
キャリア
【キャリア解説】遺伝医療の進化と学び続ける遺伝カウンセラーの実情 - vol.4
2025.01.15
患者の未来を支える遺伝子カウンセラーの実情をここに。
興味本位で一般企業から遺伝子カウンセラーへの道を踏み出してから、自身の決断を意味付けるために、そして何よりも眼前の患者のために常に学び続ける日々。
医療の最前線で模索し続けるキャリアを赤裸々に語っています。
mMEDICI Library | ひらけ、叡智の扉
叡智の扉を、全ての人が開けるように——。
学びは、限られた豊かな人々だけの特権ではありません。
経済的困難に直面する人、地方で学習資源に恵まれない人、家事や育児・仕事に追われる人。
mMEDICI Libraryではそんな人々にこそ、最高の学びを届けるため、研究・キャリア・学習・受験のあらゆるテーマでパブリックヘルスの叡智を集めました。
隙間時間にスマホひとつで、誰もが「一流の知」に触れることを叶えていきます。
「ここを開けば、誰しもが悩みを解決できる」、そんなメディアを目指します。
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
医療現場未経験者が臨床現場に出て学んだこと
遺伝カウンセラーの仕事内容の一例
この記事は誰に受けて書いているか
遺伝カウンセリングに興味がある方
がんゲノム医療に興味がある方
キャリアシリーズ
医療職の非臨床キャリア戦略論
- vol.1:「このままでいいのか」と悩むあなたへ - MPHホルダーのキャリアコンサルが"理論で導く自己理解"
vol.5:非MPHホルダーの薬剤師、薬剤疫学に邁進す - 医療現場を支えるエビデンス創出のために
vol.7:先進国の都市に埋もれた医療格差に挑む小児消化器肝臓医のストーリー
vol.19:40代療法士が病院にデータ分析室を作るまで - 個人特性を活かしたキャリア転換
vol.22:医療データサイエンティスト:データの向こう側に人を視る
執筆者の紹介
氏名:榊原彩花(Researchmap:https://researchmap.jp/7000021500)
所属:埼玉医科大学国際医療センター
自己紹介:認定遺伝カウンセラー。生物系の大学卒業後、一般企業を経て認定遺伝カウンセラー養成課程の大学院修士課程に進学。その後、大学病院勤務で現在は主に遺伝性腫瘍・がんゲノム医療の診療に従事。臨床に出てからの自分の知識不足に危機感を感じ、大学院進学してみたものの、まだまだ足りずに色々と模索していたところmJOHNSNOWを知る。自分のキャリアも模索中ですが、少しずつ臨床に還元できるように突き進む日々です。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に対する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
今のキャリアについて
私は遺伝カウンセラーとして大学病院に勤務し、7年目を迎えました。
これまで、主に乳がんと診断された患者さんやそのご家族を対象に、遺伝性腫瘍に関する診療に携わってきました。
がんの中でも遺伝性腫瘍は全体の5‐10%に過ぎませんが、その一部では特定の薬剤を使った治療や、厳重な検診、予防的手術などの積極的な対策が可能です。
これにより、がんで命を落とすリスクを減らすことができます。
2013年、アンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC: Hereditary Breast and Ovarian Cancer)の診断を受け、その後予防的に乳房や卵巣、卵管を切除したことを公表したことが話題になりました。
HBOCは、BRCA1またはBRCA2という遺伝子に病的な変化があることが原因で、乳がんや卵巣がんを高いリスクで発症する体質です。
最近では、これらの遺伝子変異に関連するがん患者さんに対して、治療薬が登場したり、発症前に予防的手術が保険適応となるなど、遺伝医療が進展しています。
がん患者さん一人ひとりの思いは異なります
「自分のがんに使える薬があるのか?」
「がんの発症を予防するために何ができるのか?」
「遺伝子変異が家族に受け継がれるのか?」
など、患者さんの状況や背景によって思うことも変わります。
遺伝カウンセリングの役割は、これらの遺伝的な情報を整理し、正確な情報を分かりやすい言葉で伝え、患者さんが自らの意思で決定できるようサポートすることです。
ここ数年のがん診療における遺伝医療の進展は目覚ましく、従来の臓器別治療から、がん細胞の遺伝子を調べて最適な治療法を選択する「がんゲノム医療」が日常診療に取り入れられるようになりました。
この進展は非常に大きな意味を持ち、乳がんに限らず多くのがんで毎年新しい治験が実施され、薬剤が承認される機会が増えており、遺伝子に対する患者さんの期待は非常に大きいと日々実感しています。
その一方で、がん診療に関わるほどに遺伝は医療の一部分であり、自分が目にするのはその一部に過ぎないということを痛感しています。
患者さんに提供できる情報は主に遺伝に関することですが、患者さんが直面する問題は多岐にわたります。
治療方法の選択、仕事との両立や経済的な問題、再発や死に対する漠然とした不安など、その思いは刻々と変化していき、中には遺伝に関する問題が生じる場合もあります。
そのため、患者さんが必要なタイミングで適切な情報を提供するためには、自分自身が遺伝にとどまらず、医療全般に対する幅広い理解が必要だと感じ、深く学ぶことを求め、大学院に進学しました。
なぜそのキャリアを選んだのか
正直なところ、最初に「遺伝カウンセラーになりたい」という強い熱意はありませんでした。
生物系の大学を卒業した後、一般企業で2年間働いたのですが、将来に対する漠然とした不安が募り、もっと自分にできることを見つけたいという思いが強くなりました。
遺伝カウンセラーの存在は以前から知っていましたが、「これをしたい!」という明確なビジョンはなく、何となくその領域に飛び込んでみたのがきっかけです。
ご縁があり、遺伝カウンセラー養成課程の大学院に進学し、2年間学んだ後、今の職場に拾っていただきました。
当時は、遺伝カウンセラーとして働くことに対する熱い思いがあったわけではありませんでした。がんゲノム医療が本格的に始まる前だったこともあり、求人が少ない中で正職員としての枠があったことが決め手でした。
今思うと、志の低いスタートでしたが、それでも大学院で学んだことを活かし、少しでも役立てるだろうと勘違いをしていました。
今でこそ、がん領域でも保険診療で遺伝子検査が行えるようになり、遺伝性腫瘍と分かることが治療に繋がる場合がありますが、私が入職した当初の状況は異なっていました。
当時、遺伝子検査は自費で数十万円かかり、たとえ遺伝性腫瘍と分かっても、使える薬は無し。
そのため、がん患者さんやそのご家族にとっては、厳重な検診を自費で受けることが、遺伝性腫瘍と分かった際にできることの主流でした。
当然ながら遺伝性腫瘍外来には患者さんは少なく、ほとんど予約が入らない日々が続きました。
それでも何かをしなければという思いで、毎日外来をフラフラと歩き回りながら、新たな仕事を探したり、看護師さんや他診療科との関係構築に力を入れたりしていました。
そんな中、2018年にはBRCA陽性で使える薬剤が保険適応となりました。2019年には数百個のがん細胞の遺伝子を調べて薬剤適性を調べるがんゲノム医療が本格的に始まり、状況は一気に変わりました。
検査会社に依頼すれば、何らかの検査結果が返ってきて、それをもとに治療が進むという状況に変わり、患者さんも遺伝子検査に大きな期待を寄せていました。
しかし、実際には遺伝子で分からないことや決まらないことの方が多いのが現実です。
そんな中、どのようにして検査結果が得られるのか、その過程を自分が十分に理解していないのに、患者さんにその情報を提供することに対して不安を感じるようになりました。
また、新薬の承認や治験が進む中で、疫学研究や医療統計に対する理解が不足している自分に焦りを感じることが増えました。
遺伝カウンセリングに直接関係することではありませんが、せめて医師たちが話している単語を理解し、その上で遺伝診療に関わりたいという思いが生まれました。
このモヤモヤを解消するために、まず大学院に進学しましたが、そこで得られた学びには限界があり、自分が求めていた深い理解を得ることができませんでした。
そこで、さらに学びを深めるために、mJOHNSNOWに入会し、専門的な知識を得ようとしています。
そのキャリアを目指す人へのメッセージ
私自身、キャリア形成の途中であり、今後を模索中です。
遺伝カウンセラーとして働いていますが、正解は分からないですし、所属する組織やその人の背景によっても遺伝カウンセラーとしての在り方も様々だと思います。
ただ人よりも好奇心は旺盛な方なので、そのおかげで今まで踏ん張ってこられた部分はあります。
がん治療も同じだと思いますが、キャリア形成においても、選択肢がいくつかある中でどれを選んでも間違いではなく、「選んだ道を自分で正解にする」ことが大事だと思います。
それは遺伝カウンセリングに通じる部分もあり、その人が何かを選ぶための正しい情報を、その人が必要なタイミングで提供して、サポートできるように心がけています。
今はがん領域にいるので、がんで亡くなる人を少しでも減らせるように、自分にできることを粛々と進めていきたいと思います。
まだまだやらなきゃいけないこと、やりたいことがたくさんありますが、臨床の現場で培った知識と経験を活かし、遺伝分野に貢献していきたいと思います。
自分自身終わることのない学びの途中ではありますが、自分で選んだこの道を正解にするためにも、好奇心を忘れずに成長していきたいと考えています。
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