
こんにちは、企業の疫学専門家として外資製薬2社で働き、現在はキャリアコンサルタントとして疫学専門家の企業転職のサポートをしている廣瀬直紀です。
この記事では、実際に外資製薬で疫学専門家として働いていた私の経験をもとに、企業で働く疫学専門家の1日について解説していきます。
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企業で働く疫学専門家がどのような1日を送っているか
企業の疫学専門家のワークライフバランス
疫学専門家
vol.1:疫学専門家の年収とは?! - 専門家が業界別に解説
vol.2:企業で働く疫学専門家のリアルな1日を徹底紹介(本記事)
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
「企業の疫学専門家って、一体どんな仕事をしているんだろう?」
「研究者なのはわかるけれど、会社の中で毎日何をしているの?」
企業への転職を考えている方から、こうした質問をいただくことがあります。大学や病院で働いていると、企業の疫学専門家が実際にどのようなスケジュールで働いているのかは、意外と見えないものです。
そこで今回は、実際に外資系製薬企業で疫学専門家として働いていた私の「とある1日」を、朝から夜まで追いかけてみたいと思います。
研究計画書を書き、社内の相談に乗り、外部の先生と話し、海外のチームと英語で交渉する。そして、時には夜9時から再び会議が始まる——。
企業の疫学専門家の仕事は、研究だけをしていればよい仕事ではありません。では、実際にはどんな1日なのか。さっそく始めていきましょう。
1日を始める前に、まず勤務場所についてお話ししておきましょう。私が働いていたような外資系製薬企業では、リモートワークが比較的広く認められていました。
会社や時期にもよりますが、週3〜5日は自宅で働き、必要に応じてオフィスへ行く、という働き方です。疫学専門家を採用している会社には外資系企業や比較的新しい会社も多いため、リモートワークやフレックスタイムを取り入れているところは少なくない印象があります。
ただし、注意したいのがデータへのアクセスです。リアルワールドデータ(RWD)の中には、セキュリティ上の理由から自宅ではアクセスできず、「この作業をする時にはオフィスに来てください」というルールになっている場合もあります。
そのため、転職する時には「リモートワーク可能」と書いてあるかだけではなく、実際の研究業務をどこまで自宅でできるのかも確認しておくとよいと思います。
さて、それでは1日を始めていきましょう。(会社・部署・時期によって異なりますが、あくまでも私が働いていた外資系製薬企業でのとある1日としてご覧ください。)
まず出社する日。
私の場合は、大体朝8時ごろに家を出て、9時にはオフィスに到着していました。
一方、リモートワークの日はどうだったか。8時55分に起きて、そのままデスクに座り、9時から仕事開始。
外資系企業やベンチャー企業ではフレックスタイムを採用している会社もあり、必ずしも「全員朝9時から勤務開始」と決まっていないことがあります。
私が働いていた環境でも、やるべき仕事をきちんと進めていれば、働く時間については比較的自由度がありました。 この柔軟さは、企業で働くメリットの一つだと思います。
朝パソコンを開くと、最初に待っているのが大量のメールです。
外資系企業の場合、日本のチームが寝ている間にも、アメリカやヨーロッパのチームは働いています。そのため朝起きると、メールが20〜30件たまっているということも珍しくありませんでした。
まずはざっとメールを確認して、
すぐ返せるもの
今日中に返さなければいけないもの
研究内容を確認してから返すもの
他のメンバーとの相談が必要なもの
を頭の中で切り分けながら、返信していきます。
単純な連絡なら数分で済みます。一方、疫学的な相談や研究計画書の修正について聞かれている場合には、メール1通を書くのに15〜20分かかることもあります。
企業の仕事というと会議のイメージが強いかもしれませんが、実際にはこの「メールできちんと議論する仕事」もかなりの割合を占めています。
続いて、朝のグローバル会議です。
アメリカのメンバーと会議をする場合、日本時間では朝8〜10時頃に会議が設定されることがあります。アメリカ側にとっては夜の時間です。一つの会議は30分〜1時間程度。プロジェクトによっては、こうした会議が週に1回ずつ入ってきます。会議が終わったと思ったら、10時からまた別の会議ということもあります。
一方で会議が入っていなければ、ここからようやく疫学専門家らしい、まとまった研究の仕事に入っていきます。
午前中に会議が少なければ、リアルワールドデータ研究の研究計画書、つまりプロトコルを書きます。これは、かなり集中力が必要な仕事です。
研究目的を整理して、研究デザインを考え、対象患者をどう定義するのか、曝露やアウトカムをどう扱うのかなど、研究全体を組み立てていきます。
こういう仕事は、細切れの30分ではなかなか進みません。そのため私は、11時から13時まで、一気に研究計画書を書くというように、できるだけまとまった時間を確保していました。
企業の疫学専門家というと、1日中研究をしているように思われるかもしれません。しかし実際には、会議や相談がかなり多いため研究に集中できる時間を意識的に確保しないと、なかなか研究そのものが進みません。
13時になったら昼休みです。
オフィスにいる日は、会社の近くにあるお気に入りのご飯屋さんへ行きます。
一方、リモートワークの日はというと、カップラーメンを食べながらYouTubeやNetflixを見る。そんな日もかなりありました。もちろん外へ食べに行く日もありますが、家で仕事をしていると、そのまま家で簡単に済ませることも多かったですね。
1時間くらい仕事から離れて、14時から午後の部を始めます。
午後になると増えてくるのが、社内からの研究相談です。
例えば、安全性部門やメディカルアフェアーズの方から、 「こういうRWD研究を考えているんですが、どう設計したらいいでしょうか」 「このデータで、こういうことは調べられますか」 といった相談を受けます。
実は企業の疫学専門家は、どの会社でも人数がそれほど多くありません。そのため、自分が正式にアサインされているプロジェクトだけではなく、全社的な“疫学・RWDの相談役”のような役割を期待されることがあります。
そして、こうした相談は必ずしも予定表どおりにはやってきません。仕事をしていると突然Teamsが「ポンッ」と鳴って、「廣瀬さん、今から少しコールできますか?」と連絡が来る。
そのまま急遽15分、30分と相談に乗る。そんなことが1日に2〜3回起きる日もあります。
予定どおりに研究を進めたい側からすると大変ではあります。ただ、私はこの仕事が結構好きでした。
突発的に飛んできた相談に対して、その場でどれだけ頼りがいを持って答えられるか。ここは疫学専門家としての腕の見せ所でもありますし、企業で働く面白さの一つだと思います。
午後の会議が一段落したら、再び自分のプロジェクトへ戻ります。
企業の疫学専門家は、一つの研究だけを最初から最後までやっているわけではありません。私の場合、同じ時期に3〜4本程度の案件が並行して走っていることがよくありました。
例えば以前作成した研究計画書や論文をグローバルチームや日本チームにレビューへ回していると、コメントが返ってきます。15時半から17時くらいまでは、「このコメントにはどう対応するか」「プロトコルのここをどう修正するか」と、一つずつ対応していきます。
こうした仕事も、ある程度まとまった時間が必要です。感覚としては、1日の中で二つほどのプロジェクトにしっかり触れて、それぞれ2〜3時間程度を使いながら進めていく。その合間に会議やメール対応が入ってくる、という働き方でした。
気がつくと、もう夕方です。
17時以降には、社外のKOL(Key Opinion Leader:各領域を代表する専門家)との会議が入ることがあります。
外部の先生方は日中、診療や大学での仕事をされていることが多いため、どうしても会議は夕方以降になりがちです。ここでは、一緒に進めている研究について、論文をどう進めるか、データベースをどう構築するか、研究をどのような方向へ進めるかといった話をします。
製薬企業では、一つのプロジェクトに疫学専門家や統計家のような方法論の専門家だけが参加しているわけではありません。循環器、中枢神経、がん領域など、それぞれの治療領域を担当するTA(Therapeutic Area)の専門家も入ります。
そのため外部のKOLと話す場では、TAのリードが中心となってコミュニケーションを取り、疫学専門家が研究方法の部分を支える、という形になることも多くあります。
18時前後になったら、最後にもう一度メールを確認します。
この時間になると、今度はヨーロッパのメンバーが本格的に働き始めています。ヨーロッパから来たメールに返信したり、「このプロトコルは今どうなっている?」「承認まで、どう進めようか」と短いコールをしたりします。
外資系企業で仕事をする時、私はこの時差を使ったキャッチボールが結構重要だと思っています。
日本側が夕方までに仕事をして、海外へボールを返す。日本が寝ている間に海外チームがそれに対応する。そして次の朝、日本側がその返事を受け取って、また仕事を進める。このリズムを作れると、仕事はかなりスムーズに進みます。
逆に、その日に返せるものを返さないまま翌日に持ち越すと、やり取りだけで簡単に1日遅れてしまいます。ですから、海外に返すべきボールは、なるべく夕方までに返す。これはグローバルで働くうえで、かなり大切でした。
「では今日もお疲れさまでした」……。と言いたいところなのですが、外資系企業の場合、これで終わらない日があります。
夜9時。もう一度パソコンを開きます。今度は、アメリカ側が起きてくる時間です。
朝8〜10時にグローバル会議が入ることもあれば、日本時間の夜9時、遅い時には10時ごろから会議が始まることもあります。私の感覚では、アメリカとの会議では日本側が夜に合わせるケースも多かったと思います。
これが、なかなか大変です。18時に一度仕事を終えても、「3時間後に、またグローバル会議があるな……」と思うと、完全に仕事が終わった気分にはなれません。
休んでいるというより、仕事を中抜けしている感覚に近いんですね。この働き方に慣れない方にとっては、グローバルで働くことの大変さの一つになると思います。
しかも、夜のグローバル会議は結構「重い」ことがあります。例えば、「規制当局への回答期限が明後日なのに、グローバルから文書の承認がまだ取れていない」「プロトコルに何百ものコメントがついていて、承認を取らなければいけない」といった状況です。
こういう場面では、「では、また次回話しましょう」で終わるわけにはいきません。この30分、1時間の会議の中で、何とか承認を取る。
研究の内容であれば、疫学専門家自身が会議をリードし、グローバルメンバーへ説明し、必要なところでは交渉し、その場でアライメントを形成することが求められます。なかなか緊張します。
ただ研究計画書を書ければいいわけではない。
専門的な内容を理解したうえで、それを英語で説明し、相手の懸念を理解し、最後にはプロジェクトを前へ動かす。企業で働く疫学専門家には、こうした力も必要になります。
もちろん、朝9時から夜10時までずっと働き続けているわけではありません。夜9時から1時間、2時間の会議が入っている場合には、そのぶん昼間の仕事を早めに切り上げることもあります。
例えば15時、16時に一度仕事を終えて、映画を見に行く。外でご飯を食べる。そして、「よし」と家に帰ってグローバル会議に参加する。私もたまに、そんな働き方をしていました。
こうした時間の調整ができるのは、フレックスタイム制の良いところです。
ただ、やっぱり頭の片隅には、「このあとグローバル会議があるんだよな……」という感覚が残っています。映画を見ていても完全には楽しめない、ということもありました。
家族と外食しようと思っても、「今日は21時から会議だから、あまり遠くには行けないな」となることもあるでしょう。お酒を飲む方であれば、「今日は夜会議だから飲めないな」という日もあると思います。
自由度が高い一方で、時差に自分の生活を合わせなければいけない。これはグローバル企業で働くうえで知っておいたほうがよい現実だと思います。
グローバル会議が終わりました。今度こそ、本当に仕事終了です。
ネットを見たり、サウナへ行ったりして、ようやく完全に仕事から離れます。そして寝る。
翌朝、再びパソコンを開く。すると——。グローバルからのメールが、また20〜30件たまっている。
そして、また新しい1日が始まります。
ここまで、外資系製薬企業で疫学専門家として働いていた私の、とある1日をご紹介しました。
改めて振り返ると、1日の中にはかなりいろいろな仕事があります。
研究計画書を書く。
論文やプロトコルのコメントに対応する。
社内の別部門から飛んでくるRWD研究の相談に乗る。
外部のKOLと研究について話す。
そして、グローバルチームと英語で議論し、時には交渉して承認を取る。
ですから、企業の疫学専門家というのは、「会社の中で研究だけをする研究者」ではありません。
疫学という専門性を使いながら、様々な人とコミュニケーションを取り、複数のプロジェクトを並行して動かし、必要な意思決定を前へ進めていく仕事です。
特に、突然Teamsに飛んでくる、「ちょっと相談いいですか?」に対して、「もちろんです。何でしょう?」と入っていき、その場で相手の問題を整理して一緒に解決策を考える。私は、こういう瞬間に企業の疫学専門家として働く面白さがあると思っています。
一方で、外資系企業ならではの時差の問題もあります。
夜のグローバル会議はやっぱり大変です。「研究が好きだから」という理由だけで企業へ行くと、想像していた働き方とのギャップを感じることもあるかもしれません。
しかし、研究の専門性を使って、いろいろな人の相談に乗り、国内外のメンバーと一緒にプロジェクトを前へ進めていくことが好きな人。そんな方にとっては、企業の疫学専門家は非常に面白い仕事だと思います。
企業への転職を考えている方にとって、今回の「とある1日」が、実際に働く姿をイメージする一助になれば幸いです。
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