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【RWD1000本ノック】 製薬企業が買いたいRWDって、どんなRWD? - vol.07

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【RWD1000本ノック】 製薬企業が買いたいRWDって、どんなRWD? - vol.07

2026.01.18

あなたは医療データベース事業者の社員です。

自社データを製薬に買ってもらおうとやる気満々。しかし、どの製薬企業も「今はそういうデータは求めてないんだよね」と相手にしてくれません。

では一体、どんなデータを求めているのでしょうか?

この記事のまとめ

この記事を読むと分かること

  • 企業における購買意欲をかきたてるRWDの時代の変遷

この記事は誰に向けて書かれているか

  • 企業でRWDに関する業務に取り組んでいる人

  • 企業の疫学専門家になりたい人

すきとほる先生のRWD1000本ノック

Vol.1 そのRWD研究、企業でやると痛い目みませんか?
Vol.2 その製造販売後データベース調査、失敗します
Vol.3 なぜあなたの医療データベースは売れないのか - 「食材」を売るな、「料理」を売れ
Vol.4 RWD事業の成否は「1人目」で決まる - 採用すべきは“論文が書けるだけの研究者”ではない理由
Vol.5 なぜ製薬企業のRWD研究のプロトコールは40ページもあるのか
Vol.6 RWD研究で速やかにグローバル承認を獲得する方法を元グローバル疫学専門家が解説
Vol.7 製薬企業が買いたいRWDって、どんなRWD?(本記事)
Vol.8 RWD研究の外注で失敗しないために - 外注先を見極めろ

執筆者の紹介

氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の日本・グローバルにおいて疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究に従事。その後、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。

廣瀬直紀著.企業研究者の教科書

はじめに:製薬企業が「買いたい」と判断するRWDとは?

今回は、製薬企業が「買いたい」と思うリアルワールドデータとは一体どのようなものなのか、その本質について解説していきます。


私はこれまで、製薬企業の疫学専門家として、実際にどのようなデータを購入し活用するかという意思決定を行う立場にありました。

一方で、独立後は様々なデータベース事業者様のマーケティングや営業支援にも携わらせていただいております。


つまり、データを「買う側」の論理と、「売る側」の論理、その双方の視点を熟知した上で、このテーマについて深く掘り下げていけると考えています。


さて、今回のお題である「製薬企業が買いたいデータ」についてですが、皆様はこの問いに対する明確な答えをお持ちでしょうか。

これは非常に重要なポイントです。なぜなら、医療データベース事業者の方々からすれば、顧客である製薬企業が何を求めているのか、どの水準のサービスを欲しているのかを理解していなければ、当然ながら製品は売れないからです。


結論から申し上げます。製薬企業が欲しいデータ、これを端的に表現するならば「リサーチクエスチョンに答えられるデータ」です。


しかし、この「答えられる」という要件は、時代とともに変化してきました。

私個人の見解として、これまで三つの時代を経て、製薬企業が求めるデータの要件が変わってきたと感じています。

そして今、私たちは四つ目の時代へと足を踏み入れようとしています。


本稿では、データベース黎明期から未来にかけての四つの時代区分

  1. 「サンプルサイズの時代」

  2. 「レセプトのカバレッジの時代」

  3. 「変数のカバレッジの時代」

  4. 「真のリアルワールドデータの時代」

について詳説します。

第1の時代:サンプルサイズの時代(2015年〜2018年頃)

まず、データベース黎明期とも言える2015年から2018年頃を振り返ります。この頃は、まさに「サンプルサイズの時代」でした。

「大きいことは良いことだ」という幻想

当時の製薬企業の考え方は、「とにかく大きいサンプルサイズのデータが欲しい」という一点に集約されていました。

これには明確な背景があります。そもそもこの当時、製薬企業が購入して利用できるデータといえば、レセプトデータくらいしか存在しなかったのです。選択肢としては、病院から集めたDPCデータ、もしくは健保から収集したレセプトデータのいずれかしかありませんでした。

製薬企業側からすれば、市場に流通しているデータがレセプトデータという1種類しかない以上、その優劣を判断する基準は「大きさ」で戦うしかありません。

「うちのデータはこれだけ巨大です」「これだけ将来的に数が増えていきます」といったセールスが展開されていたわけです。

これに対し、製薬企業側も「なるほど、大きいデータは良いデータなんだ」という認識を持ってしまった。つまり、売り手側が「サンプルサイズ」を武器に主張したことで、買い手である製薬企業の視点もそこに固定化されてしまったのです(売り手が売れる強みを訴求するのはビジネス的に当然の話であって、これは判断できない方に責任があります)。

サンプルサイズは「最後の1ピース」に過ぎない

ここで強調しておきたいのは、サンプルサイズの大小だけで購買を決定するのは大きな誤りであるという点です。

疫学専門家の視点から言えば、サンプルサイズというのは、研究の実現可能性を考える上で、本当に最後の最後に検討すればよい「1ピース」に過ぎません。


研究においてもっと大切な要素は他にあります。 例えば、そのリサーチクエスチョンにおいて:

  • 対象にしたい集団(Population)が適切に抽出できるのか?

  • 曝露(Exposure)が定義できるのか?

  • アウトカム(Outcome)が定義できるのか?

  • 適切な比較群(Control)が手に入るのか?

こうした質的(Qualitative)な実現可能性をまず調査し、これらを満たして初めて、量的(Quantitative)にサンプルサイズが足りるかどうかを確認するのです。


しかし、この時代に「サンプルサイズの大小」でデータベースの価値を語ってきてしまった弊害は、現在も色濃く残っています。


未だに製薬企業の方の中には「サンプルサイズが小さいとダメだ」という誤った認識をお持ちの方も多く、データベース事業者さんが苦労されている場面をよく目にします。サンプルサイズは小さいけれど、優れてるデータベースはたくさんあるのです。

そんなデータベースを得るためにはしっかりと、「なぜサンプルサイズだけで判断すべきではないのか」「もっと大切な質的要素がある」ということを啓蒙、すなわちエジュケーションしていかなければなりません。

顧客を教育し、ナーチャリングしていく姿勢が必要不可欠であると考えます。

第2の時代:レセプトのカバレッジの時代(2018年〜2021年頃)

サンプルサイズの時代の次に到来したのが、2018年から2021年頃にかけての「レセプトのカバレッジの時代」です。

「できない研究」への気づきと横の広がり

第1世代であるサンプルサイズの時代には、健保のレセプトデータやDPCデータが主たるものでした。しかし、これだけでは実施できない研究があることが明確になってきました。

具体的に言えば、健保データというのは、比較的大きな企業の被用者(社員)とその被扶養者(配偶者や子供など)で構成されています。これを疫学的な「集団」として見ると、特に疾病を観察する集団としてはかなりバイアスのかかった、外れた集団であると言わざるを得ません。

なぜなら、そもそも彼らは「働けている(もしくはその被扶養者)」からです。末期の癌などを患っていれば働くことは困難ですから、そうした患者層はデータに含まれにくくなります。また、年齢構成としても高齢者がほとんど存在しません。


その結果、「より後期高齢者のデータが欲しい」「健保だけでなく国保(国民健康保険)のデータも欲しい」というニーズが生まれました。つまり、日本国民全体を代表するようなデータを構築するために、レセプトのカバレッジを広げていこうという動きです。 サンプルサイズが「縦の広がり」だとするならば、レセプトのカバレッジは「横の広がり」と言えます。この時代は、データのバリューがカバレッジの広さで決まり、そこをPRしていた時代でした。

差別化要因の喪失(コモディティ化)

しかし現在、大手データベース会社であれば、後期高齢者医療制度も、国保も、健保も、概ねすべて取得できるようになってきました。

その結果、もはや「カバレッジの広さ」は議論の対象ではなくなり、ユニークセリングポイント(USP)としての機能を発揮できなくなっています。

第3の時代:変数のカバレッジの時代(現在)

では、現在はどのような時代にあるのか。それは「変数のカバレッジの時代」です。現在のデータベース群雄割拠の環境において、ここが最大の「売りどころ」になっています。

リサーチクエスチョンからの逆算

「変数のカバレッジ」とは、すなわち「他では取れない、ユニークかつ重要な変数を集められている」というアピールです。

例えば、抗がん剤の有効性を検証したいというリサーチクエスチョンがあったとします。 この際、まず「がんの重症度」が分からなければ、背景調整ができないため、抗がん剤の適切な評価(比較)ができません。 さらに有効性を見るためには、以下のようなアウトカム情報が必須となります。

  • OS(Overall Survival:全生存期間)

  • PFS(Progression-Free Survival:無増悪生存期間)

  • Response Rate(奏効率)

  • 遺伝子変異の情報

これらがデータとして確認できなければ、解像度の高い抗がん剤の使用実態研究は不可能です。

逆に言えば、「これらの変数が見れています」と言えれば、製薬企業にとって非常に買いやすい、魅力的なデータとなります。なぜなら、「あなたのリサーチクエスチョンに答えられるデータはこれです」というセールスが成立するからです。

データベースの個別化・専門化

この流れを受けて、データベースは汎用的なものから、より個別化されたものへと進化しています。

ありとあらゆる変数をすべて集めてくることは現実的に不可能です。

そのため、ある特定の疾病領域において求められる変数を重点的に集めていく戦略が取られます。がん領域であれば先述のような変数を網羅したレジストリなどが該当しますし、PHR(Personal Health Record:患者さんがアプリやウェアラブルデバイスで入力する情報)なども、より個別化・特化してきています。


現在は、単なるサンプルサイズの大小でもなく、レセプトのカバレッジでもなく、「製薬企業が持っているであろうリサーチクエスチョンから逆算して、必要な変数を集めて売りに行く」ことが、売れるデータベースの条件になっていると考えられます。

第4の時代:真のリアルワールドデータの時代(未来)

変数のカバレッジ競争も、いずれ一通りのデータが集まれば飽和するでしょう。それが数年後か十数年後かは分かりませんが、その次に到来するのが「真のリアルワールドデータの時代」です。

「リアルクリニカルデータ」から「リアルワールドデータ」へ

ここで重要な定義の再確認をします。現在、製薬企業が主に行っているデータベース研究は、厳密には「リアルワールドデータ」ではなく、「リアルクリニカルデータ」を用いた研究です。

医療機関のカルテや保険のレセプト、つまり「病気になった患者のデータ」だけを集めて分析しているに過ぎません。しかし、病気になって病院にいる時間というのは、患者の生活(ワールド)のごく一部でしかありません。


そんな中、最近ではアプリやウェアラブルデバイスによって、クリニカルの外側、すなわち日常生活でのデータを収集・販売するサービスが生まれ始めています。

これに対し、「クリニカルデータと結合しなければ使えないではないか」という指摘もあるでしょう。確かに、疾患の診断歴も薬剤投与歴もない状態で、単に日常生活のデータを集めても医学的な価値は限定的です。

異種データの結合が拓く未来

しかし、現在はマイナンバーカード等の基盤を活用することで、これらのデータを連結することが技術的に可能になりつつあります。 日常生活のPHRと、医療機関のリアルクリニカルデータ。これらが「ガッチャンコ」と繋がることによって、初めて真の意味での「リアルワールドデータ」が完成するのです。

これこそが、未来に到来する新しいデータの時代であると私は確信しています。

まとめ

本日は「製薬企業が買いたいと思うリアルワールドデータとは何か」について、データの時代の変遷という観点から解説しました。

  1. サンプルサイズの時代:とにかく「N数」の大きさが重視された黎明期。

  2. レセプトのカバレッジの時代:健保・国保・高齢者など、集団の網羅性が問われた時代。

  3. 変数のカバレッジの時代(現在):リサーチクエスチョンに直結する、深度ある変数の有無が勝負の時代。

  4. 真のリアルワールドデータの時代(未来):クリニカルデータと生活データが連結し、真の患者像を描き出す時代。

データベース事業者の方々は、自社のデータがどのフェーズにあり、顧客である製薬企業が今何を求めているのかを正確に把握することが、ビジネス成功の鍵となるでしょう。

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