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【京大SPH受験】腎臓内科医の京大SPH進学 - 臨床疑問からエビデンスを「作る」ために-vol.48

【京大SPH受験】腎臓内科医の京大SPH進学 - 臨床疑問からエビデンスを「作る」ために-vol.48

2026.05.22

本稿は、腎臓内科医として臨床現場に立つ中で抱いた「患者さんのアウトカムをどのように改善するか」という疑問を出発点に、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻(京都大学SPH)へ進学し、MPHを取得するまでの道のりをまとめた記録です。

日々の診療から生まれる疑問を経験だけで終わらせず、科学的に検証してエビデンスを「使う側」から「作る側」になるため、医療疫学の世界へ飛び込み、研究の方法論を学んだ経緯を実体験をもとに振り返ります。

SPHでの学びを通じて、目の前の患者さんを一対一で良くする視点から、「集団や社会全体の健康をどのように改善していくか」というマクロな視点へと視野を広げ、現在は産学官連携による地域全体の健康づくりプロジェクトへと活動の場を広げています。

MPH進学を検討している方や、臨床に加えて公衆衛生や地域医療の視点を持ち、キャリアの幅を広げたいと考えている医療従事者の方にとって、次の一歩を踏み出す何らかのヒントとなれば幸いです。

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この記事のまとめ

この記事を読むとわかること

  • MPHでの学びが臨床・キャリアにどのような変化をもたらすか

  • 臨床・在宅医療・公衆衛生を横断したキャリアの具体例

  • 個人医療から集団・地域医療へと視点が広がるプロセス

この記事は誰に向けて書いているか

  • 臨床に加えて研究や公衆衛生に関心がある方

  • 在宅医療や地域医療、公衆衛生に興味がある方

  • キャリアの幅を広げたいと考えている臨床医の方

MPHシリーズ

  • vol.26:【京都大学SPH受験】産婦人科医から製薬転職のリアル:人生を変えたSPHという学び舎

  • vol.25:【京都大学SPH受験】あの内定に、さよならを:文系学士が挑んだ医学研究科という道

  • vol.23:【京都大学SPH受験】直前からでも諦めない、6月から始める極限の合格戦略

執筆者の紹介

氏名:H.I
所属:大学勤務
自己紹介:腎臓内科医として急性期病院で診療に従事した後、臨床現場で抱いた「患者アウトカムをどのように改善するか」という疑問を科学的に探究するため、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻(SPH)に進学し、公衆衛生学修士(MPH)を取得。SPH在学中は行政と連携した地域コホート研究や臨床研究に従事した。修了後は在宅医療に携わり、地域に根ざした医療を実践。その後、新型コロナウイルス感染症流行下では空港検疫業務にも従事した。現在は地域の糖尿病予防・重症化予防プロジェクトに関わり、自治体・医療機関・大学・企業と連携しながら地域の健康づくりに取り組んでいる。臨床と公衆衛生の双方の視点から、地域全体の健康アウトカム改善を目指している。

編集者

氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。

監修者

氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。

MPHを受験しようと思ったきっかけ

私は腎臓内科医として臨床に携わる中で、「どのようなマネジメントを行えば患者さんのアウトカムをより良くできるのか」という疑問を常に感じていました。

腎臓病や糖尿病、高血圧といった慢性疾患では、治療の多くが長期にわたる生活管理や行動変容に関わります。教科書的な知識は臨床の基盤として非常に重要ですが、実際の患者さんは年齢、生活環境、社会背景、併存疾患などが複雑に絡み合っており、同じ疾患であっても状況は一人ひとり大きく異なります。

そのような個別性の高い状況の中で、どのような介入やマネジメントが患者さんの健康アウトカムの改善につながるのかについて、日々の診療の中で考えることが多くありました。

一方で、臨床現場では経験や先輩医師からの知識をもとに意思決定を行うことも少なくありません。しかし、より確かな根拠に基づいた医療を実践するためには、臨床の疑問を研究として扱い、エビデンスがないものは自身で研究し作ることが重要であると考えるようになりました。

自分自身が日々感じている臨床的疑問を、経験だけで終わらせるのではなく、科学的に検証し、知見として患者さんに還元できるようになりたいと強く思うようになりました。

そのような思いを持っていた頃、上司から勧められて「腎臓内科向け てらこ屋」という臨床研究のセミナーに参加する機会がありました。このセミナーでは、臨床研究を進める上で基盤となる研究デザインやバイアス、研究の考え方について数日間にわたって学びました。

短期間のセミナーではありましたが、臨床の疑問を研究として形にしていくプロセスや、研究デザインの重要性について体系的に学ぶことができ、非常に大きな刺激を受けました。

それまで漠然と抱いていた「臨床の疑問を解決する方法を学びたい」という思いが、この経験を通してより具体的な目標として意識されるようになりました。

さらに、このセミナーを主催されていた京都大学の福原俊一先生の医療疫学の取り組みを知り、臨床と疫学を結びつける研究領域に強い関心を持つようになりました。

患者さん一人ひとりの診療経験から生まれる臨床的疑問を、疫学的な方法論を用いて検証し、その結果を再び臨床や社会に還元していくという考え方に大きな魅力を感じました。

そして、こうした研究を実践するためには、疫学や統計学、研究デザインといった方法論を体系的に学ぶ必要があると考えるようになりました。私にとって、MPHの取得そのものが目的だったわけではありません。

臨床現場で感じている疑問を科学的に解決し、その知見を患者さんや社会の健康課題の解決につなげていく力を身につけたいという思いが出発点でした。その過程で公衆衛生大学院(School of Public Health)の存在を知り、疫学や臨床研究の方法論を体系的に学ぶことができる環境として強い関心を持つようになりました。

臨床医としての経験を土台にしながら、研究の方法論を身につけ、より患者さんのアウトカムをよくしたいと考え、MPHを受験することを決意しました。

なぜそのMPHを選んだか

私がMPHを志すきっかけとなったのは、京都大学の福原俊一先生との出会いでした。臨床研究の方法論を学べる環境を探す中で、福原先生が取り組まれている医療疫学の分野に触れ、臨床の疑問を研究として昇華させるアプローチに強い魅力を感じました。

進学先を検討するにあたり、いくつかの基準を設けました。第一に、臨床的疑問に対して研究デザインを用いて答えを導く力を実践的に身につけられること。第二に、医師、特に自分と近いバックグラウンドを持つ研究者が多く、臨床的文脈を共有しながら議論できる環境であること。第三に、経済的負担を抑えながら学べることでした。

当時の国内SPHとしては東京大学、京都大学、帝京大学などが候補に挙がりました。東京大学は大規模データベースや行政との連携といったマクロな研究に強みがあり魅力的でしたが、自分の関心はあくまで「目の前の患者の臨床的疑問」にありました。そのため、より臨床に近い視点から研究を学べる環境が適していると考えました。

その点で、京都大学SPHの医療疫学分野は、自分の目指す方向性と非常に高い親和性がありました。臨床医の疑問を出発点とし、それを研究として形にする力を養える環境であると考え、京都大学SPHを志望しました。

受験対策でやったこと

私が受験した当時は、出願前に教授との事前面談がほぼ必須でした。この面談で研究の方向性について合意が得られていることが重要であり、試験以上に重要なプロセスであると感じました。

実際、研究計画が完全でなくても、自分の臨床的疑問や関心を自分の言葉で説明し、教授と方向性を共有できれば問題ないという印象でした。私自身も福原先生と面談を行い、その中で京都大学と福島県立医科大学のジョイントプログラムの存在を知りました。

このプログラムは、京都でのスクーリング(4〜8月)を受けた後、福島で臨床と研究を並行して行うことができるもので、収入を維持しながら学べる点に大きな魅力を感じ、参加を決めました。

試験対策は直前に過去問を解いた程度でしたが、事前面談で方向性を共有できていたことが大きな安心材料となりました。

MPH後のキャリアと現在の活動

2年間のMPHプログラムを修了した後、自身のキャリアを考える中で改めて認識したのは、「臨床に関わり続けることの重要性」でした。臨床的な疑問を研究として形にし、エビデンスとして社会に還元していくためには、その出発点となる臨床現場との接点を持ち続けることが不可欠であると感じ、再び臨床の現場に戻ることを決めました。

そのような中で、在宅医療に関わっていた先輩から声をかけていただきました。病院の腎臓内科に戻る選択肢もありましたが、より患者さんの生活に近い場所で医療を提供できる点、そして自分にとって未経験の領域に挑戦することで新たな視点を得られるのではないかと考え、在宅医療の道を選びました。

最初に勤務したのは宮城県石巻市でした。この地域は東日本大震災後、医療資源が不足する中で必要な医療を提供するために設立されたクリニックがあり、社会的意義の高い現場であると感じました。

また、福島での経験とも地理的・文脈的につながりがあり、これまでの経験を活かしながら新たな挑戦ができると考え、石巻での勤務を決めました。

それまで都市部の大規模病院で勤務してきた自分にとって、地方のクリニックでの在宅医療は大きく異なる経験でした。患者さんの生活環境や家族背景に深く関わりながら医療を提供する中で、医療は単なる治療行為ではなく、生活そのものと密接に結びついていることを強く実感しました。

この経験は、自身の医療観を大きく広げる転機となりました。石巻での3年間の勤務の後、東京に拠点を移し、引き続き在宅医療に従事しました。


その後、新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、転機が訪れました。先輩がSNSで発信していた空港での検疫業務の募集を目にし、当時はワクチンもなく不確実性の高い状況ではありましたが、現場で求められている役割があるのであれば挑戦すべきだと考え、検疫業務に従事することを決めました。

約3年間にわたってこの業務に関わる中で、個々の患者対応だけでなく、感染症対策という集団レベルでの医療の重要性を改めて実感しました。

その経験を通じて得たつながりから、千葉大学の次世代医療構想センターに声をかけていただき、現在は千葉県旭市における糖尿病予防プロジェクトに関わっています。

このプロジェクトは、製薬企業、大学、自治体が連携し、約4年半にわたって地域全体の糖尿病予防および重症化予防を目指す取り組みです。発症予防の側面では、旭市役所内に16名の職員からなる横断的なプロジェクトチームを組成し、市民への啓発活動や生活習慣改善の支援を行っています。


一方で重症化予防については、糖尿病患者が透析などの重篤な状態に至ることを防ぐため、地域の中核病院、医師会、薬剤師会、行政が連携した協議体を構築し、地域全体で課題解決に取り組んでいます。このプロジェクトにおいて私は、医療と行政、地域をつなぐ役割を担いながら、現場の課題を踏まえた施策の設計や運用に関わっています。

多様なステークホルダーと協働することで、従来の医療機関単独では届かなかった層にもアプローチすることが可能となり、より広い視点で健康課題に取り組むことができています。

本プロジェクトは、厚生労働省主催の「健康寿命をのばそう!アワード」を受賞し、さらに旭市の最上位計画である総合戦略にも位置付けられるなど、地域政策としても重要な役割を担うものとなっています。

一方で、当初から明確な完成形があったわけではなく、「何ができるのか」「何をすべきか」を模索しながら、多職種・多機関で試行錯誤を重ねてきました。その過程で、関係者全員で一つの仕組みを作り上げていく経験は非常に貴重であり、公衆衛生の実践の本質に触れる機会でもあったと感じています。

SPHに入学した当初は、目の前の患者さん一人ひとりのアウトカムを改善することに主眼を置いていましたが、現在では「集団としての健康をいかに改善するか」という視点へと大きく広がりました。

また、活動のフィールドも病院や医療機関にとどまらず、地域社会全体へと拡張しています。振り返ると、10年前には想像していなかったキャリアを歩んでおり、その意味でもSPHでの学びは、自身のキャリアの方向性を大きく変える契機となりました。

受験生に伝えたいメッセージ

私が最初にMPHを学ぼうと考えたきっかけは、「目の前の患者さんをより良くするにはどうすればよいのか」という臨床医としての素朴な疑問でした。その答えを見つけるための方法論を学びたいと考え、京都大学SPHに入学しました。

SPHで学ぶ中で、これまでエビデンスを「使う側」(ユーザー)だった自分の意識が、エビデンスを「作る側」へと大きく変化しました。また、目の前の患者さんを一対一で良くすることの重要性は変わりませんが、同時に、より大きな集団や社会全体の健康をどのように改善していくかという視点を持つようになりました。

医療は医療だけで完結するものではなく、社会の中でどのような役割を果たしているのか、社会にどのような価値を提供できるのかという視点が非常に重要だと感じています。

私自身、SPH修了後は地域の健康づくりプロジェクトに関わり、集団の行動変容を促す取り組みに携わる中で、公衆衛生の視点が実社会でどのように生かされるのかを実感しています。

SPHには、思いがけない出会いや刺激があり、自分が想像していなかったキャリアの可能性に気づくこともあります。受験する動機は人それぞれだと思いますが、キャリアに絶対的な正解はありません。

自分で選んだ道を、自身の努力によって事後的に正解にしていくプロセスだと思います。これから受験される皆さんにも、その変化や成長の過程をぜひ楽しんでいただければと思います。

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  • vol.33:【長崎大学MPH受験】海外経験ゼロの看護師が開いた、国際保健への扉

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