
【医療統計Q&A 教えて新谷先生】Vol.2:有意差があるので、「この薬は効く」といっていいですか?
2026.03.06
はじめに
「医療統計、これってどうなってるの?」
あなたはそんな疑問に悩まされたことはありませんか?
「医療統計Q&A 教えて新谷先生」では、医療統計の第一人者である新谷先生が、あなたが抱える医療統計の疑問を、驚くほどやさしく解説していきます。
医療統計の「なるほど!」を楽しみ、苦手だった医療統計をあなただけの武器にかえていきましょう。
このシリーズ記事を読み進めていけば、「医療統計、任せてよ!」という自信がムクムクと育っていくはずです。
今回の質問
“差がある”と“有意差がある”は違いますよね? 多くの研究者がこの違いを理解できていない気がします。新谷先生の回答
私はこの意見に完全に同感です。
では、「有意差がある」とは何を意味しているのでしょうか。
はっきり言います。
「有意差がある」というのは、たった一つのことしか意味していません。それは、「差がない」という帰無仮説を棄却した、という事実だけです。100%、それだけです。
それ以上の意味はありません。「効果がある」とも、「臨床的に意味がある」とも言っていません。単に、「同じではなさそうだ」と判断したということに過ぎません。
「有意 = 意味がある」ではない
ここが最も大きな誤解です。
例えば、50代の兵庫県民の平均コレステロール値が202、大阪府民が201だったとします。兵庫20万人、大阪25万人という大規模データで比較すれば、有意差は簡単に出るでしょう。
しかし、202と201の違いに医学的な意味はあるでしょうか。ほとんどありません。
N数が大きくなれば、臨床的に意味のない差でも統計的には「有意」になります。だから私は常に強調します。
有意差があることと、意味のある差があることは、全く別の話です。
エール大学で徹底的に指導されたこと
私がエール大学で統計を学んでいた頃、レポートで「there is a difference」と書いたら減点されました。
代わりに求められたのは、こういう書き方です。
“The null hypothesis was rejected at the 5% level. The data indicate a difference.”
重要なのは「indicate(示唆する)」という言葉です。
統計は断定しません。断定した瞬間に、それは統計ではなくなります。私たちがやっているのは、「このデータは差がある可能性を示唆している」と述べるところまでなのです。
信頼区間も誤解されやすい
多くの研究者は、得られた点推定値がそのまま真実を表しているかのように受け取ってしまいがちです。
例えば、点推定値が10、95%信頼区間が5から15だったとします。
ここで「真の差は10だ」と考えるのは誤りです。
わかっているのは、「今回のデータでは差が10だった」という事実だけです。
P値が教えてくれるのは、「今回のデータ(差が10だった)をもとに、母集団で差がゼロかどうかを推測する」という二択のみです。真の差が10であると推測しているわけではありません。
自分が集めたデータで得られた結果が、あたかも真実そのものであるかのように思ってしまう。私はこれを冗談で「自己中心極限定理」と呼んでいます。
自分のデータが中心ではありません。自分のデータは、たまたまその値が出ただけです。その“たまたま”得られたデータをもとに、母集団で差がゼロかどうかを推計しに行く。これが本来の発想です。
多くの人が「自己中心極限定理」に陥っているのを見ると、私は悲しい気持ちになってしまいます。
第3相試験の例
がんの第3相試験で、「新薬のハザード比が0.5、有意差あり」と報告されたとします。
ここで「リスクが半分になる薬だ」と言い切るのは危険です。
P値が示しているのは、今回のデータではハザード比が0.5だった。その結果をもとに、母集団ではハザード比が1ではないと判断された、ということだけです。
真のハザード比が0.5かどうかを推測しているわけではありません。
頻度論の限界
ここが本質です。
私たちがP値を使って判断する方法は、頻度論的手法と呼ばれます。頻度論的手法、つまりP値による仮説検定では、「真の値がいくつか」を扱うことはできません。
扱えるのは、「帰無仮説を棄却できるかどうか」だけです。
もし「真のハザード比が0.5未満である確率はどのくらいか」といった問いに答えたいのであれば、それはベイズ統計の領域です。P値には、その力はありません。
頻度論的手法では、「真の値が特定の範囲に入る確率」を直接語ることはできません。しかし、ベイズ統計では、「真の差が0より大きい確率は何%か」「ハザード比が0.8未満である確率は何%か」といった問いに、答えることができます。
最後に
P値を使って私たちがやっているのは、「数値として同じではなさそうかどうか」を判断しているだけです。
それを「効果がある」「臨床的に意味がある」「すごい薬だ」と飛躍させてしまうと、統計は一気に誤用されます。
論文を読むとき、ぜひ自分に問いかけてみてください。
これは本当に意味のある差なのか。
それとも、単に有意なだけなのか。
この問いを持てるようになれば、あなたは統計に振り回される側ではなく、統計を使いこなす側に立てます。
医療統計は万能ではありません。しかし、その限界を正しく理解した瞬間、あなたの強力な武器になります。
※この記事はウェビナー「新谷先生のゼロから極める医療統計」のQ&Aを基に作成されています。
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