
【採択者が語る科研費獲得のコツ】具体例で学ぶ「採択される研究計画調書」の書き方 - 審査員経験者が徹底解説 vol.4
2025.07.24
科研費申請書の中核とも言える「研究計画調書」は、研究内容を第三者に分かりやすく伝えることが重要で、専門外の審査員が読んだとしても、しっかりと研究の目的や意義が伝わる工夫が求められます。
本稿では、科研費の審査員経験を有する筆者が、実際に作成した研究計画調書の「初稿」と「提出稿」を比較しながら、説得力と分かりやすさの点から「採択される研究計画調書」に仕上げるまでの試行錯誤について解説します。
科研費にチャレンジしたいと考えている方や、今まさに申請書を作成している最中の方に向けて、どのように記載内容をブラッシュアップすれば良いのか、具体的な考え方や記載事例を提示することで、実践的なヒントを提供できればと思います。
採択者が語る科研費獲得のコツ シリーズ
vol.1:科研費とは何かを知り、スタートで差をつけろ
vol.2:「審査員の視点」で申請書を徹底解説
vol.3:採択確率を上げる第三者チェックという裏ワザ
vol.4:具体例で学ぶ「採択される研究計画調書」の書き方(本記事)
vol.5:科研費「不採択」から再挑戦するあなたへ - 「採択される」戦略を徹底解説
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この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
研究テーマが他者に伝わる計画書として構成・表現する方法
「初稿」から「提出稿」へと磨き上げていく思考プロセスや判断基準
自分の研究を客観視し、他者の視点から見直す重要性
この記事は誰に向けて書かれているのか
初めて科研費や研究助成金に応募する研究者
研究テーマを研究計画調書としてどう表現すればよいか悩んでいる方
他者に伝わる研究計画調書の作成に悩んでいる方
執筆者の紹介
氏 名:匿名
所 属:国立大学医療系大学院
専門性:博士(看護学)・修士(看護学)。日本学術振興会科学研究費委員会 審査員を6年、看護系職能団体の研究助成選考委員会の委員長を10年ほど務めた経験を持つ。現在は看護系職能団体の研究倫理審査委員会の委員長を務める。
はじめに
研究計画調書の作成では、自らの研究構想を第三者に「どう伝えるか」が非常に重要となります。特に、科研費における審査においては、専門外の審査員にも伝わるように工夫することが求められます。
そのため、最初から書き上げた通りに申請書が完成することはなく、何度も推敲を重ねて「審査員に伝わる研究計画調書」にブラッシュアップしていくことが大切です。
本稿では、筆者が実際に作成した研究計画調書の「初稿」と「提出稿」を比較しながら、どのように記載内容を整理し、審査員に伝わる内容に仕上げたのか、そのプロセスを解説します。
どの内容を削り、どこを強調したのか、なぜそうしたのか。そのような試行錯誤の思考過程を具体的に解説することで、これから申請書を書く方のヒントになればと思います。
1.まずは申請書フォーマットに沿い、構想を言語化する
たとえ科研費申請に採択された経験がある人でも、最初から「採択される完成度」の申請書を書き上げることは困難です。筆者は、研究のアイデアを思いついた時点で、まずは初稿として研究計画書のフォーマットに沿って自由に書いてみることにしています。
初稿では、研究のアイデアや構想を言語化しながら「本研究は実現可能ではないか」という一定の手ごたえを得ることが大切です。まずは書ける範囲で研究の構想を具体化してみましょう。
「そもそもどうやって書けばいいの?」という方は、科研費申請書の書き方のコツを項目ごとに解説したこちらの記事をご覧ください。
2.「他者視点」を取り入れる
さて、研究の構想を言語化し、研究計画書の全体像を書き上げる上で常に意識すべき重要なポイントがあります。
それは、「研究者の独りよがりな内容」になっていないかを慎重に見直すことです。
なぜなら、自分自身が当該研究領域の基礎知識や課題を熟知しているため、それを前提に書いてしまい、結果として「申請者だけが分かる文章」になってしまうのです。
申請書が採択されるには「他者の視点」、すなわち審査員が読んで容易に理解できることが不可欠です。
説明が不足している部分や、曖昧な記載内容を明らかにすることが、質の高い研究計画調書作成の第一歩となります。
そのためには、自分自身が「他者の視点」に立って申請書を何度も読み返すことが大切です。
理解しづらい文章はないか、専門外の人が知らないような専門用語が含まれていないかなど、自問自答を繰り返しながら修正を重ねましょう。
しかし、申請者自身によるチェックだけでは、どうしても「他者に伝わりにくい内容」を見落としてしまうものです。
そこで、「他者視点」を取り入れるための有効な方法が、その研究を知らない人に読んでもらい、ディスカッションすること。いわゆる「第三者チェック」を取り入れることです。
「第三者チェック」の解説記事はこちら
【採択者が語る科研費獲得のコツ】採択確率を上げる第三者チェックという裏ワザ - 複数採択歴のある研究者が解説 vol.3
第三者チェックを取り入れることで、自分では気づけなかった「分かりにくさ」や「曖昧な点」が明らかになり、より完成度の高い研究計画調書に仕上げることができます。
こうして、基本的な申請書の書き方と「他者視点」に配慮しながら作成した「初稿」がこちらです。
今回の具体例として用いる研究課題は「重症心身障害児のきょうだいにおけるヤングケアラー経験と成人後の介護意識の形成」です(筆者が解説のために作成した架空の研究課題です)。
初めて科研費を申請する若手研究者を想定して「研究活動スタート支援」で作成しています。
【研究計画調書の初稿】



一見して、申請書のフォーマットに沿って必要な内容が網羅されているように思えます。
しかし、実はこの記載内容では審査員に研究の意義や独自性などを伝えるにはまだまだ不十分な内容となっており、このままでは「採択される可能性が低い研究計画調書」と言わざるを得ません。
この計画書において、具体的にどの点がどのように不十分で、そして「採択される研究計画調書」にするにはどのような改善が必要なのか、次の章で一つ一つ解説していきます。
3.項目ごとのポイントを押さえ、採択される研究計画調書へ
ここからは、「初稿」と「提出稿」を比較しながら、どのように記載内容のブラッシュアップを加えたのか、申請書の項目ごとに確認していきましょう。
1. 本研究の学術的背景・着想に至った経緯、学術的な「問い」

初稿の記載内容は、当該領域の研究者に対してであれば十分に伝わる内容かもしれません。
しかし、筆者が本研究課題において感じている「重心児のきょうだい」と「ヤングケアラー」に関する問題意識について、専門分野外の審査員にとっては容易に想像できるものではないと思われました。
そこで、「重心児をきょうだいにもつヤングケアラーの実態」とその切実性について、審査員にも理解しやすいように、赤字で示すような説明を加えることにしました。
このように、「なぜ、何が、どのように問題なのか」、具体的な状況についての説明を加えることで、専門分野外の審査員でもこの研究課題における問題意識や研究背景が直感的に理解できるような工夫が大切です。
2.本研究の目的および学術的独自性と創造性:目的

初稿における「目的」は、このままでも明確ではあります。
しかし、科研費の審査では目の前の成果だけでなく「この研究が終わった後、学術や社会にどのようなインパクトをもたらすのか」が重視されます。
その視点を踏まえると、初稿の内容は「親の意識や価値観に及ぼす影響を明らかにする」という記載に留まっており、研究がもたらす価値がやや希薄に感じられます。
そこで、本研究の成果が長期的に何を目指すのかについて記載することで、意義や波及効果をより具体的に示しました。
このように、短期的な目的に加え、長期的な視点や将来的な貢献の方向性を示すことが、審査員に本研究の価値を伝える上で重要です。
3.本研究の目的および学術的独自性と創造性:学術的独自性と創造性

この項目では、初稿から大きく構成が修正されています。
今一度、初稿における文章構成を整理してみましょう。
❶ これまでの先行研究では、〇〇に焦点が当てられてきた(△△の視点は欠落している)。
❷ 一方で、親の介護について「介護保険制度で対応できるのではないか」という反論が想定されるが、制度には限界がある(そのため、制度には頼れない)。
❸ 重心児のきょうだいのヤングケアラーとしての役割は、人生において続いている点に特徴があり(ケアの連続性)、このような継続的なケア経験が、将来的な世代間のケア責任にどう影響しているか(世代間ケアの意識)という視点に独自性がある
最も伝えたい「研究の意義」が最後に書かれる典型的な構成になっています。
一見して、このままでも良さそうですが、より記載内容の説得力を高めるために、提出稿では以下の四つの視点で構成を大きく変更しました。
①「 独自性」をより強調するために「ケアの連続性と世代間ケアの意識に関する実証的知見を提供する点」についての記載を前半に移動した。
② 初稿における❷「高齢者の介護の現状」がやや冗長であったため、多忙な審査員が斜め読みをしても誤解が生じないよう記述を簡潔にした。
③ 初稿における❶「これまでの重心児の〜」は「(3)関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ」と重複しているため、割愛した。
④ 最後に、本研究の政策的意義に触れて締めくくった。
この例のように、本研究の「新規性」や「独自性」から始める構成は、審査員に「何が新しいのか」「何が特別なのか」を冒頭で印象づけることができるため、非常に効果的です。
さらに説得力を高めるために、最後に波及効果や社会的意義について記載して締めくくるとよいでしょう。
4.本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか

一つの研究で明らかにできることには限りがあります。
そして、審査員は「この研究で実際に到達可能なゴールは何か?」という実現可能性も見ています。
したがって、研究計画調書の作成においては「どの範囲のことを確実に明らかにできるか」、その研究において検証できる範囲を現実的に見極める必要があります。
初稿の内容を吟味した時、「介護に関する家族の責任を問い直す」は、社会制度などを含むものであり、本研究の到達点として広すぎる領域でした。
そこで、「個人のケア経験の可視化」に焦点を当てることで、実現可能性が高く、具体的な成果が期待できると判断しました。
このように、その研究で「確実に検証できる範囲」と「そこから見えてくる社会的・学術的な示唆」を明確に区別し、段階的に記述することが重要です。
結果として、審査員にも説得力を持って伝わり、評価の安定につながることでしょう。
4.研究計画調書の点検ポイント
冗長な学術的背景を避ける
本稿で繰り返し強調していますが、研究計画調書は専門外の人が読むことを前提に書く必要があります。
そのため、特に「学術的背景」の冒頭部分は「高校生に教えるつもりでかみ砕いて説明するのがよい」とよく言われます。
(審査員の心情としては、冒頭でつまづいてしまうと、その先を読み進めるのが苦痛に感じてしまいます。)
一方で、初心者が陥りやすいのは、背景の説明が冗長になってしまうことです。
冗長になりすぎると主旨が伝わりにくくなり、審査員は「何が言いたいんだろう?」と感じて、読み進める意欲を失ってしまいます。
具体例ではお示ししていませんが、実際、今回の研究課題の作成過程でも、当初は「重心児の親が、そのきょうだいにどのような思いを抱いているか」といった先行研究を盛り込んでいました。
しかし、本研究が焦点をあてるのは、「親 → きょうだいの視点」ではなく、「きょうだい → 親の視点」であり、この点に照らして必須な記載内容ではないと判断し、削除しています。
このように、自分の書いた文章が冗長になったり、迂遠になっていないかを第三者の目で見直し、ときには不要な記載内容を削除する姿勢も重要です。
研究計画調書全体の流れ(展開)を確認する
最後に、ここまで「採択されるように」仕上げてきた研究計画調書の全体像をご提示します。
それでは、研究計画調書全体の流れ(展開)を確認してみましょう。
重要なポイントは「研究計画調書全体で、話の展開を流れるように構成すること」です。
まずは下線部だけに注目して目を通してみてください。
(研究計画のキーとなる部分に、下線・太字、フォントなどで強調を加えることも、審査員に円滑に内容を伝える効果的なテクニックです。)




それでは今一度、下線部だけを繋げて読んでみましょう。
【背景】
a.ヤングケアラーとしての経験は、今後自身が「誰をどうケアするか」というケア観にも影響を及ぼす。
b.(しかし、)親の老いや介護に対する意識や態度の形成に、ヤングケアラーとしての経験がどのように関与するかについては、十分に明らかにされていない。
【目的】
c.重心児をきょうだいにもつ成人を対象に、ヤングケアラーとしての経験が、世代間のケア意識、すなわち親の介護をどのようにとらえているか(を明らかにする)
【重要性】
d.親の高齢化が進むなかで、介護の担い手としてきょうだいが暗黙裡に期待されている。
e.重心児のきょうだいは、ケアの担い手としての役割が人生のなかで途切れずに続いている。
【独自性】
f.ケア体験の連続性と世代間ケアの意識に関する実証的知見を提供する点
g.「ダブルケア」の構造を明らかにする点
【重要性と有用性】
h.将来親の介護も担う「ダブルケアラー」となる可能性もあり、ケア負担の長期化・複層化という点において極めて深刻な社会的な課題
i.幼少期から連綿と続くケアの担い手である重心児のきょうだいに対するライフコースを視座においたアプローチや政策的支援の基礎資料
【研究の位置づけ】
j.①ヤングケアラー研究、②障害児の家族研究、③在宅介護・ダブルケアに関する研究という三つの領域の交点に位置づけられる
このように、赤字の下線部を読むだけで「この研究課題において何が問題なのか」「何を目指し、何をしようとしているのか」が審査員に明確に伝わるようになっています。
(今回は審査員に課題の重要性を印象づけるため、その深刻さを畳みかけるように書いています。「重要性」が2回繰り返される構成です。)
先述の通り、重要なポイントは「研究計画調書全体で、話の展開を流れるように構成すること」です。
しかし、研究計画調書を作成する過程では、つい各項目の中だけで文章構成を考えてしまい、研究計画長所全体の流れを見失ってしまうことがあります。
「提出稿」の具体例のように、強調された部分に目を走らせるだけで研究計画の概要を掴めることが、採択される可能性を高めることにつながります。
【補足】
本題とは外れますが、この研究課題は「実行可能性」の点で非常にハードルが高いことにお気づきになりましたか?
重心児のきょうだいの内面を知るためには、インタビュー調査が必須の研究です。対象者にどのようにアクセスし、リクルートするかがボトルネックになります。この分野の研究者が審査員であればその点も考慮して審査してくるはずです。
(5)「準備状況」で重心児のきょうだいに関してある程度の研究経験があり(スタート支援であれば、実績がたくさんあるということは期待されません)、「重心児の家族会との連携基盤を持っている(=家族会と信頼関係がある)」ことは、研究目的を達成するための実行可能性を評価する上で非常に強みになると思います。おわりに
研究計画調書の作成においては、自分の研究(己)を深く理解するだけでなく、それを読む第三者(審査員)の視点を想定することが不可欠です。
しかし、初めて科研費に挑戦する方々を見ていると、この「他者の視点に立つ」ことが想像以上に難しいようです。
審査員は、理解できないものを評価することはできません。
そのため、説明が不十分で伝わりづらい研究計画調書は、どうしても厳しい評価を受けやすくなることをあらかじめ心得ておく必要があります。
まさに「敵を知り己を知れば百戦危うからず」
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vol.2:「審査員の視点」で申請書を徹底解説
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