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【熱狂せよ、パブリックヘルス】パブリックヘルスで「事業と社会の越境者」になる - vol.6

【熱狂せよ、パブリックヘルス】パブリックヘルスで「事業と社会の越境者」になる - vol.6

2026.04.08

優れた治療法と、優れた専門家がいる。それでも、必要な情報が、届くべき人に届いていない――。

この不条理が、どうしても許せませんでした。

Ubie株式会社Head of Public Relations、Impact Officerとして、事業と社会の越境者を目指す守屋祐一郎氏は、「社会の情報の流れ方や制度の仕組みそのものに、構造的な課題があり、この認知と制度の両面に働きかけていくことが、健康に対する文化そのものをつくることにつながる。」と語ります。

そして、「ビジネスの現場で培った実行力と、パブリックヘルスの構造的な視座」という、この掛け算こそが、自分が追求すべき道だと確信しました。

本記事では、「医療者ではない立場からMPHでパブリックヘルスを学び、何が変わったか」、「パブリックヘルスの知見がビジネスの現場にどう活きるか」をお伝えします。

熱狂せよ、パブリックヘルス

本シリーズは、パブリックヘルスの領域で活躍するプロフェッショナルが初学者に向けて自らの専門性を語る自伝シリーズです。その専門性に出会った原点や、挫折の先に見つけた希望、そして今も燃やし続けている信念について、熱量を込めて語り尽くします。

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この記事のまとめ

この記事を読むと分かること

  • 医療者ではない者がパブリックヘルスを学び、何が変わったか

  • 「ビジネス」が公衆衛生課題を解く手段として持つ可能性

  • パブリックヘルスの知見がビジネスの現場にどう活きるか—多様なステークホルダーとの対話、認知や制度への働きかけ、事業と社会の循環の実践

この記事は誰に向けて書いているか

  • パブリックヘルスの知識を、ビジネスや政策の現場で活かしたいと考えている方

  • 「良いサービスを作っているのに、なぜか社会に届かない」という壁にぶつかっている方

  • 非医療者でヘルスケア領域でキャリアを築きたいと考えている方

熱狂せよ、パブリックヘルスシリーズ

  • vol.1:RWDのおかげで親に仕送りできるようになりました(mMEDICI株式会社/廣瀬直紀)

  • vol.2:女性の健康における社会課題へ挑み続ける(産婦人科専門医/重見大介)

  • vol.3:医療や看護の価値をデータで語れるように(東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 看護管理学/森田光治良)

  • vol.4:全ての人を笑顔にするために - 医師が発信すべき理由、私の挑戦(京都大学消化管外科/山本健人)

  • vol.5:科学と感情のあいだで - 誤情報と偏見を越えるために(ハーバード大学医学部准教授・マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長/小児精神科医/内田舞)

  • vol.6:パブリックヘルスで「事業と社会の越境者」になる(Ubie株式会社 Head of Public Relations、Impact Officer/守屋祐一郎)(本記事)

執筆者の紹介

氏名:守屋 祐一郎(もりや ゆういちろう)
所属:Ubie株式会社 Head of Public Relations、Impact Officer
専門性:慶應義塾大学経済学部を卒業後、ヘルスケアスタートアップ複数社で営業・事業開発を経験し、PRの領域に軸足を移しました。現在はUbie株式会社にてHead of Public Relations(PR)、Impact Officer。メディア・行政・医療者・患者団体・アカデミアなど多様なステークホルダーとの対話を通じ、事業と社会を繋ぐ活動を推進しています。聖路加国際大学公衆衛生大学院では医療経済学と医療政策を中心に学び、2026年3月修了(MPH)。

守屋 祐一郎

高校生の深夜、親族が激しい腹痛で苦しんでいた。

顔をゆがめてうずくまっている姿を前に、救急車を呼ぶべきか、もう少し様子を見るべきか、判断がつかなかった。隣にいるのに、何をすればいいか分からない。

その時間がひどく長く感じた――

幸い回復した。

けれど、あの夜の「隣にいたのに、何もできなかった」という感覚は消えていない。

1.パブリックヘルス×コーポレートコミュニケーション

守屋祐一郎と申します。

私は、Ubie株式会社でHead of Public Relations(PR)、Impact Officerを務めています。そして、2026年3月に聖路加国際大学大学院公衆衛生学研究科を修了し、公衆衛生学修士(専門職・MPH)を取得しました。

私は国家資格を持つ医療者ではありません。ヘルスケアスタートアップ複数社で営業と事業開発を経験し、現在はPR領域で事業と社会を繋ぐ活動に取り組んでいます。

専門としているのは、パブリックヘルス(公衆衛生学)の知見とコーポレートコミュニケーションの掛け合わせです。

事業の社会的意義を可視化し、患者・市民、臨床、行政、メディア、アカデミア、産業界、政治家…といった様々なステークホルダーとの対話を重ねる。

パブリックヘルスのマクロでシステム的な視座を、ビジネスの現場で実装することが自分の仕事です。

2.ビジネスだけでは越えられなかった壁

二つの原体験

「医療に関わる仕事がしたい」。その思いの原点は二つあります。

一つは、冒頭に書いた深夜の出来事です。幸い親族は回復しましたが、あの夜の無力感がその後のキャリア選択に影響を与えました。

もう一つは、小学生の頃に経験した骨折です。手術とリハビリを経て回復する過程で、医療者の方々が何ヶ月にもわたって支えてくれました。あの経験から、医療という営みへの感謝と敬意が自分の中に根付いています。

そして高校時代にiPhoneに触れたことが転機になり、テクノロジーとビジネスで社会を変えるスタートアップの世界に惹かれました。

「医療の課題をビジネスの力で解けないか」と考え、大学在学中に医療ITベンチャーのメドレーでインターンを経験し、医療とテクノロジーが結びつく現場を知りました。

営業の現場で感じた構造的な壁

大学卒業後、再生医療スタートアップのセルソースに入社しました。変形性膝関節症(膝の軟骨がすり減って痛みが生じる疾患)に対する新しい治療法を、医療現場に届ける営業と事業開発に従事しました。

全国各地の先生方を訪ね、KOL(Key Opinion Leader=各領域のトップランナーとなる医師)の方々とも議論を重ねました。先生方と深く対話するほど、長年の臨床経験と研究に裏打ちされた専門性の尊さを痛感しました。

そうした対話の中で、どの先生も口を揃えて指摘する課題がありました。

「患者さんに適切な医療情報が届いていない」。

患者と医療者、本人と家族、制度と生活のあいだにある情報の断絶です。

優れた治療法と、優れた専門家がいる。それでも、必要な情報が、届くべき人に届いていない。

この不条理が、どうしても許せませんでした。

先生方は日々、目の前の患者さんを救い続けている。自分も営業として全国を走り回り、提携医療機関は数十施設から1,000施設超にまで拡大しました。IPOにも立ち会いました。

それでも、情報が届くべき人に届いていない。

数字が積み上がるほど、この構造は一企業の事業活動だけでは変えられないという現実が重くのしかかりました。

テクノロジーでも越えられない壁

テクノロジーの力で情報の非対称性を解消できないか。その思いからUbieに移り、事業開発に従事しました。

事業は成長し、サービスは多くの方にお使いいただけるようになりました。しかし、サービスを真に社会に根付かせるうえでは、事業開発やマーケティングだけでは越えられない壁がありました。

医療者、行政、メディア、患者、アカデミアなど、それぞれ異なる価値観や言葉で動いているステークホルダーがいる。事業の意義を社会全体に届けていくには、「公衆衛生というシステムの構造や力学に対する理解」が自分には足りなかった。

3.「ビジネス×パブリックヘルス」という掛け算との出会い

ビジョンを語る言葉を求めて

Ubieで事業開発に携わる中で、ある確信が強くなっていきました。

掲げているミッション・ビジョン。事業を通じて蓄積されていくデータとステークホルダーとの関係性。狭義の医療サービスにとどまらず、この会社はパブリックヘルスの領域に踏み出すポテンシャルがある。そしてそうなるべきだ、と感じました。

とりわけ、生活者向けサービス「ユビー」は、かつての自分の痛みに直接刺さるプロダクトでした。

体調に不安を感じた人が適切な医療にたどり着くこと、そして治療の奏功までを支援する。
一人ひとりの困りごとに応えながら、結果として社会全体の医療アクセスを改善していく仕組みです。

当事者としての実感とパブリックヘルス実務家としての使命感の両方から、このプロダクトの価値を信じています。

「プラットフォームから生まれるデータ」、「多様なステークホルダーとの関係性」、「事業が持つ社会的な意味」これらを構造的に捉え、ビジョンとして語るためには、パブリックヘルスの知見が必要だと感じました。

2023年、社会人として働きながら学べる聖路加国際大学公衆衛生大学院に入学しました。

実務の勘が構造化された瞬間

SPHでの学びは、実務で培った感覚に「構造」を与えてくれました。

疫学、医療経済学、行動科学、医療政策学。現場の肌感覚を頼りに判断してきた自分に、体系的な分析の視点が加わりました。

「なぜ正しい情報が届かないのか」「なぜ届いても行動が変わらないのか」。ヘルスコミュニケーションと健康行動科学が、実務で感じていた壁を構造として解き明かしていました。

健康の社会的決定要因(SDH)という概念にも出会いました。

SDHとは、所得、教育、住環境、社会的つながり、制度のあり方といった、医療行為の外側にある要因のことです。これらの上流の条件が、健康格差を構造的に生み出しています。

現場で「おかしい」と感じていたことの根本が、社会の情報流通の仕組みや制度的基盤の問題として体系的に説明できるようになりました。

この瞬間、自分の中で二つの線がつながりました。

「ビジネスの現場で培った実行力と、パブリックヘルスの構造的な視座」という、この掛け算こそが、自分が追求すべき道だと確信しました。

4.ビジネスで公衆衛生課題を解く——その実践

事業成長と社会的インパクトの両立

事業として成立しているからこそ、持続的に社会課題に向き合い続けることができる。それが自分がビジネスの現場に立ち続けている理由です。

近年、事業成長と社会的インパクトの創出を同時に追求する企業が増えています。

事業活動そのものが公衆衛生課題の解決に直結し、その成果を可視化することで、さらに多くの人や資源を巻き込んでいく。そんな自分自身の実務を通じて、この循環が実際に機能する手応えを感じています。

認知と制度を動かし、文化をつくる

ただし事業・サービスが成長しても、それだけでは届かない層が存在します。

2025年にUbieが実施した「医療アクセス実態調査」では、72%の人が「医療迷子」——「何科に行けばいいか分からない」「症状をうまく伝えきれない」「治療への不安をうまく相談できない」等のお困りごと——を経験していることが分かりました。

こうした困りごとは個人の努力だけで解消できるものではありません。社会の情報の流れ方や制度の仕組みそのものに、構造的な課題があります。

だからこそ、二つの方向からの働きかけが必要になります。

一人ひとりが自分の健康に主体的に向き合い、適切な医療に自らたどり着けるようになること。そして、それを支える社会の仕組みや制度を整えていくこと。

この認知と制度の両面に働きかけていくことが、健康に対する文化そのものをつくることにつながります。

パブリックヘルスの知見を、ビジネスの実務へ

認知を変えるために、課題の実態を調査し、社会に届ける。行政に対しても、エビデンスに基づいた適切な対話を重ねていく。

疫学や医療経済学を学んだことで、医療者・行政・メディアがそれぞれどんなことに関心を持ち、どんな言葉で考えているかが見えるようになりました。相手の価値観や考え方の背景が分かるからこそ、届くコミュニケーションを紡ぐことができる。

事業の現場で生まれる事例やエビデンスを共通言語として対話を重ね、世論や制度といった社会の構造に働きかける。同時に、社会の規範や政策のうねりを捉え、事業の仕組みへと落とし込むことで、人々の生活に確かな価値を届ける。

この双方向の循環こそが、越境者としての仕事の核です。

UbieではHead of PRとして、メディアや医療者、行政、患者団体、アカデミアとの対話を通じ、事業の社会的な意義と可能性を伝えています。Impact Officerとしては、事業が社会にどう貢献しているかの経路を明らかにし、開示しました(「Ubieの社会的インパクト」)。

パブリックヘルスで学んだ医療経済学やHEOR(医療経済・アウトカムリサーチ)の知見が、この仕事の基盤になっています。

5.事業と社会の越境者として

最近、親族がまた体調を崩しました。あの深夜の記憶がよぎりました。

しかし今回は違いました。

当時の自分が欲しかったもの――自分たちが作り、今まさに自分がその拡大に携わっている生活者様向けサービス「ユビー」がありました。


その親族はユビーを使って適切な受診につなげ、日々の健康管理にも活用しています。まだ道半ばですが、あの夜に感じた課題を少しずつ解消できている実感があります。

公衆衛生に関連する課題は、ビジネスの力で解いていける。事業成長と社会的インパクトを融合しながら、ステークホルダーとの健全な対話を重ね、認知や制度の進化に貢献する。

パブリックヘルスの活かし方は臨床や研究に限りません。「事業の現場にこそ、この学問を持ち込む価値がある。」それが自分の信念です。

ビジネスと学術、ミクロの原体験とマクロの構造的視座」それらの境界を越え、つなぎ、社会と事業が互いに高め合う関係を築いていく。

それが事業と社会の越境者としての自分の仕事です。

「誰もが適切な医療にたどり着き、豊かに生き、納得して最期を迎えられる社会。そしてそれを個人の運ではなく、社会の仕組みにする。」

この挑戦を続けます。

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熱狂せよ、パブリックヘルスシリーズ

  • vol.1:RWDのおかげで親に仕送りできるようになりました(mMEDICI株式会社/廣瀬直紀)

  • vol.2:女性の健康における社会課題へ挑み続ける(産婦人科専門医/重見大介)

  • vol.3:医療や看護の価値をデータで語れるように(東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 看護管理学/森田光治良)

  • vol.4:全ての人を笑顔にするために - 医師が発信すべき理由、私の挑戦(京都大学消化管外科/山本健人)

  • vol.5:科学と感情のあいだで - 誤情報と偏見を越えるために(ハーバード大学医学部准教授・マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長/小児精神科医/内田舞)

  • vol.6:パブリックヘルスで「事業と社会の越境者」になる(Ubie株式会社 Head of Public Relations、Impact Officer/守屋祐一郎)(本記事)

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