
こんにちは、企業の疫学専門家として外資製薬2社で働き、現在はキャリアコンサルタントとして疫学専門家の企業転職のサポートをしている廣瀬直紀です。
この記事では、疫学専門家のスキルにおける企業とアカデミアの違いについて、以下の疑問に答えながら徹底的に解説していきたいと思います。
・「疫学を専門にしていれば、企業でもそのまま活躍できるのか?」
・どのようなスキルが求められるのか
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企業で特に求められる疫学の専門性
アカデミアと企業で求められる能力の違い
事業課題を研究へ落とし込む「翻訳力」とは何か
【疫学専門家】
【生物統計家】
vol.1:生物統計家職の年収とは?!専門家が業界別に解説
【看護師】
・vol.1:企業で働く看護師の年収とは?!専門家が職種別に解説
【医師】
・vol.1:企業で働く医師の年収とは?!専門家が職種別に解説
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
「疫学を専門にしていれば、企業でもそのまま活躍できるのでしょうか?」
企業への転職を考えている疫学研究者の方から、こうした質問をいただくことがあります。
結論から言うと、アカデミアで求められる疫学専門家のスキルと、企業で求められる疫学専門家のスキルは大きく異なります。もちろん、疫学の専門性は必要です。しかし、それだけでは十分ではありません。
私は実際に大手外資系製薬企業で疫学専門家として働き、その後、転職エージェントとして、アカデミアや医療機関から企業へ転職する疫学専門家の支援も多数行ってきました。
疫学専門家が活躍する企業は、製薬企業だけではありません。シンクタンク、コンサルティング会社、CRO、医療データベース事業者、スタートアップなど、様々な選択肢があります。(詳細は、vol.1:疫学専門家の年収とは?!専門家が業界別に解説をご覧ください)
では、こうした企業では、一体どのような疫学専門家が求められているのでしょうか。
今回は、実際に企業で働いた経験と転職支援の実績をもとに、企業で活躍する疫学専門家に求められるスキルについて解説していきます。
まず一つ目は、当然ながら疫学のスキルです。ただし、疫学であればどの領域でも同じように企業から求められるわけではありません。
疫学には社会疫学、栄養疫学、がん疫学、遺伝疫学など様々な分野がありますが、企業で特にニーズが高いのは臨床疫学、その中でも薬剤疫学です。さらに実際の業務に落とし込むと、これはかなりの部分、リアルワールドデータ(RWD)を用いた研究のスキルと言い換えることができます。
なぜRWD研究のスキルが求められるのでしょうか。
まず、製薬企業における疫学専門家の主要な仕事の一つが、RWDを用いた研究だからです。
そして、多くのヘルスケア企業は製薬企業を顧客としてビジネスを行っています。製薬企業にRWD研究のニーズがあれば、それを支援するCRO、コンサルティング会社、医療データベース事業者などにも、当然同じスキルへのニーズが生まれます。
そのため企業への転職を考えるのであれば、特にレセプトデータや電子カルテデータを用いた研究経験は、企業のニーズとつながりやすい経験だと思います。
では、「RWD研究ができる」とは具体的にどういうことでしょうか。
研究の工程に沿って考えると、リサーチクエスチョンを立て、その研究が実現可能かを判断し、研究計画書を書き、データを解析する。そして、その結果を解釈して論文を書き、最終的には掲載まで持っていく。こうした一連の研究プロセスを遂行する力が求められます。
「統計解析だけができます」「論文を読むことができます」ということではなく、研究テーマを考えるところから最終的なアウトプットまで、一連の研究を進められることが重要です。
ただし、ここで一つ強調しておきたいことがあります。企業では、研究スキルだけが突出して高ければ活躍できる、というわけではありません。
アカデミアであれば、論文を数十本、100本、200本書いていることが、研究者として大きな評価につながるかもしれません。しかし企業では、ある程度以上の研究能力を持ったうえで、それ以外のビジネススキルが大きく求められるようになります。
企業の疫学専門家は、疫学研究者であると同時に、企業で働くビジネスパーソンだからです。
では、その「研究以外のスキル」を見ていきましょう。
企業の疫学専門家に特有の能力として、非常に重要なのが事業課題や事業目的を研究に翻訳するスキルです。
アカデミアでは、「このリサーチクエスチョンに答えたい」ということ自体が、研究の大きな目的になります。
一方、企業の研究には、その一段上に事業目的があります。つまり、リサーチクエスチョンに回答できたとしても、その先にある事業上の課題を解決できなければ、企業にとっては十分な意味を持たないことがあります。
研究として面白いかどうかだけではなく、「この研究によって、会社のどの課題を解決するのか」まで考えなければいけません。
例えば、ある事業が「薬剤Aの売上を2倍にしたい」という目的を持っていたとします。疫学専門家が最初に考えるべきなのは、自分が研究したいテーマではありません。まず「その事業目的を達成するためには何が課題なのか」を整理します。
次に、「その課題を解決するためには、どのようなエビデンスが必要なのか」を考えます。そしてその上で、「では、どのようなリサーチクエスチョンを設定するべきか」と研究へ落とし込んでいきます。
つまり、「事業目的 → 事業課題 → 必要なエビデンス → リサーチクエスチョン」という順番で考えるわけです。
これが、企業における疫学専門家の重要な仕事です。
いくら研究として興味深くても、「なぜ会社のお金と時間を使ってこの研究を行うのか?」という問いに答えられなければ、企業研究としては成立しにくい。企業では研究すること自体がゴールなのではなく、疫学という専門性を使って事業課題を解決することが求められます。
三つ目は、コミュニケーションスキルです。企業では、アカデミア以上にこの能力が強く求められます。その理由は、疫学専門家だけで作られたチームの中で仕事をするわけではないからです。
企業によっては、チームの中で疫学専門家が自分一人、あるいは会社全体でも数人しかいないことがあります。
一緒に仕事をする相手は、営業、マーケティング、メディカル、プロジェクトマネージャーなど、それぞれ全く異なる専門性と役割を持った人たちです。その人たちを説得し、納得してもらい、一緒に事業を前へ進めなければなりません。
そのため、研究者に研究を説明するときと同じ話し方をしていてはいけません。研究者同士であれば、「この研究デザインではこのバイアスが問題になる」「この交絡因子をどう調整するか」といった話で議論ができます。
しかし、営業やマーケティングの担当者が知りたいのは、「つまり、この研究結果は事業にどう使えるのか」「この研究をすることで何ができるようになるのか」ということかもしれません。
企業で求められるコミュニケーション能力とは、単に「人と話すのが上手」ということではありません。自分の専門知識を、異なる立場の人の心に届く言葉へ翻訳し、その人たちを巻き込みながらチームを一つにして前へ進める力です。
この能力は、製薬企業を顧客とするCROやコンサルティング会社、医療データベース事業者などでは、さらに顕著に求められることがあります。こうした会社では、疫学専門家自身が営業の場に参加する機会もあります。
そこでは、「このデータを使えばどのような研究ができるのか」「この研究デザインで何が分かり、何が分からないのか」といった専門的な内容を顧客へ説明します。つまり、疫学という研究のスキルを営業の場でも活かさなければなりません。
これもまた、自分の専門性を相手と場面に合わせて翻訳する力だと思います。
四つ目は、リーダーシップです。
企業において、疫学専門家は比較的希少なポジションです。だからこそ、会社に入ると、単に疫学の仕事を担当するだけではなく、チームをリードする、部門をリードする、事業をリードするといった役割を求められることがあります。
ここで重要なのは、「教えてください」「何をすればいいでしょうか」というスタンスだけでは足りないということです。疫学について周囲から聞かれる側は、自分です。
課題があれば自分から手を挙げ、何をするべきかをチームに示す。問題が起きれば、誰かが解決してくれるのを待つのではなく、率先して解決しにいく。専門性を持っているからこそ、自ら方向性を示し、人を動かし、物事を前へ進めるリーダーシップが求められます。
アカデミアから企業へ転職すると、この変化に戸惑う方もいるかもしれません。
しかし、企業において希少な専門性を持つということは、それだけ責任も大きくなるということです。「研究の部分だけ自分が担当すればよい」というのではなく、その専門性を使って周囲の意思決定を助け、組織そのものを前へ進める。
この姿勢は、企業で活躍する上で非常に重要だと思います。
ここまで、企業で求められる疫学専門家のスキルを見てきました。整理すると、大きく四つあります。
薬剤疫学・RWD研究を中心とした疫学の専門性
事業課題を研究へ翻訳する力
異なる専門職と事業を進めるコミュニケーション力
自ら周囲を動かすリーダーシップ
この中で、特にアカデミアから企業へ転職するときに意識してほしいのが、2〜4のビジネススキルです。
研究者として働いていると、「もっと研究スキルを高めなければ」「もっと論文を書かなければ」と考えがちです。もちろん研究力は重要ですが、企業においては研究力を高め続けることだけが答えではありません。
企業の疫学専門家は、研究者である以前にビジネスパーソンです。
企業から給料をもらって働く以上、その給料に見合う貢献を会社に対してすることが求められます。そして疫学専門家にとっての貢献とは、疫学という専門性を使って会社の事業課題を解決し、利益につなげていくことです。
この点を強く理解した上で、自分が会社の中でどう立ち振る舞うべきなのかを考える必要があります。ですから、企業への転職を考えているのであれば、「論文を何本書いたか」だけで自分の経験を評価しないでください。
研究テーマを自ら立ち上げた経験
異なる専門職と一緒に仕事を進めた経験
難しい研究内容を専門外の人へ説明した経験
そして、自分から課題を見つけて周囲を巻き込みながら解決した経験
こうした経験もまた、企業では重要な意味を持ちます。
研究ができる疫学専門家から、疫学を使って事業を動かせる専門家へ。企業で活躍するためには、この転換が一つの大きなポイントになると思います。
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