
こんにちは、mMEDICI株式会社代表取締役の廣瀬直紀です。
病院や大学では当たり前だった仕事の進め方が、企業では通用しない――。優れた専門性を持って転職したにもかかわらず、言葉遣いや周囲への接し方で思いがけず信頼を損ねてしまう医療職や研究者は少なくありません。
私自身、看護師や医学研究者、外資系製薬企業の疫学専門家として両方の現場を経験し、現在は医療職・研究職の転職支援を行っています。その中で強く感じてきたのは、医療・研究の世界と企業における「求められるマナーの違い」でした。
なぜ、評価の基準がこれほど異なるのでしょうか。どれほど高い専門性を持っていても、ビジネスパーソンとしての振る舞いが伴わなければ、組織でその力を十分に発揮することはできません。
本記事では、その背景にある構造的な違いを紐解き、企業で直面する具体的な場面を交えながら、専門性を成果につなげるためのビジネスマナーを解説していきます。
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医療現場や研究機関と企業とで、評価される基準や求められるマナーが異なる構造的な理由
上司や同僚とのやり取り、メール、会議など、転職後にマナーの違いに直面しやすい五つの具体的場面
入社前後に確認すべきポイントと、企業で自身の専門性を発揮・成果につなげるためにマナーが土台となる理由
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vol.1:医療職が知っておくべき企業転職の基本マナー
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。

こんにちは。mMEDICI株式会社代表取締役の廣瀬直紀です。
私は看護師として病棟で働いた後に、イーライリリーやジョンソン・エンド・ジョンソンなどの外資系製薬会社で疫学に関する仕事に携わってきました。現在はmMEDICI株式会社を経営しながら、医療職・研究職の方々が企業へ転職する際のキャリア支援も行っています。
医療職や研究者として働いてきた方が企業に転職すると、病院や大学では当たり前だった仕事の進め方が、企業では通用しないことがあります。言葉遣いや態度、仕事の依頼の仕方、会議での発言など、これまで特に問題にならなかった振る舞いが、思いがけず周囲の人を不快にさせたり、信頼を損ねたりする原因になり得ます。
私自身、医学研究者として、そして外資系製薬企業のグローバル部門で働く疫学専門家として、両方の世界を経験してきました。その中で強く感じてきたのは、医療職や研究者として求められる振る舞いと、企業で求められるビジネスマナーには、大きな違いがあるということです。
そして、このギャップを理解しないまま企業に転職すると、せっかく優れた専門性を持っていても、その能力を十分に発揮できなくなってしまうことがあります。
企業で働くためには、専門家としての知識や技術に加えて、ビジネスパーソンとしての振る舞いを身に付ける必要があるのです。
では、なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。今回は、まずその背景にある構造的な違いを説明し、実際にどのような場面でマナーの相違が現れるのかを、具体例を交えてお話ししていきたいと思います。
まず、お伝えしておきたいことがあります。
私が経験してきた企業、とりわけ大手のグローバル企業では、社員の言葉遣いや態度、周囲とのコミュニケーションに対して、非常に明確な基準が設けられていました。そして、その基準は、私が医療や研究の世界で経験してきたものとは、大きく異なる部分がありました。
例えば、医師として病院で働いている時には特に問題視されなかった言葉遣いや態度が、企業では非常に失礼な振る舞いとして受け取られることがあります。
同じことは、大学などの研究機関で働く研究者にも当てはまります。研究室の中で当たり前のように交わされていた言葉が、企業では威圧的な発言として受け取られたり、周囲の人々を不快にさせたりすることがあるのです。
もちろん、医療機関や大学でも、他者への敬意は欠かせませんし、チームワークも重要です。ハラスメントの防止は、どのような職場でも求められるものです。
しかし、組織の文化や専門職同士の関係性によって、日常的に許容されるコミュニケーションの方法には違いがあります。これまで慣れ親しんできた振る舞いが、新しい組織でも同じように受け入れられるとは限りません。
では、なぜ同じ人間が働く組織でありながら、これほどまでに求められるマナーが異なるのでしょうか。私は、その背景には、医療職・研究者と企業のビジネスパーソンでは、仕事において評価されるものの比重が大きく異なるという構造的な違いがあると考えています。
医療職や研究者というのは、その名の通り、専門家です。
医師であれば、医学的な知識や臨床経験、診断・治療に関する技術が求められます。薬剤師であれば薬学の専門知識が、看護師であれば看護の専門性がそれぞれ必要とされます。研究者であれば、その領域における深い知識や研究能力、優れた研究成果が評価の対象になります。
つまり、医療職や研究者というのは、専門性の高さそのものが、その人の価値として評価されやすい職業なのです。
例えば、ある医師が非常に優れた診断能力や手術技術を持っていたとしましょう。その医師が多少無愛想であったり、コミュニケーションが不得意であったりしても、専門家として高く評価されることは十分に考えられます。
研究者も同様です。世界的に優れた研究成果を生み出している研究者であれば、研究室の人々とのコミュニケーションが多少不得意であっても、その研究能力によって高い評価を受けることがあります。
特に医師の場合、専門的な判断や技術によって個人の価値が評価されるという点では、個人事業に近い側面もあると思います。もちろん病院という組織に所属し、他の医療職と協力しながら医療を提供するわけですが、その医師個人がどれだけ優れた専門性を持っているかが重要な評価軸になります。
研究者についても、共同研究や研究室の運営においてチームワークは欠かせませんが、研究業績や論文、研究費の獲得実績など、個人の専門性や成果に評価が集中しやすい構造があります。
一方、企業ではどうでしょうか。ここに、大きな違いがあります。
企業においても、専門性は非常に重要です。例えば、製薬企業で働く疫学専門家や生物統計家、データサイエンティストには、高度な専門知識が求められます。
しかし、企業においては、専門性の高さだけでその人が評価されるとは限りません。また、専門性と同じくらい、あるいはそれ以上に、チームの一員として仕事を進める能力が重視されることがあります。
これを、少し極端な例で説明してみましょう。仮に、仕事における評価を「専門性」と「チームプレー」という二つの軸に分けたとします。
私の感覚をあえて数字で表現すると、医療職や研究者として働く環境では、専門性が9、チームプレーが1という比率で評価される場面があるかもしれません。一方、企業では、専門性が3、チームプレーが7という比率になることもあるでしょう。
もちろん、これは実際の人事評価のデータに基づく数字ではなく、両者の違いをわかりやすくするための比喩です。医療機関においてもチーム医療は不可欠ですし、企業においても研究職などでは高度な専門性が強く評価されます。
実際の比重は職種や組織によって異なりますが、ここで伝えたいのは、企業に転職すると、これまで自分の強みだった専門性の高さだけでは、十分に評価されなくなる可能性があるということです。
例えば、非常に優秀な疫学専門家がいたとします。最新の研究論文にも精通しており、研究デザインや統計解析についても優れた知識を持っています。しかし、その人が周囲の同僚に対して高圧的な態度を取ったり、他部署からの依頼に協力しなかったり、会議で一方的に自分の意見を押し通したりしていたら、どうでしょうか。
企業では、たとえ専門家として優秀であっても、必ずしも高く評価されるとは限りません。むしろ、チーム全体の仕事を妨げていると判断される可能性もあります。
では、なぜ企業では、これほどまでにチームプレーが重視されるのでしょうか。
その理由を理解するためには、まず企業という組織の仕組みについて考えてみる必要があります。
例えば、病院の医局を考えてみましょう。規模は病院によって異なりますが、日常的に一緒に仕事を進める医師の集団は、比較的小さな単位で構成されていることが多いと思います。大学の研究室も同様で、研究室のメンバーは数人から数十人程度ということが一般的でしょう。
一方、大手企業、とりわけグローバル企業では、数万人、場合によっては数十万人という社員が働いています。そして、こうした社員が、異なる部署や国、多様な専門性を持ちながら、一つの企業の目的に向かって仕事をしているわけです。
例えば、製薬企業が一つの新薬を開発する場合を考えてみましょう。研究開発部門だけでも、基礎研究、臨床開発、生物統計、疫学、安全性評価など、多岐にわたる専門家が関わります。さらに、薬事、メディカルアフェアーズ、マーケティング、営業、法務、経理、人事など、多くの部門の人々が関わることになります。グローバル企業であれば、これらの部門が日本だけでなく、世界各国に存在しています。
こうした人々が、それぞれ自分の専門領域の都合だけを優先して仕事を進めていたら、どうなるでしょうか。おそらく、組織として一つの方向に進んでいくことは非常に難しくなるでしょう。
私は、企業というのは、非常に大きな船のようなものだと思っています。数万人、数十万人という人々が乗った大きな船を、一つの目的地に向かって進めていく。そのためには、全員が共通の方向を向き、共通の価値観やルールのもとで行動する必要があります。一人一人が自分の専門性だけを頼りに、独自の判断で仕事を進めてしまったら、この巨大な船を動かすことはできません。
だからこそ、企業では、チームプレーが非常に重視されるのです。
こうした背景から、多くの企業では、社員に対して共通の行動規範を設けています。英語では「Code of Conduct(コード・オブ・コンダクト)」などと呼ばれるものです。
行動規範とは、その企業に所属する社員が、どのような価値観を持ち、どのように振る舞い、どのようなルールに従って仕事を進めるべきかを定めたものです。例えば、他者に対して敬意を持って接すること、差別やハラスメントを行わないこと、情報を適切に管理すること、利益相反を適切に取り扱うことなどが含まれます。
特にグローバル企業では、異なる国籍や文化、専門性を持つ人々が一緒に働くため、こうした共通の行動規範が重要になります。例えば、日本では悪気なく使われている表現が、海外の同僚には差別的、あるいは威圧的な発言として受け取られることもあります。また、医療機関や研究機関では専門家の裁量に委ねられていた業務であっても、企業では事前の承認や決められた手続きが必要になることがあります。
行動規範は、企業として遵守すべき規則や価値観を定めたものです。一方、ビジネスマナーは、それらを土台として、日常的に周囲の人々と円滑に仕事を進めるための具体的な振る舞いだと考えるとわかりやすいでしょう。
企業がこうしたルールを重視するのは、数万人という異なる背景を持つ人々が、お互いに安心して働き、組織として成果を上げるためです。企業で求められるビジネスマナーとは、その組織の一員として、良好な協調関係を築くための振る舞いなのです。
そのため、ビジネスマナーには、言葉遣いや服装といった表面的な礼儀作法だけでなく、仕事の進め方や、他者との関係の築き方まで含まれます。
ここで、私が特に強調したいことがあります。
それは、企業で働く医師は、医師である以前にビジネスパーソンであり、企業で働く研究者は、研究者である以前にビジネスパーソンであるということです。
例えば、医師が製薬企業に転職したとしましょう。その方は、医師として豊富な臨床経験を持っているかもしれません。医学的な知識も、社内の誰よりも豊富かもしれません。
しかし、企業に入社した後も、病院で他の医療職に接していた時と同じ感覚で、周囲の同僚に対して一方的に指示を出したり、意見を述べたりしていたら、どうでしょうか。同僚からすると、「この人は、ずいぶん偉そうだな」と感じるかもしれません。
実際、専門家としての能力は高くても、企業の中で周囲の人々とうまく仕事を進められない人はいます。もちろん、医師に限った話ではありません。大学で長年研究を続けてきた研究者が、企業に転職した後も、自分の研究テーマや専門領域を中心に仕事を進めようとして、周囲と衝突してしまうことも考えられます。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。
私は、自分が置かれている立場を十分に切り替えられていないことが、一つの原因だと考えています。
病院で働いている時、その人は医師です。大学で働いている時、その人は研究者です。しかし、企業で働くのであれば、まず、その企業に所属するビジネスパーソンとしての役割を担います。その土台の上に、医師や研究者としての専門性が積み重なるわけです。
医師としての知識があるからこそ、医学的に適切な判断ができます。研究者としての能力があるからこそ、企業の研究開発に貢献できます。そして、そうした専門性を企業の中で十分に発揮するためには、他の社員と協力し、会社として目指す成果につなげていく必要があります。
企業では、自分一人が優れた専門家であることに加えて、その専門性を使ってチーム全体の成果を高めることが求められるのです。
これは、医療職や研究者が企業に転職する際に、ぜひ理解しておいていただきたい考え方です。
では、実際に企業で働き始めると、どのような場面でこうした違いに直面するのでしょうか。ここからは、企業でよく見られる五つの場面について、具体的にご紹介したいと思います。
まず、日々の業務における上司や同僚とのコミュニケーションです。
例えば、病院で医師として働いている時は、他の医療職に対して、比較的直接的な言葉で指示を出すことがあると思います。「この検査をお願いします」「この処置を先にやってください」といった具合です。医療現場では、患者さんの安全を守るために、迅速で明確な指示が必要な場面があります。
一方、企業では、相手が自分とは異なる部門や役割を持ち、別の業務を抱えていることも珍しくありません。そのため、同じように一方的な指示を出してしまうと、相手から高圧的に受け取られたり、十分な協力を得られなかったりすることがあります。
例えば、他部署の同僚に資料の作成をお願いする時です。「この資料、明日までに作っておいてください」と伝えるのと、「来週の会議で使用する資料について、明日までに作成していただくことは可能でしょうか。現在のご状況もあると思いますので、難しければご相談ください」と伝えるのでは、相手が受ける印象は大きく変わるでしょう。
もちろん、いつでも丁寧な言葉を長く並べればよいというわけではありません。大切なのは、相手の立場や業務状況を理解し、協力して仕事を進めようとする姿勢です。
また、上司との関係でも、企業特有のコミュニケーションが求められます。例えば、仕事の進捗状況を適切に報告すること、問題が発生した際には早めに相談すること、自分の専門領域に関する判断についても必要に応じて上司と認識を合わせることなどです。こうした報告・連絡・相談、いわゆる「報連相」のマナーについても、今後の連載で詳しく解説していきます。
次に、メールやチャットでのコミュニケーションです。
医療職や研究者の場合、日常業務で社内向けのビジネスメールを頻繁に書く機会が少なかった方もいると思います。例えば、研究者同士であれば、気心の知れた相手に対して、ごく短い文章でメールを送ることもあるでしょう。しかし、企業では、上司や同僚、他部署の社員、顧客など、様々な相手にメールを送ることになります。
そこでは、件名の付け方、宛名、敬語、依頼の仕方、返信のタイミング、CCの使い方など、様々なマナーが求められます。例えば、相手に仕事を依頼したにもかかわらず、いつまでに何をしてほしいのかが書かれていなければ、相手は困ってしまいます。また、何日もメールの返信をしなければ、相手の仕事が止まってしまうかもしれません。
私が特に重要だと思うのは、メールを受け取った相手が、次に何をすればよいのかを理解できるようにすることです。相手に確認してほしいのか、何かを決定してほしいのか、それとも単なる情報共有なのか。こうした点が明確であるだけでも、仕事の進めやすさは大きく変わります。
企業でのメールやチャットは、仕事を前に進めるための重要な手段です。このテーマについては、今後の記事で、具体的なメールの文例なども紹介しながら詳しく解説していきます。
会議も、違いが現れやすい場面です。
例えば、大学の研究室や学会では、研究内容について率直に批判し合うことがあります。「この研究デザインでは因果関係を評価できない」「この解析には重大な問題がある」といった指摘は、科学的な議論において重要です。しかし、企業の会議では、議論の目的や参加者の立場を踏まえた発言が求められます。
例えば、ある同僚が提案した企画に問題があったとしましょう。その際に、「こんな企画では意味がありません」と一方的に切り捨ててしまえば、相手は不快に感じるかもしれません。
一方で、「この企画について、費用対効果の観点から確認したい点があります。想定している成果と必要な投資について、もう少し整理できないでしょうか」と伝えれば、同じ懸念を共有しながら、建設的な議論につなげられるでしょう。
もちろん、科学的な誤りや重大なリスクについては、明確に指摘する必要があります。重要なのは、相手への敬意を保ちながら、必要な指摘を正確に伝えることです。
また、企業では会議の時間が限られていることも多いため、結論から話すことや、簡潔に意見を述べる姿勢が重視されます。研究発表であれば研究の背景や方法から順を追って丁寧に説明する場面もありますが、企業の会議では、最初に結論や判断事項を提示し、その後に根拠を説明したほうがよいこともあります。
こうした会議でのマナーについても、今後詳しく取り上げていきたいと思います。
顧客とのコミュニケーションも、企業で働くうえで重要です。
医療職であれば、患者さんやそのご家族と接してきた経験があると思います。研究者であれば、共同研究者や学会の関係者などとやり取りしてきた経験があるでしょう。こうした経験は、企業でも大いに活かすことができます。
ただ、企業では顧客との間に契約や対価の支払いが発生し、企業としての責任を負うことになります。例えば、顧客から何か質問を受けた際に、専門家として正しいことを説明するだけでは、十分とは限りません。相手が何を知りたいのか、何に困っているのか、どのような判断をしようとしているのかを理解したうえで、適切に説明する必要があります。
また、顧客からの依頼に対して、対応可能な範囲や期限を明確に伝えることも大切です。例えば、顧客から新しい解析を依頼された時、研究者としては、その解析が可能かどうか、どのような方法が適切かを考えると思います。しかし、企業ではそれに加えて、契約の範囲内なのか、追加費用が発生するのか、いつまでに納品できるのかといった点も考える必要があります。
医療や研究の専門家としての知識を、顧客にとって意味のある形で提供していく。そのためには、専門知識に加えて、ビジネスパーソンとしてのコミュニケーション能力が求められます。
最後に、グローバル企業でのコミュニケーションについても触れておきたいと思います。
製薬企業などのグローバル企業では、海外の上司や同僚と日常的に仕事をすることがあります。そこでは、言語の違いだけでなく、文化や価値観の違いにも直面します。
例えば、日本では相手に配慮して遠回しに意見を伝えることがありますが、海外の同僚に対しては、より明確に自分の意見を伝えたほうがよい場面もあります。
また、会議の中で発言しないことが、必ずしも謙虚さとして受け取られるとは限りません。自分の意見を持っていない、あるいは議論に貢献していないと判断される可能性もあります。
私自身、グローバルチームで仕事をする中で、相手に自分の意図を正確に伝えることや、お互いの認識を丁寧に合わせることの重要性を感じてきました。英語でのコミュニケーションというと、どうしても語学力に目が向きがちですが、実際の仕事では、何を伝えたいのか、相手に何をしてほしいのか、どこまで合意できているのかを明確にすることも重要です。
もちろん、海外といっても国や地域、企業によって文化は異なります。ただ、グローバル企業で働く以上、自分が慣れ親しんできた文化や価値観を、全ての相手が共有しているとは限らないということを理解しておく必要があります。
こうした異文化コミュニケーションについても、今後の記事で詳しく解説していきます。
ここまで、企業で求められるビジネスマナーの背景と、具体的な場面について解説してきました。最後に、これから企業に転職する方に向けて、特に意識しておいていただきたいポイントを整理しておきます。
企業に入社する前、あるいは入社したばかりの時期には、ぜひ以下の項目を確認してみてください。
相手の立場を理解して仕事を依頼できているか:自分にとって優先度が高い仕事であっても、相手には別の業務があります。依頼の目的や期限を明確にし、相手の状況にも配慮することが大切です。
メールやチャットで、相手に必要な情報を伝えられているか:何を伝えたいのか、何をしてほしいのか、いつまでに対応が必要なのかを明確にしましょう。
会議で、相手への敬意を保ちながら意見を伝えられているか:専門家として正しい指摘をすることと、周囲の人々と建設的に議論することは両立できます。
上司への報告・連絡・相談を適切に行えているか:特に問題が発生した場合には、自分だけで抱え込まず、早めに状況を共有することが重要です。
自分の専門性を、チーム全体の成果につなげられているか:自分の専門領域で優れた仕事をすることに加えて、周囲の人々が仕事を進めやすいように協力することも大切です。
企業の行動規範やルールを理解しているか:入社後には、会社の行動規範や各種規程を確認し、どのような振る舞いや手続きが求められているのかを理解しておきましょう。
いずれも、難しいことではないと思います。ただ、こうした小さな振る舞いの積み重ねが、企業で働くうえでの信頼関係をつくっていきます。
特に、病院や大学から初めて企業に転職する方は、これまでの仕事の進め方を振り返りながら、一つずつ確認していただければと思います。
ここまで、医療職や研究者と企業のビジネスパーソンとでは、求められるマナーに大きな違いがあることをお話ししてきました。私がこの記事を通して伝えたいのは、企業で働くうえで、専門性の高さと、周囲の人々と協力して仕事を進める能力の両方が重要になるということです。
医療職や研究者として培ってきた専門性は、非常に大きな強みです。企業に転職するからといって、それまでに積み重ねてきた知識や技術を捨てる必要はありません。むしろ、その専門性を企業という新しい環境で、さらに大きな成果につなげていただきたいと思っています。
そのためには、企業で求められるマナーや行動規範を理解し、周囲の人々と信頼関係を築いていく必要があります。
例えば、いくら優れた研究計画を立案できたとしても、関係部署の協力を得られなければ、研究を実行することは難しいでしょう。いくら医学的に正しい意見を持っていたとしても、周囲の人々との関係が悪ければ、その意見が十分に理解されない事態にも陥りかねません。
反対に、周囲の人々と良好な関係を築き、適切にコミュニケーションを取りながら仕事を進めることができれば、自分の専門性をより大きな成果につなげることができます。
私は、ビジネスマナーには、こうした意味があると考えています。
マナーを身に付けることは、自分の専門性を、組織の中で十分に発揮できるようにすることでもあるのです。
医療職や研究者として長年働いてきた方にとって、企業での仕事の進め方やコミュニケーションには、戸惑うこともあると思います。しかし、こうした違いは、事前に知っておくことで十分に準備できます。
この連載では、企業への転職を考えている医療職や研究者の皆さんに向けて、ビジネスマナーをできるだけ具体的に解説していきます。
次回は、企業への転職活動で必要になる「履歴書・職務経歴書の書き方と基本マナー」を取り上げます。その後も、面接、ビジネスメール、会議、上司とのコミュニケーション、顧客対応、グローバルチームとのコミュニケーションなどを、一つずつ詳しく解説していく予定です。
医療職や研究者としての経験を活かしながら、企業という新しい環境で活躍していくために、この連載がその一助になれば幸いです。
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