
「採血結果を見ると、Kが前回より少し高い。」
「家庭血圧にも改善の余地があり、尿蛋白も前回と同じくらいでまだ多い。」
「検査結果を上から説明し、最後に減塩や家庭血圧の話を加える。」
「患者さんが診察室を出たあと、「伝わったかな?」と不安になる。」
そんなことはありませんか?
ガイドラインではCKD患者さんの注意すべき管理項目が沢山並んでいます。忙しい外来では1項目ずつ順番に確認していく時間はありません。
外来では、もう1つ別の軸が必要です。
「この患者さんで今日、何を優先し、何を一番伝えたいのか。」
そうです、優先順位です。今回は、その考え方を皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

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検査値を確認する順番と、優先順位を分ける考え方
患者背景と経過を重ね、異常の程度や変化に重みを付ける考え方
問題候補を比べ、今日何を優先するかと、その理由を整理する考え方
CKD外来でそもそもどのような診療をすればいいかわからない方
CKD外来で確認する項目が多く、どこから手を付けるか迷う方
検査結果を一通り説明すると、患者さんからの相談まで手が回らない方
vol.1:「無症状だから次回でよいか」が危ない? 非専門医にCKD診療が求められる理由
vol.2:50代と80代は同じ「目標値」を追うべきか? 患者背景で変わる診療のゴール
vol.3:ガイドラインだけでは外来が回らない?CKD診療の優先順位を考える(本記事)
氏名:齋木 良介
所属:三重大学医学部附属病院 血液浄化療法部
自己紹介:腎臓内科医として腎臓病診療や急性期血液浄化療法の診療に携わる。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」の作成にSR委員として関わった経験から、研究知見を臨床判断に結びつける視点を大切にしている。一方で、慢性腎臓病(CKD)診療では、エビデンスに基づく治療だけでなく、生活習慣病予防や減塩など患者さん自身の行動が重要であることから、行動変容をどう支えるかも大切に考えて診療している。知識が行動を変えるという信念から、腎臓病と向き合う患者さんやそのご家族に向けてブログサイト「のぼじんと一歩ずつ」(https://kaidan-jinzou.com/)で、検査値の見かた・食事・運動・生活習慣の考えかたをわかりやすく発信している。
第2回では、CKD診療を二つのゴールに整理しました。
腎機能低下の傾きを緩めることと、進行に伴う問題へ先回りすることです。
そのゴールを、今日の診療へどうつなげるかを考えましょう。
ちなみに、私は診察前に毎回おおむね同じ順番で検査結果を見ます。どこから見ようかと考える負担を減らし、その意味を考えることに頭を使いたいからです。
認知負荷理論では、十分な練習によって処理が自動化されると、作業記憶への負担が小さくなると説明されています(Kalyuga et al. 2003)。
この考え方を参考に、私は検査値の確認順を決めています。確認する項目は同じでも、『どこから見るか』と迷う負担を減らすことで、検査結果の解釈に集中しやすくなるのではないかと考えています。

検査の赤字を集める前に、その患者さんのいつもの状態や前回の外来を思い出します。
年齢、フレイル、原疾患、主な薬剤、前回扱った問題。
今回の値を前回だけでなく、安定していた頃の値とも比べます。同じeGFRでも、数年同じ水準なのか、短期間で下がってきたのかで、意味合いは変わります。同じK高値でも、いつもの軽度高値なのか、今回初めて上がったのかで危機感は変わります。
検査値だけでなく、家庭血圧や体重、食事の嗜好など、前回から分かっている情報も重ねて検査値を眺めていきます。
患者背景という「補正レンズ」を重ね、検査値から確かめたいことを考えます。
診察前に分からない情報もあると思いますので、そこは患者さんに聞く問いとして持ち込みましょう。
検査値を確認する順番と、対応の優先順位は別です。
まず全体を確認し、重症度、いつもとの差、変化の速さ、患者背景を重ねて、今日どの問題を優先するかを考えます。緊急性が疑われる異常を認めた場合は、確認順にかかわらず、その評価と対応を優先します。
確認するまとまり | グルーピングの意味 |
|---|---|
①eGFR・Cre、尿蛋白、尿潜血 | 腎機能と尿所見。ゴール1に関する項目群。 |
②K、HCO3- | 電解質と酸塩基平衡。ゴール2に関する項目群。 |
③Hb、MCV、鉄関連指標 | 貧血とその背景。ゴール2に関する項目群。 |
④Caと関連する項目 | Ca代謝。ゴール2に関する項目群。 |
⑤その他の全項目 | 全体の見直し。上のまとまりに入らない項目を補い、検査結果全体を見渡すための時間 |
ゴール1は「腎機能低下の傾きを緩めること」、ゴール2は「進行に伴う問題へ先回りすること」です。
詳しくは第2回をご参照ください。
この表の項目は、全ての患者さんに測定している訳ではありませんが(特にCaなど)、多くの患者さんで測定をしています。
そして最後に、腎臓に関する項目だけに集中せず、残りの結果について異常がないか「さっ」と見渡します。
このように関連する検査値をまとめてみることで理解が捗ります。こうした情報の結び付け方を考える際に参考になるのが、「illness script」という考え方です。疾患の背景や症状・所見を結び付けた、知識の枠組みを指します。
Charlinらは、この枠組みに照らして合う所見・合わない所見を確かめることが、次に集める情報や判断を方向づけると説明しています(Charlin et al. 2007)。
関連する検査値を確認しながら、診察で確かめたい問いを思い浮かべていきましょう。
Kが上がっていれば、食事、薬剤、便通などを確認しよう。
eGFRが下がっていれば、血圧や食事・水分摂取、薬剤の変化を確かめたい。
といった具合です。尚、各項目の異常値があった際にどのようなものを確認すべきかといった詳細は、今回の連載の中では触れませんので、成書などをご参照ください。
私はこの整理を「診察前30秒の作戦会議」と呼んでいます。
・・・いえ、呼んでいませんでした。今初めて名づけました。
実際測定したことはありませんが、恐らく30秒くらいで検査値をチェックしていると思います。腎臓病診療に慣れていない先生はもう少し時間がかかるかもしれません。
30秒という時間は経過を把握した再診患者さんで、過去の値がある程度の枠の中で動いている(大きな検査値の揺れがない)患者さんを想定しています。初診患者さん、長い受診中断があった方、複数の新しい異常が出てきた患者さんなどの場合は、時間をかけます。
30秒で作るのは、診察室へ持ち込む問いです。
つまり、何を聞くべきかのリストを頭の中に思い描きます。

問題候補がそろったら、私は次の四つの目的に沿って整理します。
優先順位を考える軸 | 今日考えたいこと |
|---|---|
今すぐの安全を守る | 当日の対応を遅らせてはいけない問題がないか |
急な変化を確かめる | 可逆的な要因を探す必要があるか。追加評価や専門医への相談が必要か |
長期の腎予後を守る | 血圧や生活習慣など、腎機能低下を緩めるために見直せることはあるか |
病状の安定と、治療・通院を続ける理由を伝える | 検査値や体調が落ち着いていることを伝え、生活習慣や食事についても現在の方針で良いことを伝える |
これは、私が外来の問題を整理するために使う並べ方です。ガイドラインなどに定められたものではありません。上位の項目の方が優先度が高くなります。
当日の安全確認が必要な問題があれば、まずそちらを扱います。高度の高K血症などが当てはまります。
急な変化があれば、その原因を調べ、必要に応じて専門医への相談を考えます。eGFRが急に低下した場合や、尿蛋白の急増に尿潜血の新規陽性が重なった場合(腎炎の疑い)などが当てはまります。
そのうえで、長期的に腎機能を守るために見直せることを考えます。尿蛋白が多い状態が続き、血圧や塩分摂取に改善の余地がある場合などが当てはまります。
一方で、病状が落ち着き、治療や生活上の取り組みに見直す点がなければ、今の方針を続けてよいことを伝えます。検査値や体調が安定し、血圧管理や減塩の取り組みも順調な場合などが当てはまります。
まずこの四つの目的を思い浮かべると、問題候補を整理しやすくなります。
注意点はKやHbといった項目名だけで、順番が決まるわけではないということです。
次に、どのように重みを付けるかについて、各論的な視点(項目ごと)ではなく、総論的な視点で考えていきます。
まず、今回の値が基準値からどの程度外れているかを見ます。
それに加えて、その検査異常が生命に関わる危険な状態を示していないか、という重症度の視点も必要です。
例えば、高度の高K血症では、前回からの変化が小さくても、速やかな評価と対応が必要です(KDIGO CKD Work Group 2024)。
次に、その患者さんの普段の値と比べて、どの程度変わったのかを確かめます。「普段と同じだから安全」とも、「前回から変わったから最優先」とも限りません。
基準値からのずれの程度や重症度と、「いつもとの差」を合わせて、今回の値にどれくらい重みを付けるかを考えます。
変化の速さも大切です。何年もかけて少しずつ動いてきた値と、短い期間に大きく変わった値では、今日確かめたいことが違います。
今回と前回の2点だけでなく、これまでの経過も見渡します。
基準値からのずれの程度と重症度、いつもとの差、変化の速さ、ほかの所見との組み合わせ。
これらを重ねて考えていきましょう。
冒頭の場面では、Kが前回より少し高い。家庭血圧には改善の余地があり、尿蛋白も前回と同じくらいで、まだ多い。どれも気になりますが、これだけでは、何を先に扱うかは決まりません。
まずKの値の程度や経過、体調、関連するほかの結果を確認し、当日の評価や対応が必要かを判断します。Kという項目名だけで、他より優先するとは決めません。ここでは経過や臨床状況から、K値についての緊急対応は不要と判断した場合を考えます。
一方、尿蛋白が多い状態は続き、家庭血圧にも改善の余地がある。この場合は、「長期の腎予後を守る」という観点で、血圧や塩分について焦点を当てた外来にしようとなります。
繰り返しになりますが、何を優先するかは、値の程度と経過、診察で分かる情報に応じて判断します。
こうすることで、問題を一つずつ並べるだけだったときよりも「今日はどこに時間を使うか」が見えやすくなるのかなと思います。
検査値も体調も安定している日は、無理に新しい課題を作る必要はありません。
これまでの治療や生活上の取り組みを確認し、変更が必要なければ、そのことを患者さんに伝えます。私は今の方針が間違っていないと安心していただくことも大事だと思っています。
ただし、前回と同じ値であることと、対応する課題がないことは別です。
前回と変わりはないけど、変わらずに血圧が高い状態であれば減塩がしっかりできているかや、薬がちゃんと飲めているかなどの確認が必要です。冒頭の患者さんも、尿蛋白が前回と同じだから、その問題がなくなったわけではないですよね。
長期の課題への方針があり、経過もよければ、病状が落ち着いていることを伝えます。そのうえで、今の治療の目的や、通院で何を確認しているのかを説明し、患者さんが理解できているかを確かめます。
薬を増やしたり新しい指示を加えたりすることだけが、外来の役割ではありません。

診察前の情報だけで、優先順位が確定するわけではありません。
例えば患者さんからふらつきがあると相談され、家庭血圧がとても下がっていることが分かったらどうでしょうか。
降圧薬の評価などへ時間の使い方を回すでしょう。
患者さんの話は、検査値だけでは見えなかった問題を知る手がかりになります。最初に気になった問題へ固執せず、新しい情報に応じて、今日先に扱うことを考え直します。
緊急性の高い問題があれば、その評価と対応を優先します。
必要な医学的対応はすべて行います。
そのうえで、今回どの問題に大きく時間を割くかを考えます。グラデーションをかけましょう。
すべての検査値を同じ長さで説明する代わりに、「この患者さんでは、なぜ今日この問題を優先するのか」を考えてみてください。
それが見えてくると、患者さんに何を一番伝えたいかも、整理しやすくなると思います。次回は、この判断の起点となるeGFRを取り上げます。
単発の数字と経過をどう読むべきなのかを考えます。

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