
【書籍紹介】臨床研究最初の一歩おすすめ書籍9選 - 専門家が解説 - vol.4
2025.11.24
「医学研究を始めたい」と思った時、誰もが最初に立ち止まるのは「どこから手をつければいいの?」という問いです。
そもそも、どのようなテーマで研究すればいいのか、アイデアすら思いつかないこともあるでしょう。また、アイデアを思いついたとしても、調べ方やまとめ方がわからない。英語論文の書き方や統計の壁に尻込みしてしまうー
そんな迷いを抱く方に向けて、本記事では外科医・女性医師・研究者としてサバイブしてきた私が、研究の発想を得る技術から、エビデンス構築、論文執筆、統計解析、そしてキャリアの歩み方まで、医学研究の"第一歩を支える入門書"をご紹介します。
初学者のみならず、もう一度基礎から研究を考えたい方に向け、実践で役立つ書籍、発想を鍛える書籍、苦しい研究生活を支える書籍などをピックアップしてみました。
キャリアや研究は一直線のはしごではなく、様々な方向から登るジャングルジムのようなものと考えてみてはいかがでしょうか。遠回りや寄り道と思われるようなことも、確かな視野を育てる糧となり、いつかどこかで役に立つかもしれません。
書籍を通じて、その第一歩を踏み出すための風景をいっしょに眺めてみませんか。
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- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 書籍紹介シリーズ
- 執筆者の紹介
- 編集者
- 監修者
- はじめに
- 1.臨床の疑問を研究テーマに変える視点
- アイデア大全
- なぜ臨床医なのに研究するのか?
- 2.英語の「壁」をピョンと飛び越える
- 必ずアクセプトされる医学英語論文
- 日本人研究者が間違えやすい英語科学論文の正しい書き方――アクセプトされるための論文の執筆から投稿・採択までの大切な実践ポイント
- 3.統計学の「壁」をピョンと飛び越える
- 今日から使える医療統計 第2版
- 「原因と結果」の経済学――データから真実を見抜く思考法
- カエル教える 生物統計コンサルテーション――その疑問、専門家と一緒に考えてみよう
- 4.研究者としてのキャリアを「続ける」ために
- LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲
- 多様性の科学
- 5.一覧表「この悩みには、この1冊」
- 【オンラインスクール mJOHNSNOW入会受付中:7日間無料お試し】
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
- 書籍紹介シリーズ
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
医学研究の全体像と道筋(アイデアの出し方からスコーピングレビュー、英語論文執筆、統計解析)がつかめる
研究の正しい悩み方(相関と因果の違い、統計の考え方、キャリアの迷いなど)を知り、行き詰まりを成長の一部として捉え直せる。
研究者としての生き方・働き方の多様性に気づき、自分なりの登り方を考えることで、研究もキャリアも一本道ではないことを学ぶ。
この記事は誰に向けて書いているか
これから医学研究を始めたい研修医・大学院生
初めて論文を書く若手研究者・医師
研究・仕事・家庭のバランスに悩む医療職・研究職
書籍紹介シリーズ
vol.1:3年で副業売上1,500万円の研究者が勧める 副業まずこの1冊【ジャンル別】
vol.2:医療データサイエンティストを目指す人へのお勧め書籍8選
vol.3:医学研究デザインの道標 9選
vol.4:臨床研究最初の一歩おすすめ書籍9選(本記事)
vol.5:因果推論おすすめ書籍8選
vol.6:英語論文執筆からアクセプトまでのおすすめ書籍5選 - 大学教授が解説
執筆者の紹介
氏名:大越香江
所属:京都大学大学院 人間・環境学研究科博士後期課程 / 医学研究科消化管外科学 客員研究員 / 同志社大学生命医科学部嘱託講師、京都市内病院勤務(外科)
経歴:医師・医学博士。専門は消化管外科学。京都大学医学部、同大学院博士課程を卒業後、京都大学医学部附属病院勤務を経て現職。日本外科学会・消化器外科学会の専門医・指導医。「消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)」の設立に参画、副会長として後進を支援。研究テーマは多岐にわたるが、医療現場のジェンダー格差や働き方の課題を追求。日本最大の手術データベースを用いた論文が英国医学雑誌『BMJ』に掲載[PubMed]。現在はカエルの生態と文化的側面に興味を持ち、「ケロロジー」という新たな研究領域を開拓中。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
はじめに
臨床現場では日々、診療の中で生まれる気づきや疑問が積み重なっていきます。その一つ一つを「臨床データを患者さんのために形にする力」へ還元していくことが、医療者や研究者には求められていると思います。
しかし、いざ研究を始めようとすると多くの人が最初の一歩で立ち止まってしまいます。
「テーマの立て方がわからない」
「既存研究のどこに切り込めばよいか迷う」
「英語論文を読んだり書いたりする壁が高く感じられる」
――そうした戸惑いは決して珍しいことではありません。
私自身が初めて英文論文を書いたのは症例報告ですが、お手本の論文を片手に、その構成をひたすら真似て書いたものです。
本記事では、そうした初学者の「はじめの迷い」を解きほぐす視点から、研究発想・エビデンス構築・論文執筆・統計解析、そしてキャリア形成までを支える書籍を紹介します。
ご紹介する書籍の中で、「キャリアは“はしご”ではなく、ジャングルジムである」と書かれていますが、まさに研究も同様だと考えています。本記事を通じて、臨床の気づきを研究という形に変えていくための学び方、そして自分らしい登り方を見つめ直すきっかけとなれば幸いです。
1.臨床の疑問を研究テーマに変える視点
アイデア大全

研究テーマが思いつかないことはよくあります。「学会発表のネタが思いつかない」などということも“あるある”ではないでしょうか。
この本は前から順に読んでいくのも良いのですが、ちょっとしたスキマ時間にぱらぱらと眺めてみるという読み方もお勧めです。
私は【初学者にも書ける医学英語論文】研究テーマの見つけ方と投稿先選び:日常から着想を得て論文に育てるステップ で、「研究テーマは空から降ってくる」という表現をしました。
何か別のことをしていてふと思いつくこともよくありますが、そうして思いついたテーマも検証可能な形に練り上げる必要性があります。本書には、アイデアを揉むための手法が多数紹介されています。
あるいは、何もないところから研究テーマを作り出さなければならない時もあるでしょう。そんな時のために、ちょっと気になることや心に残ったことをメモにしておき、この本にある方法でアイデアを練り上げていくというのも良いと思います。
例えば本書にも書いてありますが、セレンディピティとは、何かを探しているうちに、もともと探していなかった別の価値あるものを偶然見つけること、また、より広い意味では偶然によって価値あるものを見つけることをいいます。
有名な例はペニシリンの発見ですね。ちょっとした失敗さえ大発見につながるのです。
気になったニュース、面白いと思った論文の内容、患者さんの気になった言葉、臨床上の課題などを掘り下げて考えるために、この本にはさまざまな手法が書かれています。
研究計画書を書いていて煮詰まった時、学会発表のテーマに困った時など、この本を開いてみると良いでしょう。
なぜ臨床医なのに研究するのか?

医療職として診療の現場で経験したことを研究に活かしたいと思うのは、皆さん共通の願いだと思います。
本書の著者である佐藤雅昭先生は、私の大学時代の同級生です。研修医の頃から研究や学会発表に関する書籍を出版していました。佐藤先生はカナダのトロント大学で学位を取得し、肺移植に関する業績やVAL-MAPという肺マッピング方法の開発など、同級生というのもこちらが恥ずかしくなるほど輝かしい業績を上げています。
本書では、彼もまたセレンディピティについて語っています。彼は「頭の中でアイドリング状態で浮かんでいる疑問やアイデアが、何かを見た時につながる」と表現しています。
そのためには、様々な経験や観察が点として存在している必要があります。それが何かのきっかけで線としてつながることがセレンディピティなのです。
私は前述執筆記事で「研究テーマは空から降ってくる」と表現しましたが、おそらく全く何もないところから研究テーマが生まれるわけではありません。では、研究テーマはどこから来るのでしょうか。
それは、"経験から学ぶ"ということです。「一見無駄なことのように見えることであっても、とにかく熱心に取り組んでみるのが良い」と本書では述べられています。時にはつらい日々の臨床経験が、後で何の役に立つかわからないのです。
例えば、「手術中に確認が難しいスリガラス様結節(GGN)を、どうやって術前にマーキングすればいいか」という臨床上の課題から、VAL-MAPという肺マッピング方法の開発に至っています。
その過程では、以前から行っていたバーチャル気管支鏡や気管支鏡下肺生検などの既存手技の経験が活かされているといいます。(実際、彼とは大学病院で短い期間一緒に働いていたことがありますが、とても丁寧な診療をする人でした。)
一方で、彼のように優秀な人でも、研究を一人で成し遂げることできません。留学のきっかけを作ってくれた恩師、論文のアドバイスをしてくれた指導教授、他施設共同研究チームの共同研究者たちとの出会いと、その後の良好なコミュニケーションやチームビルディングがあってこそ研究を成し得たというエピソードが、本書では惜しみなく紹介されています。
本書はいわゆるHow to 本ではありませんが、臨床と研究をどのように橋渡しすれば良いか悩んだ時に手を取ることを強くお勧めします。
2.英語の「壁」をピョンと飛び越える
必ずアクセプトされる医学英語論文

英語論文を書こうと思っても、論文にふさわしい格調高い英語が書けるのか自信がないという人もたくさんいると思います。日本語ならまあ何とか書けそうだけど、英語なんてムリムリ…?などと消極的な気分の人はいませんか?私も英語は苦手です。
しかし、本書によると、格調高い英語(どんなものか私にもわかりませんが)よりも、Fool-proof English(誤りのない無難な英語)を書くことを目指すことが重要です。
英文論文を書く際は、冗長さ・あいまいさを極力排除します。私はついつい冗長になりがちですし、どこかの論文で見たかっこいい単語を使ってみたくなります。
しかし、本書では、「Due to the fact that …はほとんどBecauseとほぼ同義語なので、Becauseでよい」といった具体例を挙げて、なるべく誰でも知っている平易な英語で短く表現するのが良いと説明しています。このアドバイスだけでも、何となく英語論文の敷居が低くなった気がしますね。
また、論文には“論文の型”があります。この本には、Abstract、Introduction、Material and methods、Results、Discussionと、各パートごとの構成のつくり方、注意点、文献の引用方法、定型文が書いてあるので、初心者でもこの本の通りに書いていけば論文のかなりの部分を書き上げられるのではないかと思います。
私自身も、英文論文を何本か書いてきたとはいえ、自信満々で書けているわけではありません。この本に書いてある各パートを読みなおし、修正していくとかなりブラッシュアップできます。
英文の実例も多く、細かいチェックリストもあり、初心者から中級者まで幅広く役に立つ良書だと思います。
日本人研究者が間違えやすい英語科学論文の正しい書き方――アクセプトされるための論文の執筆から投稿・採択までの大切な実践ポイント

私が2004年に医学研究科の博士課程へ進学した時点では、先にご紹介した「必ずアクセプトされる医学英語論文完全攻略50の鉄則」(第1版:2016年)はまだ存在しませんでした。
私が本格的に英語論文執筆へ向き合い始めた初期に、実際の手引きとなったのは本書「日本人研究者が間違えやすい英語科学論文の正しい書き方」でした。
外科研修医・レジデントとして忙しく働いていた頃には英文論文を執筆する時間も機会もありませんでしたが、大学院ではそうした機会に恵まれるだろうと期待していました。
しかし実際は、当時の大学院1年目は病棟勤務が課せられており、研究や論文執筆の機会がありませんでした。完全に無報酬(どころか学費も払っている)なのに、帰宅してからも深夜に病棟から「点滴が漏れました」と電話がかかってくるなど、研究というよりだらだらと外科医の生活が継続し、私のモチベーションは次第に下がる一方でした。
ある時、「このままではダメになる」と奮起した私は、「自力で、症例報告を一編、英語で書いてやろう」と思い立ちました。
元の勤務先の上司に相談し、乳腺腫瘍の症例報告を書くことにしました。しかし、一度も英文論文を書いたことがなかったため、投稿予定のジャーナルのいくつかのCase reportをお手本に、本書と首っ引きで少しずつ書いていきました。
当時は生成AIもなく、また翻訳アプリはあったかもしれませんが今ほど一般的ではありませんでした。お手本にしたCase Report中の英文や、いわゆる定型表現に自分の語句を差し替える作業を繰り返すしかありません。語彙のパターンが見えてくるまでは混迷を極めました。
その時の道しるべとなったのがこの本です。実際に論文を書き始める前の英語の一般的な注意から、Abstract、Introduction、Material and methods、Results、Discussionと各パートの様式と書き方までを体系的に学ぶことができました。
日本語の症例報告を経験していたため何となく書けるだろうと思っていましたが、英語論文には英語論文の作法があると知りました。恥ずかしながら、この本を読むまで投稿時にカバーレターが必要なことすら理解していませんでした。
症例報告とはいえ、ここで英語論文の作法を獲得したことで、以後の執筆が一段階滑らかになったと思います。後に学位論文を執筆する際にも大いに役立ちました。
本書は、米国人研究者(日本からの投稿の査読経験も多い)の著作の翻訳であり、査読者の視点を実地に学べる点も大きな収穫でした。そのため、「50の鉄則」とともに是非お勧めしたい書籍です。
(後日談:私の最初のたどたどしい英文の症例報告ですが、2025年11月現在、Google Scholarによると被引用回数が32回になっています。小さくとも発信すれば届く――この実感こそ、当時から今へと続く私の執筆史の背骨になっています。)
3.統計学の「壁」をピョンと飛び越える
今日から使える医療統計 第2版

医療統計といえば新谷先生ですよね。
今となっては"P値にとらわれ過ぎるのは良くない"という見解が広く知れ渡っているかと思いますが、この本の出版当時2015年です。私はP値を計算しては、“0.05または0.001未満か”で一喜一憂していたと思います(実際には統計の先生に相談したり、解析をしてもらったりしていたので、最終的には無茶なことはしておりませんが)。
症例数が多ければ、臨床的に無意味な差でも統計学的には有意となり、反対に症例数が少なければ、臨床的に意味のある差でも統計学的には有意差が出ないというのは「目からウロコ」でした。
最近、新谷先生のオンライン講義を聴くようになって、さらに「P値の呪い」について理解が深まってきましたが、すでに10年前の本書にその概要が記載されています。
まだ「P値の呪い」から抜け出せずにいるという方も、一定数いるのではないかと思いますが、P値と95%信頼区間について、本書で理解を整理することをお勧めいたします。
また、多変量解析の時の説明変数の選び方(極めて重要です)、多重検定の問題など、統計解析をする上での重要なポイントについても詳しく記載されています。
実際には統計の先生に解析をお願いするとしても、基本的な知識があった方がスムーズにディスカッションできます。自分で統計解析をやりたい方にはもちろん、統計の先生に相談しようと思っている方にもお勧めの1冊です。
「原因と結果」の経済学――データから真実を見抜く思考法

著者の一人である津川友介先生は、女性医師の治療成績は男性医師のものよりも良いという論文を発表されており、以前より注目していました(正確には、男性医師よりも女性医師が担当した患者の方が0.4%も30日死亡率が低いことを示しています)(Tsugawa, Yusuke et al. JAMA internal medicine vol. 177,2 (2017): 206-213)。
私は外科医ですが、昔から「外科に女はいらない」とさんざん言われて悔しい思いをしてきた世代です。そんな中で、私は女性医師は男性医師と同等程度のパフォーマンスができているはずだ(もしかすると分野によっては女性の方が優れていることもあるかもしれない)と考えていました。
2018年に医学部の女性受験生が差別的な扱いを受けていたことがニュースになりましたが、そのような差別的な扱いを受けるいわれはありません(Fukami K, Okoshi K, Tomizawa Y. SN Soc Sci. 2022;2:67)。
しかしながら、女性医師の治療成績が男性医師に劣らないことを示すためには、医師の性別による症例の偏りがないことを担保し(セレクションバイアスを排除し)、測定可能なアウトカムを考え、正しく測定する必要があります。
本書では、「医師の性別」と「患者の死亡率」に因果関係があるかを、どのように工夫して調べたかについて解説されています。
津川先生の論文に刺激されて、私も日本の消化器外科医の執刀医の性別による手術短期成績の差に関するスタディを考えました。大きなデータベースにアクセスするチャンスに恵まれたこともあり、私にとって最大の業績となりました。(Okoshi K, Endo H, Nomura S, et al. BMJ.2022;378:e070568. Published 2022 Sep 28. doi:10.1136/bmj-2022-070568)。
カエル教える 生物統計コンサルテーション――その疑問、専門家と一緒に考えてみよう

カエル研究者の筆者としては、カエルの毛呂山先生が生物統計学を教えてくれる書籍と言えば手を伸ばさざるを得ません。
本書は統計解析そのものについて書かれているだけでなく、サンプルサイズの設定やデータに欠測がある場合の対処法、重要なデータ(特にビッグデータ)の適切な管理・マネジメント、グラフの選び方などについてもわかりやすく書かれています。
研究には、実はこうしたデータマネジメントに関する知識も重要なのですが、書籍として体系的に学べるものは意外に少ない気がします。
統計解析を行う上で、そもそもデータが正確でなければ意味がありません。
本書では、様々な実例をカエルやサルなどの動物たちとの軽妙なやり取り(Q&A)で気楽に読むことができます。空き時間に楽しみながら読むもよし、辞書的に使うもよしの一冊だと思います。
4.研究者としてのキャリアを「続ける」ために
LEAN IN 女性、仕事、リーダーへの意欲

女性が妊娠や出産、育児といったライフイベントと並行しながら研究者としてのキャリアや臨床業務を継続するにあたり、「その場にい続けること」「その分野で細々とでも生き延びること」は、研究や論文のノウハウやTipsを知ることよりはるかに重要です。
本書のタイトルにある“Lean in”とは、もともとは「内側に寄る」などという意味で、例えばスポーツで前傾姿勢をとる時などに使う言葉なのだそうです。
しかし、本書の出版以降、「(特に女性が)挑戦やリーダーシップなどを積極的に引き受けること、またはそれを促すメッセージ」として使われることが増えました。
本書に対しては、ミドルクラスの白人で仕事で出世したいと思う女性だけをターゲットにしたものであるというような批判(エリート主義)も散見されました。確かに、華々しくビジネス界で活躍する女性の成功譚と言えるかもしれません。
しかし、本書を従来ほとんど存在しなかった"女性が執筆した、女性向けのビジネス本・自己啓発本"と見なせば、得るものが多いと思います。
私が本書で特に注目したことは次の3点です。
1.辞めなければならない時まで辞めないようにしましょう。
「子どもができたら…」と考えて先走って仕事を手控える女性も多いと思います。実際、私の大学の女子同級生たちの中では、出産後も仕事を続けやすいことを考慮して診療科を選ばなければならない、というような発言が増えていきました。男性はそのようなことを考えている人はいなかった(少なくとも表には出さなかった)にも関わらずです。
それまで男女平等、男女同権と言われ、男性と同じように努力を続けてきた女子医学生も、進路・キャリア選択に当たっては将来母親になることを想定したことになります(私もちらっと考えましたが、敢えて無視して消化器外科医を選びました)。
キャリアの途上では男性は「頑張れ、頑張れ」と言われ続け、女性は「そんなに無理するな」「十分頑張ったのだから最後まで行けなくても大丈夫」などと声をかけられることが多いと言います。
そんな中で強い気持ちを持ち続けることは大変ですが、本当に辞めなければならない時まではやめる必要はないと本書でサンドバーグ氏は述べています。
2.キャリアは一本道の“はしご”ではなく、ジャングルジム
英語では出世をよく“はしご”に例えられますが、てっぺんに行く道筋がいくつもあるジャングルジムと例えるパティ・セララーズの言葉を引用しています。
キャリアは一本道ではなくていいということ、王道などというものは気にしなくていいという意味と受け止めています。ジャングルジムで自由な回り道をしながらてっぺんを目指せばいいし、てっぺんではなくても素敵な眺望を得られるかもしれません。
3.スーパーママ神話など信じてはなりません。
外で働く母親は、仕事と家庭の両立について常に指摘されます。夕方以降に働いていれば「お子さんは?」と言われることがしばしばあります。言外に家庭のことをおろそかにしているのではといわれるような気がして罪悪感を感じることがあるかもしれません。
しかし一方で、父親が仕事と家庭の両立について指摘されることはほとんどありません。母親としてすべてをこなすことができなくても、罪悪感を感じる必要はないのです。
サンドバーグ氏は、本書を出版後に育児のパートナーであった配偶者を亡くしています。ビジネスで華々しく成功し、出世し、理解のある配偶者に恵まれても、人生には何が起こるかわからないのです。
その時その時に最善と思われる選択肢を選びながら、回り道をしながら、時には少し降りつつもゆっくりジャングルジムを登っていくのがいいのかなと私は考えています。
多様性の科学

医学研究を成し遂げるためにはチームで取り組むことが必要不可欠です。そして、よりよいアイデアを生むためには、メンバーの「多様性」が重要だと私は考えています。
本書には9.11のテロ攻撃の話が紹介されています。テロを未然に防ぐことができなかった原因はいくつか考えられていますが、その中の一つに当時のCIAの多様性の欠如が挙げられるといいます。
一人一人は優秀だったものの、多くが白人で中産階級出身であり同じ特徴を持つ者ばかりの集団だったのです。具体的に言えば、中国語、韓国語、ヒンディー語、ウルドゥー語、ペルシア語、アラビア語を話せる分析官がほとんどいなかったのです。
多様性の欠如したチームでは、異なる意見や視点、経験や背景などを真剣に考慮することができず、集合知を得られないために高いパフォーマンスを発揮することができません。
さらに本書では、私たち医療職にとっても示唆に富む例が挙げられています。
例えば、10人のチームを結成して世界的な肥満率の上昇を抑える画期的な方法を考えてもらい、有益なアイデアが一人10個出たとします。では、グループ全体ではいくつのアイデアになるでしょうか。10個×10人で100個になるでしょうか?
もし10人のチームのメンバーが全員賢い精鋭集団であったとしても、同じようなバックグラウンドや同じ基準で選抜されたチームであれば、出てくるアイデアのいくつかは重複してしまうことでしょう。視点の違うアイデアが生まれにくいからです。
しかし、全く背景の異なるメンバーであればどうでしょう。さまざまな角度から多彩なアイデアが出てくることでしょう。糖尿病専門医や内分泌に詳しい医師の参加は必須かもしれませんが、全く違う職種、場合によっては医療と関係のないメンバーが参加したほうが、思いもよらないアイデアが期待できるのではないでしょうか。
ダイバーシティというと男女共同参画の文脈で語られることも多いと思いますが、性別のみならず、さまざまな国や地域の出身、年齢、職業、経験、考え方、宗教や価値観などを含めた「多様性」が必要です。
多様性の内容が多様であることも重要だと私は考えています。
もちろん共通の話題の多い人と一緒にいるほうが気楽なこともありますが、危機に備える、イノベーションを成し遂げるなど、日常と異なるプロジェクトを遂行する際にはあえて自分と異なる人と組む勇気が必要だと考えています。
また、多様な人材がその場にいるだけでは不十分で、多様な意見をくみ上げるシステム(ダイバーシティ&インクルージョン)が欠かせません。
複数の視点の重要性について、本書から学ぶことをお勧めします。プレゼンテーションなどにも活用できる一冊です。
5.一覧表「この悩みには、この1冊」
悩み / 目的 | まず開く1冊 |
|---|---|
アイデアに煮詰まった時に | |
臨床上の疑問を、どのように研究に落とし込むかの実例を知りたい | |
医学論文を英語で書く流れを知りたい | |
論文にふさわしい英文を書きたい・査読者視点で論文を見直したい | |
医療統計の基本を知りたい | |
因果関係と相関関係についてわかりやすく学びたい | |
統計解析の実際についてカエル(毛呂山先生)に教わりたい | |
キャリアの継続の難しさに直面した時・リーダーシップのあり方に悩んだ時 | |
様々な人とチームを作って目的を達成するには |
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