
キャリア
【キャリア解説】食品メーカーの企業研究者:栄養疫学で、企業に価値を、人々に健康を- vol.29
2025.08.03
「人々の健康に貢献する食品を届けたい」——食品メーカーで機能性食品の研究に携わってきた筆者が、未経験から栄養疫学研究を立ち上げた実体験を紹介します。
ある講演をきっかけに「社内で疫学研究を行う必要性」に気づき、未経験ながら前例のなかった「栄養疫学研究」の立ち上げに挑戦。
自ら学び、交渉を重ねながら研究を立ち上げていく中で、専門外の分野に挑戦する苦労や、企業内で研究の意義を伝える難しさを感じながらも模索し続けました。
なぜ食品会社で疫学が必要なのか。企業研究者として研究を社内で実現するまでの試行錯誤や、研究をビジネスへ実装するための取り組みを記した、挑戦の軌跡と実践の記録です。
企業転職を目指す方や、企業内で新しいことを立ち上げたいと考えている方へ、企業で必要とされることのリアルをお届けします。
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- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- キャリアシリーズ
- 執筆者の紹介
- 編集者
- 監修者
- 今のキャリアについて
- 疫学研究の主導
- 社内臨床研究のサポート
- これまでのキャリアについて
- 大学院生時代:食品成分の基礎研究
- 食品会社第1ステージ:機能性食品の研究
- 栄養疫学との出会い
- 食品会社第2ステージ:栄養疫学研究の新規立ち上げ
- なぜそのキャリアを選んだのか - 食品会社でなぜ疫学研究?
- 【ヘルスケア人材のためのキャリア支援サービス mDAVINCI】
- そのキャリアにたどり着くために努力したこと
- 1.疫学研究経験者が社内にいない
- 2.「疫学研究は売上アップにつながらないのでは?」と考える社内の意見
- 今後の展望
- そのキャリアを目指す人へのメッセージ
- 1.あらゆるステークホルダーへの意識の必要性
- 2.企業で全く新しい研究を始める際のカギとなる「粘り強さと情熱」
- 3.疫学研究を学びたいなら、今すぐ始めるべし
- 4.疫学研究スキル×これまでの経験・専門性=独自の武器
- 【オンラインスクール mJOHNSNOW入会受付中:7日間無料お試し】
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
食品会社での研究開発キャリアの一例
企業で新しい研究領域を立ち上げる際のプロセス
専門分野の経験を活かして疫学にキャリア展開する方法
この記事は誰に向けて書いているか
食品会社と疫学研究のつながりに興味がある方
疫学に関心があり、自身の専門とどうつなげるか迷っている方
企業内で新しい研究を立ち上げたいと考えている方
キャリアシリーズ
疫学、その熱狂と魂 - 佐々木敏名誉教授インタビュー
- Part 1:伝説の疫学講義はこうして生まれた
- Part 2:地に生きる者たちのための疫学、ヨーロッパから世界をまなざして
- Part 3:一つの学問が立ち上がり、波紋は広がる その稀有な現象を、栄養疫学という窓から垣間見たvol.1:製薬企業で実践するパブリックヘルス - 疫学とエビデンスジェネレーションについて
vol.6:理学療法士が遂げた実績ゼロからのキャリアチェンジ - 企業で働く疫学専門家のリアルを語る
vol.21:脳外科医×起業家が見据える次世代医療 - 全ての医療従事者にビジネスマインドを
執筆者の紹介
氏名:匿名
所属:食品メーカー勤務
自己紹介:専門は栄養疫学、栄養生化学。博士(薬学)。修士課程修了後に食品メーカーへ就職。2年間製造現場で勤務したのち研究開発部門へ異動。会社独自の機能性食品素材に関する基礎・臨床研究を担当し、学術論文は主著共著含めて10報公開した。しかし「本当にヒトの健康に貢献できる食品を開発するためには、実際のヒトの栄養摂取実態や食生活習慣を正しく把握しなくてはいけない」と認識し、新たに栄養疫学に関する研究を社内で立案。1年以上の社内調整を経たのち研究を開始。現在は、取得したデータをもとに商品開発のターゲットとなる人たちの栄養課題を把握し、この課題を解決するための商品開発やビジネス展開を事業部門などと連携して進めている。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に対する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。

今のキャリアについて
私は現在、食品メーカーにて研究開発業務に従事しています。ここで述べる内容は、あくまで個人の意見であり、所属企業の立場や公式見解を代表するものではありません。
現在、主に以下の二つの業務に携わっています。
疫学研究の主導
基本的な研究コンセプトは、「自社商品のターゲットとなる人たちの食生活・栄養実態を整理し、解決すべき健康・栄養課題を把握するとともに、その原因となる食習慣や生活習慣を明らかにすること」です。
詳細は後述しますが、疫学研究、特に観察研究は、顧客の本当の課題を捉える有用な手段になり得ると私は考えています。
研究計画を立てる際には、まず商品開発部門や事業部門と相談し、「明らかにしたい仮説」を整理します。そのうえで、自社データや外部機関のコホートを用いた解析によって仮説を検証可能かどうかを事前に検討します。
その後、実際に研究を遂行し、得られた結果について商品開発部門や事業部門に提示しながら、事業への活用方法について議論しています。
このように、研究成果を商品設計のヒントや消費者インサイトの考察などに役立ててもらうことで、研究側から事業の推進を支援しています。
本格的に疫学研究に取り組み始めてからの数年間で、複数の特許出願や学術論文発表といった成果を挙げることができました。しかし、企業の利益に貢献するという観点からは、まだ道半ばだと感じています。
社内臨床研究のサポート
因果推論や生物統計の知識を活かして、社内の臨床研究のサポートも行っています。具体的には、臨床試験の設計相談、統計解析計画の立案および計画書作成、CROなど外部機関との打ち合わせへの参加など、多岐にわたります。
現在の会社では、研究開発部門の人員が少ないため、臨床研究を主導する社員の多くが経験の浅い状況も珍しくありません。そのため、社内で臨床研究が実施される際には、比較的知識のある私がサポートに入ることがあります。
主導社員の支援を通して、研究の円滑な遂行を助けるとともに、社員のスキル向上にも貢献しています。
これまでのキャリアについて
現在の業務をご紹介すると、「以前から疫学研究に携わってきた」と思われるかもしれませんが、実は数年前までは疫学については全くの素人でした。転機となったのは、ある講演をきっかけに「社内で疫学研究を行う必要性」に気づいたことです。
その後、それまで社内で誰も取り組んでこなかった疫学研究を新たに立ち上げ、その傍ら、独学や社内外のセミナーを通じて疫学を学んできました。
現在に至るまでには、多くの試行錯誤と支援がありました。
ここからは、私のこれまでのキャリアを振り返り、どのような経緯を経て疫学研究にたどり着いたのかをご紹介したいと思います。
大学院生時代:食品成分の基礎研究
大学院修士課程での研究テーマは、ある食品成分の作用メカニズムを明らかにすることでした。
「世の中のみんながこの成分を摂れば、健康になるはずだ」と本気で信じながら、細胞試験や動物試験、機器を用いた代謝物の分析に取り組んでいました。
研究を進めるうちに、「自分が開発した食品素材で、世の中の人々を健康にしたい」という思いが芽生え、食品素材を取り扱う会社への就職を決めました。
食品会社第1ステージ:機能性食品の研究
就職後の最初の2年間は、食品工場での生産管理業務を担当しました。その後、研究開発部門に異動になりました。
食品会社は製薬会社と比べて研究開発に携わる人数が少なく、専門領域ごとに分業されていないことも多いため、研究の上流から下流まで同じ人が携わることも珍しくありません。
私も一つの食品素材について、細胞などを用いた基礎研究、成分分析法の開発、製造法開発のサポート、ヒト試験の計画(安全性試験から有効性検証試験まで)、営業資料の作成や営業同行など、幅広い業務を担当しました。
最終的に、いくつかの商品を実際に市場に送り出すことができ、学生時代からの夢であった「自分が携わった食品を世に出す」ことを実現できました。
このように、研究から社会実装までの一連の流れに研究者として関われるのは、食品会社で研究開発に携わる大きな魅力の一つかもしれません。
研究では、いくつかの基礎研究やヒト研究でポジティブな結果が得られ、製品の上市・特許の取得・学術論文の受理につながりました。
さらに、これらの成果をもとに博士号を取得することもできました。
また、ランダム化比較試験の設計・実施に三回携わった経験から、臨床研究の一連の流れと基本的な考え方を身につけることができました。
栄養疫学との出会い
大学院時代から食品会社で機能性食品研究を始めた当初、私は「この食品素材を食べれば、みんな健康になるはずだ」と信じていました。
しかし機能性食品の研究に携わっていたある日、その考えを一変させる出来事に出会います。
それは、日本の栄養疫学研究をリードする東京大学・佐々木敏先生の講演でした。先生の発言は、私に強い衝撃を与えました。
「ヒトは自分が食べたものを正しく把握できない」
「食事内容を正しく調査することは非常に難しい」
「何かを食べるという選択は、同時に何かを食べないという選択でもある」
「一つの栄養素の摂取量と健康リスクの低下が関連していても、その背景には別の栄養素の摂取量の変化が関わっているかもしれない」
この講演を通じて、私はこれまで食品業界に身を置きながらも、栄養疫学的な視点をほとんど持っていなかったことに気づかされました。
そして、大きな課題にも気づきました。
「健康につながる食品の研究をしているのに、世の中の食生活や栄養の実態を、私も会社もまったく把握できていない……」
講演後、帰りの電車の中でスマートフォンを取り出し、PubMedで佐々木先生の研究グループの論文を読み漁り始めました。そこには、私がこれまで触れたことのなかった『栄養疫学の世界』が広がっていました。
論文を読み込む中で、次のように考えるようになります。
「栄養疫学は、世の中の栄養実態を示してくれている。自社商品のターゲットとなる人たちに焦点を当てた研究を丁寧に読み解けば、本当に解決すべき課題が見えてくるかもしれない。」
翌日以降、ターゲット層を対象とした疫学研究の状況を調べ始めました。しかし、すぐにある問題に直面します。
「そもそも研究の数が少ない……これでは実態も課題も把握できないのでは?」
そこで私は、次のように決意しました。
「研究がないなら、自社で調べるしかない!」
食品会社第2ステージ:栄養疫学研究の新規立ち上げ
「当社こそ栄養疫学研究を行うべきだ」と決意したものの、実際に研究を開始するまでには1年以上の時間を要しました。
最も大きな障壁は、「疫学研究は食品会社のビジネスモデルとなじまず、社内の理解を得ることが難しかった」という点です。
食品会社が健康訴求型の商品でビジネスを行う際には、他社との差別化や参入障壁の設計が重要です。たとえば、独自成分や特許の有無、価格の安さや味の良さ、摂取しやすさや手軽さ、独自の健康機能性などが挙げられます。
スーパーやドラッグストアに並ぶ「この商品には当社独自の成分Xを含みます。Xには〇〇の効果があると報告されています」という表示は、独自性と機能性によって差別優位性を示している典型例です。
こうした視点に立つと、疫学研究、特に観察研究はあまり魅力的に映りません。
実際、最初の社内プレゼンでは、次のような指摘を多く受けました。
観察研究では自社独自素材に関する情報が得られない
得られた知見は他社にも活用されやすく、差別化につながりにくい
観察研究では因果関係が捉えられない(と誤解されている)
このような逆風の中、1年間にわたり社内交渉を重ねました。
どのような論点を軸に据えるべきか悩み抜いた末、私は次の主張に立脚することにしました。
「マーケティング調査では捉えられない食生活・栄養実態を、疫学研究を通じて可視化することに価値がある」
食品会社では、マーケティング調査を通じてターゲット層の健康・生活課題を探り、ビジネスに活かそうとしています。
しかし、過去の調査結果を見返すと、自社商品のターゲットとなる人たちの「食事内容・栄養」に関する情報が著しく不足していることに気がつきました。また、先述のとおり、学術論文も十分に存在していませんでした。
この状況から私は、ターゲット層の栄養実態が不明確な状態では、課題を正しく捉えることはできず、食品というソリューションの開発にも支障が出てしまうと考えました。
そのため私は、次のように訴えました。
「ターゲット層の食事・栄養実態を科学的に把握することで、これまでのマーケティング調査では見いだせなかった健康・栄養課題を発見できる可能性がある」
社内の交渉の相手は多岐にわたり、すべての方から賛同を得られたわけではありませんが、1年にわたる取り組みの結果、研究開始に必要な社内手続きの完了にこぎつけました。
その後、共同研究先も無事に見つかり(詳細は後述)、現在ではいくつかの研究成果も得られています。
なぜそのキャリアを選んだのか - 食品会社でなぜ疫学研究?
これまでのキャリア紹介でも触れましたが、私が食品会社で疫学研究に取り組むようになった背景には、次のような考えがあります。
「実際のヒトの栄養摂取実態や食生活・生活習慣を把握せずして、本当に人々の健康に貢献できる食品は作れない」
「モノやサービスを通じて社会実装ができる民間企業こそ、栄養に関する実態を把握し、それを反映させるべきである」
つまり、私は食品会社だからこそ、栄養疫学研究を行う意義があると考えています。
ただし、先に述べたとおり、疫学研究は食品会社の一般的なビジネスモデルとは親和性が高いとはいえません。
とくに観察研究は以下のような理由から、社内での理解や評価を得るのが難しい側面があります。
自社独自成分との関連が示しにくい
差別化や参入障壁の設計につなげにくい
因果関係が捉えにくいと誤解されやすい
このようなネガティブな要素がある一方で、私は次のように考えています。
「お客様の栄養実態や課題を疫学研究を通して見出すことは、よりよい商品・サービスの提供に不可欠である」
現時点では、特定のターゲット層に焦点を当てた栄養疫学研究を中心に進めてきましたが、今後はさらに視野を広げ、社内のさまざまな商品・サービスに対して、疫学的な視点から顧客課題を把握する取り組みを進めていきたいと考えています。
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そのキャリアにたどり着くために努力したこと
現在の会社で栄養疫学研究を立ち上げるにあたり、私の前には大きく二つの障壁が立ちはだかっていました。
1.疫学研究経験者が社内にいない
疫学研究をやろうと決意したはいいものの、社内には観察研究を実施できる人材が一人もいませんでした。もちろん、疫学を一緒に学んでくれる同僚もいない状況でした。
そこで、やむを得ず独学で学び始めました。
具体的には、初心者向けの有料・無料のセミナーやYouTube動画、初学者向けの教科書などを活用し、1年近く地道に学習を継続しました。
また、社外セミナーに参加した際には懇親会にも積極的に顔を出し、栄養疫学に明るい先生方とのつながりを築く努力も重ねました。
そうして独学を続けていた1年後、ようやく社内で疫学研究を正式にスタートする承認が得られ、会社の看板を使って共同研究先を探せる環境が整いました。
そのタイミングで参加したある学会にて、以前セミナーで知り合っていた先生と再会する機会がありました。そこで再びお話する中で、共同研究の実施に向けた準備や、私自身への指導にも協力いただけることになりました。
つまり、社内に疫学経験者がいない中でも、独学と社外とのつながりを地道に育てることで、研究開始にこぎつけることができたのです。
この経験から、私は改めて、「素早く動くこと」「地道に行動を続けること」の大切さを実感しました。
2.「疫学研究は売上アップにつながらないのでは?」と考える社内の意見
この点については、前述の「食品会社第2ステージ」で詳しく触れていますので、ここでは要点のみご紹介します。
社内には当初、「観察研究は売上や差別化に直結しないのでは?」という懐疑的な声が多くありました。
その中で私に求められたのは、「なぜ食品会社のビジネスにおいて疫学研究が必要なのか」を徹底的に考え抜くことでした。
マーケティング視点と疫学的視点を行き来しながら、自分なりの答えを言語化し、1年以上にわたって関係部門と粘り強く交渉を重ねました。
今、もし読者の方のなかに「社内に疫学研究の必要性をどう伝えたらいいかわからない」という方がいらっしゃれば、私の経験が何かしらのヒントになるかもしれません。
今後の展望
まずは、これまで取り組んできた疫学研究の成果を実際のビジネスに実装し、事業化へとつなげていくことを目指しています。
研究自体は非常に楽しく、知的好奇心を刺激されるものですが、企業に所属する以上、最終的には何らかの形でビジネスに結びつけ、企業価値や利益の向上に貢献することが求められます。
そのため、今後は研究活動に加えて、ビジネス実装に関わる業務にも力を入れていきたいと考えています。
また、疫学研究を社内で継続的に実施できる体制や基盤の強化も重要な課題だと捉えています。具体的には、
疫学研究を自ら主導できるメンバーの育成・増員
疫学研究に対する社内理解の深化
といった取り組みが必要です。
今後も、同僚のサポートや社内関係者との対話・交渉を重ねながら、社内の疫学研究文化の定着と発展に努めていきます。
そのキャリアを目指す人へのメッセージ
私から、これから同じようなキャリアを目指す方にお伝えしたいことは、大きく四つあります。
1.あらゆるステークホルダーへの意識の必要性
mMEDICIの廣瀬さんもたびたび言及されていますが、企業における研究では関係するステークホルダーが非常に多様です。立場や所属が異なれば当然意見も異なり、部門間で意見が真っ向から対立することも珍しくありません。
そのため、企業で研究を進めるには、多様なステークホルダーの意向に耳を傾けつつ、研究内容に"適切に"反映する力が求められます。
ここでいう「適切に」とは、すべての意見を無批判に取り入れることではありません。むしろ、それを行うと研究計画に矛盾が生じたり、予算が膨らんで実施が困難になったりするリスクがあります。
研究の軸・倫理・法令などの重要な基準を守りながら、会社のためにどのような研究が必要かを見極め、ステークホルダーからの情報を精査して研究を設計する力が必要なのです。
また、研究の開始後や終了後も、ステークホルダーとの連携は欠かせません。企業における研究のゴールは結果を出すことではなく、その結果を事業に活用し、継続的な利益につなげることにあります。
これらのプロセスを一人で担うことは困難です。同僚や製造工場、CRO、そして何より社内の事業部門・予算管理部門・経営層との連携、交渉、合意形成が必要です。
こうした合意形成を進めるスキルは、企業研究者にとって極めて重要な能力だと実感しています。
2.企業で全く新しい研究を始める際のカギとなる「粘り強さと情熱」
今回のように、社内に前例のない研究を立ち上げる際には、特に社内調整の面で"粘り強さ"と"情熱"が問われます。
他部署に連絡しても返事が来ないのは日常茶飯事で、ようやく話を聞いてもらえたと思ったら、まったく予想していなかった角度から批判を受けることもあります。しかも、そうした状況が数か月、あるいは1年以上続くことも珍しくありません。
その過程で、
「あらゆる部署の意向をすべて取り入れた結果、研究計画が混乱してしまう」
「批判や圧力に耐えきれず、研究そのものを断念してしまう」
といった事例も少なからず見てきました。
だからこそ、どんな困難にもくじけず、乗り越えていける"粘り強さ"と、「どうしてもこの研究をやりたい」という強い"情熱"がなければ、企業で新しい研究を始めることは難しいと感じています。
3.疫学研究を学びたいなら、今すぐ始めるべし
これはシンプルなメッセージですが、非常に重要です。近年、疫学研究を学べる環境は大きく広がっています。
臨床研究法、統計、プログラミング、因果推論など、動画やウェブサイトを通じて学べるコンテンツは非常に充実しています。
たとえば、mJOHNSNOWに入会すれば、オンデマンドで疫学に関するさまざまな学習コンテンツにアクセスできます。
少しでも「疫学を学びたい」と思ったら、まずは一歩を踏み出してみることをお勧めします。
4.疫学研究スキル×これまでの経験・専門性=独自の武器
これは、「これまで疫学以外の分野で活動していたが、これから疫学を学びたい」と考えている方にこそ伝えたいことです。
まず前提として、新しい分野を学ぶ際には、その領域の基本を正しく身につけることが不可欠です。したがって、初心者の段階では、教科書や基礎教材を用いた丁寧な学習をお勧めします。
そのうえで、基礎的な疫学の知識と研究設計スキルが身についた段階で、これまでの自分の経験や専門性を疫学研究に組み込むことを意識してみてください。
「これまでの研究分野で得た知識・スキル・経験」 × 「疫学研究」の掛け算は、唯一無二の強みとなり得ます。
これから疫学を学ぼうとしている方には、ぜひ、自分の専門性と疫学をどう掛け合わせるかという視点を持ち、モチベーション高く学び続けてほしいと願っています。
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