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【キャリア解説】政策科学修士の地方公務員:科学としての学び、母親としての国政参画 vol.25

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【キャリア解説】政策科学修士の地方公務員:科学としての学び、母親としての国政参画 vol.25

2025.06.28

私は、大学在学時に公衆衛生に関心を持ち始めました。

卒業後は地方公務員として行政に携わり、学校保健、特別支援教育、生活困窮者担当など、幅広い業務を経験しました。

そんなある時、複数自治体による新規プロジェクトの立ち上げに派遣され、そこでのある出来事をきっかけに、科学的な政策検証の必要性を感じ社会人大学院生として政策科学を学びます。

また、母親として厚労省審議会の一般参考人として予防接種・ワクチン分科会にも参加をしています。

科学的な立場と市民の声の代表という異なる立場から政策に関わった経験を、余すことなく綴ります。

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この記事のまとめ

この記事を読むと分かること

  • 一般市民の視点が政策をより良くすること

  • 行政に求められる政策の科学的分析について

  • 失敗や理不尽を越え、学ぶ続けることの重要性

この記事は誰に向けて書いているか

  • 地方公務員として働くことに興味がある方

  • 働きながら大学院進学を考えている方

  • 行政内部でのEBPMやデータ活用に興味のある方

キャリアシリーズ

  • vol.3:越境キャリアのススメ - 障害福祉と公衆衛生の枠を超えて社会を変える

  • vol.9:行政保健師、40代で大学院へ - 自治体の限界を超えEBPMで切り拓く地域保健の未来

  • vol.17:地域に育てられた保健師 - 行政とアカデミアを往還し導く公衆衛生の答え

  • vol.20:語られぬ現場を論文に綴る - "その人らしさ"を支援する精神科作業療法士の使命

  • vol.24:介護のお医者さん - ニッチを貫くわたしのキャリア論

執筆者の紹介

氏名:匿名
所属:地方自治体
自己紹介:大学卒業後より地方公務員として勤務。教育委員会の学校保健担当や特別支援教育担当、生活困窮者担当などを経験。自身が携わった複数自治体による新規プロジェクトの検証をするため法政大学大学院社会科学研究科政策科学専攻(当時)に社会人大学院生として自費入学、修士取得。政策の検証・提案を評価され、政策提案制度で優良賞を獲得。また、厚労省審議会の一般参考人に応募し、厚生労働省審議会予防接種・ワクチン分科会で市民の声を届けている。

編集者

氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に対する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。

監修者

氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。

筆者のキャリア年表

公衆衛生への目覚め

私が公衆衛生に興味を持ったのは、法学部在学中のことでした。

行政法の権威である指導教官は、卒業論文に「提出すればよい」との姿勢でした。しかし当時、血友病患者のHIV感染問題が社会的な注目を集めており、私はこの薬害問題に強い憤りを感じたため、国家賠償をテーマに論文を執筆しました。

例えば、スモン薬害では、1964年の東京オリンピックでの下痢予防を目的に行政がキノホルム整腸剤を配布したことが一因だったことを知り、行政の責任の重さを痛感しました。

こんなことは許されるべきではない!

この経験から、私は行政内部での被害防止に尽力したいとの思いを強く抱きました。

しかし、夏休み中に日付の感覚を失い、国家公務員の面接二次試験日をすっかり忘れて寝過ごしてしまいました。

結果、厚生労働省への道が開くことはありませんでしたが、幸いにも地方公務員試験には合格することができました。

こうして私の地方公務員人生が始まりました。

行政での実務

最初の配属先は教育委員会事務局で、結核検診の担当でした。当時は学校ごとにツベルクリン反応検査やBCG接種を実施していました。

私の祖母は姉妹を結核で若くして亡くなり、祖母は生涯衛生不安に囚われ、認知症になるまで常にクレゾールで周りを消毒し続けていました。事実、平成の時代になっても結核は消滅していませんでした。

また、ある教師が陽性と診断された際には、定期検診を前倒しし、健診車を手配したことを覚えています。

そのような経験から疫病が完全になくなることはないのだと強く実感をしました。


その後、複数自治体で新組織を立ち上げるプロジェクトに派遣されました。初年度は約50人の部署で膨大な業務に追われ、深夜までの勤務が続きました。

あるとき、他自治体から派遣された30代の同僚がくも膜下出血で亡くなったという噂を聞きました。そのときに過重労働の危険性を痛感しました。

大学の労働法の授業で見た、過労で倒れた家族の苦労を描いたドキュメンタリーが脳裏によみがえり、ワークライフバランスの重要性を考えるきっかけとなりました。

この経験は、現在私が取り組んでいる教員の働き方改革を支援する活動につながっています。

教育委員会事務局にいたので学校の先生には親しみがあります。公立学校教員の過酷な労働環境は、1971年制定の給与特別措置法による労働基準法の適用除外が一因となっています。

2025年春の国会で法改正が議論をされています。医療現場での働き方改革と同様、学校現場にも思いを馳せていただけると幸いです。


他にも、学校教育の特別支援業務や生活困窮者支援など、公衆衛生や社会保障に関わる様々な業務を担当してきました。

大学院での学び:政策検証と新たな視点

20代の派遣終了後、事業の政策的な意義を検証したいと思い、法政大学大学院政策科学研究科(社会学系)に進学をしました。

夜間と土日の授業で2年間学び、修士課程を修了しました。地方公務員は働きながら学びやすい環境と言えます。

この大学院を選んだ理由は、通いやすいことに加え、他大学院では必須だった英語のペーパー試験や面接がなかったことも大きかったです。当時はAIもないので英語に苦労しました。


大学院進学の動機の一つに、同僚の死まで経験して乗り越えた制度改革とは何だったのかを深く掘り下げたかったということがあります。

1か月に満たない同僚生活だったにも関わらず、私の心に暗い影を落とす出来事でした。彼は派遣がなかったら、今でも健康だったのでは、との思いが拭いきれませんでした。

また、大局的視点からは、行政は新規事業を立ち上げる力には優れていますが、政策の振り返りや検証が不足していると言えます。例えば、コロナ行政の総括やHPVワクチン定期接種の積極的勧奨再開の遅れにも、この傾向が影響していると感じています。

政策振り返りに関する地方行政の課題には、以下の点が挙げられます。

  • 検証に割くリソースの不足

  • 原因が個人の失敗として捉えられがちな文化

  • 科学的分析に基づく効果検証を行う風土の欠如

大学院で学び、これらの課題を解決し、科学的な政策の検証を行いたいと考えました。


大学院では、社会学に立脚する政策提言手法について学びました。

公害における受益圏(利益を受ける地域)と受苦圏(被害を受ける地域)の理念や、NIMBY理論を知りました。

NIMBY理論

「Not In My Backyard(我が家の裏庭には置かない)」の頭文字を取った言葉
公共施設が社会的に必要であると理解しているが、自分の居住地に建設されることには反対する住民の姿勢や、そのような姿勢を抱く人々のことを指す。

住民視点から、清掃工場などの公的施設の存在や自分自身の役割について俯瞰的に見直す機会となりました。

また、この時にデータ分析の重要性を痛感しつつ、統計学に苦戦をしました。

現在、mJOHNSNOWに参加してるのも、この時の経験が後押しをしています。

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データ分析と政策提言

その後に住民ビッグデータを統計管理し、属性データに触れる職責になりました。

これらを扱う中で、依頼された訳でもなく詳細に統計データを分析し、傾向と対策を日々考えるようになりました。

多面的視点と俯瞰的立場に立つ能力には大学院での学びが活きていると思います。

また、役所には一握り、自分のように徹底して状況分析して提案することを喜びとする層がいます。彼らと交流し、新たな改善が政策となることに至上の喜びがあります。

役所歴の中で、職員提案制度で「役所の案内図のウェブ掲載」や「大学生のための死なない防災」で優良賞をいただくこともできました。


また、ある部署にいた際に、データを基に入管と政策連携すべくプレゼンに行ったり、情報提供を求められることもありました。

問題解決のためのデータ作成を作る自治体はあっても、その属性に着目して問題発生の始まりまで遡り、全体の中の割合やどのような集団かを調べ上げたところまでは他になかったようです。私が提供した資料は局長か、恐らく知事レベルまで閲覧されたと担当に聞きました。

その担当時代、政策提案表彰に出して欲しいと上層から依頼され、EBPMの施策を提示し首長より表彰もされました。

このように、大学院で学んだ政策科学の知識とスキルを活かしながら仕事をしています。EBPMが求められる昨今、地方行政においてもこれらの能力は求められています。


しかし、私は発言がストレートなので体面を重んじる役所の世界では上手くいかないことも多々あります。部下からは「突破力がある」と褒められることもありますが、調整力はあればより政策実現するのだろうと思うこともよくあります。


なぜ、私がデータを用いて現状改善や政策の提言をすることに、これ程の熱意があるのかを振り返ってみました。

私は「皆んなで同じ落とし穴にハマる必要はない」を信条にしています。

誰だって、人の権利を侵害しないのなら健康で楽しく生きるのがいいに決まっています。私は、過去の教訓を活かし、打開策を提案し、実現することで「人の役に立っている!」と感じると強いやりがいを感じます。

公務員は自分の考えが施策に反映される素敵な仕事です。全国の同じ志の仲間と仕事を通じて出会い、情報交換し合えるのも公務員ならではの素晴らしい側面です。

予防接種・ワクチン分科会:国民参加の意義

話は変わって、2020年のある時に娘のHPVワクチン未接種に気づきました。

コロナ禍での業務を通じて、ワクチンの重要性を認識していたため、副反応の文献を読み漁った末に接種を決断しました。

そんな中、厚労省の予防接種・ワクチン分科会の一般参考人募集を知り、応募しました。作文審査とzoom面接を経て全国の応募者から選ばれ、2年間の任期で参加をしています。

参加の動機は、子育て中の不安や正しい知識を得られなかった経験が根底にあります。娘の体が弱かった頃、任意接種だったムンプスやヒブワクチンの接種を悩みながらも打たせる一方で、日本脳炎ワクチンの積極的勧奨停止で接種を見送った経験もあります。

死亡例がたった一つでも、親にとっては100%の被害です。一母親の意見は子の安全と健康に直結するので、その感性も大切にしつつ発言していきたいです。

会議参加を夫に話したら、記憶にはありませんでしたが、過去に私はインフルエンザワクチン反対本を夫に渡して読むように指示をしていたようです。不安から当時は迷走していたようですが、正しい情報の大切さを実感しました。


私はコロナ禍を機に国民参加が始まったのか思っており伺ってみると、かなり前からアメリカの政策参加制度を参考にして開始していたようです。

基本はリモートですが、一度だけ厚労省に呼ばれ会議を傍聴しました。NHKをはじめマスコミが20社ほどきており、ニュースで放送されていました。

当時は、「国政を動かす会議に参加するんだ…!」と感激をしました。

会議では事務局レクチャー、プレ会議がzoomで行われたのちに本番の分科会となります。予防接種基本計画策定では数行ですが意見を反映していただき、とても嬉しかったです。

大学生時代からの行政内部に立ち、国民を思う政策にしていきたいと願った夢が思いがけず叶い感激しました

ワクチン被害を訴える人々の不安も理解しつつ、正確な情報発信の必要性を痛感しています。

一般人理解促進こそが公衆衛生発展と安定の鍵となります。今後も、その施策に寄与できるように尽力していきたいと考えています。

筆者の思い出の一枚

ワクチン接種について情報を集める中で参考にした書籍の数々

今後の目標

このように、私は「科学的な政策評価」と「母親としての予防接種・ワクチン分科会参加」という異なる二つの立場から行政に関与をしてきました。

この二つの役割や立場こそ違えど、どちらの重要なものであると感じています。

私は今後も、積極的な発言を続け、ワクチン政策へ貢献することが目標です。

分科会でも貴重な「一般参考人枠」を最大限に活かし、住民視点での政策提言で社会に貢献をしていきたいです。

そのためにも、mJOHNSNOWでスキルアップし、医療関係者の方々と意見交換をして視野を広げたいと考えています。

繰り返しになりますが、一般人の理解促進こそが公衆衛生発展の鍵です。


また、私は定年延長があったものの、これから働く年数は限られており、船を降りることを考える年になりました。ですが、これからも何かの役に立ちたい気持ちは持ち続けています。

ディズニーの「シンドバッドの冒険」でも言っているように、人生は冒険です。これからも心のコンパスを信じて進んでいきます。

この仕事を目指す方へ

以前は公務員といえば大卒から公務員一筋の人ばかりでした。ところが最近は、民間からの中途就職の方の方が多い部署もあります。

民間出身の方は貪欲に昇進意欲があり、役所の中枢もある程度の割合を占めてきています。

もし、学生の方がお読みになっていたら伝えたいです。

特に、女性にとって公務員は候補に入れてほしい仕事です。働く立場としてもワークライフバランスに優れ、特に子育て中は手厚いです。

自治体にもよりますが、子供の予防接種や検診のために数日有給で休めますし、大学院通学も叶います。また、女性の意見を施策に反映させることは、非常に重要な視点でもあります。

もちろん、全てが理想通りではなく理不尽さを感じる日もあります。一方で、社会貢献に意義を感じるのであれば、その気持ちがあなた自身を支えてくれるでしょう。

あなたの行動が行政の仕事として積み重なり、何らかの足跡を残していけます。自分の頑張りで少しずつ世の中を良くしていけます。

行政とは、人々の健康と安全と人生に寄与する大切な仕事です。この文を最後まで読んでくれる忍耐力と理解力があれば受験する能力はもう十分です。あとは、科目試験を詰め込むだけです。

あなたの学びと実践を心から応援しています。

全国のどこかで仲間になってくれるのを、お待ちしています。

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シリーズ一覧

キャリアシリーズ

  • vol.3:越境キャリアのススメ - 障害福祉と公衆衛生の枠を超えて社会を変える

  • vol.9:行政保健師、40代で大学院へ - 自治体の限界を超えEBPMで切り拓く地域保健の未来

  • vol.17:地域に育てられた保健師 - 行政とアカデミアを往還し導く公衆衛生の答え

  • vol.20:語られぬ現場を論文に綴る - "その人らしさ"を支援する精神科作業療法士の使命

  • vol.24:介護のお医者さん - ニッチを貫くわたしのキャリア論

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