2026.9.3

 【採択者が語る科研費申請書書き方のコツ】AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD):臨床科学分野 - vol.17

    大学の常勤教員である筆者が、「リハビリAIを用いた認知症ケア実践知の発見と即時的な接し方提案システムの設計」をテーマとしたAI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)の獲得経験を解説します。

    本記事では、現場の課題感と最新技術を結びつけた申請の工夫や、実現可能性などの採択につながったストーリーの組み立て方などを具体的にお伝えします。

    AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)へ挑戦したい方、AIを用いて自身の研究をより加速させたい方にとって、具体的な経験を共有します。

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    この記事のまとめ

    この記事を読むと分かること

    • 臨床現場の課題感と最新技術を結びつけ、SPReADの採択につなげる申請書の構成・表現の工夫

    • 「直感や経験」を、生成AIや機械学習を活用してデータ駆動的に構造化・可視化する研究アプローチ

    • 検証可能な実行計画の立て方や、AI開発費等の予算計上における具体的なアプローチ方法

    この記事は誰に向けて書いているか

    • 医療・介護・リハビリ現場の経験や直感を客観的な知見として共有・発展させたい研究者や専門職

    • 生成AIや機械学習を自身の研究分野・社会実装に活用したいと考えている方

    • SPReADなどの公的助成金への応募を検討しており、採択につながるストーリー構築や申請計画のポイントを知りたい方

    獲得ノウハウシリーズ

    【研究助成金】

    • vol.3:古川医療福祉設備振興財団研究助成 - 医療・福祉、リハビリ分野

    • vol.4:科研費 若手研究 - 高齢者看護学および地域看護学関連

    • vol.9:科研費 基盤(C) - 社会医学、看護学およびその関連分野

    • vol.11:科研費 若手研究 - 内科学一般およびその関連分野

    • vol.12:フランスベッド・メディカルホームケア研究・助成財団 - リハビリテーション活動や機器に関する研究

    • vol.14:科研費 スタート支援 - 社会医学分野

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    申請者情報

    氏名:田中 寛之
    所属・職位:大阪公立大学大学院リハビリテーション学研究科・常勤教員
    専門分野・領域:リハビリ

    助成金情報

    助成金名

    AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)

    助成団体の種類

    公的機関(省庁・自治体など)

    助成団体名

    文部科学省

    助成制度・助成団体の理念

    本事業は、「AI for Science による科学研究革新プログラム」のうち、文部科学省が実施する AI for Science 萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)として実施するものです。

    AI for Science を我が国の研究現場に波及・振興させていくためには、単に研究資金を措置するだけでなく、AI 導入に伴う多様な障壁を取り除き、研究者等が新たな発想に基づく挑戦的な研究に機動的に取り組める環境を整備することが重要です。

    このため、本事業では、①迅速な支援、②AI 導入に必要な伴走支援、③独創的研究の芽出し支援の三つを柱として、これらを一体的に実施することにより、研究者等による AI for Science に関する新たなアイデアへの挑戦を促し、その裾野の拡大と科学研究力の強化を図ります。

    URL

    https://www.mext.go.jp/aifors_spread/

    応募対象の条件

    • 所属属性に条件あり、研究分野に条件あり、日本の大学・公的研究機関・民間企業等に所属し、日本国内で研究活動を行う研究者・研究グループ

    • AIを活用した科学研究の高度化・加速化(AI for Science)に資する萌芽的・挑戦的な研究分野

    最大助成金額・期間

    上限500万円×単年度(約半年間)

    実際に支給された助成金額・期間

    300万円×単年度(約半年間)(申請は410万円でしていた)

    募集頻度・時期

    2026年度での新しい公募
    年2回(第1回:4月中旬〜5月中旬、第2回:6月初旬〜7月初旬)

    研究内容

    申請時の研究タイトル

    リハビリAIを用いた認知症ケア実践知の発見と即時的な接し方提案システムの設計

    研究概要

    本研究は、認知症ケアにおける熟練者の実践知をAIにより構造化し、対象者の状態像やケア場面に応じた「よい接し方」を即時的に提案するシステムの開発・実証を行うものである。

    認知症ケアでは、生活障害、徘徊、興奮、不安などへの対応が日々求められるが、有効な接し方は介護者の経験や勘に依存しやすく、標準化・共有が難しい。

    本研究では、介護現場で蓄積されているケア記録や自由記述データを対象に、生成AIおよび機械学習を用いて、対象者の状態、ケア場面、介護者の対応、状態像の変化を構造化する。さらに、状態像の改善に関連する接し方の組み合わせや提示順序を抽出し、個別状況に応じた支援提案モデルを試作する。

    研究期間内には、AI解析用データセットの整備、予備解析、プロトタイプの構築を行う。

    本研究により、認知症ケアにおける暗黙知をデータ駆動的に可視化し、介護・医療職員の実践支援と認知症ケアの質向上に資する基盤を構築する。

    申請までの経緯

    助成金を知ったきっかけ

    上司・同僚からの紹介

    この助成金を選んだ理由

    今回の研究は、すでに認知症ケア記録のデータ基盤や共同研究体制があり、次の段階としてAIを用いた実装に進みたいと考えていたため、この制度との相性が非常に良かったです。

    また、AI開発やAPI利用など通常の研究費では計上や位置づけに悩みやすい経費を、研究の中心的なプロセスとして組み込める点も大きな魅力でした。

    また、審査結果も非常に早かったです研究開始までのスピード感もあり、採択後すぐに研究を動かせる点は、変化の速いAI分野において大きな利点だと感じました。

    研究成果を早期に社会実装へつなげたいという目的にも合致していました。

    応募に至るまでのストーリー

    臨床現場で積み重ねてきた「専門職の直感と経験」を、どうにかして客観的な知見として共有・発展させられないかという問いが、今回の申請へと向かう大きな動機でした。

    これまでの研究では、認知症ケアに資する評価尺度の開発やリハビリテーション手法の開発を行ってきましたが、「目の前の認知症の人の接し方」の重要性に改めて気づき、現場には数値化しきれない「ベテランの感覚」や「些細な変化を察知するノウハウ」といった暗黙知が、まだ無数に取り残されていました。

    研究の進展とともに生成AIや機械学習が実用段階へと入ってきた際、一つのアイデアが形になり始めました。「この技術を使えば、言語化が難しかったケアの暗黙知を構造化し、現場へフィードバックする新たな基盤が作れるのではないか」という着想です。

    従来の基盤研究枠では挑戦的なアプローチゆえに「実績と確実性」を問われやすい側面がありましたが、早期の概念実証やAI技術の融合に焦点を当てた本助成プログラムの存在が後押しとなりました。この助成金でいち早くシステムの開発につなげられると考えました。

    一連の挑戦は、これまで培ってきた臨床評価とデータ解析の蓄積を、次世代の「AI for Science」へと正当に進化させるためにも役立つと感じています。構想を練り上げ、現場の課題感と最新技術を結び付ける形で、今回の応募申請へと至りました。

    申請内容に関する考察と、具体的な作業内容

    募集要項で特に注目した点

    審査基準、書式・文量について、審査の速さ

    申請準備で実施したこと

    申請書に挿入用の図表の作成、AIとの壁打ち

    申請書に記載が求められる項目

    研究目的・背景, 研究方法、スケジュール、研究の独自性・新規性、研究の社会的意義、予算の使用用途

    各項目の記入分量

    研究計画について

    1. 研究目的(365文字):熟練者の経験に依存するケア実践知の可視化と即時提案システムの構築

    2. 研究方法(799文字):「介護サプリ」既存データの匿名化整理 ➔ LLMによる自由記述の分類 ➔ 機械学習による要因解析 ➔ 即時提案プロトタイプ作成 ➔ 妥当性検証

    3. AI利活用の妥当性・実現可能性(729文字):複雑な多変量データ・自由記述の統合解析におけるAIの優位性と、2,000施設以上の実データ基盤

    4. 達成目標(481文字):180日間でのPoC構築(3ヶ月目:データ構造化・予備解析完了 / 6ヶ月目:プロトタイプ作成・内部&専門職検証)

    5. AI利活用のノウハウ抽出・共有の実現計画(299文字):工程別手順書(プロンプト、誤分類修正、課題等)の作成と他専門職領域(看護・福祉等)への横展開

    6. 成果の公開方針(136文字):個人情報保護を徹底した上での学会発表・査読付き論文投稿

    7. 主要業績:論文3編、学会発表(表彰)、著書の計5件研究経費(金額・内訳)について費目別内訳(計 4,090千円):設備備品費/ 消耗品費/ 謝金/ 旅費/ その他

    私はAIの専門家ではないので、かなり社会実装・臨床実装、社会課題を意識し、かつ、これまでの研究実績からの実現可能性を記載しました。

    構成・ストーリーについて意識したポイント

    構成では、AI技術そのものを前面に出すのではなく、まず認知症ケアの現場に存在する具体的な課題から始めることを意識しました。

    認知症ケアでは、対象者の状態や場面に応じた効果的な接し方が熟練者の経験に依存しており、その実践知が十分に共有・活用されていません。そこで、既に蓄積されているケア記録の中に実践知が存在することを示し、それをAIによって構造化・分析することで、状態に応じた接し方を即時に提案できるのではないか、という流れで研究の必要性を説明しました。

    また、単にAIを用いる研究とするのではなく、既存データの整理、改善に関連する接し方の抽出、提案システムの構築までを180日間で段階的に進める構成とし、新規性だけでなく実現可能性が伝わるよう意識しました

    独自性や社会的意義でアピールしたポイント

    独自性として最も意識したのは、生成AIを単に認知症ケアの助言生成に用いるのではなく、実際のケア現場に蓄積されてきた記録から、対象者の状態改善につながる熟練者の「実践知」を発見・構造化し、その結果に基づいて接し方を提案する点です。

    認知症ケアでは、同じ症状であっても対象者の認知機能、生活状況、ケア場面などによって有効な対応が異なり、熟練者の経験に依存する部分が大きいです。本研究では、こうした暗黙的な知識をデータとして捉え直し、AIによって共有可能な形へ変換することを目指しました。

    社会的には、経験の浅い介護職でも対象者の状態に応じたケアの選択肢を得られることで、ケアの質の均てん化や介護職の負担軽減につながる可能性があります。

    また、AIが介護者に代わるのではなく、人の判断を支援する仕組みとして位置づけたことも、実際の介護現場への導入を見据えた重要なポイントとしてアピールしました。

    文章表現の工夫

    文章表現では、認知症ケアに詳しくない審査者にも研究の意義と実施内容が伝わるよう、専門用語を必要最小限にし、できるだけ具体的な表現を用いることを意識しました。ただ、AIに関係する用語は、私自身も「AI」を用いて壁打ちしながら表現を工夫しました。

    「AIを活用する」「実践知を可視化する」といった抽象的な表現だけで終わらせず、「対象者の状態やケア場面等の情報を入力し、蓄積されたケア記録から有効な接し方の組み合わせや優先順位を判定・提示する」というように、AIが実際に何を行うのかを具体化しました

    また、研究目的、使用するデータ、解析方法、最終成果物の対応関係が読み手にすぐ分かるよう、同じ概念にはできるだけ同じ用語を用い、表現の揺れを減らしました。さらに、過度に成果を大きく見せるのではなく、「試作」「検証」など研究期間内に達成可能な表現を選び、新規性と実現可能性の両方が伝わる文章を心掛けました。

    記入が難しかった項目とその理由

    記入が特に難しかった点は、「AIを研究の中で具体的にどのように利用するのか、また、そのためにどの程度の費用が必要になるのか」を説明する項目でした。私はAI初心者なので、ここが特に難しかったです。

    当初は「AIを用いて認知症ケアの実践知を分析し、接し方を提案する」という表現になりやすかったのですが、それだけではAIが実際に何を処理し、研究者が何を判断するのかが伝わりにくいと考えました。

    そのため、ケア記録を意味単位に分割することやわかりやすいテキストを拾い上げる工夫、ケア場面や接し方の事前の入力状態の工夫を施した上で、状態改善と関連するパターンを解析し、提案文の組み合わせや優先順位を提示する、という工程まで記載しました。

    また、LLM API利用料やシステム開発費についても、単に一式で計上するのではなく、想定する入力・出力量や処理件数、開発範囲との対応を考えながら積算する必要があり、研究内容と予算の整合性を取ることに苦労しました。

    採択につながったと考えるポイント

    今回は、SPReaDであるので「運の要素」も非常に大きかったと思います。

    しかしながらあえて理由を捻り出すと、採択につながったと考えているのは研究テーマの新規性だけでなく、短期間で実行可能な具体的な計画として示せた点です。

    認知症ケアにおける熟練者の実践知をAIで発見・構造化し、対象者の状態に応じた接し方の提案につなげるという着想に加え、すでに介護現場で蓄積されたケア記録データを利用できる基盤があり、研究開始後すぐに分析へ移行できる点を明確にしたこと、つまり実現可能性です。

    また、AIにすべてを任せるのではなく、AIによる分類・解析と研究者による確認を組み合わせ、最終的に180日間で検証するところまで研究工程を具体化しました。

    さらに、研究成果を論文発表だけで終わらせず、将来的に介護現場で活用できる仕組みへ発展させる社会実装の方向性を示せたことも重要だったと考えています。

    新規性、データ、実施体制、実現可能性、社会的意義が一つのストーリーとしてつながっていたことが、採択につながったのではないかと考えています。

    採択後の成果

    助成金の使用用途

    人件費、機器・ソフトウェア購入、旅費・学会出張費、データ収集・分析、AI開発費(委託費)

    これから応募する人へのエール

    熟練者の「接し方」をデータで解き明かす構想は、現場を知り尽くした「臨床」研究者にしか描けない挑戦です。

    データだけでは想いは届きませんので、データと想いを審査委員に届けてほしいです。自信を持って、素晴らしい「想い」を届けてきてください!

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    採択者が語る研究助成金・奨学金申請書書き方のコツ
    【研究助成金】

    • vol.3:古川医療福祉設備振興財団研究助成 - 医療・福祉、リハビリ分野

    • vol.4:科研費 若手研究 - 高齢者看護学および地域看護学関連

    • vol.9:科研費 基盤(C) - 社会医学、看護学およびその関連分野

    • vol.11:科研費 若手研究 - 内科学一般およびその関連分野

    • vol.12:フランスベッド・メディカルホームケア研究・助成財団 - リハビリテーション活動や機器に関する研究

    • vol.14:科研費 スタート支援 - 社会医学分野