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【RWD1000本ノック】その製造販売後データベース調査、失敗します - vol.02

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【RWD1000本ノック】その製造販売後データベース調査、失敗します - vol.02

2026.01.04

あなたは初めての製造販売後データベース調査にチャレンジしようと、規制当局に提案しました。

しかし、一般使用成績調査とは求められるプロトコールやチーム、照会事項対応がまるで違いました。

規制当局のリクエストに正しく対応できず、回答期限を過ぎてしまったのでした。

この記事のまとめ

この記事を読むと分かること

  • なぜこれから製造販売後データベース調査が重要になってくるか

  • 製造販売後データベース調査の実務の進め方

  • 製造販売度データベース調査で落とし穴にはまらない方法

この記事は誰に向けて書かれているか

  • 企業でRWDに関する業務に取り組んでいる人

  • 企業の疫学専門家になりたい人

すきとほる先生のRWD1000本ノック

Vol.1 そのRWD研究、企業でやると痛い目みませんか?
Vol.2 その製造販売後データベース調査、失敗します(本記事)
Vol.3 なぜあなたの医療データベースは売れないのか - 「食材」を売るな、「料理」を売れ
Vol.4 RWD事業の成否は「1人目」で決まる - 採用すべきは“論文が書けるだけの研究者”ではない理由
Vol.5 なぜ製薬企業のRWD研究のプロトコールは40ページもあるのか
Vol.6 RWD研究で速やかにグローバル承認を獲得する方法を元グローバル疫学専門家が解説
Vol.7 製薬企業が買いたいRWDって、どんなRWD?
Vol.8 RWD研究の外注で失敗しないために - 外注先を見極めろ

執筆者の紹介

氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の日本・グローバルにおいて疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究に従事。その後、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。

廣瀬直紀著.企業研究者の教科書

本日は、製造販売後データベース調査(以下、製販後DB調査)の「実務のリアル」について、深く掘り下げてお話ししたいと思います。

皆さんは、実際に製販後DB調査を担当されたことはありますでしょうか? おそらく、「言葉は知っているけれど、自ら手を動かして完遂した経験がある」という方は、まだ非常に少ないのではないかと思います。

事実、2018年のGPSP省令改正により製販後DB調査が導入されて以降、実施件数は導入当初こそわずかに増加したものの、その後は伸び悩み、平行線をたどっているという報告もあります。日本の製薬企業において、この調査手法はまだ「当たり前の選択肢」にはなっていないのが現状です。

しかし今後、安全性監視における市場調査の主役は、従来の「一般使用成績調査(全例調査など)」から、徐々に、しかし確実に「製造販売後DB調査」へとスイッチしていくでしょう。

なぜなら、そこには「科学的な必然性」があるからです。 今回は、なぜDB調査へのシフトが必要なのか、そして実務において「いつ、何を、どのように」進めるべきなのか。教科書には載っていない、現場で汗をかく実務担当者のための泥臭いプロセスを解説していきます。

一般使用成績調査の限界:なぜ「リスク」が見えないのか

まず、根本的な疑問にお答えします。

「なぜ、あれほど多くのコストと時間をかけて行う一般使用成績調査ではなく、DB調査が求められるようになっていくのか?」


その答えはシンプルです。

「従来の一般使用成績調査(単群)では、薬剤のリスクを定量化することが構造的に不可能だから」です。

「えっ、リスクを見るために調査をしているんじゃないの?」
と思われた方もいるかもしれません。いったいどういうことなのか。

「相対評価」でしかリスクは語れない

一般使用成績調査、例えば1施設あたり数百例を集めるような調査では、基本的に「その薬剤を使用した患者さん」のみを追跡し、有害事象の有無を確認します。

しかし、ここには「比較対象」が存在しません。

「リスク」という概念は、絶対的なものではありません。

「A薬はB薬(あるいは非投与群)と比較して、副作用の発現頻度が高いか低いか」という相対的な比較においてのみ測定可能なものです。

比較群(コントロール群)を持たない単群の調査では、「この薬を使ったから副作用が出たのか、それとも原疾患の悪化や他の要因なのか」を統計的に切り分けることができません。


一方、製販後DB調査であれば、(実現可能性があれば)データベース上で適切な比較群を設定することが可能です。

「この薬は比較薬に比べて、オッズ比で〇〇倍のリスクがある」という形で、安全性を定量化できます。

規制当局が製販後DB調査の実施を推奨している背景には、こうした「科学的に妥当なリスク評価を行ってほしい」という意図があると考えられます。

したがって、適切な比較研究が可能なリサーチクエスチョンであるならば、今後は製販後DB調査が第一選択となっていくことは自然な流れと言えるでしょう。

製造販売後DB調査を阻む「二つの壁」

では、なぜ現場では製販後DB調査への移行がスムーズに進まないのでしょうか。 そこには、製薬企業のケイパビリティに関わる二つの大きな理由があります。

  1. 企業のダイナミクスを理解した疫学専門家の不足

  2. 「アカデミアの研究」と「規制対応の調査」の違いに対応できない

特に2点目が重要です。

「データベース研究ができる」ことと、「製造販売後DB調査ができる」ことはイコールではありません


後者には、「規制当局(PMDA)対応」という極めてユニークかつ厳格なプロセスが介在します。GPSP省令という法規制の中で、当局と折衝し、論理的な合意形成を行うプロセスは、純粋なアカデミア研究とは全く異なるスキルセットを要求します。

この経験を持つ「ビジネスマンとしての疫学専門家」が圧倒的に不足していることが、製販後DB調査の普及を妨げている最大の要因だと私は考えています。

実務の勘所:RMP提出「6ヶ月前」が勝負の分かれ目

ここからは、具体的な実務プロセスのお話をしましょう。 製造販売後DB調査を検討する場合、どのタイミングから動き出すべきか。


私は、「RMP(医薬品リスク管理計画)提出の、遅くとも6ヶ月前」とお伝えしています。

「RMPに載せる安全性検討事項ごとの調査計画なんて、ほんの1ページ程度の概要でしょう? なぜそんなに早く?」と思われるかもしれません。一般使用成績調査であれば、ある程度決まったフォーマットで記載できるため、直前の対応でも間に合ったかもしれません。

しかし、製販後DB調査においてその感覚は命取りになります。理由は大きく二つあります。

1.研究デザインのバリエーションと「オーダーメイド」性

一般使用成績調査と異なり、製販後DB調査の研究デザインには超豊富なバリエーションがあります。 疾患定義、薬剤、副作用の性質ごとに、使用するデータベースの選定から統計解析手法まで、一つひとつ丁寧にオーダーメイドで設計しなければなりません。これには数ヶ月という時間がかかります。

2.「実現可能性(Feasibility)」の線は極めて細い

これが最も恐ろしい点です。

製販後DB調査において対応可能なリサーチクエスチョンというのは、実はそう多くありません。例えば、頭に浮かんだリサーチクエスチョンが100個あったとして、そのうち「日本の既存データベースを用いて、妥当な研究として実施可能」なものは、1個あるかないか。それほど実現可能性の線は細いのです。


この細い線を見つけ出すためには、極めて入念な実現可能性調査(Feasibility Study)が必要になります。

もし、十分な調査をせずに「とりあえずDB調査をやります」とRMPに記載して提出したとします。

その後、いざ詳細なプロトコルを作ろうとした段階で「実現可能性がなくて解析できませんでした」となったらどうなるでしょうか。 RMPに記載済みの方針を「やっぱりできませんでした」と取り下げることは、製薬企業にとって規制当局からの信頼を損なう大きなダメージとなります。


ちなみに、RMP提出段階で「シノプシス(研究概要)」も提出してね、と規制当局から言われることがあります。というか、「言われる」という前提で準備を勧めた方が良いでしょう。

そして、シノプシスは「研究概要」ですから、概要を書くためにはやっぱりフルで書かれたプロトコールが必要になるのです。

プロトコルが頭の中で完成しているか?

適切な実現可能性調査を行うためには、「フルのプロトコルが頭の中で描けている」必要があります。

対象集団の定義、曝露、アウトカム、比較群、追跡期間……これらが明確に定まっていなければ、「その研究に実現可能性があるか」を確認することすらできないからです。

RMP上の記載はわずか1ページでも、その背景には数十ページに及ぶ詳細なプロトコル案と、確固たる実現可能性の裏付けが存在していなければなりません。

だからこそ、RMP提出の半年前からの準備が必要不可欠なのです。

今後のスタンダード:全例調査の前に「DB調査の可否」を問われる

私の見立てでは、今後、規制当局はあらゆる安全性検討事項について、まず「製販後DB調査が可能かどうか」のアセスメント結果を求めてくるようになるでしょう。

もし一般使用成績調査を提案した際、規制当局から「製販後DB調査の可能性は検討しましたか?」と照会事項が飛んできたとします。

回答期限は通常数日から2週間程度。その短期間で、ゼロから製販後DB調査の実現可能性調査を行うことは物理的に不可能です。

だからこそ、「使用成績調査が必要かもしれない」となった瞬間に疫学専門家をアサインし、製販後DB調査の可否をアセスメントしておくこと。 これが、これからの製薬企業におけるリスク管理のスタンダードになると考えています。

PMDA相談を乗り切る「逆算思考」のプロトコル作成

無事にRMPが承認された後、次は詳細なプロトコールを作成し、PMDAの「疫学相談」に臨みます。

RMP承認後、1年以内のアクション

製販後DB調査はデータが蓄積されてから解析を行うため、実際の解析作業は数年先になることもあります(再審査期間終了時など)。

しかし、プロトコル作成と合意形成を先延ばしにするのは危険です。 研究デザインは非常に複雑であり、規制当局との議論も難航が予想されます。RMP承認後、1年以内にはプロトコルを提出し、相談を開始すべきです。

事前面談と「逆算」のプロトコル

正式な疫学相談の前に、「事前面談」というプロセスがあります。ここでは、プロトコールが相談に値するレベルに達しているかがチェックされます。ここで何度もプッシュバックを受けないためのテクニックがあります。

それは、「PMDAからの指摘(ツッコミ)を逆算してプロトコールを書く」ことです。 私が数々の相談を経験する中で、当局が気にするポイントはある程度決まっていると感じています。例えば、

  • 共変量の選択根拠:なぜその因子を調整に用いるのか? なぜその他は含めないのか?

  • アウトカムの定義:その傷病名定義で本当に副作用を捕捉できるのか? バリデーションはあるか? 専門医の合意は?

  • 比較群の妥当性:なぜその薬剤と比較するのか? 適応の交絡(Confounding by indication)はどう制御するのか?

これらを「聞かれてから答える」のではなく、「聞かれることを見越して、あらかじめプロトコル内に防衛線(根拠)を記載しておく」こと。これが、相談をスムーズに進め、手戻りを防ぐための最大の秘訣です。

グローバル対応の落とし穴

外資系企業の場合、ここに「グローバル本社との調整」という難題が加わります。 グローバルの疫学チームは科学的に優秀ですが、必ずしも日本の「医療現場のリアリティ」や「規制当局のカルチャー」を理解しているわけではありません。

例えば、ある疾患のアウトカム定義について、米国では「検査値なしで診断されるのが一般的」だとしても、日本では「特定の検査が必須」である場合があります。この時、グローバルの指示通りに「検査値条件なし」で定義してしまうと、日本の医療実態と乖離したデータになってしまいます。

また、PMDAに対するコミュニケーションスタイルも、FDA(米国食品医薬品局)やEMA(欧州医薬品庁)へのそれとは異なります。

ここでグローバルの意見を鵜呑みにせず、「日本のデータと規制環境ではこれが正解である」と適切にプッシュバックできるかどうかも、担当者の重要な役割です。

まとめ

製販後DB調査は、今後間違いなく増加していく領域であり、避けては通れない道です。
しかし、その実務は一筋縄ではいきません。そのための秘訣があります。

「製造販売後DB調査の実務経験(特に規制当局対応経験)を持つ疫学専門家を、サポートではなく『リード』としてアサインすること」

彼あるいは彼女が、実現可能性調査を行い、プロトコルを書き、規制当局との照会事項対応をリードし、面談の場でも矢面に立つ。これぐらいの体制で臨まなければ、この複雑なプロセスを前に進めることは困難です。

  1. 早期着手: 「使用成績調査が必要かな」と思った瞬間から疫学専門家に相談する。

  2. 入念な準備:RMP提出時にシノプシス(研究概要)を作成し、提出後1年以内にフルプロトコルで相談に行く。

  3. 逆算思考: 規制当局の視点を理解し、論理武装されたプロトコルを作成する。

もし社内に適任者がいない場合は、私たちのような外部の専門家を頼るのも一つの選択です。私自身も多くの経験を積んできましたが、この領域は「経験知」がものを言う世界です。

科学的な誠実さと、実務的な泥臭さ。この両輪を回しながら、より信頼性の高いエビデンスを社会に届けていきましょう。

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