
【採択者が語る科研費獲得のコツ】科研費 基盤(C):社会医学、看護学およびその関連分野 - vol.9
2026.02.26
精神科病棟での臨床経験を有し、看護領域の教員として従事する筆者は、「精神科病院の看護職員による入院患者への不適切ケア・虐待を防止するための指針の構築」をテーマとした研究で科研費獲得を経験しました。
本記事では、「先行研究が少ない状況下で、どのような学術的意義がありなぜこの方法で研究するのかを説得的に記述する工夫」や、「自身の研究経験では十分とはいえない状況下での、研究遂行能力・実行可能性の示し方」をご紹介します。
これから研究を始めたい方々に向けて、具体的なヒントを共有します。
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- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 獲得ノウハウシリーズ
- 申請者情報
- 助成金情報
- 助成金名
- 助成団体の種類
- 助成団体名
- 助成制度・助成団体の理念
- URL
- 応募対象の条件
- 最大助成金額・期間
- 実際に支給された助成金額・期間
- 募集頻度・時期
- 研究内容
- 申請時の研究タイトル
- 研究概要
- 申請までの経緯
- 助成金を知ったきっかけ
- この助成金を選んだ理由
- 応募に至るまでのストーリー
- 申請ノウハウ
- 募集要項で特に注目した点
- 申請準備で実施したこと
- 申請書に記載が求められる項目
- 各項目の記入分量
- 構成・ストーリーについて意識したポイント
- 独自性や社会的意義でアピールしたポイント
- 文章表現の工夫
- 記入が難しかった項目とその理由
- 採択につながったと考えるポイント
- 採択後の成果
- 助成金の使用用途
- これから応募する人へのエール
- 【オンラインスクール mJOHNSNOW入会受付中:7日間無料お試し】
- mJOHNSNOW講義紹介|あなたも獲れる100万円 ゼロからの科研費獲得講座
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
研究の実現可能性と信頼性の高さを示す工夫の仕方
自分自身の問題意識や研究への思いを伝え、説得力を持たせることを意識
先行研究が少ない状況下で、学術的意義を説得的に記述する工夫
この記事は誰に向けて書いているか
これから研究を始めたいが、先行研究が非常に少なく学術的背景の記載に悩んでいる方
公衆衛生・看護・医療分野で、社会課題を研究として形にしたいと考えている研究者
自身の研究経験がまだ十分とはいえない中で、研究遂行能力・実行可能性を示す必要のある方
獲得ノウハウシリーズ
【研究助成金】
vol.1:科研費 スタート支援 - 社会医学、看護学およびその関連分野
vol.2:科研費 基盤(C) - 生涯発達看護学関連
vol.3:古川医療福祉設備振興財団研究助成 - 医療・福祉、リハビリ分野
vol.4:科研費 若手研究 - 高齢者看護学および地域看護学関連
vol.5:科研費 スタート支援 - 基礎医学研究およびその関連分野
vol.6:富山県立大学研究協力会 奨励研究 - 看護工学連携分野
vol.7:住友生命 子育てプロジェクト女性研究者支援 - 社会医学領域
vol.8:ななーる訪問看護研究助成プロジェクト - 在宅・訪問看護分野
vol.9:科研費 基盤(C) - 社会医学、看護学およびその関連分野(本記事)
【奨学金】
申請者情報
氏名:的場 圭
所属:関西医科大学看護学部
職位:常勤教員
専門分野・領域:看護
助成金情報
助成金名
科学研究費助成事業 基盤研究(C)
助成団体の種類
公的機関(省庁・自治体など)
助成団体名
独立行政法人日本学術振興会
助成制度・助成団体の理念
科学研究費助成事業は、人文学、社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究費」であり、ピアレビューにより、豊かな社会発展の基盤となる独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。
URL
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/index.html
応募対象の条件
所属属性に条件あり
最大助成金額・期間
500万円×5年(3~5年)
実際に支給された助成金額・期間
416万円×3年
募集頻度・時期
毎年決まった時期に公募
研究内容
申請時の研究タイトル
精神科病院の看護職員による入院患者への不適切ケア・虐待を防止するための指針の構築
研究概要
この研究は、精神科病院における看護職員による患者への不適切なケアおよび虐待の実態を明らかにし、それに基づく防止策の構築を目的としていました。
虐待は行為者個人の資質のみならず、職場環境や組織風土など複合的な要因が関与して生じると考えられます。こうした背景を踏まえ、本研究では以下の三つの調査を実施しました。
研究1:精神科病院の看護管理者を対象に、虐待に対する認識および組織としての取り組みについて調査しました。
研究2:病棟看護職員を対象とした質問紙調査により、虐待の実態とその関連要因を検討しました。行為者の特徴や虐待が生じる環境、組織風土との関連を分析しました。
研究3:協力施設に対する実地調査を通じて、具体的な取り組みの状況を把握しました。
これらの知見をもとに、虐待を生じさせない組織文化の醸成に資する防止策を検討しました。
あわせて、組織運営、職員のストレスマネジメント、虐待防止研修の在り方などについて、具体的な指針の作成を目指しました。
申請までの経緯
助成金を知ったきっかけ
所属機関の公募情報
この助成金を選んだ理由
この助成制度は、3~5年で最大500万円の助成があるため、私の分野では比較的自由度の高い研究を安定して進めることができる点で魅力的でした。
特に、本研究は探索的で複合的なアプローチを想定していたため、柔軟な研究計画を立てやすい本制度が適していると考えました。また、研究代表者としての裁量が大きく、助成金の使い道に関しても自由度が高い点も、取り組みやすさの一つでした。
それだけでなく、科研費を取得すること自体がキャリア上の評価にもつながるため、今後の研究活動にとっても重要だと考えました。
なお、あまり大きな理由ではありませんが、大学という場では科研費への申請が半ば当然のこととされている雰囲気もあり、その意味でも自然な選択肢でした(自分で選んだというより、流れ的にという感もありますが)。
応募に至るまでのストーリー
私はこれまで、患者から医療従事者・看護師への暴力やハラスメントに関する研究に取り組んできました。その過程で、逆に看護師から患者への虐待や不適切な行為の可能性にも関心を抱くようになりました。
精神科病棟での臨床経験を通じて、実際にそうした場面を見聞きしたこともあります。また、精神医療の歴史や制度的背景を踏まえても、虐待が生じ得る土壌があると感じていました。
文献検討を行ったところ、国内外を問わずこのテーマの研究は少なく、重要性が高いにもかかわらず十分に扱われていないことが明らかとなりました。
また、申請年には神出病院事件も報道され、社会的関心が高まっていたことも後押しとなり応募に至りました。
申請ノウハウ
募集要項で特に注目した点
書式・文量について、過去の採択者情報
申請準備で実施したこと
過去の採択例を収集・分析、他者に研究計画書の添削を依頼、申請書に挿入用の図表の作成
申請書に記載が求められる項目
研究目的・背景、研究方法、スケジュール、研究の独自性・新規性、研究の社会的意義、予算の使用用途、「着想に至った経緯」、「応募者の研究遂行能力及び研究環境」、「人権の保護及び法令等の遵守への対応」
各項目の記入分量
・研究目的・方法:
概要、(1)本研究の学術的背景、研究課題の核心をなす学術的「問い」、(2)本研究の目的および学術的独自性と創造性、(3)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか、を3ページ以内に記載する必要があります。
(1)を図を用いながら1000文字程度、(2)を600文字程度、(3)を1図を用いながら200文字程度で記載しました。
・本研究の着想に至った経緯:
(1)本研究の着想に至った経緯と準備状況、(2)関連する国内外の研究動向と本研究の位置づけ、を1ページで記載する必要があります。
(1)を1000文字程度、(2)を400文字程度で記載しました。
・応募者の研究遂行能力及び研究環境:
(1)これまでの研究活動、(2)研究環境(研究遂行に必要な研究施設・設備・研究資料等を含む)、について2ページ以内で記載する必要があります。
(1)を1600文字程度、(2)を800文字程度で記載しました。
・人権の保護及び法令等の遵守への対応:
1ページ以内で記載する必要があり、1000文字程度で記載しました。
構成・ストーリーについて意識したポイント
本助成制度では「研究の意義」と「実行可能性」が重視されるといわれており、構成の一貫性と説得力に留意しました。
まず、患者から看護職員への暴力という既存の研究に取り組んできた立場から、逆の構造として看護職員による患者への不適切行為・虐待の問題提起を行いました。その社会的・制度的背景、研究上の空白を明確にしました。
そのうえで、研究目的、方法、分析視点、期待される成果と意義へと論理的に展開する構成としました。
さらに、看護職の中でも精神科病棟特有の職種構成(看護補助者の関与)を踏まえた分析視点や、個人責任ではなく組織的視点から防止策を構築する意図を強調しました。
研究方法だけでなく、体制や実施環境も具体的に示すことで、研究の実現可能性と信頼性の高さを示すことを意識しました。
独自性や社会的意義でアピールしたポイント
精神障害者の人権は国際的にも注目されるテーマであり、日本国内においても、精神科病院内での虐待事例が歴史的に繰り返されてきました。申請年には深刻な虐待事件が報道され、社会問題として広く認識されるに至っています。
こうした背景を丁寧に記載することで、本研究の社会的意義を十分にアピールできると考えました。
本研究は、精神科病院を対象に、看護職員(看護師および看護補助者)による不適切ケア・虐待の実態とその背景要因を明らかにするものです。虐待を個人の資質に還元せず、職場環境や組織風土との関連から捉える視点や、目撃経験・健康状態・管理者の認識まで含めて調査する点に独自性があると考えました。
さらに、実地調査によって先進的な防止策を把握しました。そのうえで、複数の視点から実効性のある防止指針を構築する点においても、本研究は学術的かつ社会的な貢献ができると考えました。
文章表現の工夫
本助成制度の審査を担当する方は、本研究テーマや分野の専門家とは限らないと考え、専門外の方でも理解できるような平易な表現を心がけました。
また、審査者は多数の申請書を限られた時間で評価することが想定されるため、重要なポイントが一目で分かる構成を意識しました。下線や太字を適宜用い、視認性と可読性の向上にも配慮しました。
複雑な概念や研究の全体像については、図を補足的に使用し、直感的な理解を助ける工夫も行いました。
研究目的や方法に関する記述では、論文的な論理性を保ちつつも、「なぜこのテーマに取り組むのか」、「どれほど重要な課題なのか」が審査者に伝わるよう、やや情緒的な表現も取り入れました。
自分自身の問題意識や研究への思いが伝わるようにすることで、技術的説明にとどまらない説得力を持たせることを意識しました。
記入が難しかった項目とその理由
本申請で特に記入が難しいと感じた項目は2点ありました。
一つ目は「学術的背景」です。
本テーマで申請するにあたり一定の文献検討を行いましたが、国内外ともに精神障害者に対する虐待、特に医療従事者による医療施設内での虐待に関する学術研究は非常に少ない状況でした。
そのため、どのような学術的意義があり、なぜこの方法で研究するのかを説得的に記述することに苦労しました。
そこで、先行研究の蓄積がある高齢者虐待や知的障害者虐待の研究を参考にしました。そして、精神障害者や精神科病院との構造的類似性を手がかりに、背景を説明しました。
二つ目は「研究遂行能力・実行可能性」の示し方です。自身の研究経験がまだ十分とはいえないため、実績だけで説得することは容易ではありませんでした。
そこで、研究体制の構築に力を入れました。質的・量的研究やマニュアル作成に実績のある研究者を分担者として加えることで、チームとしての実行力を補強する形を取りました。
採択につながったと考えるポイント
この研究テーマの社会的意義とタイミングが大きかったと考えています。
申請年には精神科病院における虐待事件が報道され、精神障害者の人権や医療施設内の安全確保が社会的関心を集めていました。このような背景のもと、実態調査と実地調査を組み合わせ、全国レベルで問題の全体像を把握しようとした研究計画は、社会的な要請に応えるものとして評価されたのではないかと考えています。
また、個人責任ではなく組織的背景に着目する視点は、従来の研究にない独自性として伝わったのではないかと考えています。
なにより、自身の経験不足を補うため、実績のある研究者を研究分担者として加えました。実行可能性を示す体制を構築できたことも、採択に結びついた最大の要因ではないかと感じています。
採択後の成果
助成金の使用用途
機器・ソフトウェア購入、旅費・学会出張費、データ収集・分析、英文校正、APC
これから応募する人へのエール
私自身、助成金申請は落ちたり通ったりの繰り返しで、決して安定したものではありません。それでも、出してみないことには始まりませんから、何度でもチャレンジしています。
申請書を書くときは、上司だけでなく近しい研究者仲間にも見てもらい、忌憚ない意見をもらっては修正するというプロセスを繰り返しています。申請書を書いていると、「こんな研究、本当に興味を持ってもらえるのかな」と不安になることもあります。
それでも、自分が大切だと思うテーマが審査者に伝わるよう、自分の言葉で書き進めることを意識しています。不採択になったとしても、その経験は必ず次につながります。また、申請書の内容が他の申請や論文の土台になることも少なくありません。
「この研究をやりたい」という思いが形となり、助成金につながることを心から応援しています。
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