
臨床現場の「わからない」を、あなたはどうしていますか。
筆者の古川由己先生は、精神科医として臨床に従事しながら自らの臨床疑問をシステマティックレビュー&メタアナリシス(SR&MA)で検証してきました。その成果は既に各種ガイドラインにも引用されています。
本記事では、医学生時代に「エビデンス原理主義の研究者の戯言」と一蹴された憤りから、臨床研修中に積み重なった疑問、隙間時間を使って進めた研究、共同研究者の力を借りながら成果を臨床現場へ還しトップジャーナルに掲載されるまでの歩みを紹介します。
パブリックヘルスや臨床研究に踏み出そうか迷っている医療者のあなたへ。 読み終わる頃には、目の前の臨床疑問が「研究の種」に見えてくるはずです。
本シリーズは、パブリックヘルスの領域で活躍するプロフェッショナルが初学者に向けて自らの専門性を語る自伝シリーズです。その専門性に出会った原点や、挫折の先に見つけた希望、そして今も燃やし続けている信念について、熱量を込めて語り尽くします。
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臨床現場の素朴な疑問が、世界水準のSR&MA研究になるまでのリアルな道のり
エビデンスやガイドラインを鵜呑みにせず、その根拠と限界を踏まえて診療に活かす姿勢
臨床と研究の二足の草鞋を可能にする時間の使い方と、仲間の力を借りたプロジェクトの進め方
日々の臨床で「本当にこれでいいのか?」という疑問を抱えたままにしている医療者
パブリックヘルスや臨床研究に興味はあるものの、臨床を離れる決心がつかない方
エビデンスやガイドラインを、根拠に立ち返って使いこなせるようになりたい方
vol.1:RWDのおかげで親に仕送りできるようになりました(mMEDICI株式会社/廣瀬直紀)
vol.2:女性の健康における社会課題へ挑み続ける(産婦人科専門医/重見大介)
vol.3:医療や看護の価値をデータで語れるように(東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 看護管理学/森田光治良)
vol.4:全ての人を笑顔にするために - 医師が発信すべき理由、私の挑戦(京都大学消化管外科/山本健人)
vol.5:科学と感情のあいだで - 誤情報と偏見を越えるために(ハーバード大学医学部准教授・マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長/小児精神科医/内田舞)
vol.6:パブリックヘルスで「事業と社会の越境者」になる(Ubie株式会社 Head of Public Relations、Impact Officer/守屋祐一郎)
vol.7:エビデンスの向こう側に、患者さんの笑顔がある(ケンブリッジ大学臨床研究フェロー/内田梨沙)
vol.8:研究者の問いを支える - 生物統計家という仕事(長崎大学病院臨床研究センター/生物統計家/佐藤俊太朗)
vol.9:エビデンス原理主義者の戯言 - そう言われた医学生がエビデンスにこだわり創る側へ(東京大学大学院医学系研究科/精神科医/古川由己)(本記事)
氏名:古川 由己
所属:東京大学大学院医学系研究科
専門性:日本専門医機構認定 精神科専門医、精神保健指定医。2018年名古屋市立大学医学部卒。再受験で医学部入学。同級生にできないことをしておこうと医学生の頃から臨床研究論文を読む。臨床を始めてから、自分の臨床疑問に対する論文が見当たらないとき、自分でベストの答えを(ある程度)出せるシステマティックレビュー&メタアナリシス(SR&MA)の面白さを実感。市中肺炎の至適治療期間を明らかにした論文(BMJ Open, 2023)や不眠症治療の第一選択である不眠の認知行動療法の有効な要素を明らかにした論文(JAMA Psychiatry, 2024)などは、各種総説やガイドラインにも引用されている。最先端の研究・臨床現場の知見を元に情報発信もしている(SR&MAについて:ブログ、mMEDICIにてウェビナーなど。不眠の認知行動療法について:ブログ、書籍、プログラム監修など)。
Blog, Google Scholar, Research Map, X (旧Twitter)


「あなたの言うことはエビデンス原理主義の研究者のたわごと」
まだ医学生だった頃、がん検診のプロモーションを生業とする研究者に質問をした時の返事がこれです。
「がん検診で総寿命は延びないというエビデンスがある(Parasat V., et al. BMJ 2016;Bretthauer M., et al. JAMA Intern Med 2023)のに、なぜあたかも命が助かるかのように宣伝して受診率を上げるのか」と聞いたところ、このように言われました。
さらに、いくつか「先輩としてのアドバイス」を賜りました。しかし、結局は「その論文は信じない」「ガイドラインがそう言っているから」という話ばかりで、がん検診によって総寿命が延びるという主張の根拠となる論文は教えてもらえませんでした。
ちなみに、ガイドラインにも、総寿命が延びるという実証的エビデンスがあるとは書かれていません。質問には答えずに人を貶し、説教までする態度に、私は憤りを覚えました。
これを反面教師とし、世の中でエビデンスと言われるものやガイドラインを鵜呑みにせず、その根拠をきちんと押さえ、限界も理解したうえで診療をしていこうと心に誓いました。
また、エビデンスを大事にする人たちと仕事をしたいと思いました。
精神科医の古川由己と申します。
日本で臨床研修を行い、ミュンヘン工科大学医学部精神科・心理療法科で2年間研究員をした後に帰国しました。現在は東京大学大学院医学系研究科に所属しつつ、臨床と臨床研究に従事しています。
精神科臨床では幅広い疾患を診ていますが、特に不眠症に注意して診ています。
これまでに、睡眠薬よりも不眠の認知行動療法(CBT-I)のほうが有効であること(Furukawa Y., et al. PCN 2024)や、CBT-Iの中でも臥床時間制限や刺激統制が有効であること(Furukawa Y., et al. JAMA Psychiatry 2024)などを明らかにしました。
ミュンヘン工科大学では、統合失調症のメタアナリシス研究で世界トップを走るStefan Leucht教授にお声がけいただき、統合失調症の治療法に関する研究を複数行いました(Furukawa Y., et al. eClinicalMedicine 2026a;Furukawa Y., et al. eClinicalMedicine 2026b)。
臨床試験の元データに立ち戻って脱落理由を精査し、「adverse events(有害事象)による脱落」の実に過半数が、幻覚妄想の悪化などの統合失調症症状の悪化であることを明らかにしました。その多くはプラセボ群でした(Furukawa Y., et al. ECNP 2026)。
この経験から、臨床試験を解釈する難しさと奥深さを改めて学びました。
私は医学部再受験組です。2周目ということもあり、学費をアルバイトで稼ぎながら通っていました。
周りの同級生よりも遅れて医師になる自分には、遠回りしている時間はありません。「一刻も早く、目の前の患者さんを救える一人前の臨床医になりたい」と思っていました。
元の同級生は、医学部であれば臨床で頑張り始めていました。そうでなくても、それぞれの分野で活躍を始めていました。年下でも、起業やアカデミアなどでの活躍が見えてきます。全く縁がない分野とはいえ、ワールドカップ出場選手も、いつの間にか年下ばかりです。
自分が選んだ道とはいえ、遠回りをして何をやっているのだろうという焦りもありました。
臨床医として活動できる時間は同級生と比較して短いこともあり、基本的には研究というよりも臨床をしていこうと考えていました。
その一方で、医学生の頃からランダム化比較試験やSR&MAなどの臨床論文を読んでいたのは、「他の人よりも少しでも、自分ができることを伸ばしておこう」と考えていたからかもしれません。
(もっとも、臨床志向なら、もっと心電図やレントゲン写真を見たほうが良かったような気もしますが...。)
臨床研修が始まると、わからないことだらけです。指導医の先生にご指導いただきながらも、臨床疑問のリストがたまっていきました。
まずは、臨床現場で期待される動きができるように心がけました。その一方で、先輩同士で方針が異なることや、論文を見ても根拠がしっかりしていないことをメモしていました。
誤嚥性肺炎で繰り返し入院する高度認知症のある患者さんの家族に、今回は一時的に改善するかもしれないが、終末期であることをわかってもらうにはどうしたらよいか。
市中肺炎の抗菌薬治療期間は1週間が目安とされるが、2〜3日で良くなった人にも1週間続けるべきなのか。
診断エラーが起きた時、なぜ起きたのか、どうしたら良かったのか、どうしたらより早く修正できたのか。
初期研修中には、そういったことをよく考えていました。
精神科専門医研修とCOVID-19が、ちょうど重なりました。その影響で、Oxford大学のSR&MA講座がオンラインで実施されるようになり、時差のおかげでちょうど受講することができました。
内容自体は、すでに知っていることばかりでした。しかし、The Lancetなどに複数の論文を出版している世界トップクラスのチームによるこぼれ話は、とても学びになりました。
中でも印象的だったのが、
「Don't be data-driven, be protocol-driven」
という言葉です。
Data-drivenというと良いことのように思っていました。しかし、データを見てから解析方法を考えると、恣意的な結果になりがちです。本来あるべき解析を事前にきちんと考え、プロトコルとしてまとめておくことが大事だと学びました。
他にも、
「It takes time to do research. Don't do it at midnight」
との言葉を、コースが終わる日本時間の深夜頃に聞いて、苦笑したことを覚えています。
今考えると、なかなか生意気なことではあります。しかし、その講座の他の受講生のリサーチクエスチョンを見て、十分勝負ができそうだと思いました。
臨床疑問のうち、リサーチクエスチョンにまとめられるものは一部です。自分が実施でき、価値も出せそうなものは、さらにそのごく一部です。それでも、うまくピースがはまる瞬間は格別です。
特に、用量反応メタアナリシスという手法を応用して、抗菌薬治療期間を検討できるとひらめいた時は高揚しました。ただ、新しすぎることもあって査読がうまく進まず、出版までに1年以上かかりました(Furukawa Y., et al. BMJ Open 2023)。
最初の論文には2年ほどかかりました。しかし、勤務先の病院が紙で購読していたThe British Journal of Psychiatryに掲載され、実際に手に取ることができたのは幸運でした(Furukawa Y., et al. Br J Psychiatry. 2022.)。
残念ながら、表紙に掲載された私の名前はスペルが間違っていました。コピペではなく、手書きで入力し直しているのでしょうか。
ビギナーズ・ラックに恵まれて調子に乗り、臨床研究を続けるようになりました。
その後も、臨床研究は臨床と並行して行いました。研修中の身ながら、外部の専門家との共同研究を放任していただいた医局の先生方には、感謝してもしきれません。
中でも一番大きなプロジェクトが、不眠の認知行動療法(CBT-I)に関する研究です。
精神科の臨床では、不眠の訴えは日常茶飯事です。睡眠薬を増やす前にできることはないかと文献を調べる中で出会ったのが、CBT-Iでした。世界中で睡眠薬よりも優先して第一選択とされているというではありませんか。
実際に診療に取り入れてみると、確かに効果があることを実感できました。薬物療法をすでに多数試してきていて、他の心理療法も実施できないような方でも、CBT-Iで不眠症が改善し、抑うつ症状など他の症状も改善することを何度も経験しました。
自分でエビデンスを調べたことが、そのまま目の前の患者さんの診療に活きる。
大きな成功体験になりました。そしてこの実感は、臨床研究を続ける大きな原動力になりました。
なお、日本で第一選択とされる睡眠衛生指導には、有効性を示したエビデンスはありません。米国睡眠医学会のガイドラインでは、単体での実施は非推奨となっています(Edinger J.D., et al. J Clin Sleep Med 2021)。
一方で、CBT-Iは複数の要素から構成される治療です。その中の何が本当に効いているのかは、当時よくわかっていませんでした。「それなら自分で明らかにしよう!」と、要素ネットワークメタアナリシスという手法を用いた研究を始めました。
私は睡眠時間を長く取らないと調子が悪くなる方なので、夜の睡眠を大きく削るようなことはしませんでした。その代わり、昼休みの空き時間や外勤先へ向かう電車の中など、隙間時間を見つけては少しずつ作業を進めました。
文献のスクリーニングは、常にペアで行います。自分が主導するプロジェクトでは、できるだけ半分は自分が担当するようにしました。
PDFを2000近く集めて整理するのは、なかなか大変です。正直、もうしたくはありません。と言いつつ、今もやっていますが。
他の方のプロジェクトのスクリーニングをすることも増え、他人が主導するプロジェクトを手伝う大変さが身に染みるようになりました。共同研究者の方々に、改めて感謝を申し上げます。
Rも独学しました。専門家のアドバイスをもらいながらとはいえ、苦戦しました。
今見ると、本当に汚いコードで目も当てられません。初めの数本の論文では、RStudioをセットアップすることもうまくできず、RStudio Cloudを使っていました。
用量反応メタアナリシスや要素ネットワークメタアナリシスなどは、解析手法として比較的新しく、当時はまだ教科書などにも載っていませんでした。そのため、同じ手法を使った数少ない先行研究と、そこで使われたコードが手がかりでした。
査読にも一部苦戦しましたが、不眠の認知行動療法で世界的に有名な共同研究者と、統計解析で世界的に有名な共同研究者のおかげで、なんとか乗り切ることができました。
少なくともSR&MAの研究は、一人で行うことはできず様々な人の力を借りる必要があります。
査読対応で応用的な解析を追加することが望ましかった時、統計の先生は多忙だったこともあり、やや難色を示しました。
しかし、すでに私が実施し得る他の追加解析をすべて行い、データセットの整理もしていたのを見て、追加解析をしてくれました。
当たり前のことですが、他人に依頼する時は、やってほしいことを絞る必要があります。自分でできることはすべて行い、依頼した作業をスムーズに進めてもらえるように準備することが大事なのだと思います。
力を貸してやろうと思ってもらえるような研究計画を練り、自分で率先してプロジェクトを推進していくのが、自分の役割だと感じています。
平日の隙間時間はもちろん、休日も研究に多くの時間を割いていました。作業量としては大変でしたが、行っている研究が最先端で、とても意義深いものになると確信していました。そのため、比較的楽しく進めることができました。
SR&MAには、ひらめきはほとんど必要ありません。リサーチクエスチョンの見極めと磨き上げができたら、あとはひたすら地道に、泥臭く作業を進めるだけです。例えるならば、数学の確率の問題で、数行で済むエレガントな解法を考えるというよりも、すべての場合を書き出して数え上げる作業です。
漏れや重複がないよう、地道にこなすイメージです。
別の分野の教授に、「レビューは初心者がやるものでしょう」と軽くあしらわれたこともあります。しかし、トップジャーナルに載るようなSR&MAは、そのように簡単なものでも、些細なものでもないと自信を持って言えます。
あくまでも、これができたのは、私が行っている研究がウェットではなくドライで、さらに個人情報を一切扱わないため、出先のカフェでも作業ができたからです。それも含めて、自分にはSR&MAが合っていたのだと思います。
定性的な研究に取り組もうとしたこともあります。しかし、まとめ方にバイアスがかかっていないかなど、考え出すと止まらなくなるため、進めることができませんでした。何事にも得手不得手があるのだと思います。
自分が活躍できるフィールドが見つかったのは幸運でした。
話をCBT-Iの研究に戻します。一連の研究で、睡眠薬よりもCBT-Iのほうが有効であること(Furukawa Y., et al. PCN 2024)や、CBT-Iの中でも臥床時間制限や刺激統制といった要素が有効であることを明らかにできました(Furukawa Y., et al. JAMA Psychiatry 2024)。
特にJAMA Psychiatryの論文は、同誌の掲載論文のうち過去3年間の引用件数トップ5にも瞬間的に入りました。私が論文で見かけていた不眠症の研究者の方々も、皆読んでくれていました。
自分の臨床疑問から始まった研究が、世界中で読まれ、臨床にも反映されていく。
そう実感して、ぞくぞくしました。
同時に、きちんとした研究をしていかなければ、逆に患者さんに害を与えてしまうかもしれないと、緊張感を持ちました。
いくら論文を書いても、それだけで世界が一気に大きく変わるわけではありません。それでも、世界の臨床につながっていくことが、臨床研究の醍醐味だと思います。
一方で、臨床現場に目を戻すと不眠症治療の第一選択であるはずのCBT-Iは、まだ十分に知られておらず、提供できる医療者も限られています。有効な治療が、エビデンスごと現場に届かずに埋もれている。
これは、エビデンスと臨床現場のギャップという意味では、医学生の頃に感じた憤りと地続きの問題です。そこで、書籍やブログ、ウェビナー、治療プログラムの監修といった形で、CBT-Iを広める活動にも取り組んでいます。
CBT-Iの勉強会などのご要望がありましたら、お問い合わせください。
臨床研究は、論文を書いて終わりではありません。意味のある形で臨床現場に応用されてこそ、価値があるものです。エビデンスの質が低い場合には、臨床現場に反映しないというのも大事な応用です。
そのため、臨床論文の結果をどのように解釈するべきか、どのように提示すると解釈しやすいかという点も重要な研究テーマだと考えています。
例えば、新しい治療法について「死亡リスクが半減」といった相対的な表現がされることがあります。しかし、そのような表現は、効果を過大評価することにつながりがちです。絶対値で表現するほうが良いことが知られています(Heimke F., Furukawa Y., et al. BMJ Ment Health 2024)。新谷先生も、同じようなコメントをされていました(【医療統計Q&A 教えて新谷先生】Vol.5)。
絶対値の提示は、意思決定支援ツールでも推奨されています(Volk R.J., et al. BMJ 2026)。がん検診のプロモーションリーフレットを調査したことがありますが、この意思決定支援ツールの基準は、ほとんど満たされていませんでした(Furukawa Y., et al. PEC 2024)。
それどころか、がん検診の効果に関する情報はなく、病期ごとの5年生存率という、がん検診の効果とは関係のない数字を提示していました。その数字によって大きな効果があるように見せ、受診率の向上を目指していました。
病気で苦しむ人を減らしたい。その志は良いものです。しかし、それを、効果がない介入を効果があるかのように見せて提供することで実現できるのでしょうか。
悪性腫瘍で家族を亡くしたことのある人間としては、疑問に感じます。
基本的に、私は臨床医です。臨床に役立てるために、臨床研究を行っています。そのうえで大切なことは、「当たり前のことを当たり前に行うこと、凡事徹底」だと考えています。
私にとって、臨床医として当たり前のこととは、次の三つです。
現時点で一番確からしいエビデンスを把握する
個々の状況で、目の前の患者さんにとって何がベストかを共に考える
治療を提供し、結果に応じて柔軟に方針を変える
「エビデンス」というと、何か物理法則のように絶対的なものだと思われがちです。しかし、実際は不完全なものばかりです。時には、相互に矛盾することもあります。
臨床医としては、現時点で存在するエビデンスがどのようなもので、どの程度確からしいかを把握するように努めています。
既存のエビデンスの質に満足できない時や、自分がより良い形でエビデンスをまとめられそうな時には、それを臨床研究として実施します。私の場合は、一連のSR&MA研究がそれにあたります。
ある程度確からしいエビデンスがあったとしても、それを個々の患者さんにどう適用するかは、また別の問題です。
不眠症には、睡眠薬よりも不眠の認知行動療法のほうが有効です。しかし、薬は絶対に嫌だという方もいれば、とにかく薬だけ出してほしいという方もいます。効果がないとわかっているものでも、藁にもすがりたいということもあり得ます。
ケースバイケースで考える必要があります。私の研究では、臨床研究の結果の解釈に関するものや、医療コミュニケーションに関するものが、これに対応します。
自分が専門性を持つ領域について、第一選択の治療法を提供できるように修練するのは当然のことです。しかし、すべてをこなせる人はいません。同僚に頼んだり、紹介先を見つけたり、治療法の普及に努めたりすることも必要です。
また、エビデンスをきちんと見れば、一番有効性が高いとされる治療法でも改善しない方がいること、プラセボなど有効性がないはずのものでも改善する方がいることは明らかです。
有効性が高い選択肢のほうが、改善する確率が高いというだけで、0か100かではありません。
治療反応性を見ながら、最初の選択にこだわりすぎず、柔軟に治療方針を修正していくことも必要です。

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