臨床講師
自己紹介:大学卒業後より脳神経内科医として研鑽を積み、現在は地域中核病院で急性期医療に従事。専門は脳卒中と頭痛で、日本内科学会総合内科専門医、日本神経学会神経内科専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医を取得。臨床の傍ら、研修医・専攻医教育、講演、Web記事や書籍の執筆を通じて、実践的なEBMの普及に取り組んでいる。現在はmJOHNSNOW fellowとして研究デザイン・統計手法も学びつつ、臨床研究にも取り組んでいる。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
はじめに
vol.4では、軽症脳梗塞・高リスクTIAに対する急性期抗血小板療法を取り上げ、「SAPTかDAPTか」、「DAPTなら何日続けるのか」という臨床疑問を整理しました。
今回のテーマは同じく急性期抗血栓療法の話ですが、対象は非心原性ではなく非弁膜症性心房細動による心原性脳塞栓症です。具体的には、「抗凝固薬を入れるべきかどうか」ではなく、「いつ入れるべきか」という議論です。この場面の臨床疑問はシンプルですが、答えを出すのは容易ではありません。
早く始めれば、早期の塞栓症再発を防ぐ可能性があります。一方で、梗塞が大きい、出血性変化がある、血圧が不安定といった症例では、抗凝固療法開始によって頭蓋内出血リスクが高まるという不安が常につきまといます。
この領域では長らく 1-3-6-12 day rule のような経験則が広く使われてきましたが、その後に 1-2-3-4 day rule のようなRWEが「もっとDOACを早く開始してもよいのではないか」という仮説を示し、更にはTIMING、ELAN、OPTIMASなどのRCTが、それを検証する形でエビデンスが成熟してきました。
2026年に公表された米国のガイドラインにおいても、急性期治療から早期二次予防までの最新知見が組み込まれています。
したがって、今の時代は必要以上に抗凝固薬を待たずに開始してよいという考えにシフトしています。ただし、大梗塞や明らかな出血性変化を伴う症例では、なお慎重に個別化しなければなりません。
今回は、その変化をどう実臨床に落とし込むかを症例を通じてシミュレーションしていきましょう。
症例提示とグレーゾーン
症例提示
まずは症例を提示します。
症例:79歳・女性、右利き
現病歴:朝7時頃、家族が左口角下垂と発語の不明瞭さに気づき救急要請した。最終健常確認時刻は前日の23時頃。来院時には軽度の左上下肢脱力と構音障害を認めた。
既往歴:高血圧症、心不全、発作性心房細動。
服薬歴:アジルサルタン 20 mg/日、アムロジピン2.5 mg/日、ビソプロロール 1.25 mg/日、フロセミド 20 mg/日を内服中。
※ 非弁膜症性心房細動に対して、抗凝固療法を導入されていたが、鼻出血を契機に数年前から自己中断した。抗血小板薬の定期内服はない。
生活歴:娘夫婦と同居、元々ADLは自立(mRS 0)。飲酒は機会飲酒、喫煙歴なし。
身体所見:身長152cm、体重48kg。血圧 168/96 mmHg、脈拍 108/分・不整、SpO2(室内気)96%。呼吸音清。心雑音なし。下腿に軽度圧痕性浮腫。
神経学的所見:NIHSS 6点(左顔面麻痺1点、左上下肢中等度麻痺4点、構音障害1点)。
血液検査:
WBC 7700/μL Hb 12.8 g/dL Plt 22.4万/μL
Cr 0.82 mg/dL eGFR 50.8 mL/min/1.73m2
CCr 42.1 mL/min APTT 28 sec PT-INR 1.04
TG 98 mg/dL T-Cho 178 mg/dL
HDL-C 58 mg/dL LDL-C 96 mg/dL
血糖 108 mg/dL HbA1c 5.8% NT-proBNP 420 pg/mL
頸動脈エコー: 両側頸動脈に有意狭窄を認めず、不安定プラークを疑う所見も認めない。
心電図:心房細動
経胸壁心エコー:
心内血栓を認めない。明らかな弁膜症を認めない。左房径拡大。左室駆出率 65%
頭部画像所見:
頭部CTで出血なし。頭部MRIで右島皮質から放線冠、右被殻にかけて急性期脳梗塞を認め、DWI-FLAIRミスマッチは認めない。T2*WIで被殻の梗塞巣内部に小さな低信号域を認め、微小な出血性変化が疑われる。頭頸部MRAで主幹動脈閉塞・狭窄を認めない。
本症例における臨床判断のグレーゾーン
本症例は、既知の心房細動があり、主幹動脈狭窄を認めないこと、頸動脈エコーでも有意な病変を認めないこと、脂質・糖代謝異常が目立たないこと、更にNT-proBNP軽度高値を伴うことから、少なくともアテローム血栓性機序よりは心原性機序を優先して考えやすい症例です。
したがって、再発予防の主軸は抗血小板薬ではなく抗凝固療法であり、DOAC導入が必要になりますが、問題はDOACを開始する時期です。
NIHSS 6点で極端な重症ではない一方、梗塞は島皮質から放線冠、被殻に及んでおり、小さいとは言いにくいサイズです。しかもMRIでは出血性変化を完全には否定できません。
すなわち、臨床症状(NIHSS)は軽症〜中等症レベルでも、画像上の梗塞サイズは中等度〜やや大きめであるという”症状と画像の解離”が、本症例をグレーゾーンにしている最大の要因です。
こうした症例で早期からDOACを始めるべきか、それとも数日待つべきかは、まさに実臨床のグレーゾーンです。
従来の 1-3-6-12 rule に従えば、「中等症なら6日程度待つ」という発想になります。一方、1-2-3-4 rule や近年のRCTを踏まえると、多くの症例ではもっと早く始めてもよいのではないか、と考えたくなります。
ただし、RCTでは明らかな出血性変化を伴う梗塞の症例は十分に組み入れられておらず、微妙な出血性変化を伴う境界例をどう扱うかは、個別判断の余地が残っています。
本症例に対して、「どのようにDOAC開始時期を決めるか」が今回のテーマです。
臨床疑問(Clinical Question;CQ)の明文化
本症例のCQをPICOでまとめます。
P(Patient):
心房細動関連脳梗塞急性期で、梗塞サイズが中等度の患者(+出血性変化の懸念がある)
I(Intervention):
DOAC開始を早期に行う
C(Comparison):
DOAC開始を遅らせて行う
O(Outcome):
脳梗塞再発、全身性塞栓症、症候性頭蓋内出血、機能予後、死亡
ガイドライン・従来ルール・RCTの整理とその限界
従来のルール:1-3-6-12 day rule

心房細動関連脳梗塞後の抗凝固開始時期として長く参照されてきたのが、いわゆる 1-3-6-12 day rule です。
脳卒中患者を神経学的重症度の尺度であるNIH Stroke Scale(NIHSS)を用いて、脳梗塞を3つの重症度に分け、TIAなら1日、軽症なら3日、中等症なら6日、重症なら12日を目安に抗凝固療法を開始とする考え方です(Heidbuchel H, et al. 2013)。重症例ほど梗塞が大きく出血性変化のリスクが高いという臨床上の理由に基づいています。
ただし重要なのは、このルールはRCTで確立されたものではなく、もともと欧州のエキスパートオピニオンに由来する実務的ルールである点です。
RWEが現場の違和感を形にした
1-3-6-12 day rule は、より早く抗凝固療法を始めて脳梗塞急性期の再発を防ぎたい現場の考えとやや乖離していました。また、DOACは頭蓋内出血を比較的起こし難い薬として開発され、早期に服用を開始しても安全であろうという考えに基づいて、国内外でいくつかの研究が行われてきました。
これを最も分かりやすく形にしたのが、日本を含む病院コホートデータを統合して提案された 1-2-3-4 day rule です。TIA、軽症、中等症、重症でそれぞれ1日、2日、3日、4日以内にDOACを開始した早期開始群では、より遅く開始した群と比べて90日以内の脳卒中または全身性塞栓症が少なく、大出血は増えませんでした(Kimura S, et al. 2022)。
これは観察研究であり因果関係を確定するものではありませんが、”実臨床ではもっと早く始めてもよい患者が多いのではないか”という仮説を具体的に提示した点で重要なRWEです。
RWEで見えた仮説をRCTで検証
このRWEで見えてきた方向性をより高いエビデンスレベルで検証したのが近年のRCTです。
TIMING試験では、DOACの4日以内開始は5〜10日開始に対して非劣性で、症候性頭蓋内出血は両群とも認めませんでした(Oldgren J, et al. 2022)。
ELAN試験では、画像上の梗塞巣の大きさによる重症度分類を用いたうえで、早期群の30日間の複合アウトカムは早期群2.9%、遅延群4.1%でした(Fischer U, et al. 2023)。
OPTIMAS試験でも、DOACの4日以内の開始は7〜14日の開始に対して非劣性であり、早期開始を支持する結果でした(Werring DJ, et al. 2024)。
更に最近のRCTを統合した解析でも、早期DOAC開始は再発虚血性脳卒中を増やさず、症候性頭蓋内出血も大きく悪化させない方向が示されています(Uawithya E, et al. 2025)。
すなわち、この領域ではRWEが先に仮説を提示し、RCTがその妥当性を追認し、エビデンスとして定着したと整理します。米国の脳卒中急性期に関するガイドラインでも、こうした早期DOAC開始を支持する近年のエビデンスが反映されています(Prabhakaran S, et al. 2026)。

それでもRCTだけでは足りない理由
もっとも、RCTが揃ったからといって全ての患者で答えが確定するわけではありません。TIMING試験、ELAN試験、OPTIMAS試験はいずれも重要な試験ですが、軽症〜中等症の患者が中心であり、広範梗塞、明らかな出血性変化のある梗塞、再開通療法後の症例は十分にエントリーされていません。
つまりRCTは、この領域で多くの患者では必要以上に開始を遅らせなくてよいことを示した一方で、そのまま当てはめにくい症例がいることも事実です。
これはvol.1でも紹介させて頂いたRCTの限界、Too narrow、Too simple、Too medianの問題として理解できます。
観察研究(RWE)による外的妥当性の補完
―RCTの後に、何を学ぶか―
ここまでみてきたように、心房細動関連脳梗塞に対するDOAC開始時期は、1-3-6-12 day rule という経験則から始まり、1-2-3-4 day rule のようなRWEが早期開始の仮説を具体化し、TIMING、ELAN、OPTIMASといったRCTがその妥当性を検証することで、現在のエビデンスが形づくられてきました。
したがって、多くの症例では「必要以上に開始を遅らせなくてよい」という大原則は、今やRCTレベルでも支持されていると考えてよいでしょう。
しかし、それでもなおRWEが重要なのは、RCTが答えきれない患者群が残っているからです。
前述したようにRCTに組み入れられたのは軽症〜中等症の比較的軽症な患者であり、広範梗塞、明らかな出血性変化、再開通療法後の患者など、日常臨床でしばしば遭遇する症例を十分に代表しているとは言えません。
この点で参考になるのが、血栓回収療法後患者に対する 1-2-3-4 day rule の観察研究です。
近年の報告では、血栓回収療法後の患者においても、重症度に応じた早期DOAC開始は出血リスクを明らかに増やさず、機能予後改善と関連する可能性が示されています(Kimura S, et al. 2026)。もちろん観察研究であり、これだけで因果関係を断定することはできません。
しかし、少なくとも血栓回収療法後だから一律に長く待つべきとまでは言えず、画像と臨床経過を見ながら、一般的な症例よりは慎重に、しかし必要以上には遅らせずDOACの導入を考えるという実践的な感覚を支持してくれます。
また近年では、再開通療法後やCKD合併例でもDOAC早期開始の有効性・安全性が大きく損なわれない可能性が報告されており、一律に遅らせるのではなく個別に判断することが重要と考えられます。
更に、ELAN試験の事後解析では、軽症・中等症・重症の各群で早期開始の安全性・有効性が再検討されており、RCTの主要評価が示した集団全体の平均的な効果をより症例に近い解像度で読み直す助けになります(Goeldlin MB, et al. 2024)。
したがってRWEは、RCT前の仮説生成だけでなくRCT後の時代においても、RCTでは十分でない患者層に外的妥当性を与えるエビデンスの補完として重要です。
RCTとRWEを踏まえた、症例に対する具体的治療戦略
では、今回の症例に戻ります。
79歳女性、心房細動あり、NIHSS 6、右島皮質から放線冠の梗塞、明らかな実質血腫はないが点状の出血性変化を完全には否定できない、というケースです。
この症例で重要なのは、再発リスクと出血リスクの両方が無視できないことです。心房細動関連脳梗塞の急性期は、入院直後から再塞栓による早期再発が問題になります。
一方で、中等度の梗塞サイズで、しかも微小な出血性変化が疑われるなら、無条件に発症翌日から開始するのもためらわれます。なお、出血性変化は一括りにはできず、微小な出血性変化と明らかな血腫性病変では意味合いが異なります。
したがって、抗凝固開始時期の判断では、単に“出血あり/なし”ではなく、画像所見の程度を踏まえて解釈する必要があります。
ここでまず押さえるべき大枠は、近年のRCTが示した多くの症例では、必要以上にDOACの開始を遅らせなくてよいということです。
TIMING、ELAN、OPTIMASはいずれも、早期のDOAC開始が少なくとも劣らないことを示しました。したがって、本症例に対しても、従来の経験則だけを理由に機械的に6日以上待つ、という判断はやや保守的すぎる可能性があります。
一方で、本例は“RCTにおける典型的な平均例”でもありません。点状とはいえ出血性変化が完全には否定できず、梗塞サイズもごく小さいとは言えないため、RCTの平均値をそのまま当てはめて、1〜2日でDOAC早期開始とするのも雑な判断です。
ここで必要なのが、RCTの大枠を土台にしつつ、RWEや画像ベースの層別化を用いて一段細かく考えることです。ELANでは、軽症・中等症と重症を画像ベースに層別化し、梗塞サイズに応じて開始時期をずらしています。この発想は、本例のような境界例で極めて実務的です。
したがって本例では、早期DOAC開始を考えてよい症例ではあるものの、できるだけ早くではなく、画像と臨床経過を確認したうえで、数日以内に導入するのが妥当と考えます。
具体的には、血圧管理を行いながら24〜48時間以内に再画像評価を行い、出血性変化の進展や新たな血腫形成がないことを確認したうえで、発症3〜4日目を目安にDOACを開始する方針が無難と考えます。
これは、1-2-3-4 day rule や最近のRCTが示す早期開始の妥当性を活かしつつ、出血リスクには慎重に対応する、ちょうど中間的な戦略です。つまり、1-3-6-12 day rule をそのまま守って長く待つのでもなく、逆に早いほどよいと単純化するのでもなく、RCTで確立したエビデンスをRWEの結果や画像所見を含めて個別に判断するという姿勢が重要です。

治療戦略決定の補足
血圧管理
DOACを安全に導入するには、血圧管理が重要です。高血圧が持続すると頭蓋内出血リスクを押し上げる一方、急激な降圧は脳灌流を損なう可能性があります。
したがって、極端な高値は是正しつつ、低灌流を招かないよう慎重に調整するという、急性期脳梗塞一般の原則を守る必要があります。
画像再評価の重要性
早期開始を支持するRCTが増えたとはいえ、最終的な安全性を左右するのはやはり画像です。特に、梗塞サイズがやや大きい症例、再開通療法後、微小な出血性変化が疑われる症例では、導入前の再画像評価が極めて実務的です。
早く始めること自体が目的ではなく、再発予防のベネフィットを失わずに、リスクも考えて安全に始めることが重要です。
慢性期を見据えた内服継続の重要性
本症例では、開始時期だけでなく、再導入後に継続できることも同様に重要です。鼻出血を契機に自己中断した経緯があるため、導入時には用量の妥当性、出血時対応、受診目安を含めて十分に説明し、再中断を防ぐ支援が必要です。
また、本症例は低体重かつ腎機能が中等度低下(CCr 30〜50 mL/min)しているため、選択するDOACによっては減量基準に該当する点にも注意が必要です。
総論の七つの問いで最終確認
この研究の対象者と、自分の患者はどれくらい似ているか?
TIMING、ELAN、OPTIMASはいずれも心房細動関連脳梗塞患者を対象としており、本症例のような非弁膜症性心房細動関連脳梗塞に近いです。
ただし、著明な出血性変化や極端な大梗塞の患者がどこまで十分に代表されているかは慎重にみる必要があります。臨床研究のセッティングは、自分の現場と近いか?
DOAC導入のタイミング調整という意味では、日本の急性期病院の実務にかなり近いです。特にELANやOPTIMASは、実際に臨床で迷う『いつ始めるか』そのものに答えようとした試験です。アウトカム指標は、自分と患者が大事にしたいものと一致しているか?
脳梗塞再発、全身塞栓症、症候性頭蓋内出血、死亡は、患者にとっても医療者にとっても重要なアウトカムです。
代替指標ではなく、臨床的に意味のある指標で評価されている点は大きな強みです。介入と比較群は、自分の選択肢とズレていないか?
早期DOAC開始と遅延開始という比較は、現場の臨床的課題に直結しており、実践とのズレは小さいと言えます。リスクとベネフィットのバランスは、この患者ではどう見えるか?
本症例では再発予防のベネフィットは高く、長く待つデメリットもあります。一方で微小な出血性変化の可能性があるため、最速の開始ではなく短い再評価を挟んだうえでの数日以内開始が妥当と考えます。RCTの方向性は早期開始を支持する方向ですが、症状や画像所見に応じた個別の微調整が必要です。
自分の施設・地域のリソースで本当に実行可能か?
DOAC導入そのものは多くの急性期病院で十分実行可能です。画像評価も脳梗塞急性期を診療する施設では実行可能と考えます。患者さん本人の価値観と合致しているか?
患者にとっては、また詰まるのが怖いという不安と血をさらさらにして出血しないかという不安の両方があります。そのため、
「この薬は心房細動由来の脳梗塞で再発予防の中心になる薬です。ただし、始めるタイミングが早すぎると出血の心配がありますし、かといって投与を遅らせると再発するリスクもあるので、画像で安全を確認しつつ、必要以上に待たずになるべく早めに始めます」
と説明し、早すぎず遅すぎない導入であることを共有するのが重要です。
これは近年のエビデンスの方向性とも一致します。
Team Communication Note
対象 | 医師と共有すべき方針や指示 |
|---|---|
To 看護師 | 【共有事項】 |
To 薬剤師 | 【指導】 |
To リハビリ | 【ゴール設定】 |
Take Home Message
・心房細動関連脳梗塞におけるDOAC開始時期の議論は、1-3-6-12 day rule のような経験則から始まり、1-2-3-4 day rule のようなRWEがもっと早く始めてもよいのではないかという仮説を具体化し、その後TIMING、ELAN、OPTIMASといったRCTがそれを検証してきた、という流れで理解すると分かりやすいです。
・現在のエビデンスは、多くの症例で発症4日以内の早期開始が少なくとも遅延開始に劣らず、再発抑制の面で有利である可能性を示しています。
・ただし、巨大梗塞、明らかな出血性変化、再開通療法後の不安定例など、RCTで十分に代表されない患者群では、なおRWEや画像再評価を用いて個別に考える姿勢も重要です。
参考文献
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シリーズ一覧
脳梗塞治療エビデンス活用術
vol.1 ガイドラインだけじゃない? 脳梗塞治療リアルワールドエビデンスという新たな武器
vol.2 「軽症脳梗塞、失語あり。t-PAを投与しますか?」 - 12のエビデンスで“攻めの治療”を見極める
vol.3 「広範な脳梗塞症例。リスクをとっても、血栓回収療法を行いますか?」 - 9つのエビデンスで“攻めの治療”を見極める
vol.4 発症26時間の軽症脳梗塞。抗血小板療法は「DAPT」にすべき? - 14のエビデンスで治療戦略を見極める
vol.5 急性期脳塞栓症のDOACを「いつ」始める? - 9つのエビデンスで「1-2-3-4 Day rule」を見極める(本記事)
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