
【初学者にも書ける医学英語論文】研究テーマの見つけ方と投稿先選び:日常から着想を得て論文に育てるステップ - vol.8
2025.08.27
研究テーマで悩むことがありますよね。アイデアがどんどん湧いてくる人もいれば、机の上で考えてひねり出そうとして困っている人もいるのではないでしょうか。
私自身、医師として臨床に携わりながら、多岐に渡るテーマで研究をしてきましたが、最初の研究テーマは指導教官に与えられたものでした。それ以降は、自分で思いついた研究テーマを論文化しています。
外来での患者さんとの会話、我が子と遊ぶ時間、通勤バスの車窓をぼんやりと眺めている時―。むしろ、そうした日常のふとした瞬間に、問いの種を思いつくことの方が多いかもしれません。
私はそれを「研究テーマは空から降ってくる」と表現しています。 しかし、せっかく空から降ってきた研究テーマも、それを的確に捉えて育てなければ、形になることなく消え去ってしまいます。
本稿では、消化管外科を専門とする医師・医学博士として、臨床から着想したテーマを多数論文化してきた私が、自らの「研究テーマが空から降ってきた」いくつかの瞬間をご紹介しながら、どのように研究チームを作り、論文化に至ったかについてお伝えいたします。
- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 英語論文執筆シリーズ
- 執筆者の紹介
- 編集者
- 監修者
- 「新規性」とは何か?
- 新規性は「既存研究の把握」に宿る
- 困ったらまずレビュー論文にトライしてみる
- 対象・手法・スケールの「ずらし」で新規性を出す
- 研究テーマの見つけ方
- 自分の「困りごと」患者さんの「困りごと」を突き詰める
- 「空から降ってきた」ひらめきをリサーチクエスチョンに落とし込む
- 問いの「共有度」をマッピングする
- 研究チームは自分でも作れる
- 講座紹介|【ゼロからの】英語で書ける医学論文執筆講座
- 投稿雑誌の選び方
- 「誰に読んでほしいか」「読者像」で投稿先を考える
- OA(オープンアクセス)費用・著者数制限・投稿形式変更の手間なども要確認
- 投稿先は一つに絞らず、候補を複数用意しておく
- IF(インパクトファクター)をどう考えるか
- よくある間違いと対策
- 最初から大きなスタディをやろうとする
- 研究がうまくいかなくて心が折れる
- 共同研究者(指導者)を探さずに諦める
- まとめ
- 研究計画・医療統計から、英語論文執筆・アクセプトまでトータルサポートならmJOHNSNOW!
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
論文のテーマの選び方
研究チームの作り方
研究がうまくいかないときにどうするか
この記事は誰に向けて書いているか
論文を書きたいと思っているが、何を書けばいいかテーマについて悩んでいる方
大学に所属しない医療者で、論文に挑戦したい方
研究をやってみたいけど、どこから手を付けたらいいかわからない方
英語論文執筆シリーズ
vol.1:東大大学院生を指導してきた医師が語る - 英語論文執筆の心理的ハードルを下げよう
vol.2:東大大学院生を指導してきた医師が語る - たった三つを意識すれば論文構成は完成する
vol.3:東大大学院生を指導してきた医師が語る - 学会発表を論文化する最短ルート
vol.4:東大大学院生を指導してきた医師が語る - 投稿から査読対応までの基本プロセス
vol.5:
(前編)東大大学院生を指導してきた医師が語る - AI時代に求められる論文リテラシーとは?
(後編)東大大学院生を指導してきた医師が語る - AI時代に求められる論文リテラシーとは?vol.6:
(前編)東大大学院生を指導してきた医師が語る - 論文の量産を可能にする習慣×統計手法
(後編)東大大学院生を指導してきた医師が語る - 論文の量産を可能にする習慣×統計手法vol.7:生成AIで進める英語論文執筆の全体戦略 - プロンプト付きで即実践!
vol.8:研究テーマの見つけ方と投稿先選び - 日常から着想を得て論文に育てるステップ(本記事)
vol.9:短時間で“使える論文”を探す文献検索の手順 - PubMed×AI活用で効率化
vol.10:型で攻略するIMRADの書き方 - 読者に伝わるIntroductionを書くコツ
vol.11:型で攻略するIMRADの書き方 - 再現性の高いMethodsを書くコツ
vol.12:型で攻略するIMRADの書き方 - 過不足のないResultsを書くコツ
vol.13:型で攻略するIMRADの書き方 - 一貫性のあるDiscussionを書くコツ
vol.14:IMRADを要約する論文の顔 - 印象に残るTitleとAbstractを書くコツ
執筆者の紹介
氏名:大越香江
所属:京都大学大学院 人間・環境学研究科博士後期課程 / 医学研究科消化管外科学 客員研究員 / 同志社大学生命医科学部嘱託講師、京都市内病院勤務(外科)
自己紹介:医師・医学博士。専門は消化管外科学。京都大学医学部、同大学院博士課程を卒業後、京都大学医学部附属病院勤務を経て現職。日本外科学会・消化器外科学会の専門医・指導医。「消化器外科女性医師の活躍を応援する会(AEGIS-Women)」の設立に参画、副会長として後進を支援。研究テーマは多岐にわたるが、医療現場のジェンダー格差や働き方の課題を追求。日本最大の手術データベースを用いた論文が英国医学雑誌『BMJ』に掲載 [PubMedリンク]。現在はカエルの生態と文化的側面に興味を持ち、「ケロロジー」という新たな研究領域を開拓中。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
「新規性」とは何か?
新規性は「既存研究の把握」に宿る
新規性を追求するあまり、皆が驚愕するような「まだ誰も手を付けていないテーマ」を無理に探し当てようとする必要はありません。
既知の現象にほんの少しでも新しいことが付け加えられれば良いのです。
よく言われることですが、Google Scholarのトップページの標語「巨人の肩の上に立つ」という標語は、「先人の積み重ねた研究を土台に新しい研究を積み重ねる」という意味です。
どこまでが分かっていて、どこからが分かっていないのか、というギャップを発見することにより新規性が生まれます。
私にはサージカルスモーク(注:電気メスなどのエネルギーデバイスで組織を焼灼する際に発生するエアロゾルなどの総称)に関する論文がいくつかありますが(※)、私がサージカルスモークについて調べてみようと思ったきっかけは、手術中に発生した煙で咳が止まらなくなったことです。
「サージカルスモークは健康に悪いのでは?」と突然思いつき、どのような健康リスクがあるのか調べてみようと思いました。サージカルスモークが嫌いなあまり、その集めた文献をレビュー論文にまとめ、他の外科医にも知ってもらおうと考えました。
コロナ禍前の当時、サージカルスモークについて知っている日本の外科医はほとんどおらず、外科医がどの程度サージカルスモークに暴露しているかを直接測定する研究は、海外でもまだほとんど行われていませんでした。
※サージカルスモークに関する論文:
Measurement of particulate matter 2.5 in surgical smoke and its health hazards
Health risks associated with exposure to surgical smoke for surgeons and operation room personnel
困ったらまずレビュー論文にトライしてみる
レビュー論文も立派なフロンティアになると思っています。最初に「既知の現象にほんの少しでも新しいことが付け加えられればいい」とお話しましたが、そもそも「既知の現象」を明らかにするためにレビュー論文を書くという戦略も良いと思います。
一口にレビュー論文と言っても、あるテーマに関する文献を包括的に紹介する「ナラティブレビュー(Narrative Review)」から、厳格な手法で文献を収集・評価し、統合する「システマティックレビュー(Systematic Review)」まで様々です。
初心者がいきなりシステマティックレビューに取り組むのは大変ですが、経験者と一緒にチャレンジしてみてもいいと思います。
その分野の全体像を深く理解できるだけでなく、どこに未解決な問題(リサーチギャップ)が残されているのかを発見する絶好の機会になります。
私のサージカルスモークのレビュー論文はいわゆるシステマティックレビューの手法を用いたものではありませんが、今読み返してみても、サージカルスモークの有害性をかなり網羅的にまとめていると思っています。
私自身が最初に考えていたよりも様々な有害性をまとめることができ、その後の手術中のPM2.5を測定するという研究にもつながりました。
「レビュー → 原著」という二段構えは、未開拓領域を段階的に深掘りする有効な戦略です。実際にレビュー論文にならなかったとしても、集めた論文を後で書く原著論文のIntroductionやDiscussionパートで使用することができるかもしれません。
対象・手法・スケールの「ずらし」で新規性を出す
同じ課題でも、対象・手法・スケールを少しずらすだけで新たな景色が見えてきます。これまで私が書いてきた論文の中から、三つの例をご紹介します。
①サージカルスモークの有害性をどのように評価すればいいか考えていた時、サージカルスモークは煙草に似ているのではないかと思いつきました。
論文を検索しているうちに、喫煙可能なレストランで働くスタッフが、タバコの煙の中に含まれるPM2.5にどの程度暴露しているかという論文を見つけました。
つまり、二次喫煙をPM2.5で評価するという手法です。同じ方法で術者の術中のPM2.5を測定できるのではないかと考えるに至ったわけです。
②晩期放射線腸炎の研究をしていた時、いくら調べてもよい手法が見つからずに途方に暮れていたことがあります。幸い、他の研究室の肺・肝臓線維化の研究者と協働することで、彼らが用いていたマウスモデル、線維化の評価方法を腸管にも応用することができました。
③Tsugawaらの術者の性別と年齢が手術成績にどう影響するかという論文を読んで、日本のNational Clinical Database (NCD)を用いて同じような研究ができないかと思いつきました。
NCDには我々消化器外科領域の手術95%以上が登録されており、患者背景や術後成績も登録されている術式もあるので、それらを用いれば、術者の性別による術後短期成績の比較がより細かいレベルで可能になるのではないかと考えました。
このように、
タバコ → サージカルスモーク
肺・肝臓 → 腸管
アメリカ(の研究) → 日本
といった、データベースの性質の差という小さな「ずらし」でも、新規性を生み出すことができます。
研究テーマの見つけ方
自分の「困りごと」患者さんの「困りごと」を突き詰める
研究の着想は、自分自身や患者さんの「困りごと」に敏感になることから始まります。何気ないやりとりの中に、未解決の問いが潜んでいることがあるのです。
ある時、私の患者さんが外来で「職場のクーラーが効きすぎて寒くて仕事にならない」と愚痴をこぼしておられるのを聞きました。オキザリプラチンを含む化学療法の影響で、冷気や冷たいものが苦手になっていたのです。
私はその患者さんが来られるたびに外来のエアコンの設定温度を上げるようにしていましたが、ある時思いました。
「大腸癌の術後、他にどんなことが仕事の障壁になるのだろうか」
それまで、大腸癌の治療は手術にしろ、化学療法にしろ、生命予後の改善をアウトカムにすることしか頭にありませんでした。
しかし、患者さんの生活は手術後も続いていきます。これは一つの研究テーマになるのではないかと思いました。調べてみたところ、乳癌のスタディは見つかったものの、大腸癌ではほとんど見つかりませんでした。
このようにリサーチクエスチョンを思いついたら、既に研究されていないかを確認します。出典確認は必須にはなりますが、GeminiやChatGPTのDeep Researchでの初期調査も全体像を把握するのには使えそうです。
私自身に関して言えば、サージカルスモークや「女性外科医が出産後にフルタイムで仕事をすることの難しさ」も自分の「困りごと」から始まった研究テーマになります。
「空から降ってきた」ひらめきをリサーチクエスチョンに落とし込む
外来で患者さんがつぶやいた一言が、臨床研究の種になることもあります。私の中でも、この時のようにひらめきが「空から降ってきた」ように感じられる瞬間が何度かありました。
しかし、そのひらめきをリサーチクエスチョンにするには複数の段階が必要です。
私の勤務先の病院では症例数が少なく、このひらめきを私が単独で臨床研究に落とし込むことは難しいと思いました。
そこで所属する京都大学外科交流センターのクリニカルリサーチ会議で提案したところ、グランプリを受賞し、医局のデータベースを用いて関連病院共同の臨床研究をすることになりました。
この後は後輩の大学院生が実務を引き継ぎ、彼自身の博士課程の研究として立派にやり遂げてくれました。複数の関連論文がパブリッシュされています:
魅力的なひらめきであっても、測定可能なアウトカムの有無、比較対象の明確化、実現可能性、倫理的配慮、侵襲の許容範囲、社会的貢献、費用調達、共同研究者の確保など、考えるべきことはたくさんあります。
研究はなかなか一人ではできないので、仲間を募りましょう。
問いの「共有度」をマッピングする
問いを立てたら、「誰にとって切実か」を3層で整理します。
①医療界(社会)全体で共有される未解決課題
②現場では深刻だが学術的に未認識の課題
③限定的コミュニティのみで語られる課題
というマッピングです。
例えば「出産後に外科医としてフルタイムで働く厳しさ」は、今では広く共有される①となっていますが、元々は③でした。そもそも女性外科医はほとんどおらず、問題となってもごく局所的で「女性外科医自身の問題」という位置付けだったのです。
孤軍奮闘、戦いに敗れればやめていくだけでした。それが学会や論文でこの問題が扱われるようになるにつれて②となり①となり、問題が共有される範囲が大きく拡大しました。
今や女性外科医だけの問題と考える人はほとんどいないでしょう。 ③のままでも重要な問題ではあるのですが、それだけではなかなか多くの人の共感を得られません。
自分の研究がより広く共有されるために、他領域で類似の課題がないかを調べ、共有範囲を広げる戦略をとると、研究資金や投稿先を確保しやすくなります。そのためには同じような問題が他の領域でも起きていないかを調べる必要があります。
研究チームは自分でも作れる
医局のリソースも戦略的に活用してよいと思いますが、それだけだと分野が限られ、自由な発想の研究がやりにくい場合があります。
独自の研究チームを作ることも考えてみましょう。
興味深い論文の著者に直接連絡して共同研究を提案するのも有効で、歓迎されることもあります。
私がサージカルスモークに関するレビュー論文を書いた後、残念ながら外科医からの反響はなかったのですが、麻酔科の先生から電話やメールをいただきました。とても勇気づけられたことを覚えています。
また、タバコによる二次喫煙によるPM2.5暴露に関する論文の筆者の先生にメールで連絡する勇気につながり、PM2.5を測定する粉塵計(とても高価!)をお借りすることができました。
さらに、統計家との連携は「研究計画段階」から必要です。後からでは手遅れなこともしばしばあります。
しかし、統計家とのコネクションは意外と難しいこともありますし、統計家と連携するためには自分もある程度の知識が必要です。
統計家と連携できる場に所属することが必要になるかもしれません。なぜなら、研究デザインそのものに統計的な視点が不可欠だからです。
そして、「どのようなデータを」「何人から」「どのように集めるか」は、研究の結論の信頼性を担保する根幹です。
例えば、後になってから「このデータでは比較したかったことが証明できない」「そもそも結論を出すには症例数が圧倒的に足りなかった」「測定方法にバイアス(偏り)が入る可能性を考慮していなかった」といった問題が発覚しても、もう手遅れなのです。
統計家は、計画段階でこれらの落とし穴を回避し、最も効率的で説得力のある研究デザインを一緒に考えてくれる心強いパートナーです。
(続きはページの後半へ)
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投稿雑誌の選び方
「誰に読んでほしいか」「読者像」で投稿先を考える
誰に読んでほしいかを最初に考えましょう。
私は、サージカルスモークの論文を日本の外科医に読んでもらおうと思ってSurgery Today (日本外科学会英文誌)に投稿しました。サージカルスモークに関する論文がSurgery Today から2本 publishされています。
読者像で投稿先は変わりますので、投稿先候補のジャーナルの過去の論文と並べたときに違和感がないかを確認しましょう。
自分が引用しようと思っている先行研究の論文が掲載されているジャーナルも選択肢になります。似た分野の論文が既に採択されているなら、読者層が同じである可能性があります。
OA(オープンアクセス)費用・著者数制限・投稿形式変更の手間なども要確認
OA費用、アクセプトまでの平均日数、図表や著者数の制限、投稿形式変更の手間、トランスファーの可能性なども確認しましょう。
著者数の制限を見落とすと、共同研究者に迷惑が掛かり、トラブルの元になります。OAは、誰でも無料で論文全文を読むことができる出版形態です。
これにより、自身の研究がより多くの人の目に触れ、引用されやすくなるメリットがあります。その代わり、一般的に出版の際に著者が高額な費用を負担しなければなりません。
大学によってはOA費用に補助が出ることがあるので、事前にチェックしておきましょう。
投稿先は一つに絞らず、候補を複数用意しておく
リジェクトされると、気持ちが落ち込むものです。
最初に投稿する前に「投稿→リジェクト→すぐに次へ」という流れを設計しておけば、粛々と計画を実行していけるので、時間的ロスも少なく、精神的なストレスも緩和できるのではないかと思います。
複数のジャーナル候補を見つけるのが難しければ、AI(ChatGPTやJournal Finder)を使って候補を探すのもよいかもしれません。IF(インパクトファクター)やOA費用など、様々な条件を一覧にして優先順位をつけることも可能です。
言うまでもないことですが、ジャーナル選択の最終判断は人間の目で確認してからにしましょう。
IF(インパクトファクター)をどう考えるか
IFとは、その雑誌に掲載された論文が、平均してどれだけ他の論文に引用されたかを示す指標で、一般的には学術的な影響力の高さを示すとされています。
学位論文のように期限があるものは、まずはきっちり1本まとめることが大事だと思っています。
学位論文から高IFのジャーナルを狙えると確かにかっこいいのですが、個人的には時間をかけすぎるよりも、ある程度のところでまとめてpublishするという一連の作業をこなすのがまずは必要かと思っています。
余裕があり可能性があるなら、IFが高めのジャーナルにチャレンジするのも良いでしょう。通るかどうかは別として、「一度挑戦してみる」ことで書き方・論点の整理・査読者の視点などの学びが得られるかもしれません。
筆者はランセットにリジェクトされた後、BMJに投稿して採択された経験があります。残念ながらエディターキック(査読プロセスに進むことなく、編集者の判断のみで掲載不可となること)だったので特に何かを学んだということはありませんが(笑)。
BMJは、上述したTsugawa論文がpublishされていたジャーナルであり、類似のテーマである私の論文も採択される可能性はあると考えていました。
よくある間違いと対策
最初から大きなスタディをやろうとする
NCDなどの大規模データを利用するためには、学会単位申請が必要です。
難度は高いですが、既存のチームや申請資格のある人にうまくプレゼンをして一緒に申請してもらうという手があります。
その際、小さな業績であってもプレリミ(preliminary data:本格的な研究に先立って得られた予備的なデータ)になるデータがあると強みになります。
小さな業績があれば、研究費の申請にも有利になります。業績が何もないと、説得力が弱いのです。
研究がうまくいかなくて心が折れる
研究そのものがうまくいかないこと、論文を書いたのにリジェクトされてへこむ、などというのはよくあることです。リジェクトされるのは普通のことなのですが、やはりそれなりに落ち込みますよね。
おすすめとしては、常に複数のプランを持っておくことかと思います。
常に2〜3個の研究のタネを温めておき、それぞれの研究チームを作っておけば、一つが停滞していても、別のことを進められるので気がまぎれます。
論文をリジェクトされた時には次の候補ジャーナルに粛々と投稿準備を進めます。
心が折れそうな時は、とにかく何か「作業」をしておきましょう。
共同研究者(指導者)を探さずに諦める
先ほど、下記三つについてご説明しました。
医局のリソースを利用する
興味ある論文の著者に連絡を取る
統計家とコネクションを作る
他には、学会で知り合う(学会には必ず名刺を持参し、興味ある発表や講演をした人と名刺交換し、翌営業日までにメールする)、大学の同級生や先輩後輩のコネクションを頼る、などがあります。あらゆる手立てで共同研究者を探すことができます。
まとめ
本稿では、研究の第一歩を踏み出そうとする方々、特に日々の臨床に追われながらも学術的な探求心を持つ医療者の皆さんに向けて、研究テーマの見つけ方から論文発表、そして研究を続けるための心構えまでを解説してきました。
論文執筆と聞くと、途方もなく独創的な、世界を変えるような発見をしなければならない、と身構えてしまうかもしれません。
しかし、本稿で繰り返し述べたように、研究の出発点は、あなた自身の日常にある「なぜ?」や、目の前の患者さんの「困りごと」で十分なのです。
「新規性」とは、無から有を生み出す魔法ではありません。先人たちが築き上げた知の体系という「巨人の肩」を借り、そこから見える景色に、ほんの少しだけ新しい視点や情報を付け加える作業です。
あなたの専門分野の常識を、隣の分野の道具で測ってみる。海外の大きな研究を、あなたのいる日本の現場で再現してみる。その小さな「ずらし」が、価値ある新規性を生み出します。
そして何より、研究は一人で進める孤独な旅ではありません。 魅力的な問いは、必ず共感者を引き寄せます。
統計家、異分野の研究者、そして同じ志を持つ臨床の仲間たち。積極的に声をかけ、チームを作ることで、一人では見えなかった景色が広がり、困難な壁も乗り越えられるはずです。
論文がリジェクトされるのは当たり前のことです。研究が計画通りに進まないことも日常茶飯事です。
しかし、その試行錯誤のプロセスこそが、あなたをサイエンティストとして成長させます。常に複数の研究のタネを温め、一つの失敗に心を折られることなく、淡々と次の一手を打ち続けていきましょう。
あなたの小さな一歩が、明日の医療を少しだけ前に進めるかもしれません。この稿が、その勇気ある一歩を踏み出すきっかけとなることを願っています。
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シリーズ一覧
英語論文執筆シリーズ
vol.1:東大大学院生を指導してきた医師が語る - 英語論文執筆の心理的ハードルを下げよう
vol.2:東大大学院生を指導してきた医師が語る - たった三つを意識すれば論文構成は完成する
vol.3:東大大学院生を指導してきた医師が語る - 学会発表を論文化する最短ルート
vol.4:東大大学院生を指導してきた医師が語る - 投稿から査読対応までの基本プロセス
vol.5:
(前編)東大大学院生を指導してきた医師が語る - AI時代に求められる論文リテラシーとは?
(後編)東大大学院生を指導してきた医師が語る - AI時代に求められる論文リテラシーとは?vol.6:
(前編)東大大学院生を指導してきた医師が語る - 論文の量産を可能にする習慣×統計手法
(後編)東大大学院生を指導してきた医師が語る - 論文の量産を可能にする習慣×統計手法vol.7:生成AIで進める英語論文執筆の全体戦略 - プロンプト付きで即実践!
vol.8:研究テーマの見つけ方と投稿先選び - 日常から着想を得て論文に育てるステップ(本記事)
vol.9:短時間で“使える論文”を探す文献検索の手順 - PubMed×AI活用で効率化
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