
大学教員として着任した直後の常勤教員である筆者が、「救急・集中治療領域における医療過誤や有害事象の第2の被害者に関する研究」をテーマとした科研費研究活動スタート支援の獲得経験を解説します。
本記事では、審査員をスムーズに本題へ引き込むための構成や、私自身がこの研究に取り組む必然性、課題を明らかにするだけでなく解決策まで提示するという一貫したストーリーなどの工夫を体系的にお伝えします。
初めて科研費に挑戦する若手研究者や新任大学教員、臨床現場への還元価値どう伝えるべきか悩む申請者にとって、実践的な示唆を得られる内容です。
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専門外の審査員にも直感的に伝わる文章表現とアピールのコツ
採択率を劇的に高めるリアルな準備プロセスとキャリアへのメリット
審査員を納得させる申請書の構成案と工夫
若手研究者や新任大学教員
まだ研究実績が十分ではなく、自分の研究テーマの必要性や独自性をどのように調書へ落とし込めばよいか悩んでいる研究者
限られた学内研究費に危機感を持ち、自身の力で初めての外部資金を獲得して持続的な研究基盤を確立したい方
【研究助成金】
vol.1:科研費 スタート支援 - 社会医学、看護学およびその関連分野
vol.2:科研費 基盤(C) - 生涯発達看護学関連
vol.3:古川医療福祉設備振興財団研究助成 - 医療・福祉、リハビリ分野
vol.4:科研費 若手研究 - 高齢者看護学および地域看護学関連
vol.5:科研費 スタート支援 - 基礎医学研究およびその関連分野
vol.6:富山県立大学研究協力会 奨励研究 - 看護工学連携分野
vol.7:住友生命 子育てプロジェクト女性研究者支援 - 社会医学領域
vol.8:ななーる訪問看護研究助成プロジェクト - 在宅・訪問看護分野
vol.9:科研費 基盤(C) - 社会医学、看護学およびその関連分野
vol.10:科研費 スタート支援 - 社会医学、看護学およびその関連分野
vol.11:科研費 若手研究 - 内科学一般およびその関連分野
vol.12:フランスベッド・メディカルホームケア研究・助成財団 - リハビリテーション活動や機器に関する研究
vol.13:ファイザーヘルスリサーチ研究に関する研究助成公募 - 臨床医学分野(本記事)
vol.14:科研費 スタート支援 - 社会医学分野
vol.15:科研費 スタート支援 - 社会医学分野(本記事)
【奨学金】
氏名:相川 玄
所属・職位:関東学院大学・常勤教員
専門分野・領域:社会医学
科研費 研究活動スタート支援
公的機関(省庁・自治体など)
独立行政法人日本学術振興会
「研究活動スタート支援」は、我が国の研究機関に採用されたばかりの研究者や育児休業等から復帰した研究者等が行う研究をサポートするものであり、これらの研究者の当座のスタート支援に資することが期待されます。
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/22_startup_support/download.html
所属属性に条件あり
150万円×2年(最大300万円)
260万円(間接経費含む)
毎年決まった時期に公募
救急・集中治療領域における医療過誤や有害事象の第2の被害者に関する研究
医療過誤や有害事象の第1の被害者は患者であるが、それらに関与した医療従事者は第2の被害者と称される。こうした医療従事者は、不安や抑うつ、心的外傷後ストレス障害などの「第2の被害者症候群(Second Victim Syndrome: SVS)」を呈することがある。
救急・集中治療医療においては、医療過誤や有害事象の発生率や影響度は高く、医療従事者への精神的影響も強いと予測されるが、本邦の救急・集中治療領域のSVSに関する実態は不明である。
そのため本研究の目的は、本邦の救急・集中治療領域の医療従事者のSVSの実態及び、第2の被害者が望む支援リソースについて明らかにし、第2の被害者の支援プログラムを開発することである。
上司・同僚からの紹介
研究活動スタート支援に応募した最大の理由は、初期の研究環境立ち上げにおいて、最も採択の可能性が高く、手厚い支援を受けられる点にあります。本事業は「研究機関に採用されたばかりの研究者」を対象としており、他の科研費種目と比較して応募対象者が限定されています。
採用直後の研究者は、自身の研究資金が十分に確保されていない中で研究をスタートせねばならない厳しい状況に置かれます。そのため、2年間で最大300万円の助成をいただける本事業は、研究活動を軌道に乗せる上で非常に魅力的な制度でした。
また、科研費の採択は研究者としてのキャリアを築く上での登竜門であり、その実績は自身の研究能力を示す客観的な評価指標にもなります。当時、まだ研究実績の乏しかった私にとって、本事業への応募は、今後の研究活動を持続・発展させていくための極めて重要な挑戦でした。
私が研究活動スタート支援に応募したきっかけは、博士号の取得が見え、大学教員としての着任が現実味を帯びてきた年度末の3月頃のことでした。当時、メンターとしてお世話になっていた研究室の先輩から「あの研究テーマで、スタート支援に応募してみたら?」と背中を押していただきました。
当時、私は看護師として勤務しており、所属先から研究費の支援を受けることはありませんでした。大学院在学中にも自身の研究に多額の費用がかかり、指導教員の先生に助けていただきながら研究を進める状況が続いていました。
昨今、英文校正費や論文掲載費が著しく高騰しており、着任先の大学から支給される個人研究費だけでは、到底持続的な研究活動を賄いきれないという厳しい現実にも直面していました。大学院を卒業し、一人の研究者として自立するタイミングを迎えました。
そこで、「これからは自身の力で研究費を獲得し、研究基盤を確立していかなければならない」という強い覚悟が芽生え、本事業への応募を決意しました。
書式・文量について
他者に研究計画書の添削を依頼、申請書に挿入用の図表の作成
研究目的・背景、研究の独自性・新規性、予算の使用用途、本研究の着想に至った経緯や関連する国内外の研究動向と本研究、これまでの研究活動、研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)の位置づけ
以下のような分量で構成しました。
1、研究目的、研究方法など
(概要):400字
(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」:1200字
(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性:300字
(3)本研究の着想に至った経緯や、関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ:700字
(4)本研究で明らかにすること:300字
(5)本研究の目的を達成するための準備状況:100字
2、応募者の研究遂行能力及び研究環境
(1)これまでの研究活動:900字
(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む):800字+研究実績(論文リスト)
3、人権の保護及び法令等の遵守への対応:600字
申請書のストーリーを組み立てる上で私が最も意識したのは、審査員をスムーズに本題へ引き込むことです。現状の課題から解決策の提示までを、論理的に1本の軸で繋ぐようにしました。
まず冒頭では、誰もが納得する一般的な事実から入ることを心がけました。医療過誤の「第1の被害者は患者である」という前提をまず提示しました。その上で、実はその事象に関与した医療従事者も不安や抑うつを抱える「第2の被害者」になり得るという事実へと、視点をスライドさせました。
この視点の転換により、本研究のコアとなる「第2の被害者症候群(SVS)」というテーマを、唐突ではなく自然な流れで立ち上げるよう意識しました。テーマを設定した後は、対象を「救急・集中治療領域(ER/ICU)」へと一気に絞り込みました。
この領域は過酷で医療過誤等のリスクも高く、精神的影響も強く予測されるにもかかわらず、国内での実態は不明です。あえてこの過酷な環境をターゲットとし、「そこが手付かずである」という明白な空白を提示しました。これにより、「だからこそ今、調査が必要である」という研究の動機を論理的に際立たせる構成にしました。
さらに、この空白を「なぜ私が埋めるのか」という点に説得力を持たせるため、自分自身の研究キャリアの変遷をストーリーに組みました。
私はこれまで、ICUにおける患者の有害事象、つまり「第1の被害者」側の研究を専門に行ってきました。その研究を深める過程で「被害者は患者だけではない」と気づいた、という文脈を持たせました。
過去の実績をただ羅列するのではなく、これまでの知見と気づきが今回のテーマの着想へと一直線に繋がっていることを示し、私自身がこの研究に取り組む必然性を持たせました。
最後に、研究計画全体の構成として「現状を捉えること」から「形にすること」へと展開するステップを意識しました。前半でER/ICUにおけるSVSの実態と望む支援リソースを明らかにし、後半ではそのデータをもとに具体的な「支援プログラムを開発する」という流れです。
課題を明らかにするだけでなく、それを用いて解決策を提示するという一貫したストーリーを描くことで、計画全体がブレることなく着地するように構成しました。
申請書の独自性や社会的意義においてアピールしたのは、未開拓の領域へのアプローチと、臨床現場への実質的な還元価値です。
まず独自性の面では、国内外で報告がほとんどない「ER/ICU領域」に特化している点を提示しました。さらに、自ら開発を進めている国際的なSVSの評価ツール「日本語版SVEST-R」を使用するという点で強みを示しています。
また、SVSの発生率は組織の患者安全文化や職場環境に大きく左右されます。そのため、海外の知見をそのまま流用することはできず、本邦の医療文化に即した独自の調査が急務であるという切り口を強調しました。
社会的意義としては、単なる現状把握の調査にとどまらず、得られたデータから具体的な「支援プログラム」を開発し、その効果まで検証する計画とした点をアピールしています。これにより、医療過誤等に関与した医療従事者のSVS発症予防や離職防止に直接貢献できるという、臨床現場への確実な還元価値を明確にしました。
文章表現の工夫において意識したのは、審査員が瞬時に内容を理解できるよう、徹底して客観性と可読性を高めることです。
まず、中心概念である「医療過誤」や「有害事象」、「第2の被害者」について先行研究に基づいた厳密な定義を行い、議論の曖昧さを排除しました。その上で、「患者10人に一人」「ICU入室患者の約50%」といった具体的な統計数値を効果的に織り交ぜ、現場の過酷さを主観ではなく客観的な事実として説得力を持たせるよう工夫しました。
また、視覚的な読みやすさを考慮し、文章の羅列を避けて具体的な小見出しを随所に配置することで、論点を明確に構造化しました。さらに、重要なキーワードや文章にはボールドや下線を用いて強調し、重要なポイントについてすぐに理解できるように適度に装飾しました。
専門外の審査員であっても、研究の重要概念や計画の全体像を直感的に理解できるようにするために図表も取り入れました。文章だけでは把握しづらい「第1の被害者から第2の被害者への波及構造」をイラストで視覚化しました。
本研究のコアとなるSVSのメカニズムを視覚的に整理し、審査員に問題の所在を直感的に伝えようと意識しました。そして、ツール開発から全国調査、プログラム開発に至る多段階の研究デザインをフローチャートで示すことで、計画の論理性と実現可能性を一目で把握できるようにしました。
申請書の記入において最も苦労したのは、「本研究の着想に至った経緯」「研究課題の核心をなす学術的『問い』」「学術的独自性と創造性」の記述です。
これらの項目は、通常の一般的な研究計画書にはあまり見られない特有の要素を含んでおり、一筋縄ではいきませんでした。これらは研究の必要性を客観的に論じるだけでなく、自身の思考プロセスや研究の本質的な価値を深く掘り下げて言語化する必要がありました。
具体的には、これまでの「第1の被害者(患者)」側を対象とした過去の研究から、今回の「第2の被害者(医療従事者)」というテーマにどのように結びついたのかという経緯があります。これを、説得力のあるストーリーに落とし込むことに苦心しました。
採択において最も重要であったのは、「研究の必要性」と「実現可能性」が、審査員に疑念を抱かせないレベルで明確に示せた点だと思います。
まず表現の面では、多忙な審査員の負担を減らし、直感的に内容を理解してもらえるよう論理構成を練り上げました。複雑な概念や研究プロセスの全体像を図表を用いてわかりやすく伝えるように工夫しました。
また、これまで専門としてきた「第1の被害者に関する研究」の実績から、今回の「第2の被害者」というテーマへ一貫した一つの流れとして繋がっていることを示しました。これにより、私がこの研究を行う必然性について強調したことも重要だったのだと思います。
さらに、研究対象となるICU領域において、以前実施した前向き観察研究などで少しでも本テーマに関連する臨床研究に複数携わってきた経験を明記しました。これも、現場での実行力を客観的に証明する強みになったと考えています。
加えて、計画の確実性を裏付ける具体的な準備状況と環境の提示も大きなポイントだったと思います。要となるSVSの評価ツール「日本語版SVEST-R」について、すでに翻訳が終了し妥当性と信頼性の検討を行っているという、現在進行形の段階であることを明記しました。
さらに、今回のテーマそのものである「ICUの医療従事者におけるSVS」に関するシステマティックレビューやメタアナリシスにも現在進行形で取り組んでいることを明記しました。これにより、単なるアイデア段階ではなく、すでに十分な背景知識の整理と研究の着手が進んでいることをアピールしたのも重要なポイントだったと思います。
その上で、前任機関である救急・集中治療科の医師や、患者安全分野の専門家との強固な研究協力体制がすでに構築されていることを具体的に示しました。これらの要素が重なり、助成開始後すぐに研究を確実に遂行できる環境が整っていると評価されたのではないかと思います。
機器・ソフトウェア購入、旅費・学会出張費、データ収集・分析、英文校正費、論文掲載費
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K19779/
現段階で具体的な成果を明確に断定できるわけではありませんが、一人の研究者として自立するための重要な足がかりになったと捉えています。
大学教員としてのキャリアをスタートする初期のタイミングにおいて、本事業の採択実績は、自身の研究遂行能力を示す客観的な評価となります。この実績が、学内外における研究環境や信頼の構築を加速させるものと考えています。
また、大学からの個人研究費だけに頼るのではなく、自ら外部資金を獲得しました。主体的にかつ組織的に研究をマネジメントするという経験そのものが、今後の持続的な研究活動における大きな財産となります。
今後、より充実した研究環境を求めて新たなポジションに挑戦する際にも、この採択実績は研究者としての競争力を示してくれます。そして、他の候補者と明確な差をつける確かな武器になると確信しています。
新任の研究者としてキャリアをスタートさせるのであれば、この助成事業には必ず応募すべきだと強くお勧めします。
初期の段階で代表者としての採択実績を得ることは、他の研究者と明確な差を付け、今後のアカデミアの世界を生き抜くための大きな強みになるからです。ただし、応募にあたって一点だけ強く意識していただきたいのが、スケジュール感です。
本事業は公募の締め切りが年度初めの5〜6月頃と、非常に早い時期に設定されています。4月に新しい環境に着任し、日々の業務や新生活の慌ただしさに追われていると、あっという間に締め切りを迎えてしまいます。そのため、着任直後からアンテナを張り、早め早めに準備を始めることが何よりの重要ポイントです。
タイトなスケジュールの中で調書を書き上げ、実際に「採択」の通知を受け取ったときの喜びは、本当に感慨深いものがあります。それと同時に、資金をいただいて研究を遂行するという適度な責任やプレッシャーも生まれます。しかし、それこそが自らの研究を力強くドライブしていく最高の原動力になります。
調書の執筆にはエネルギーが必要ですが、応募すること自体はタダです。挑戦しなければ可能性はゼロですが、一歩を踏み出せば未来が大きく変わるかもしれません。失うものは何もありませんので、自分の研究の可能性を信じて、ぜひ臆せず挑戦してみてください。

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vol.2:科研費 基盤(C) - 生涯発達看護学関連
vol.3:古川医療福祉設備振興財団研究助成 - 医療・福祉、リハビリ分野
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