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【東大SPH受験】企業勤務20年から東大SPHへ:「公衆衛生」に出会い、メンタルヘルスの研究職へキャリアチェンジするまで- vol.42
2026.01.14
本稿は企業勤務歴20年の非医療職が、自分の仕事に限界を感じたことをきっかけに公衆衛生という学問の存在を知り、東大SPHに辿りつくまでの経緯、受験経験、東大SPHで得たもの、そしてそれが修了後のキャリアにどのように結びついているのかを、本人の主観で綴った記録です。
東大SPHを目指す多くの方は、知識も経験も豊富な医療専門職だと思います。
そのため、本稿はそうした方々にとって、必ずしも直接役立つ内容ではないかもしれません。
一方で、医療専門職ではないものの、何かしらの理由で公衆衛生に関心を持った方、しかし「その領域に入るにはどうすればよいのか」、「どんな方法があるのか」が分からず立ち止まっている方、あるいは何らかの理由で躊躇している方には、もしかしたら参考になる情報があるかもしれません。
あくまでも一個人の一事例としてお読みいただければ幸いです。
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- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 東大SPHをもっと深く知りたいあなたへ
- 執筆者の紹介
- 編集者
- 監修者
- SPHを受験しようと思ったきっかけ
- 自分の仕事に対する違和感
- 身近な人のメンタルヘルス不調で直面した限界
- 「川上を変える」公衆衛生との出会い
- 受験への躊躇を吹っ切った教員の言葉
- なぜ東大SPHを選んだか
- 1.経済的な負担をできるだけ抑えたい
- 2.「メンタルヘルスの公衆衛生」を学べる
- 3.研究と論文執筆まで経験できる
- 4.非医療職の受け入れ実績がある
- 5.教員の魅力
- 受験対策でやったこと
- 1.アドミッションポリシーの確認と情報収集
- 2.試験勉強は過去問中心
- 3.小論文は論理性のみ繰り返しチェックし構造化
- 4.面接対策は相手の立場に立ってシンプルに
- 受験期に大変だったこと
- 見るもの全てが「理解不能」からの出発
- 手探りで対策することへの不安
- 入学までの勉強
- 東大SPHでの学び
- 1.良質な講義と充実した設備
- 2.保健所での実務経験
- 3.一から研究を組み立てる経験
- 東大SPHを修了してから
- 研究の道に進むきっかけとなったSPHで感じた「違和感」
- 受験生に伝えたいメッセージ
- SPHは、多様な人材を求めている(と思う)
- SPH受験は何かを変えるための行動の選択肢の一つ(かもしれない)
- 最後に
- MPHの受験から、卒後のキャリア形成まで一気通貫のサポートならmJOHNSNOW!
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
受験生から見た東大SPHの特徴
東大SPHの受験準備の実際
非医療職が東大SPHで得たこと
この記事は誰に向けて書いているか
今の仕事でできることに限界を感じ、何かを変えたいと思っている方
医療職でないけれど、公衆衛生を学びたいと思っている方
受験への踏ん切りがつかずもやもやしている方
東大SPHをもっと深く知りたいあなたへ
受験のかたちは人それぞれ。東大SPHを目指す歩みには、十人十色の物語と、それぞれに合った勉強法があります。
大切なのは、自分自身にフィットする戦略を見出すこと――それこそが、合格への鍵となるのです。
ここでご紹介する体験記は、受験に向けた思考と準備のヒントに満ちています。
これから進む道の羅針盤として、ぜひ他の東大MPH受験記もあわせてご覧ください。
「公衆衛生」に出会い、メンタルヘルスの研究職へキャリアチェンジするまで(本記事)
執筆者の紹介
氏名:匿名
所属:研究所勤務
経歴:公衆衛生学修士、精神保健福祉士。大学卒業後、民間企業にて個人、企業、大学を対象としたメンタルヘルス支援に従事し、これまでに500を超える企業・官公庁・自治体で研修講師を務めた。人々の心の健康を支える現場に向き合う中で、支援の質と根拠のある実践の重要性を痛感し、公衆衛生大学院へ進学。科学的根拠に基づく精神保健支援の理論と方法に加え、疫学的研究手法を体系的に修得した。修了後は研究機関に所属し、精神保健分野における調査・研究活動に取り組んでいる。現場と 学術をつなぐ実践知の蓄積を通じて、実効性のある支援と政策への貢献を目指している。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
SPHを受験しようと思ったきっかけ
自分の仕事に対する違和感
「今やっているこの仕事は、誰かのメンタルヘルスを守ることに本当に役に立っているのだろうか。」
SPHを受験しようと思ったきっかけを一言でまとめると、この違和感に尽きると思います。
私は新卒の頃から約20年間、企業でメンタルヘルスに関する様々な仕事に携わっていました。
SPHの受験を意識した当時は、従業員や管理職向けのメンタルヘルスの研修を様々な組織に提供する仕事を主に行っていました。
建前としては「労働者のメンタルヘルス不調の予防」が目的です。
しかし現場にいると、求められている「本当のアウトカム」は別のところにあるように感じていました。
それは、次の年度も同じ組織から仕事の発注を受けること。
そのために、発注の意思決定をする担当者を満足させること。
そして、その指標になるのが、研修終了後の満足度アンケートの点数です。
アンケートで高得点を取るためには、限られた時間を「楽しく・面白く」過ごしてもらう必要があります。
しかし、参加者がその数時間を楽しく過ごせたかどうかと、彼らのメンタルヘルス不調を本当に予防できたかどうかは、ほとんど関係がありません。
形式的には正しいことを話している。アンケート結果は悪くない。でも、心のどこかで「これは本当に意味があるのか?」という疑問が消えませんでした。
身近な人のメンタルヘルス不調で直面した限界
それと同時に、そのような研修を毎年受けているであろう身近な友人や知人たちが、次々とメンタルヘルス不調に陥っていきました。
研修では「早めに相談しましょう」「セルフケアを大切に」と伝えています。
でも、彼らが不調に至るまでのストーリーには、それではカバーできない共通するものがあるように感じていました。
自分を追い詰めるような働き方しか選べなくなっていく過程。
少しでも手を抜くと「怠けている」と自分を罰してしまう感覚。
何かから逃れるように仕事に没頭する状況。
そういう人たちにとっては、事前の相談はもちろん、セルフケアも二の次です。
ストレス対処の表面的なスキルだけでは、とても追いつかないような、深いレベルの困難が横たわっているように感じました。
もちろん、研修を含めた組織のメンタルヘルス対策や体制構築が無意味だとは思いません。むしろ必要なことです。
ただ、根本原因に手をつけないままでは、メンタルヘルス不調は何度でも繰り返されてしまうのではないかと感じていました。
そして、その感覚は日に日に強くなっていきました。
しかし、それは組織がやるべき守備範囲を超えています。
何に手をつければ、メンタルヘルス不調を「本当の意味で」予防できるのか。
メンタルヘルスの仕事に携わりながら、自分の大切な人達のメンタルヘルスを守ることにも役立てず、状況を打開する糸口すら自分では見つけられず、閉塞感だけが積み重なっていきました。
そのような限界を感じたことが、SPHの受験を意識し始める一番のきっかけでした。
「川上を変える」公衆衛生との出会い
当時の私は、メンタルヘルスの専門性である「医療」「心理」「福祉」と聞くと、どれも「病気になった後にどう対応するか」の専門性というイメージを持っていました(必ずしもそうでないことは後に知ることになります)。
もちろんそれも重要ですが、私が知りたいのは「そもそも人がメンタルヘルス不調にならずに済むようにするにはどうしたらよいか」でした。
そんなときに出会ったのが、公衆衛生の考え方です。
病を治すとき、川下の症状だけを見るのではなく、その上流(川上)で何が起きているのかを捉え、原因に働きかけることが大切だとする視点。
「個人のセルフケア」「職場環境や仕組み」だけでなく、「地域・社会の仕組み」そのものを変えるアプローチが公衆衛生にはある、と知ったとき、まさに自分が直感的に大事だと感じていたことが、言い表されていると感じました。
調べてみると、公衆衛生を体系的に学べる場として、SPHがあることを知りました。
メンタルヘルスを含む公衆衛生を、学位課程として専門的に学べることを知り、視界が開けたような感覚があったのを覚えています。
受験への躊躇を吹っ切った教員の言葉
とはいえ、すぐに「よし受験しよう!」とはなれませんでした。
というのも、当時は「SPH = 医療専門職が行くところ」というイメージが強く、募集要項で医療職でなくても受験対象者になることを確認しても、
もし入学できたとして、ついていけるのか?
学んだことは仕事に生きるのか?
など、不安は尽きなかったからです。
そんなとき、東大SPHのウェブサイトに掲載されていた動画の中で、当時の教員がおっしゃっていた言葉に出会いました。
「自分も社会の一員であるという自覚を持てる人に来てほしい。」
この一言が、私の背中を強く押してくれました。
「医療職かどうか」ではなく、「自分も社会の一員として、一般市民と同じ目線で健康について考えられるかどうか」が問われているのだと感じました。
一般市民として日々感じてきた違和感や問題意識も、公衆衛生にとっては重要な視点なのではないか。
むしろ、「一般市民としての目線を持ったまま公衆衛生を学ぶこと」にこそ、自分の役割があるのではないか。
そう思えたとき、ようやく受験しようと思えるようになりました。
なぜ東大SPHを選んだか
本来であれば、「自分が将来やりたい研究テーマに最も適した指導教員がいるから」などと、スマートな理由を挙げるのが理想かもしれません。
ですが、私の場合、最初に考えたのはもっと現実的なことでした。
1.経済的な負担をできるだけ抑えたい
SPHを修了したからといって、必ずしも収入が上がるわけではありません。
自分のキャリアの棚卸しと修了後の仕事を想像をしても、学位が給料と直結するとは限りません。
今後の生活のことも考えると、できる限り手元の資産は残しておきたい。
正直に言うと、これが大きな現実的制約でした。そのため、
学費が大きな負担にならないこと
引っ越しせず今の生活圏から通えること
交通費が大きな負担にならない範囲であること
このあたりが、かなり上位に来る条件でした。
2.「メンタルヘルスの公衆衛生」を学べる
私が一番関心があるのは、「どうすれば私たちはメンタルヘルスを害することなく生活を営めるのか」です。
精神疾患の診断や治療に関する精神医学ではなく、地域・社会の仕組みといった「川上」の要因が、メンタルヘルスにどう影響するのかを学び、研究したいと考えていました。
各SPHのカリキュラムを見比べたとき、メンタルヘルスの公衆衛生にフォーカスした授業があるところは決して多くありませんでした。
私の記憶では、「ここなら学びたいことが学べ、研究ができそうだ」と思えたのは、実質的に一択だったように思います。
3.研究と論文執筆まで経験できる
せっかく時間とお金をかけるなら、学位以外にも何か形に残る成果が欲しいと思いました。
各SPHのカリキュラムを比較してみると、東大のSPHは講義の内容に偏りが少なく、疫学・統計・保健政策・行動科学などをバランスよく学べる印象がありました。
また、修了時には課題研究が課され、多くの学生が在学中に査読済み英語論文を執筆・出版して修了していることも知りました。
「英語論文」というとハードルが高く聞こえますが、逆に言えば、それだけ研究指導が体系的に行われている証でもあるのではと思いました。
自分の専門性が目に見える形で深まったと実感できること、そして一つの達成感を得られそうなことが、とても魅力的でした。
4.非医療職の受け入れ実績がある
各SPHにはそれぞれ特色がありますが、募集要項や修了生の進路を見て、非医療職の在籍が全く確認できないところは、実質的には合格・入学のハードルがかなり高いだろうと考えました。
その点、東大SPHには、医療者だけでなく弁護士や企業勤務者など、さまざまなバックグラウンドの修了生がいることがわかりました。
「医療職でなくても、アドミッションポリシーを満たしていると判断されれば受け入れてもらえる」のだと、少し安心できました。
5.教員の魅力
ここまで理由を並べてみると、ずいぶんもっともらしいように聞こえますが、正直に言うと、私の背中を最も強く押したのは、やはりあの一言でした。
「自分も社会の一員であるという自覚を持てる人に来てほしい。」
一般市民の目線を大切にする姿勢を尊重する教員がいらっしゃることが、最終的な決め手でした。
(ちなみに、東大SPHの教員陣がいかに豪華だったかは、入学後に同期から話を聞いて初めて知りました...)
受験対策でやったこと
とは言え、次の悩みはすぐにやってきました。
医療の現場で経験を積んだ専門職の方々と比較されたとき、自分には勝ち目がないように思えました。
そこで、受験するにあたり、以下の2点を満たせるような準備を心がけました。
当落線上に並ばないレベルで、合格水準を満たす得点をクリアする
この人を学生として迎え入れても大丈夫そうと思ってもらえる
1.アドミッションポリシーの確認と情報収集
まず取り組んだのは、2で、具体的には「求める人物像(アドミッションポリシー)」を理解することでした。
そこに書かれているキーワードと自分の経験を照らし合わせ、自分の中にある「資源」を棚卸ししました。
それらを、「自分はアドミッションポリシーを満たしている人物である」と語れるようエピソードを整理しました。
そのうえで、「非医療職だからこそ見えている現場の課題」を、できるだけ具体的な言葉で伝える点を意識しました。
結果として、それが試験科目の1つである小論文の題材となりました。
1については、SPH主催の説明会に参加し、在校生の方々の受験経験のお話を伺いました。
その中で合格水準の得点を推測し、それを一定程度上回る得点を取ることを、筆記試験対策のゴールとしました。
2.試験勉強は過去問中心
勉強方法については、まず「やらないこと」を決めました。
あれこれ手を広げても、初心者の頭に知識は残らない上に、どのレベルまで理解していればよいかわからずかえって焦りが増すだろうと考えたからです。
受験対策として私が使ったのは、基本的に以下の2つです。
過去問
標準的な公衆衛生の教科書(400ページ程度のものを1冊)
というのも、アドミッションポリシーで求められていたのは、「一般的な公衆衛生の知識を有する」であり、その求められるレベル感は過去問に集約されているだろうと考えたからです。
東大SPHが求める知識レベルの教材を何度も繰り返して、自分の血肉にすることにしました。
とはいえ、過去問をパラパラめくると、分からない単語だらけでチンプンカンプンでした。
そのため、まず単語を理解するために、公衆衛生の教科書を入手しました。教科書は執筆者や編集者に東大SPHの教員のお名前が連なっているものを選びました。学生の持つべき常識として教員が前提にしているレベル感に近いのではないか、との判断です。
過去問を解きながら、「わからない用語や概念が出てきたら、その教科書で調べる」「教科書にない場合はウェブで調べる」というサイクルを何度もまわしました。
「問題 → 教科書(ウェブ検索)→ また問題」と行ったり来たりするうちに、最初はバラバラだった知識が、少しずつつながっていく感覚がありました。
英語は、過去問で扱われているテーマの理解を目的としました。過去問を解きつつ、その出典元が新たに出版、公表した同じテーマの英語論文や記事などに目を通し、テーマの背景と現状の把握に努めました。
ちなみに私は、日本で義務教育を受け、留学したことも就職後に継続的に英語を学んだこともなく、標準的な英語力しか持ち合わせていませんが、英語の勉強は不思議と苦になりませんでした。
おそらく、東大SPHの入試には良質な英文が用いられていたことが要因だと思います。
入学後に様々な英語文献を読みましたが、良質な論文、記事ほど平易で論理的で分かりやすく書かれていることに気づきました。
筆記試験対策として特別な「裏技」はありませんでしたが、
過去問で出題の雰囲気をつかむ
教科書(ウェブ検索)とテーマに合った良質な英語文献で基礎を固める
このシンプルな組み合わせが、私には一番しっくりとくる方法でした。
3.小論文は論理性のみ繰り返しチェックし構造化
試験案内に「小論文は論理的であること」のようなことがわざわざ書いてあったため、書いたものを家族にチェックしてもらい、修正することを繰り返しました。
構造として頭に入れたことで試験当日に詰まることなく書き進められたように思います。
4.面接対策は相手の立場に立ってシンプルに
アドミッションポリシーと自分の属性を照らし合わせて、想定質問を考え、その質問への回答を作成し、口頭での回答を繰り返し練習しました。
特に意識したのは、以下の2点です。
自分は医療職のキャリアを積んでいないという事実を直視すること
それでも「なぜ公衆衛生なのか」「なぜ今なのか」を、自分の言葉で語ること
当日、一つ目の質問が想定通りで、私の回答に面接官の先生が、「なぜSPHを受験されたのかよく理解できました。」と言ってくださったおかげで、そのあとは比較的リラックスして回答できました。
短い準備期間の中で、どの程度面接対策に時間を割くかに悩みましたが、自分にとってアウェイな状況であることに間違いない。
だからこそ、試験官に「この人はきちんと準備してきたな」と感じてもらえる程度には、想定質問への回答を用意しておこう、と決めて取り組みました。
そのことが、結果的によかったのだと思います。
受験期に大変だったこと
見るもの全てが「理解不能」からの出発
一番大変だったのは、「新しい言葉」に慣れることでした。
公衆衛生の世界の言葉には、それまでほとんど触れたことがなく、一度説明を読んだだけでは、その意味や違いなどなかなか頭に入ってきません。
そのため、私は「わからなくてもとにかく触れる回数を増やす」ことを意識しました。
すきま時間に、公衆衛生の教科書を1ページだけでも読む。
用語をノートに書き出し、自分の言葉で短く説明を書いてみる。
こうした小さな積み重ねをしているうちに、最初は「呪文」にしか見えなかった言葉が、少しずつ「知っている言葉」に変わっていきました。
手探りで対策することへの不安
周りにSPH受験経験者がいなかったことも、不安を大きくしていました。
「この勉強方法で合っているのか」「どこまで準備すれば大丈夫と言えるのか」が分からないまま手探りで進めるのは、心細いものです。
でも、そこは割り切るしかありませんでした。
合格点を取るために自分なりにやれることはやった、不合格でも仕方ないと思える状態で試験当日を迎えることを目標にしました。
一方で、時間の捻出が大変だったという記憶はあまりありません。
これは私が知識不足だったからだと思います。
上記に書いたように、すべてが理解不能だと、そもそも長時間勉強できません。
最低限の内容を押さえることしか目標にできなかったことが、結果的に効率的な勉強になっていたのかもしれません。
入学までの勉強
これはあくまでも試験で合格点を取る事だけに焦点を当てた勉強であり、このままだと入学後についていけず大変なことになるかもしれないと危機感がありました。
そのため、合格後は入学まで一生懸命知識を補いました。
実際、入学後は、(私にとっては)膨大な量の講義と課題が並行して進んでいったので、この補完によって命拾いをしたと思っています。
東大SPHでの学び
2年間の在学中に様々なエピソードがありましたが、印象に残っていることを三つ挙げます。
1.良質な講義と充実した設備
これは修了してからの気づきになりますが、講義の質が抜群に高いことです。
公衆衛生と研究に関することが網羅的に学べると同時に、それぞれの分野の第一人者が講義をしてくださるので、本質的で最新な内容を学ぶことができました。
最初の段階で触れる教育の質が高かったことのメリットは、修了後の様々な場面で感じます。
また東大は、図書館を中心としてアクセスできる書籍や資料の量と質、講義外で提供される講座、設備の充実度など学びやすい環境が整っています。
時間が限られた中で学ぶ社会人としては大きなメリットでした。
2.保健所での実務経験
私が1年次の途中で、COVID-19のパンデミックが発生し、SPHの学生が保健所の疫学調査のお手伝いをさせていただくことになり、私も参加いたしました。
パンデミック初期の現場が大変な時期から、保健所が学生の受け入れをしてくださいました。
公衆衛生の最前線で行われている業務を、ほんの一部ですが垣間見ることで、多くのことを学ばせていただきました。
詳細をここに記載することはできませんが、刻々と変わる状況に対し、迅速かつ柔軟に対応し、体制を構築していく仕事の進め方を拝見しました。
その中で、業務に対する基本指針、達成すべきアウトカムやその優先順位などが、私が仕事をしてきた企業のそれとは大きく違うこと、また、そのおかげで我々の日常生活が守られていることにも気づくことができました。
当たり前のことではありますが、公衆衛生を含め、自分が今までいた環境と違う分野に入る際には、目指すゴールや価値観等の違いが大きいかもしれないことを認識し、しっかりすり合わせをする重要性に改めて気づかせていただけたのが、私にとっては一番大切な収穫でした。
3.一から研究を組み立てる経験
私は二次データ解析ではなく、自分でデータを収集して研究することになりました。
それは、研究者を志すつもりがあるなら、研究の一連の流れを経験した方が良いという指導教員の計らいによるものでした。
そのため、研究計画書の作成、倫理審査、尺度の開発、質問紙の設計、参加者リクルート、データ構築、解析、論文化、研究参加者への結果報告まで手掛けることができました。
もちろん反省することも多く、「こうしておけばよかった」と思うことも多々ありますが、一通りの研究の流れを経験し、完遂したことはその後の研究を進める上での安心感につながっているように思います。
2年間の在学中に無事、査読済み英語論文も出版でき、目標も達成することができました。
これは指導教員、先輩、同期のサポートによるおかげで、研究は一人ではできないことを実感しました。
東大SPHを修了してから
研究の道に進むきっかけとなったSPHで感じた「違和感」
大学院を修了後、運よくお声がけいただき、現在は研究の仕事に従事しています。
研究に携わることにした理由は、私が出会った“困難に遭遇した人達”に役立つ研究ができるようになりたいと考えたからです。
東大SPHは一流の教員と意識の高い学生に囲まれた素晴らしい学びの場でしたが、同時に、「正す人たち VS それ以外の人たち」という構造に対する違和感も残りました。
また、講義内で行われるディスカッションの視点の中には、私の周りに普通にいて生活を営んでいる人の存在が、あまり認識されていないように感じることもありました。
何らかの理由があってそうなっている妥当性があるのだと思います。
一方で、研究者が気づかない限り、法律や制度の改善の基礎となる研究対象から漏れてしまう存在があるのではないかという、入学前からあった何とも言えない引っかかりがそのまま残りました。
それぞれの研究が焦点を当てている部分に違いがあり、それによって生じる空白に気づき、それを埋めるには、当事者である“地域で暮らす一般市民の目線”が必要なように感じています。
もちろん専門性も高める必要もありますし、まだまだ道半ばですが、「私の周りに確実に存在するのに、今は見過ごされている人達」も、精神的に健康に暮らせることに役立つ研究ができるようになりたいと考えています。
(併せて、上記で感じた違和感は、私の主観でしかないことも、申し添えさせていただきます。)
受験生に伝えたいメッセージ
もし今、この記事を読んでいるあなたが、かつての私と同じように
今の仕事の延長線上では変えられないが、変えたいものがある
医療職でないけれど、公衆衛生を学びたい
でも、「自分なんかが受験していいのだろうか」と躊躇している
のだとしたら、私なりの経験から以下のようなことをお伝えできるかなと思います。
SPHは、多様な人材を求めている(と思う)
医療専門職は、様々な場面で公衆衛生にとって欠かせない存在であることは言うまでもありません。
一方で、それ以外のバックグラウンドを持つ人の視点も、公衆衛生にとって同じくらい重要です。
公衆衛生が扱うのは、「社会全体の健康」であり、その社会は、多様な人たちで構成されています。だからこそ、学びの場にも、多様な背景を持つ人が必要なのだと思います。
非医療職であることは、決して「マイナス」だけではなく、「別の角度から問題を見られる」という意味で、大きな「プラス」になり得ます。
アドミッションポリシーをよく読み、自分がその求める人物像にどう重なっているのかを丁寧に言葉にできれば、「非医療職だから」という理由だけで門前払いされることはないと思っています。
SPH受験は何かを変えるための行動の選択肢の一つ(かもしれない)
もちろん、受験勉強は楽ではありませんし、合格やその後のキャリアへの保証もありません。
それでも、何かを変えるための行動として、SPH受験は一つの選択肢かもしれません。
私自身、「非医療職だから無理だろう」「お金のことが不安だ」と、受験を先延ばしにする理由はいくらでも見つけられました。
それでも、あのとき思い切って一歩を踏み出したことで、メンタルヘルスの問題を川上から変えられる可能性のある研究や実務に携わる道が開けたように感じています。
もしあなたが、「現状を変えたい」「社会のどこかへの違和感」と感じているなら、その感覚は、公衆衛生を学ぶうえで、とても大切な資源ではないでしょうか。
それを押し込めてしまわず、「自分に何ができるだろう」と問い直してみる。その一つの選択肢として、SPH受験を検討してみるのも悪くないかもしれません。
最後に
正直、圧倒的少数の門外漢であることは身体的にも精神的にも大変なことばかりです。
そんな状況でも、何とか最後まで走りきれたのは、学ぶ理由や目的を事前に明確にしておいたことが自分を支えてくれたからだと感じています。
あなたも東大SPHに是非!と、一方的にお勧めするつもりはありません。
それでも、この記事を読み終えたあなたが、「迷っていたけれども、説明会に行ってみようかな、受験してみようかな」と、少しでも思っていただけたなら、とてもうれしく思います。
と、偉そうなことを書きましたが、振り返れば、入学前から修了後の現在まで、家族、友人、迎え入れてくださった同期、先輩、教員の方々のサポートがあってすべてが達成できました。
運と東大SPHのサポート力のおかげだと感謝しております。
私はたまたま環境に恵まれましたが、そういった意味では、入学前から仲間づくりなど環境を整える準備を意識することも大切なのかもしれません。
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