
糖尿病の定期外来で採血をするとeGFRが48。
高血圧で通院中の患者さんに尿検査をしたら、尿蛋白が1+。
外科外来に通院中の患者さんから、「健診で腎機能が悪いと言われました」と相談された。
どれも外来では珍しくない状況です。先生方はこの後どうされますか?
症状はない。患者さんも困っていない。今日患者さんが来た主目的は別にある。あまり腎臓の話は深入りしなくてもいいんじゃないか?忙しい外来・・・、沢山の患者さんが診察を外で待っている・・・こう感じてしまうことは自然なのかもしれません。
しかし、CKD(慢性腎臓病:Chronic Kidney Disease)の多くは腎臓内科外来で見つかるものではありません。非腎臓内科医の先生方の外来に潜んでいるのです。必要なのは、CKDを自分だけで完璧に管理することではありません。まず気づくこと。
そして、患者さんに意味を伝え、必要なときに腎臓内科へつなぐことです。第1回では、細かな管理方法に入る前に、なぜCKD診療が非腎臓内科医にとって避けて通れないのかを整理します。

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CKDが腎臓内科以外のさまざまな診療場面でみつかる理由
早期の慢性腎臓病が患者さんに与える影響
非腎臓内科医の先生が最初に担う役割と、この連載で扱う全体像
診療科を問わず、採血や尿検査で腎機能の異常を目にしたことがある方
腎機能の異常をみても、無症状だからつい対応を後回しにしがちな方
CKDを専門外の病気ではなく、自分の診療の中にある問題として捉え直したい方
vol.1 「無症状だから次回でよいか」が危ない? 非専門医にCKD診療が求められる理由(本記事)
氏名:齋木 良介
所属:三重大学医学部附属病院 血液浄化療法部
自己紹介:腎臓内科医として腎臓病診療や急性期血液浄化療法の診療に携わる。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」の作成にSR委員として関わった経験から、研究知見を臨床判断に結びつける視点を大切にしている。一方で、慢性腎臓病(CKD)診療では、エビデンスに基づく治療だけでなく、生活習慣病予防や減塩など患者さん自身の行動が重要であることから、行動変容をどう支えるかも大切に考えて診療している。知識が行動を変えるという信念から、腎臓病と向き合う患者さんやそのご家族に向けてブログサイト「のぼじんと一歩ずつ」(https://kaidan-jinzou.com/)で、検査値の見かた・食事・運動・生活習慣の考えかたをわかりやすく発信している。
CKDはまれな疾患ではありません。
日本では、CKD患者さんは成人の約5人に1人に相当すると推定されています(Imai et al. 2007)。
少し大きすぎるように聞こえるでしょうか?しかし、日々の外来に置き換えて考えてみると実感しやすくなります。
糖尿病で通院している患者さんの尿アルブミンが陽性だった。
高血圧で診ている患者さんのeGFRが50台になっていた。
高齢の患者さんの腰痛にNSAIDsを処方しようとして腎機能を確認すると、思ったより低かった。
健診で尿蛋白を指摘され、相談に来た患者さんがいた。
何も腎臓の病気について患者さんは話されていなかったが、手術前の採血をするとeGFRが60をきっていた。
このような場面は、一般内科、糖尿病内科、循環器内科、消化器内科、総合診療、老年診療などの内科診療科だけに限りません。外科系診療の周術期管理、整形外科や疼痛診療での鎮痛薬処方、がん薬物療法、造影検査など、内科以外でも腎機能を考える必要がある場面は数多くあります。
そうです、CKDは「腎臓内科外来で初めてみつかる病気」というより、腎臓内科外来に患者さんが来るずっと前から、さまざまな診療科の患者さんの中に存在している病態なのです。

腎臓は、他の臓器と切り離して考えにくい臓器です。そのため、さまざまな診療科の先生が腎機能の問題に出会います。たとえば循環器診療では、心不全と腎機能低下はしばしば同じ患者さんの中で重なります。
心機能の悪化が腎機能を悪くすることもあれば、腎機能低下や体液過剰、貧血、ミネラル代謝異常が心血管系に影響することもあります。このような心臓と腎臓の相互作用は、心腎症候群として分類され、病態、診断、治療戦略が整理されています(Rangaswami et al. 2019)。
肝疾患の領域でも、腎臓は重要な臓器です。肝硬変や腹水を背景に腎血流や循環動態が変化し、構造的な腎障害が明らかでないにもかかわらず腎機能が悪化する病態として、肝腎症候群が知られています(Simonetto et al. 2020)。
ここに挙げた以外にも、多くの臓器と腎臓との関連が示されています。
大切なのは、循環器、消化器、膠原病、感染症、集中治療、総合診療など、腎臓以外の診療でも「腎機能をどう見るか」が臨床判断に入り込んでくる、という事実です。
CKDは、腎臓内科の中だけで完結する病名ではありません。
心不全の利尿薬調整
肝疾患患者さんのAKI評価
膠原病診療での尿所見
感染症や脱水時の薬剤調整
こうした場面で、腎臓の見方を少し知っているだけで、患者さんのリスクを早く拾いやすくなります。
日本腎臓学会のCKD診療ガイド2024も、CKD診療を腎臓専門医だけの高度専門領域としてではなく、早期発見、透析予防、心血管病予防、生命予後改善につながる実践的な診療として位置づけています(Japanese Society of Nephrology 2024)。
Japanese Society of Nephrology. (2024). CKD診療ガイド2024. 東京医学社.
つまり、CKDは「専門外だから見なくてよいもの」ではありません。
自分の日常診療で扱っている疾患や医療行為の延長線上にあり、少し視線をずらすだけで見えてくる問題です。

最初から腎臓専門医と同じ深さで診断する必要はありません。まずは「これは腎臓の問題として扱う必要がある」と気づくこと。
ここが、非腎臓内科医がCKD診療に関わる最初の入口です。
CKD診療の難しさは、患者さんが困っていないことにあります。eGFR 50台の患者さんは、多くの場合、何も自覚症状がありません。尿蛋白が出ていても、痛みもありません。
CKDは、患者さんによってはかなり進行するまで自覚症状に乏しいことがあります。Herringtonらは、CKDの多くは症状ではなく、血液・尿検査によって無症状の段階からみつける病態であると説明しています(Herrington et al. 2026)。
つまり、CKDは症状を待って見つける病気ではなく、症状がない段階から検査で拾い上げる病気です。自覚症状が乏しいことを示す研究として、CKD患者さんの腎臓病の認知に関する研究があります。
米国NHANESを用いた研究では、CKD stage 3の人で自分の腎臓病を認識している割合は1割弱にとどまっていました(Plantinga et al. 2008)。
米国の報告であり、この数字が日本の外来診療にそのまま当てはまる訳ではありません。ただ、軽度から中等度のCKDが患者さん自身に認識されにくい、という感覚は多くの外来診療で共有できるはずです。
CKDは、まったく知られていない病気ではありません。診断基準もクリアでわかりやすいです。そして、多くの先生は、eGFRが低いことや尿蛋白が出ていることが腎臓に関係する、と理解しています。
それでも外来では、CKDが後回しになりやすい。ここが難しいところです。外来には、その日の主訴があります。血糖、血圧、脂質、心不全症状、感染症、薬の副作用、患者さんの生活上の困りごとがあります。
その中で、症状のないCKDは緊急性が低く見えます。「次回でよいか」となるものの、次回も別の問題解決のために時間を割かなければならない。こうして、検査値には出ていたCKDが、診療上のテーマにならないまま時間が過ぎることがあります。
この問題は、単にCKDの知識を増やせば解決するとは限りません。
医師へのインタビューでは、多忙な診療の中で、長期的な利益がすぐには見えない腎保護薬の開始は「緊急ではない」と判断され、優先順位が下がりやすいことが語られています(Zheng et al. 2026)。
実際、薬剤開始を促す受動的な推奨は閲覧されることが少なかった一方、直近の薬剤安全性に関わる能動的な警告は受け入れられやすいという違いがありました。CKDが見逃される背景には「知らない」だけでなく、限られた診療時間の中で次回へ繰り越されるという問題があることを示唆しています。
大事なのは、eGFR低下や尿蛋白を「腎臓の話として一度立ち止まるサイン」として扱うことです。

症状が乏しいCKDでは、検査値が診療の入口になります。
代表的なのがeGFRと尿蛋白、あるいは尿アルブミンです。eGFRは、腎臓がいまどれくらいろ過できているかを示す目安です。尿蛋白や尿アルブミンは、腎臓のフィルターに負荷や障害があることを示すサインです。
KDIGO 2024では、CKDを原因、GFR区分、アルブミン尿区分の組み合わせで捉えるCGA分類が基本に置かれています(KDIGO 2024)。
ここで見落としたくないのは、CKDの問題は「いずれ透析になるかどうか」だけではない、という点です。CKD患者さんの多くは、腎不全が進む前に、心血管疾患によって障害を負ったり、早期に死亡したりするリスクが高いと整理されています(Herrington et al. 2026)。
一般集団コホートのメタ解析では、eGFR低下とアルブミン尿増加は、それぞれ独立して全死亡および心血管死亡と関連していました(Matsushita et al. 2010)。
さらに、114コホート、約2,750万人を対象とした個人データメタ解析でも、軽度から中等度の腎機能低下の段階から、さまざまな有害転帰との関連が認められました。
eGFR 90–104 mL/min/1.73 m²かつ尿アルブミン・クレアチニン比(UACR)10 mg/g未満の人と比べると、UACRが同じく10 mg/g未満でも、eGFR 45–59 mL/min/1.73 m²の人では全死亡リスクが1.3倍、心血管死亡リスクが1.4倍でした(Grams et al. 2023)。
透析が近い段階になって初めてリスクが高まるのではなく、症状に乏しいCKDの早期から、eGFRと尿蛋白・アルブミン尿は予後に関わるということです。eGFR低下や尿蛋白を拾うことは、透析を予防するためだけの入口ではありません。
心筋梗塞、脳卒中、心不全、突然死などを含む心血管リスクや全死亡のリスクを、外来の早い段階で見えるようにする入口でもあるのです。

非腎臓内科医がCKDを診る、と言うと、負担が大きく聞こえるかもしれません。
でも大丈夫です。腎臓病の鑑別診断を深く詰め、腎生検の適応を考え、すべての合併症管理まで抱え込む必要はありません。入口で拾い、確かめ、説明し、必要なときにつなぐことです。
拾うとは、eGFR低下、尿蛋白、尿潜血、Cr上昇に気づくことです。確かめるとは、前回値との比較、再検、一時的な脱水や薬剤の影響を確認することです。説明するとは、「症状がないから大丈夫」ではなく、「症状がないから検査で追う」と患者さんに伝えることです。
つなぐとは、自院で経過を見るのか、腎臓内科に相談するのかを判断することです。

腎臓内科に紹介するかどうか、どのタイミングで相談するか、どこまで自院で追うか。その具体的な判断は、この連載の第6回で改めて扱います。第1回ではまず、非腎臓内科医が入口に立つこと自体に価値がある、と押さえておきます。
CKDは、腎臓内科だけの病気ではありません。
内科で診る生活習慣病や心血管疾患、高齢者診療だけでなく、診療科を問わない多様な場面に存在しています。そしてCKDは、症状がないからこそ見逃されやすい病態です。
患者さんが困ってからでは遅いことがあります。eGFRや尿蛋白という検査値をきっかけに、早い段階で気づき、患者さんに意味を伝え、必要なら腎臓内科へつなぐことを目指しましょう。
次回以降は、第1回で共有した入口の感覚を、外来で使える地図に変えていきます。第2回では、CKD診療で何を目指すのかを整理します。第3回では、ガイドラインを読んでも外来が回りにくい理由を扱います。
すべてを同じ重さで診るのではなく、今日の外来で何を優先するか。患者さんの心配事と医師の問題意識をどう統合するか。CKD診療の優先順位づけを考えます。
第4回ではeGFR、第5回では尿蛋白を扱います。第1回では「入口のサイン」として触れた検査値を、実際の外来でどう読むかに落とし込みます。そして第6回では、腎臓内科に相談すべきタイミングを整理します。
第1回の目的は、CKDを完璧に管理できるようになることではありません。「これは自分の外来にもある問題だ」と気づくことです。CKD診療の入口は、腎臓内科外来よりかなり手前にあります。
その入口で患者さんをつなぎとめることから、CKD診療は始まります。

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非腎臓内科医のためのCKD診療
vol.1 「無症状だから次回でよいか」が危ない? 非専門医にCKD診療が求められる理由(本記事)