
最終回である今回のテーマは「薬価制度改革」です。
令和8年度の薬価制度改革が4月に施行されました。診療報酬本体は6月施行ですが、薬価改定は4月から先行して実施されています。薬価は2018年の「抜本改革」で、毎年改定が実施されるようになりました。
以来、改定のたびに、多くの薬の価格は下がる構造となっています。2026年は「抜本改革」ではありませんが、この「改革」で、影響を受ける企業も多くあります。
今回、登場するプレイヤーごとに「明(追い風)」と「暗(向かい風)」を見ていきます。
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医療費と薬剤費の伸びの関係
高額薬は薬剤費を押し上げているのか
オプジーボがもたらしたもの
薬価に馴染みのない医療従事者、医療機関事務員の方
製薬などのヘルスケア関連企業に在籍していて、薬価に馴染みのない方
薬価改定のニュースをより深く理解したい方
vol.1 薬の値段は「誰が」決めているのか
vol.2 なぜ3億円の薬が生まれるのか - 薬の値段の決まり方を徹底解説
vol.3 あの薬はなぜ"うまい棒"よりも安いのか
vol.4 ジェネリック医薬品は「安かろう悪かろう」なのか
vol.5 高額薬は医療財政を破綻させるの
vol.6 2026年の薬価制度改革で何が変わったのか(本記事)
氏名:間宮弘晃(https://x.com/MamiyaHiroaki)
所属:立命館大学薬学部 准教授
自己紹介:薬科学博士(東京大学)、公衆衛生学修士(ハーバード大学)。岐阜薬科大学卒業後、厚生労働省に入省。医政局経済課(当時)で薬価の専門官として200品目以上の新薬の算定、診療報酬改定に携わる。その後、医薬局にて新型コロナウイルス感染症時の審査調整官、京都大学iPS細胞研究所への出向等を経て、2023年3月に厚生労働省退職。2025年4月より現職。1985年生まれ、岐阜県出身。
2026年度改定の数字を、ざっと確認しましょう。診療報酬本体は +3.09%(令和8・9年度の3年度平均)で、施行は6月。30年ぶりの高い改定率として注目されました。
薬価は 医療費ベースで▲0.86%(薬剤費ベースで▲4.02%、薬剤費として約4,000億円の引き下げ)となっています。
医療費ベースと薬剤費ベースは分母が異なり、医療費ベースは医療費全体が分母で、薬剤費ベースは薬剤費全体が分母となるため、薬の引き下げ幅として見る際は薬剤費ベースの方が分かりやすいかもしれません。診療報酬の本体はプラス、薬価はマイナス。
同じ「診療報酬」の枠の中で、本体は引き上げ、薬価は引き下げという内容になっています。年末に診療報酬がプラス改定かどうかが報道されますが、薬価については全体としてマイナス改定が続いています。
薬価制度改革の内容が細かい内容も含めて多岐に渡るので、今回は主に扱っている医薬品の種類に応じたプレイヤー目線で見ていきたいと思います。
医薬品の種類に応じたプレイヤー
① 新薬メーカー(特許で守られた、新しい薬)
② 長期収載品メーカー(特許が切れた後も売られている、先発品)
③ AGメーカー(オーソライズド・ジェネリック。先発企業の許諾を得た後発品)
④ 後発品・バイオシミラーメーカー(いわゆるジェネリックと、バイオ医薬品の後続品)
同じ薬価制度改革でも、この4者が受ける影響はまったく違います。
追い風もあれば、向かい風もある状況です。
結論からお話すると、③AGが一番向かい風を受けており、業態としては今後かなり厳しいですが、主な改定内容を順番に見ていきましょう。
まずは革新的新薬から。
今回、新薬には追い風が、いくつか吹きました。最大のものが、市場拡大再算定の「共連れ」廃止です。市場拡大再算定とは、売れすぎた薬の価格を引き下げるしくみです。
これまでは、ある薬が引き下げられると、似た薬(類似品)まで一緒に引き下げられていました。
これが俗にいう「共連れ」です。自分は何もしていないのに、他社の類薬が売れたせいで値下げされる。
企業から見れば、収益の予測が立てにくい、厄介な存在でした。今回、この共連れが廃止されており、再算定は「自分の薬の販売額」で判断されることになりました。
また、小児用の開発を促す観点から、市場性加算(Ⅰ)と小児加算の併加算が可能になることや、ガイドライン等で標準的治療法になった際の改定時加算など、細かなプラスのルール変更も行われています。
今回新薬は向かい風もあります。そのひとつが、外国平均価格調整の見直しです。
新薬の値段を決める時、日本は米・英・独・仏の4カ国の価格を参照します。
高すぎても安すぎても、その平均に寄せる、という調整です。各国を見ていくと、アメリカは価格が高すぎて、しばしば“外れ値”として平均の計算に組み入れられません。
フランスは、収載が比較的遅い国なので、タイミングによっては、参照できる価格が得にくいことがあります。
すると、引き上げ方向で実際に頼りになるのは、英国とドイツの2カ国に絞られてきます。今回、そのドイツについて、「価格交渉後の価格」を参照することになりました。
ドイツでは、上市の後に、追加的有用性の評価と価格交渉を経て、償還価格が決まります(AMNOGと呼ばれるしくみです)。上市直後の価格ではなく、この交渉後の価格を参照することになれば、日本の新薬の値付けも、上がりにくくなります。
外国平均価格調整において頼みの綱だったドイツが交渉後価格でしか見られないのは、新薬メーカーには地味に痛い変更となります。
また、追い風か向かい風どちらに分類するか悩ましいですが、今回の改定で市場拡大再算定の特例は「持続可能性特例価格調整」に、新薬創出・適応外薬解消等促進加算は「革新的新薬薬価維持制度」に名称が変更されています。
長期収載品は、特許が切れた後も売られ続けている、先発品たちです。ここは、ほぼ全方位の向かい風となっています。
中心にあるのが、G1ルールの見直しです。以前のvolでもご紹介しましたが、G1ルールとは、長期収載品の価格を、段階的に後発品の水準まで引き下げるしくみです。
今回、後発品が発売されてから5年を経過した長期収載品は、後発品への置き換わり具合(置換率)にかかわらず、後発品の平均的な価格を基準に引き下げられることになりました。
これまで置換率などで分かれていた区分(Z2・G2)は廃止され、ルールはG1に一本化されます。さらに、引き下げの下限や円滑実施措置といった“緩衝材”も、廃止の方向です。
また、バイオシミラーが出ている先行品(バイオ先行品)も、新たにG1の対象になりました。加えて、2024年から始まった選定療養もあります。
後発品があるのに先発品を希望すると、差額の一部を患者が負担するしくみです。新薬メーカーは、長期収載品のビジネスから脱却すべきとの要請から、これまでも長期収載品には厳しいルールが多かったですが、それが加速した形となっています。
AGは、オーソライズドジェネリックの略で、先発企業の許諾を受けて作られる後発品のことです。
後発品のカテゴリーになるのですが、今回はピンポイントで強い向かい風の影響を受けるため別立てにしています。AGは、先発品と同じ原薬・製法で作られることが多く、いわば先発公認のジェネリックです。
従来は、先発品と同じものとして、患者にも受け入れられやすく、後発品のシェア拡大などに寄与している面もあり、ほかの後発品より少し有利な立場にありました。
ここに、今回、大きなメスが入り、新しく収載されるAGは、先発品と同じ薬価で算定されることになりました。
バイオAGも同様に、バイオ先行品と同額です。さらに、同額となったAGと先発品(バイオAGとバイオ先行品)は、改定のたびに加重平均で価格帯がまとめられていきます。
他の通常の後発品と比べて高い価格帯になり、長期収載品を売り続けるのと変わらないため、価格メリットが出なくなれば、AGというビジネスモデルそのものが、成り立ちにくくなります。
今回のメスには背景事情があります。先行品の企業側がAG・バイオAGを戦略的に用いることで、後発品やバイオシミラーを手がける企業の参入判断に影響し得るという問題が、かねて指摘されてきました。
例えば、AGが承認を取得することで、シェアが取れないだろうと他社の後発品メーカーが諦めていたところ、AGは承認を取っただけで上市せず、長期収載品を売り続けるような場合です。
この場合は、出せるはずの後発品が出ないことで、医療財政的にも市場競争的にも望ましい姿ではありません。
そのため、今回の同額算定には、こうした競争環境の歪みを正し、市場を健全にするねらいも込められています。AGにとっては、立ち位置の見直しを迫られる改定となっています。
今回、後発品・バイオシミラー(BS)メーカーには、追い風の側面があります。理由のひとつは、先ほどご紹介したAGです。
AGの価格メリットが消えれば、競争相手としての脅威は小さくなります。
AGへの逆風は、裏返せば後発品やBSにとっての追い風です。特に、バイオ製品では、先行品企業の許諾を受けた後続品はバイオAG、いわゆるバイオセイムとして扱われる一方、通常の後続品はバイオシミラーとして扱われます。
低分子化合物と異なり、物が完全に同一ではないため、AGにかなり有利な市場となっていました。今回、AGが先発品と同じ価格となったことで、今後AGを発売するメリットは大きく低下し、後発品やBSメーカーにとっては、より予見性の高い競争環境に近づく可能性があります。
加えて、安定供給を支えるしくみも手当てされ、最低薬価は引き上げられることになりました。
また、後発品はこれまで価格帯集約がされてきましたが、前回と今回の改定により、価格帯集約されない品目がルールとして整備されてきたため、他社が安売りすると価格帯集約で自社の薬価も下がってしまうことから脱却する余地が生まれました。
とはいえ、安定供給の問題が解決しているわけではなく、中間年改定により薬価下げのスピードが上がっているため、楽になったわけではありません。
これまでは、中間年改定を実施するかどうかは、その年に決められていました。
しかし昨年の年末の大臣折衝で、2027年度(令和9年度)の中間年改定の「着実な実施」が決まりました。かなり珍しいケースだったと思います。従前より、製薬業界は、「中間年改定の廃止」を求めています。ただ、廃止のハードルは高いかもしれません。
今回の本体引き上げは、賃上げ・物価対応とパッケージで決まったものであり、その財源として、中間年改定による薬価引き下げが当て込まれていると思われます。
パッケージの片方だけを覆すのは、現実には難しそうです。とはいえ、今後はどこまで改定を実施するか、どのルールを適用するかの条件闘争が行われることになるので、議論の動向に注目です。
一つ目は、米国の最恵国待遇(MFN)価格政策に関する対応です。
米国は、薬価を自由価格で売れる国だったため、薬価が他国の数倍で取引されていましたが、他の国の薬価を参考に公的医療制度における支払額や価格を抑えようとする政策が議論されています。
その際に日本の安い薬価が参照されるようになると、稼ぎ頭の米国の薬価が下がってしまうので、日本で上市しない方がまだ儲かることになってしまいます。
そのため、日本が参照されることのないよう、製薬企業が日本への新薬導入に慎重になり、ドラッグ・ロス等となるリスクがあるとの意見です。今回は特段手当がされておらず、引き続き検討することとされています。
二つ目は、費用対効果評価における価格調整範囲です。
こちらは、効果が変わらないのに費用が増加するような品目について、引き下げ幅を拡大するというものです。方針は示されているものの、技術的に検討が必要な事項があるため、2026年の秋を目指して検討が進められています。
三つ目は、革新的新薬の評価方法です。
新薬における原価計算方式については問題がいくつか指摘されており、革新的新薬の価値を正しく評価できていないとの業界からの指摘もあり、厚生労働科学研究において検討が行われております。
現行の比較薬の判断基準を拡大することなどが検討されており、2028年改定で案が示されることが見込まれます。
各プレイヤー別にみると、以下のとおりです。
新薬は追い風と向かい風が同居。
長期収載品は、ほぼ全方位の向かい風。
AGはビジネスモデルの転換を迫られ。
後発品・バイオシミラーは、相対的な追い風だが、安定供給は道半ば。
薬価改定全体としては従来と同様にマイナス改定でしたが、その内側では、革新的新薬、長期収載品、AG、後発品・バイオシミラーの間で、かなり明確な再配分が行われたと見ることができます。
今回は最終回で少し細かい各論でしたので、難しい部分は過去のvolに戻っていただけると理解が深まると思います。
全6回、おつきあいいただき、ありがとうございました。
ニュースの向こう側にある「しくみ」が、少しでも見えやすくなっていれば幸いです。
中央社会保険医療協議会(2025)「令和8年度薬価制度改革の骨子」(令和7年12月26日). https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001633475.pdf
厚生労働省. (2026). 令和8年度薬価改定について(令和8年3月5日). https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001696834.pdf
厚生労働省(2025)「令和8年度の診療報酬改定について(予算大臣折衝事項)」(令和7年12月24日).
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001620952.pdf

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