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【東京大学SPH受験】“臨床の限界”が導いた越境:若手理学療法士が目指す“健康が自走する社会”の構築 - vol.18 前編

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【東京大学SPH受験】“臨床の限界”が導いた越境:若手理学療法士が目指す“健康が自走する社会”の構築 - vol.18 前編

2025.05.07

私は大学卒業後、急性期の病院で理学療法士として働く中で、いくつかの課題とフラストレーションを感じ、SPHへの進学を決意しました。

なぜSPHだったのか?なぜ東大だったのか?

受験に至るまでの部分は人一倍考え、最後には勢いで受験したことを覚えています。

研究も行なっておらず、コネクションもなかった私が、何を考え、どのように受験対策をしたのか。

その過程が少しでも多くの方にとって有益な情報になるよう、振り返って執筆しました。

東大SPHは決して特別ではなく、誰にでも広く門戸を開いています。
私の記事が誰かの背中を押すことを期待しています。

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この記事のまとめ

この記事を読むと分かること

  • 若手理学療法士が医療の外に目を向けたきっかけ

  • 東大SPHのカリキュラムの特徴

  • 東大SPHの受験対策

この記事は誰に向けて書いているか

  • 日々の臨床に、何となくフラストレーションを抱える若手医療従事者の方

  • SPH・MPHプログラムへの進学を考えている方

  • 東大SPHを受験するための対策を知りたい方

東大SPHをもっと深く知りたいあなたへ

受験のかたちは人それぞれ。東大SPHを目指す歩みには、十人十色の物語と、それぞれに合った勉強法があります。

大切なのは、自分自身にフィットする戦略を見出すこと――それこそが、合格への鍵となるのです。

ここでご紹介する体験記は、受験に向けた思考と準備のヒントに満ちています。
これから進む道の羅針盤として、ぜひ他の東大MPH受験記もあわせてご覧ください。

執筆者の紹介

氏名:木下大士
所属:mMEDICI株式会社、東大SPH
自己紹介:理学療法士。藤田医科大学を卒業後、大学病院で臨床業務に従事。予防医学や社会疫学の重要性を実感する。その後、臨床現場を超えて幅広く人々の健康に貢献するため、東京大学大学院公共健康医学専攻に進学。教育格差の解消という理念に共感し、mMEDICI株式会社に参画。現在の主な関心は「高齢者の社会参加と健康」「Health in All Policy」。

編集者

氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。

監修者

氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。

SPHを受験しようと思ったきっかけ

私は大学卒業後に理学療法士として急性期病院に勤務をしました。

そこでは臨床のやりがいや難しさを感じつつ、充実した日々を送っていました。

しかし、次第に臨床現場を超えた社会に対する課題感や、漠然としたフラストレーションを抱くようになり、Public Healthを学ぶことを決意しました。

病院から見た社会課題と私の価値観

病院には当然ながら、病気を抱えた方が多くいらっしゃいます。理学療法士は不幸にも病気を発症してしまった方々が少しでも元の生活に近づき、より良い生活を送れるように、運動療法や動作訓練を通じて支援します。

私も例に漏れず、その過程にやりがいを感じ、日々の業務に取り組んでいました。


しかし、そんな日々の中で、私たちがどれだけ尽力しても、多くの方が「元通り」には戻れないという現実に、強いやるせなさを感じるようになりました。

“この人たちが病気にならなければ、どんなに幸せなことだろうか”

そこで私は、「病を患った方が回復していく過程」よりも「人々が日常の幸福や健康を損なうことなく、その状態を保ち続けられること」を支援することに、大きな意義を感じていることに気がつきました。

そのためには、地域にいる人たちに対して予防的な介入を行う必要があると考えました。近年は予防理学療法という分野の研究や取り組みが盛んになっています。私も、病院の中で出来る範囲で、運動指導を通じた予防的な関わりに力を入れることが増えました。


しかし、そのような指導を行なっても上手くいく人とそうでない人がいます。
コンプライアンスが悪い、健康に価値を感じていない、医療へのリテラシーが低い。


これまでの人生から育まれた“個性”“価値観”として片付けられるかもしれませんが、それ以外の側面も影響をしているのではないかと感じました。

そして、上手くいかない人は、同時に社会・経済的な困難さを抱えている人が多い印象を持ちました。そこで、“社会疫学”という学問分野や“健康の社会的決定要因(SDH:Social Determinant of Health)”という概念があることを知ります。

これを個人の“自己責任”と切り捨てることは、私はできませんでした。

病院で個々の患者に医療を提供することよりも、病院の外にいる、医療を含めた包括的な支援が必要な人たちのために何かできることはないのか、と考えるようになりました。

同時に、それらは病院で臨床を行なっているだけでは解決することのできない課題であることを強く実感しました。

医療の外側に出て、何か一つでも課題を解決したい。その思いから大学院への進学と臨床以外の道を模索し始めました。

医療従事者が”医療”に集中できるように

もう一つ感じたことは、医療従事者が臨床において考えなければならないことが非常に多岐に渡っているということです。

私が勤務していた病院の地域柄もあるかもしれませんが、社会的背景、経済状況、リテラシー、家族の支援などに問題を抱えている方が多くいます。

急性期病院のような、病床回転率が高く、慢性的な人手不足の状況の中で、そのような部分までを細やかに配慮しながら医療を提供し、退院後の生活につなげていくことは、まるで夢物語のように感じました。

社会疫学では、これを川に喩えることがあります。医療現場は川の最下流で、上流から流されてきた人々をひたすら救い続ける必要があります。川の上流の構造的な問題を解決する必要があることに気づきつつも、そんな時間はないのです

そして、幸運にもそのような側面に配慮することができたとしても、そもそも一医療従事者が介入できる領域ではないとことも、よくあります。

忙しい日々の中、何とか頑張って望ましい介入を行おうと奮闘しても、それは自分にはどうしようもできない。そんな虚しいことがあってはなりません。

医療従事者はよりよい”医療”を提供できるように、専門性を十分に発揮できるように、社会の裏側の調整を引き受ける人が必要であると確信しました。

そして、その役割を自分が引き受けることに興味を持ちました。

公衆衛生以外は考えなかったのか

そんなこんなで、臨床ではなくその裏側の制度や社会から、人々の健康に貢献をしたいと考えるようになりました。

しかし、いきなりSPHを志したわけではありませんでした。

大学院進学に向けて、調べる中で経済学研究科や公共政策大学院の受験を考えました。しかし、医療経済や医療政策は、それらの大学院で学べることの本流ではなく比較的ニッチな分野であると感じました。

「人々の健康」に軸足を置きつつ、医療のみに偏重せず幅広く学ぶことができるのは公衆衛生大学院(SPH)であると確信をして、受験を決意するに至ります。

偶然ではありますが、私が候補とした大学院は全て専門職大学院でした。迷いながらもある意味での一貫性があったのではないかと、今は感じています。

王道を離れることの葛藤と決断

もちろん、理学療法士の王道ルートである病院勤務から離れることには不安がありました。

しかし、現場で課題を感じてしまった以上、何か行動を起こさないことには「働くこと = フラストレーションがたまること」になってしまい、精神的にとても辛かったです。

また、企業・公的機関への転職が目標達成のための最短ルートだったかもしれません。ですが、転職しても未熟な自分が何かを成せるイメージが湧きませんでした。

大学院で学び、専門性を身につけることが、結果として目標達成のための最短ルートであると考え、進学を決意しました。


良くも悪くも、理学療法士として臨床から離れてSPHへ進学することは珍しがられます。

しかし、私が感じていたようなフラストレーションは、多かれ少なかれ誰しも感じたことがあるのでは無いでしょうか

理学療法士の専門性は医療・福祉の分野で輝きます。一方で、「人々の健康」に注目すると、また違った視点から見るべき課題があります。

SPHへの進学は一見、専門性を捨てる選択に見えるかもしれませんが、理学療法士だからこそ抱く課題感そのものが、一種の”専門性”であるとも思います。

そして、課題解決の過程では理学療法に拘らなくとも、その営みは理学療法士にしかできない、むしろ専門性の拡張だと考えています。

同じ課題意識を持つ理学療法士にとって、私のような臨床を離れる選択が不安なものではなく、自然な選択肢になってほしいと願っています。

(続きはページの後半へ)

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なぜそのSPHを選んだか

SPHを受験するために、どの大学院が良いのかを考え始めました。

私が最初に知ったのは京都大学のSPHです。また、SPH以外にもMPHプログラム校が日本には複数あります。

その中でも東大SPHを受験した理由は大きく四つです。

もちろん東大というブランドに憧れたという俗っぽい理由もありますが、そこに文字数を割いても皆さんの参考にはならないので割愛します。

学費に関して

東京大学は国立であり、私立と比較すると学費は非常に安価です。その上、教育訓練給付金の対象となっているため、授業料の補助を最大8割も受けることができます。

また、あまり知られていないのですが、教育訓練”支援”給付金という制度も存在し、失業保険が在学中は延長をされます。

このように経済的負担が小さいことは、在学中に学業・研究に集中するために非常に重要なポイントでした。

(詳細は厚生労働省のHPで調べていただければ幸いです。)

授業に関して

東大SPHでは、公衆衛生大学院のコアカリキュラムについての全てを、その分野のトップランナーの先生方から“日本語”で学ぶことができます。

一部のSPHでは、英語での授業提供を売りにしている大学もあります。もちろん、国際化が進む昨今、そのような教育を受けることは非常に大きな価値があります。しかし、英語が苦手な私にとっては、魅力とは言えず、むしろ日本語で学べることの方が大きな魅力でした。

「日本は、母国語で専門的な学問を学ぶことができることが大きな魅力である。」という意見を聞くことがありますが、まさにその通りであると思います。

研究室に関して

東大SPHの研究室配属は、入学後の7月頃からとなります。つまり、入学後にある程度座学を通じて知識を得て、自分の関心領域が定まってから研究室で専門性を深めます。

漠然と、Public Healthに関心はあったものの、自分の中で確固たるテーマを持つことができていなかった私には、非常に魅力的な制度でした。

また、大学説明会で、研究室同士の垣根が低いことが強調されており、この大学なら漠然としている「自分の成し遂げたいこと」を形にできるかもしれないとも感じました。

入学試験に関して

入学試験についても、大きな魅力がありました。

それは、筆記試験一発で合否が決まるということです(正確には二次試験に面接がありますが、面接の合格率は非常に高く、1番の関門は筆記試験です)。

詳細は後編にて書かせていただきますが、過去問が公式に販売されており、対策を行うことで公衆衛生分野の初学者でも(頑張れば)十分戦うことができます。

他の国内SPH・MPHプログラムのように研究室訪問を行う必要もなく、海外MPHのように推薦書を用意する必要もありません。これは、研究室とのコネクションも実績も何もない、まっさらな状態の私からすると、願ったり叶ったりの条件でした。

この他にも、プライベートな事情もあり、進学先は東京近郊しか選択できなかったことも理由としてあります。


まとめると、東大SPHが他のSPH・MPHプログラムと比較して特徴的なポイントは

  1. 若者の貯蓄で進学可能なほど経済的な負担が小さく

  2. 公衆衛生分野のコネクション・研究実績・研究能力が無い人でも

  3. 筆記試験の対策さえすれば進学可能で

  4. 進学後も日本語で公衆衛生について学べる

という点です。


今、振り返ってみると、私の進学条件に合っていたのは世界中を探しても東大SPHだけでした。東大SPHを選んだというよりも、東大SPHしか選択肢がなかったという方が正しいのかもしれません。


前編は以上となります。

なぜ私が臨床から離れ、SPH進学を決めたのかについて書かせていただきました。

同じような悩みを持つ方の選択肢の一つとしてSPHが加われば、とても嬉しいです。

後編では、実際の試験対策を詳細に解説いたします。
試験に少しでも興味があるという方は、是非ご一読ください。

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シリーズ一覧

MPHシリーズ

  • vol.1 :【東大SPH受験】看護師から東大SPHへ - 志望から合格までの軌跡

  • vol.5:【東大SPH受験】妻とともに乗り越えた、2度の不合格から合格までの不橈なる軌跡

  • vol.20:【東京大学SPH受験】臨床医が本気で考えた、合格を勝ち取る最強のメソッド

  • vol.21:【東京大学SPH受験】看護実習でのモヤモヤから公衆衛生の道へ:介護現場の変革に挑戦するコンサルタントの原点

  • vol.22:【東京大学SPH受験】2か月弱で合格を掴んだ医師の過去問重視戦略術:専門医試験・論文執筆との両立

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