
【書籍紹介】因果推論おすすめ書籍8選 - 専門家が解説 - vol.5
2025.12.21
なぜ臨床医・医療職は臨床研究を学ぶべきなのか――
臨床現場で日々抱く「この患者さんには本当にこの治療がベストか」「この検査結果から先の経過をどこまで読めるのか」。
そんなモヤモヤを、世界と共有できる臨床研究の問いへと変える鍵が、「因果」と「予測」の整理です。
本記事では、腎臓内科医として約20年、RCTや診断予測モデル研究に携わってきた著者が、自身の経験を踏まえ、初学者が最短距離で学べる「因果推論」・「診断予測研究」の良書8冊を厳選しました。
「なぜ臨床研究を学ぶべきなのか」と考える臨床医・医療職、「臨床研究を体系的に学びたい」と考える方に向けて、どのようにこれらの書籍を読み、明日からの診療が変えることができかを紹介します。
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- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 書籍紹介シリーズ
- 執筆者の紹介
- 編集者
- 監修者
- 1.はじめに
- 1-1.なぜ臨床医は臨床研究を学ぶべきなのか
- 1-2.クリニカルクエスチョンの「型」を決める重要性
- 2.「因果」について学ぶのに適した書籍
- 臨床研究の道標〈上・下〉
- もしあなたが臨床研究を学んだら医療現場はもっとときめく
- 臨床研究の教科書 第3版: 研究デザインとデータ処理のポイント
- 極論で語る予防医療
- はじめての統計的因果推論
- 医学研究のための 因果推論レクチャー
- 超絶解説 医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本
- 参考【ゼロから学ぶ因果推論シリーズ】
- 3. 「予測」について学ぶのに適した書籍
- 診断研究の方法論 ー診断学のエビデンスの読み方・作り方
- 4. おわりに
- 5.一覧表「この悩みには、この1冊」
- 【オンラインスクール mJOHNSNOW入会受付中:7日間無料お試し】
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
- 書籍紹介シリーズ
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
「因果(推論)」型のクリニカルクエスチョンを解決するための臨床研究を計画する上で役立つ書籍
「(診断)予測」型のクリニカルクエスチョンを解決するための臨床研究を計画する上で役立つ書籍
「因果(推論)」型研究と「(診断)予測」型研究の違いのイメージ
この記事は誰に向けて書いているか
これから臨床研究の学習を開始する臨床医・医療者
臨床研究を学習中であるが、いまいち大事なポイントがつかめず困っている臨床医・医療者
Directed acyclic graph(DAG)を使った因果推論に挑戦したい臨床医・医療者
書籍紹介シリーズ
vol.1:3年で副業売上1,500万円の研究者が勧める 副業まずこの1冊【ジャンル別】
vol.2:医療データサイエンティストを目指す人へのお勧め書籍8選
vol.3:医学研究デザインの道標 9選
vol.4:臨床研究最初の一歩おすすめ書籍9選
vol.5:因果推論おすすめ書籍8選(本記事)
vol.6:英語論文執筆からアクセプトまでのおすすめ書籍5選 - 大学教授が解説
執筆者の紹介
氏名:藤本圭司
所属:金沢医科大学(腎臓内科学准教授 / 総合医学研究所共同利用センター臨床研究支援室准教授 / 血液浄化センター副センター長)、金沢みんまクリニック(副院長)
経歴:医師・博士(医学)(金沢医科大学医学部医学科首席卒業、同大学大学院医学研究科博士課程修了)。専門は腎臓内科学。日本内科学会総合内科専門医・指導医・北陸支部幹事、日本腎臓学会専門医・指導医・評議員・症例評価委員会委員、日本透析医学会専門医・指導医、日本臨床疫学会正会員、日本移植学会正会員、日本臨床腎移植学会正会員、日本アフェレシス学会正会員、日本高血圧学会正会員、日本腎臓リハビリテーション学会正会員、厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)「難治性腎障害に関する調査研究」(猪阪班)ネフローゼ症候群ワーキンググループ研究協力者。
医学部(大学・大学院)教員・腎臓内科医として臨床・教育・研究ならびに臨床研究支援業務に従事するとともに、妻が院長を務めるクリニックで一般内科医としての診療も行っている。尊敬する京都大学名誉教授福原俊一先生の教えを守って、患者視点・医療者視点・社会視点で切実なクリニカルクエスチョンを解決すべく臨床研究を精力的に計画・遂行し、世界に発信(論文化・学会発表)している。その取り組みが評価されて2021年にSigma Xi, The Scientific Research Honor Society(シグマ・サイ, 米国科学研究名誉協会)正会員に選出されたほか、これまでに日本腎臓学会学術総会優秀演題賞、金沢医科大学橘勝会橘会賞、腎疾患と高血圧研究会ポスター演題奨励賞などの各賞を受賞し、金沢医科大学医学会から論文表彰を5回受けている。研究代表者として獲得した科研費は基盤研究(C)「慢性腎臓病の発症リスクおよび進行リスクを可視化するNomogramの開発」(2025-2030年)、若手研究「尿中SMPDL3bを指標とした原発性ネフローゼ症候群診療指針の確立」(2021-2023年)、若手研究「可溶性ウロキナーゼ受容体を指標とするネフローゼ症候群の新たな診断・治療指針の確立」(2018年-2020年)。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
1.はじめに
私は大学病院で腎臓内科学の臨床・教育・研究に携わっています。医師になって約20年になりますが、その中で強く感じてきたのは、「臨床はPDCAサイクルそのものだ」ということです。
すなわち、
先行研究の知見を参考にしながら、目の前の患者さんに関するクリニカルクエスチョンに対する対応策を考える(Plan:計画)。
立てた計画に基づいて、具体的な介入を行う(Do:実行)。
介入の結果を測定・評価する(Check:評価)。
得られた結果に基づいて対応策を練り直し、次の診療に活かす(Action:改善)。
という流れです。
臨床医であれば誰しもが、意識的・無意識的にこのPDCAサイクルを回しながら日々の診療を行い、その蓄積が"経験値"となっていきます。臨床研究を学んだことがあるかどうかに関わらず、多くの臨床医が自然と行っている営みだと思います。
1-1.なぜ臨床医は臨床研究を学ぶべきなのか
では、なぜ臨床医があえて「臨床研究」を体系的に学ぶ必要があるのでしょうか。
それは、一言でいえば、PDCAサイクルの質を劇的に高められるからです。
治療計画を立てる際に、"目の前の患者さんに適用できる先行研究"を的確に探し出せること
「自分の経験上なんとなく良さそう」と感じている職人技的な判断を、研究として可視化・一般化し、後輩教育や学会発表・論文化を通じて世界に共有できること
こうした力は、臨床研究の方法論を学ぶことで飛躍的に伸びます。貴重なクリニカルクエスチョンを自分の中だけにしまっておくのは、あまりにももったいないことです。
臨床研究デザインを学べば、曖昧だったクリニカルクエスチョンを、構造化されたリサーチクエスチョン(PE ( I ) COなど)に落とし込み、科学的妥当性の高い方法で検証できるようになります。さらに、その過程と結果を学会発表や論文として発信するための"お作法"も身につきます。
私自身、現在は大学で臨床研究支援にも携わっています。臨床研究を通じて"世界とつながる喜び"を知った医療チームほど、日常臨床へのモチベーションが明らかに高まります。
その結果、より精力的にクリニカルクエスチョンを解決しようとする好循環が生まれることを、私は何度も目の当たりにしてきました。
1-2.クリニカルクエスチョンの「型」を決める重要性
臨床研究で最も重要なステップは、クリニカルクエスチョンの型を決めることです。
自分のクエスチョンが、
「記述」なのか
「因果」を知りたいのか
「予測」がしたいのか
を明確にしないと、焦点がぼやけた、何を明らかにしたいのか分からない研究になってしまいます。
特に、「因果」と「予測」の混同は、有名ジャーナルの論文でさえ頻繁に見られると報告されており、問題視されています(Ramspek, Chava L et al. European journal of epidemiology vol. 36,9 (2021): 889-898.)。
私自身も、臨床研究を学ぶ中でこの二つの違いがはっきりと理解できるようになった瞬間、目の前の霧が一気に晴れ、臨床研究や日常臨床におけるクリニカルクエスチョンの解像度が格段に上がりました。
「臨床が前よりも楽しくなった」と感じたのは、この頃です。
そこで本稿では、臨床医の初学者の方が効率よく学べるよう、「因果」について学ぶのに適した書籍と「予測」について学ぶのに適した書籍に分けて、合計8冊の本をご紹介します。
2.「因果」について学ぶのに適した書籍
因果推論はしばしば「タイムマシン」で説明されますが、私はドラえもんの「もしもボックス」に近いと感じています。
「ドラえもん のび太の魔界大冒険」では、「もしもボックス」によって科学世界と魔法世界という二つの世界線が生じます。ある要因だけが異なる二つの世界線で、それぞれに対応するアウトカムを「潜在アウトカム」と呼び、その差を「因果効果」と定義します。
ここでいう「潜在」とは、ある要因(介入)の有無に応じたアウトカムが、実際に介入を行う(or行わない)前から、それぞれ潜在的に決まっているというイメージです。
現実世界では、同じ患者さんに対して要因(介入)の有無の両方を同時に経験させることはできません。そのため、選択した側の潜在アウトカムだけが観測され(因果一致性の仮定)、選ばれなかった側の潜在アウトカムは反事実として観測不可能(欠測)になります。
このため、個人レベルの因果効果(二つの潜在アウトカムの差)を厳密に観察することはできません(因果推論の根本問題)。
しかし、集団レベルの平均因果効果(潜在アウトカムの平均の差)であれば、因果推論という枠組みを用いることで推定が可能になります。
例えばRCTでは、ランダム化によって介入群と非介入群のベースライン特性(年齢、性別など)が、平均的に同じになるように設計されます。潜在アウトカムも、「介入ありの場合のアウトカム」「介入なしの場合のアウトカム」という二つの値を、各患者さんがもともと持っている性質(ベースライン特性)の一部とみなすことができます。
ランダム化がうまく機能していれば、介入群と非介入群の間で、「介入ありの潜在アウトカム」の平均値は等しく、「介入なしの潜在アウトカム」の平均値も等しくなります(交換可能性)。
その結果、介入群で実際に観測されるアウトカムの平均は、「集団全体に介入したときの平均的な介入ありの潜在アウトカム」を推定していると考えられます。一方、非介入群のアウトカム平均は、「集団全体に介入しなかったときの平均的な介入なしの潜在アウトカム」を推定していることになります。
したがって、両群の平均アウトカムの差が、集団全体における介入の平均因果効果を推定していることになるのです。
なお、ランダム化を含む研究デザインや多変量回帰分析などの統計手法で行う「交絡調整」の目的は、介入群と非介入群が、潜在アウトカムの分布の点で交換可能であるとみなせる状態に、できるだけ近づけることにあります。
つまり、因果推論=現実世界における「もしもボックス」と理解できたとき、私にとってそれまで少し「無味乾燥」に感じていた臨床研究は、一気に魅力的なものへと変わりました。
因果推論は臨床研究の基本形であり、多くの書籍があります。初学者の臨床医が効率よく学ぶためには、まず以下のような流れで取り組むのがよいと感じています(あくまで私の経験にもとづく提案です)。
クリニカルクエスチョンから、構造化されたPE ( I ) COを作るトレーニング
自分のPE ( I ) COに対してDirected acyclic graph(DAG)を描き、調整すべき(交絡)因子を同定するトレーニング
この二つのステップを支えてくれる本として、次の7冊を挙げます。
臨床研究の道標〈上・下〉


言わずと知れた、"臨床研究のバイブル的な書籍"です。
臨床医でもある臨床疫学の大家・福原俊一先生は、「粛々と臨床をやっていたら、いつの間にか臨床研究をやっていた」と表現されています。
本書の序文では、日々患者さんに真摯に向き合っていれば、自然と臨床的疑問が湧き上がってくるものであり、「何とかそれを解決したい」という心こそが臨床研究の原点であると述べられています。
私が臨床研究と出会ったのは、2015年に福原先生が塾長を務められていた"腎臓・透析医のための臨床研究デザイン塾"に参加したときでした。
当時の私は、「臨床研究=統計ソフトで臨床データを解析して、有意差が出たものを発表する」という、今振り返るとかなり偏ったイメージしか持っていませんでした。
しかし、京都大学の先生方に一から臨床研究デザインを叩き込んでいただき、グループワークで漠然としたクリニカルクエスチョンをPE(I)CO形式のリサーチクエスチョンに落とし込み、七つのステップを経てコホート研究の研究計画書を徹夜で仕上げた合宿は"まさに世界観が変わる経験"でした。
私が今もなんとか(?)アカデミアの片隅で生きているのは、このデザイン塾で臨床研究の魅力に触れたおかげだと本気で思っています。その濃密なエッセンスが、この「臨床研究の道標」には詰まっています。
これから臨床研究を学ぶ方には、まず本書の通読を強くおすすめします。
"臨床研究"の印象が180°変わり、「自分でも研究を計画してみたい!」と感じていただけるはずです。
もしあなたが臨床研究を学んだら医療現場はもっとときめく

著者の福間真悟先生は、臨床研究デザイン塾の大先輩であり、腎臓内科医にして臨床疫学のエキスパートです。私はこれまで、臨床研究デザイン塾、日本臨床疫学会、日本腎臓学会、日本透析医学会などで、先生のご講演から多くを学んできました。
まだプロペンシティスコア(PS)が医学領域で使われ始めた頃、世間では、「PSを使えば観察研究でもランダム化比較試験のように因果推論ができる。PSは魔法の手法だ!」という空気もあったと記憶しています。
そんな中、ある講演会後の歓談で、福間先生がさらっと、「PSは、測定された交絡因子の情報を一つの変数に集約したに過ぎないので、未測定交絡には対処できません。」とおっしゃった言葉が、今も強く心に残っています。
当時の私はその本当の意味を理解できていませんでしたが、今振り返ると、PSの本質を見事に突いた一言でした。この経験から、「一流の先生の雑談にも重要なエッセンスが詰まっている」と痛感し、以降は一言も聞き逃さないようにしようと心に決めました。
本書では、漫画仕立てのストーリーを通じて、「臨床研究の道標」に示されている臨床研究の流れを楽しく学ぶことができます。さらに実践編では、臨床研究計画支援アプリ「QMentor」を用いて、研究計画書を作成する七つのステップを練習できます。
「臨床研究の道標」と本書をセットで精読すれば、因果タイプの臨床研究を"自分で計画・実行できるレベル"まで到達できると感じています。
臨床研究の教科書 第3版: 研究デザインとデータ処理のポイント

臨床研究の実務の全体像を、コンパクトに俯瞰できる一冊です。
特にありがたいのは、著者自身の経験に基づく「臨床研究の実例」が示されている章です。
着想から運営、解析、論文刊行までを、反省点も含めて丁寧に解説してくれています。これから自分で臨床研究を計画しようとする際、非常に心強いモデルケースになります。
私自身、臨床研究デザイン塾の後に初めて自分で計画し、論文化に至ったRCT(2群・2期クロスオーバー試験)では、本書の記述に何度も助けられました。
例えば、「クロスオーバー・デザインでは、すべての対象者が「介入あり」と「介入なし」を両方経験するので、つい対応のあるt検定で比較したくなる。しかしRCTである以上、あくまでランダム化された2群(シーケンス)間の比較、つまり対応のないt検定という枠組みを守る必要がある。」という点が、鍼灸をテーマとした学位論文指導の経験をもとに、詳細に説明されています。
著者自身も当初は対応のあるt検定でよいと考えていたところ、生物統計家からの指摘をきっかけにクロスオーバー・デザインを勉強し直したと記されています。私はまさに同じ落とし穴に足を踏みかけており、本書のおかげで命拾いしました。
また、「群間差の大きさが臨床的に意味を持つか?」という視点も、本書から学んだ大事なポイントです。
私の研究では、透析の内シャント穿刺痛をVisual analog scale(VAS)で測定し、薬剤Eと薬剤Lの鎮痛効果を比較しました。このとき、「VASでどの程度の差があれば、臨床的に意味があるといえるのか?」を決めておかないと、サンプルサイズ設計も、研究結果の解釈もできません。
途方に暮れそうになったところ、本書で紹介されている最小臨床的重要差(MCID)の概念を手がかりに先行論文を調べ、急性痛のMCIDを「検出したい群間差」と定義することで、研究計画を無事完成させることができました。
表題からは"教科書的で堅い本"を想像しがちですが、中身は著者自身の試行錯誤から得られた"生きた知識"が詰まった実務書であり、臨床研究の現場を強力に後押ししてくれる一冊です。
極論で語る予防医療

予防医療の分野で、因果推論の考え方をどのように生かすかを平易に解説した書籍です。
著者は、「DAGを知るまでは因果推論のことを何も分かっていなかった」と述べており、DAGの重要性を強調しています。
本書では、具体的な疫学・予防医療の事例が、どのようなDAGとして表現されるのかを丁寧に解説しており、「自分でDAGを描く際の見本帳」としても非常に役立ちます。
私の専門である腎臓内科においても、「慢性腎臓病発症予防のために、生活習慣にどう介入すべきか?」というテーマは、非常に重要です。
本書には、生活習慣因子の扱い方や研究デザインに関する具体的な記述が多く、私自身、予防・生活習慣介入の研究を考える際に何度も参照しています。
はじめての統計的因果推論

タイトル通り、"因果推論のはじめの一歩"として最適な名著です。
因果推論の基本概念や因果効果の推定方法が、きれいな概念図と巧みな比喩を用いて解説されており、初学者が直感的にイメージしながら読み進められるよう工夫されています。特に、DAGの解説は多くの本の中でも最も分かりやすいと感じています。
PE(I)COにおけるE(I)からOへの因果効果を推定する際、多変量解析ではE(I)と交絡因子を説明変数として投入しますが、投入できる説明変数の数には現実的な制約があります。
一般に、アウトカムが連続変数の線形回帰モデルでは「一説明変数あたり少なくとも10〜15例」、アウトカムが2値型のロジスティック回帰モデルでは「一説明変数あたりイベント症例数10例以上」、アウトカムがイベント発生までの時間であるCox比例ハザード回帰モデルでも「一説明変数あたりイベント数10例以上」といった経験則(events per variable = 10)が目安として用いられています。
これを大きく下回ると、解析が不安定になるとされています。交絡因子が多すぎると、その分だけ統計モデルに投入する説明変数の数が増えるため、解析の安定性を担保するには必要な症例数(サンプルサイズ)が膨らむという問題が生じます。
DAGを描く重要な理由の一つは、「本当に調整すべき最小限の因子を見つけて、交絡を生む余計な道筋(biasing path)を遮断すること」にあります。
その因子は、「E ( I ) とOの共通原因」という古典的な交絡因子の定義に当てはまるものに限られるわけではありません。この点について、本書では首都圏の鉄道網をたとえにして、非常に分かりやすく解説されています。
DAGに苦手意識がある方にこそ、手に取っていただきたい一冊です。
なお、Johannes Textor氏が開発したDAG分析ツール「DAGitty」という無料のWebアプリケーションがあります。「DAGitty」でDAGを描き、ExposureとOutcomeを指定すると、交絡を生む余計な道筋(biasing path)を断つために調整すべき最小調整セットを自動で出力してくれます。
冒頭で述べた「自分のPE(I)COに対してDirected acyclic graph(DAG)を描き、調整すべき(交絡)因子を同定するトレーニング」にも役立ちますので、ぜひご活用ください。
たとえば、本書で示されているDAGを、実際に「DAGitty」で描いてみるのも良いと思います。
また近年、疫学領域以外の医学分野のジャーナルにおいても、"因果推論"型研究の論文にDAGを添付することが推奨されるようになってきました(Lederer, David J et al. Annals of the American Thoracic Society vol. 16,1 (2019): 22-28.)。Supplemental figureに「DAGitty」で作成したDAGを示している論文も少なくなく(例:Andersen, Kasper et al. Circulation. Heart failure vol. 7,5 (2014): 701-8.)、実際に自分で論文を書く際のフォーマットの参考にもなります。
医学研究のための 因果推論レクチャー

本書は、
因果推論の基礎的な考え方
実際の解析手法
さらに機械学習を取り入れた最先端の方法
までをカバーする、"足場固めからステップアップまで一気に視野を広げてくれる"一冊です。
週刊医学界新聞の因果推論特集(全14回)をベースにしており、私はDAGの勉強を始めた頃に、まず新聞連載を読みその分かりやすさに感動してから書籍版を購入しました。
Table 2 fallacy(因果モデルの多変量解析で、E(I)以外の説明変数の偏回帰係数を、その変数がOに及ぼす因果効果として誤って解釈してしまう落とし穴)など、初学者がハマりやすいポイントを丁寧に解説してくれているのが本書の大きな魅力です。
さらに、機械学習を用いた因果推論など、これからの臨床研究で重要になるトピックにも触れられており、因果推論を一歩先のレベルで使ってみたい臨床医にとって、非常に心強いガイドとなるでしょう。
超絶解説 医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本

近年の医学論文で頻繁に用いられるようになった「難解な統計手法」を、具体的な論文例を挙げながら分かりやすく解説した一冊です。
数式は最小限に抑えられており、私のように数学があまり得意でない読者でも抵抗なく読み進めることができます。
本書は、「因果」と「予測」の両方の手法を扱っていますが、特に因果研究における、
操作変数法
不連続回帰デザイン
差の差分析
といった「準実験的手法」の解説が秀逸です。
これらの手法は、ランダム化比較試験が難しい場面の多い計量経済学の分野で古くから使われてきましたが、近年では医学分野でも応用されるようになってきました。ランダム化比較試験を行わずに、何とか因果効果を推定しようとする工夫と、その限界(仮定の成立と検証の難しさ)を学ぶことで、因果推論への理解と興味が、さらに深まります。
具体的な論文を例にして解説しているため、「まず本書を読んで概念をつかみ、その上で元論文を読む」という使い方をすると、「自分が実際にその手法を使ったとき、論文ではどう書けばよいか」がイメージしやすくなります。
個人的には、差の差分析の章で紹介されている、「ポケモンGOが若者の身体活動に及ぼす影響」を評価したBMJクリスマス特集号の論文(Howe, Katherine B et al. BMJ (Clinical research ed.) vol. 355 i6270. 13 Dec. 2016)が、非常に印象に残っています。
日常の一コマも、工夫次第でここまできれいに研究になるのかと、ワクワクさせられる事例です。
参考【ゼロから学ぶ因果推論シリーズ】
mMEDICI Library「ゼロから学ぶ因果推論シリーズ」では、疫学専門家の監修のもとで「はじめて学ぶ人の気持ち」に寄り添い、具体例や図解を使用して「日本でいちばんわかりやすい因果推論の解説」を目指し徹底解説しています。
・因果推論の出発点 - 因果と関連の違いとは? - ゼロから学ぶ因果推論 vol.1
3. 「予測」について学ぶのに適した書籍
ここからは、「予測」の話です。
よく挙げられる例として、「ライターを所持している人では肺癌が多い。だからライター所持は肺癌の原因である」という誤った因果解釈があります。これは、「ライター所持」と「肺癌」の共通の原因として「喫煙」が存在するためです。
DAGで表現すると、
ライター所持 ← 喫煙 → 肺癌
というbiasing path(ライター所持そのものは肺癌の原因ではないのに、「喫煙」を介した道筋のせいで関連が生じる経路)になり、「ライター所持 → 肺癌」という因果の矢印(causal path)は存在しません。
しかし、「予測」の枠組みであれば、「ライターを所持している人は肺癌が多いので、ライター所持は肺癌の予測因子である」という解釈は問題ありません。
予測研究では、「予測因子がアウトカムの原因かどうか」は必須条件ではなく、「アウトカムと十分に関連しているか」が重要だからです。
まとめると、この例では、
「喫煙」も
「ライター所持」も
いずれも肺癌の予測因子となり得ます。予測因子の中には、アウトカムの原因であるものと、そうでないものが混在しているわけです。
また、そもそも予測研究では、因果研究のような「交絡調整」という概念は登場しません。 因果研究では、E(I)がOに及ぼす因果効果(causal path)のみを評価したいため、biasing pathを遮断する、すなわち交絡調整が必要です。
一方、予測研究では、「予測因子とアウトカムが何らかのパスでつながってさえいればよい」ため、交絡調整という発想自体が不要です。
臨床医向けの予測研究の日本語書籍は、まだ多くありませんが、次の一冊をしっかり読み込めば、すぐに診断・予測研究の論文を書けるレベルまで到達できます。
診断研究の方法論 ー診断学のエビデンスの読み方・作り方

疾患の診断や予後予測は、まさに臨床医の日常業務そのものです。
そう考えると、多くの臨床医にとっては、「因果」研究よりもむしろ「診断・予測」研究のほうが、日常臨床での切実なクリニカルクエスチョンに直結しやすいのかもしれません。
本書は、臨床医であり診断研究分野のトップランナーである高田俊彦先生による、当該分野のバイブル的な一冊です。
診断精度研究
診断予測モデル(多変数予測モデル)研究
付加価値を評価する診断研究
という3タイプの診断研究について、高度な内容でありながら初学者にも分かりやすく解説されています。
終章にはRStudioを用いた解析のハンズオンがあり、実際に自分の手を動かしながら診断研究の解析を練習できます。本書を通読すれば、そのまま診断研究を計画・実行できる実践的な構成です。
実際、診断研究についてまったくの初学者だった私も、本書を通読してから一年以内に、"付加価値を評価する診断研究"を一本、論文化することができました。
予測モデルの評価については、DiscriminationやCalibrationといった統計的性能指標を詳述した本は多くありますが、本書のようにDecision curve analysisによる予測モデルの臨床的有用性評価を、ここまで丁寧に扱った日本語書籍は私の知る限り他にありません。
また、初学者にとって最もイメージしにくい、
内的検証
外的検証
の概念についても、これほど分かりやすく説明している本は他にないと感じています。
さらに、開発したモデルが外的検証でmiss-calibrationを示した場合のre-calibration(再較正)の方法も、具体的な手順を含めて解説されています。
私の現在進行中の研究でも、外的検証のcalibration plotでS字型のmiss-calibrationを認めたため、本書を参考に2パラメータ・ロジスティック再較正を行ったところ、calibrationは良好となりました。
適切な較正を加えることで、外的検証環境でも運用可能な予測モデルであること(「Transportability」)を示すことができ、大いに助けられました。
4. おわりに
ここまで、臨床医の初学者の方が「因果」と「予測」の両面から臨床研究を学ぶのに役立つ8冊をご紹介してきました。
因果推論は、ドラえもんの「もしもボックス」を、統計手法と研究デザインの力で現実世界に持ち込み、治療やケアなどの介入が臨床転帰に与える平均因果効果を、集団レベルで推定するための道具
予測研究は、日常臨床で行っている診断・予後予測を、より精度高く、再現性のある形にするための道具
と捉えると、どちらも決して特別なものではなく、むしろ臨床医だからこそ使いこなすべきツールだと感じていただけるのではないでしょうか。
興味をもった一冊からで構いません。ぜひ手に取っていただき、日々のクリニカルクエスチョンを、"世界とつながる臨床研究"へと一歩進めていただければ、嬉しく思います。
5.一覧表「この悩みには、この1冊」
悩み / 目的 | まず開く1冊 |
|---|---|
「因果(推論)」型のクリニカルクエスチョンを解決する臨床研究を計画・実行したい。 | |
『臨床研究の道標』の内容の理解を深め、研究計画書を作成する7つのステップを練習したい。 | |
臨床研究の実務について学びたい。 | |
DAGを具体的な臨床研究事例で勉強したい。 | |
「因果推論」の理論がイメージしにくい。DAGを習得したい。 | |
「因果推論」を基礎から最新の方法論まで幅広く学習したい。DAGを習得したい。 | |
難しい統計手法・研究デザインを用いた医学論文を読めるようになりたい。 | |
「(診断)予測」型のクリニカルクエスチョンを解決する臨床研究を計画・実行したい。 | |
複雑なDAGにおいて調整すべき最小限の因子の組み合わせ(最小調整セット)を同定したい。論文に載せるDAGを作図したい。 |
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