
本稿は、病院薬剤師として臨床現場に立つ中で抱いた「持続可能な医療とは何か」「限られた医療資源をどう全体最適化すべきか」という疑問を出発点に、イギリスの超名門校(LSE/LSHTM)へ進学し、医療経済・医療政策を体系的に学ぶまでの道のりをまとめた記録です。
日々の業務や米国・台湾での海外研修を経て、「臨床を取り巻く仕組み」が医療に与える影響の大きさを痛感し、医療経済学を政策に直接活かしている英国への留学を決意した経緯を、IELTS対策などの実体験とともに振り返ります。
大学院での学びや世界中の優秀な仲間との議論を通じて、専門知識の習得にとどまらず、前提を疑い論理を構築する思考力を獲得。さらに、多様な価値観に触れる中で自身の経験を客観的に捉え直すという、人生のターニングポイントとなる “Awareness(気づき)” を得るにいたった留学の全貌を綴ります。
海外大学院への進学を検討している方はもちろん、臨床での葛藤を抱えながらキャリアの幅を広げたい、外の世界へ一歩踏み出したいと考えている医療従事者の方にとって、次の一歩を踏み出すヒントとなれば幸いです。
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vol.13:【UCSD MPH受験】海外MPH選択の最適解:内科医が挑んだカリフォルニア留学の全貌 - vol.13 前編
vol.12:【LSHTM受験】貧困支援のあるべき姿を問い、ボランティアの真髄を照らすロンドン留学 - vol.12
vol.8:【ジョンズホプキンスMPH受験】臨床と家庭の両立と断念した現地留学:オンライン海外MPHが拓く選択肢 - vol.8
vol.35:【LSHTM受験】医師・母・患者家族として選んだオンラインMPH:守る命と向き合い続けて - vol.35
vol.34:【ハーバードSPH受験】卒試・国試・MPHのトリプル合格記:医学部6年生でハーバードに挑んだ限界突破の記録 - vol.34
vol.28:【ジョンズホプキンスMPH受験】働きながら、臨床と研究に深みを:血液内科医が選んだオンラインMPHという最適解 - vol.28
氏名:K.M
所属: 製薬会社
自己紹介:大学卒業後、病院薬剤師として外来化学療法室に勤務し、固形がん・血液がんを含む幅広いがん薬物治療に携わる。日々の臨床経験を通じて、医療と経済の関係性に関心を持つとともに、国民皆保険制度の持続可能性も考えるようになった。また、米国MD Anderson Cancer Centerと台湾大学病院での研修では、医療制度の違いが臨床現場に与える影響の大きさを実感。こうした問題意識から、医療経済・医療政策を体系的に学ぶため、英国のLSE/LSHTM修士課程へ進学。現在は、製薬会社のMedical Affairs部門に勤務している。
留学概要 :
大学院:LSE (The London School of Economics and Political Science)
LSHTM (The London School of Hygiene & Tropical Medicine)
MSc Health Policy, Planning & Financing (MSc. HPPF) (Joint course)
(MPHではなく、Master of Scienceです)
期間:2021年9月〜2022年9月
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究を専門とする。日本・グローバルの双方で活動したのちに、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
病院薬剤師として、がん患者さんの薬物治療に関わりながら、「自分は何をしたいか」を模索し続けていました。そんな中、日々の臨床現場で少し疑問に思うことがありました。
月300万円以上の薬剤費がかかる治療をしても、数ヶ月で病勢悪化してしまう患者さん
ウィッグなど、治療以外にも日常生活で大きな経済的負担を抱える若年患者さん
がんの進行による疼痛や、治療に伴う副作用に対応するため、多くの薬が処方され、両手いっぱいの薬を持ち帰る患者さん
患者さんが亡くなられた後、未使用の抗がん剤と医療用麻薬をごみ袋一杯に入れて持参し、薬剤師に処理を依頼するご家族
急な病状悪化や検査値異常により、調剤後に投与中止となり廃棄される高額な抗がん剤
先発品からバイオシミラーに変更すると、年間数千万円規模の薬剤購入費が削減されること
月200万円の治療を受けているおばあちゃん(の領収書が見えてしまった)と手を繋いでいるお孫さんが、将来同じ質の医療を同じアクセスで受けられるのかと感じた疑問
日常業務をしながら、「医療費と効果はどのように定量化するのか」「国民皆保険制度は持続可能なのだろうか」「限られた医療資源の中でどのように医療を提供する仕組みであれば全体最適なのだろうか」といった問いが生まれました。
そこで調べてみたところ、医療経済という学問があるらしいとわかり、マルコフモデルやHealth Technology Assessment (HTA)について学びたいと思いました。
病院薬剤師時代、米国MD Anderson Cancer Center (MDACC)および台湾大学病院で研修する機会を得ました。 Japan Team Oncology Program (J-TOP)を通じてMDACCで研修し、効果的なチーム医療について学びました。
米国No.1のがん専門病院におけるTeam-Dynamics, Patient Empowerment, Patient-centered careの実践は素晴らしく、患者さん自身の主体性の高さも印象的でした。
治療のメリットとデメリットについて、患者さん・ご家族・医師が十分に議論する姿を目の当たりにし、患者さんが自ら情報を収集し、納得して治療を選択する強い意志を感じました。
MDACCを受診される患者さんは社会的ステータスやヘルスリテラシーが高いというバイアスはあるものの、日本では見られないレベルで、医療従事者と患者が対等に対話して意思決定していることが印象的でした。
「支払う価値がある医療か」を患者さん自身が判断している背景には、文化的要因に加え、米国の医療保険制度の仕組みや米国における医療費の高さも影響しているではないかと考えました。
また、台湾大学病院での研修では、医療の電子化が高度に進んでいる点に大きな衝撃を受けました。台湾では日本と同様に国民皆保険制度が整備されており、国民は健康保険証(マイナンバーカードのようなもの)を持っています。
2019年当時は、カードに5種類の情報(アレルギー歴、直近3ヶ月以内・6施設以内の持参薬歴、臨床検査値、ワクチン接種歴、漢方使用歴)が紐づけられ、政府機関によって一元的にクラウド管理されていました。
カードリーダーにカードを読み込むと、Googleのタブが5つ出てきて、患者基本情報を即座に確認できるイメージです。
また、大学病院の電子カルテは、医師記録がコンパクトに管理され、薬剤情報やレジメンが簡便に調べられ、看護記録がわかりやすく見える化されていて、痒いところに手が届くような細やかな優しさを搭載していました。
その結果、日本における臨床現場の『鬼雑務』がまるごと解消されていて、「医療の電子化が進むと、これほど無駄がなく、ストレスフリーになるのか!」と感動しました。
米国および台湾の病院研修を通じて、医療システムのコアである臨床現場はガイドラインに基づく治療が行われるため、国による差異は大きなものではありませんでした。
しかし、「臨床現場を取り巻く仕組み」が、医療のあり方に与える影響は非常に大きいと実感しました。
学生時代から漠然と留学に興味はありましたが、語学習得ではなく、「専門的に学びたい分野があり、その分野が海外で先進的であれば挑戦したい」と考えていました。
日常業務および海外病院研修を経て、医療経済と医療政策を体系的に学びたいという思いが強くなりました。
医療経済分野においては英国のNICE(National Institute for Health and Care Excellence)が有名であるという漠然とした知識もあり、次第に英国留学を志すようになりました。
また、MDACC研修で “Core value” という考え方に出会いました。私のCore valueは、Diversity, Change, Growth, Humorです。研修後、人生やキャリアについて悩んでいた頃、先輩から「何がしたいかではなく、『どうありたいか』を考えてみたら」と言われたことがありました。
MDACC研修やその言葉をきっかけに、多様なバックグラウンドを持つ人々と関わりながら成長したいという思いが強くなりました。医療従事者として臨床現場で働くことには大きなやりがいがありましたが、一方で、同じ環境に居続けることに小さな違和感がありました。
そこで、「外に飛び出そう!」というパッションに溢れ、イギリスの大学院留学を決意しました。
留学先の国としてイギリスを選んだ理由は、NICEの医療技術評価が有名で、医療経済学を政策に直接活かしていると思ったからです。また、イギリスの大学院の修士は基本的に1年なので、今後のブランクが少なく済むと考えました。
さらに、GMATなどのテストが不要で、ローリング審査方式を採用しているので、応募が早い人から合格しやすいのも魅力の一つでした。そして、条件付き合格制度があり、英語スコアが基準に達していなくても合格する可能性があり、チャレンジしやすい制度であると感じました。
留学先の大学院の選択については悩みました。英国で医療経済を学んだ知り合いが周囲におらず、どの大学院を選べばよいのか全くわかりませんでした。留学エージェントにも相談しましたが、分野がニッチなため情報は得られず、最終的には自分で情報収集しました。
Wikipediaや留学資料などの英国大学院一覧に掲載されている全ての大学のHPを地道に検索し、 以下を隈なくチェックしました。
医療経済・医療政策の修士コースの有無
在籍学生のバックグラウンド
授業内容の詳細
調べる中で、医療経済コースには「医療系出身者が多いプログラム」と「経済系出身者が多いプログラム」があることに気づき、医療従事者が多く在籍するコースを探しました。
また、英国の修士コースは、学生のニーズに合わせた多様な選択肢があります。
Taught course(授業とテスト中心)
Research course(研究中心)
両者を組み合わせたコース(授業、テスト、研究)
最初は「英語で修論を書くのは無理だろう」と思っていたので、Taught courseを検索し、シラバスや授業内容を調べました。医療経済修士 x 医療系学生の2軸でプログラムを検索し、さらに各大学院の特徴やカリキュラムを比較検討し、どこに魅力を感じるかを書き出しました。
結果的に、現実的な選択肢としてSheffield大学とBirmingham大学を受け、記念受験としてLSE/LSHTMに応募しました。最終的に全ての大学院から合格をいただくことができ、LSE/LSHTMへの進学を決めました。
留学準備に必要な書類は、推薦書、大学志望書、履歴書、英語スコアでした。 ここでは、英語対策について共有します。受験準備で、最も苦労したのはIELTSでした。
留学しようと決めてから3ヶ月間、集中的に過去問に取り組み、Overall はSheffield大学とBirmingham大学の合格基準に到達しました。
しかし、LSE/LSHTM (MSc. HPPF)の英語要件は「Overall 7.0以上 かつ各セクション(Speaking, Writing, Reading, Listening)で6.5以上」で、当時はSpeaking 5.5、Writing 6.0と基準に届いていませんでした。
LSE/LSHTMから条件付き合格(私の場合は、英語スコアが達成できれば合格)を得たため、半年間、平日3時間・休日6〜7時間、英語学習に取り組みました。Writing対策として、まず過去問と語彙強化に取り組み、次にIELTS Writingの対策本を1冊仕上げることで、英作文の基本的な型を身につけました。
途中で独学の限界を感じ、IELTS対策専門スクールであるPlus One Pointを受講しました。添削してもらうことで、論理構成や文章展開について具体的かつ的確なフィードバックを得ることができ、着実にスコアを伸ばすことができました。
Writingで伸び悩んでいる方には、独学で頑張ろうとせず、早めに添削サービスに申し込むことをおすすめします!
一方、Speaking対策としては、もともと日本語でさえ会話に苦手意識があり、特に試験官を前に緊張してしまうことが大きな課題でした。
そこで、自分の声を録音し、話し方や抑揚、会話に詰まりやすい場面を客観的に分析することから始めました。
IELTS Speakingは3つのPart
Part 1:自己紹介
Part 2:Topicに対して2分間のスピーチ
Part 3:Part 2に関連する質疑応答
で構成されています。
私の場合、Part 2でつまずくとその後のPart 3にも影響するため、Part 2強化に重点的に取り組みました。Part 2で得点を得るためには、幅広い語彙を駆使し、Personalな意見を盛り込み、構造的・論理的にスピーチすることが求められます。
緊張しやすい私にとって、Part 2を乗り切るためには「徹底的に準備すること」が最も有効な戦略でした。具体的には、2分間のスピーチをあらかじめ作成し、文章を丸暗記しました。
当時は、1-4月、5-8月、9-12月の三つの期間にわたって、各期間で出題される質問がある程度決まっていました。各期間の後半あたりに流行のお題情報が出回るので、ネット情報を検索しました。
頻出お題と流行お題をリストアップし、全てに対して2分間のスピーチを作文し、暗記し、それらしく流暢に話す練習を繰り返しました。
何度受験してもあと0.5点届かない状況が続き、「これで最後にしよう」と臨んだIELTSで、一番完成度の高い文章が準備できていたお題が出題され、その流れでPart 3まで乗り切ることができました。
英語学習において、万人に共通する最適解はありません。重要なのは、 自分の英語レベルの現在地と弱点を確度高く把握すること、 目標を明確にすること 、その差分を埋めるための方法を試行錯誤すること、だと思います。
とはいえ、なんだかんだ「英語を楽しむこと」が一番です!
コロナ真っ只中だったので、「コロナ禍で混沌とした世界情勢の中応募することと、合格後に病院を退職して現地留学を決断すること」が大変でした。留学を現実的に考え始めた頃、コロナが始まっていました。
病院は感染対策や臨時対応で忙しく、今後の状況が見通せない中、毎日葛藤しました。合格通知が来た時、イギリスでオミクロン株が流行り始めました。 そんな中、応募&現地留学を決めました。
当時は「医療経済と医療政策を学びたい!」という知的好奇心と熱意に溢れていました。決断しなければいつまでも迷ってしまいそうな自分もおり、定年間際になって、あの時留学しなかったことを後悔したくないと思いました。
また、自分の希望学部では、オンラインコースがなく、コロナの今だからたまたま受験者数が少なく、LSE/LSHTMに合格できたのかもしれない…と考え、このチャンスを最大限に活かそう、自分が選んだ道を自分で正解にすると覚悟を決めました。
終わってみて、「あんなに悩む必要はなかった!」と思いました。 思い描いていたよりも10倍価値のある貴重な経験になりました。
LSE/LSHTM MSc. HPPFは、医療経済・医療政策を学びたい方におすすめです。学問の基礎から応用まで、バランスよく学ぶことができます。
科目選択の自由度が高く、医療経済中心に学びたい場合は関連科目を多く履修し、医療政策に関心がある場合は政策系科目を重点的に選択できることが特徴です。
また、留学生80%と国際色豊かな環境のため、「英国で英国人と英国の医療経済・政策について学ぶ」というよりも、「世界各国の学生とともに、学問の基礎と各国の医療制度などを学ぶ」環境です(地域:UK 20%、North/South America 25%、Asia 30%、Africa 20%、Europe 5%)。
さらに、社会人経験が必須なため、医療従事者だけでなく、コンサルタントや製薬企業以外の多様なキャリアを持つ約60名の学生と交流できます。学力や英語力に加え、人柄も尊敬できる優秀な学生が多く、良い刺激を受けられました。
日本での知名度は必ずしも高くはありませんが、医療経済・医療政策分野や国際機関では非常に評価が高く(私は知らずに入学しました)、Low- and Middle-Income Countries (LMIC) の留学生も多く、High-Income CountriesだけでなくLMICの現状も含め幅広く学ぶため、WHOなど国際機関を志す方にも適した環境でした。
両大学院の学生と人脈ができ、両大学院のリソース(図書館や英語サポート、デジタルスキルセミナー、スポーツ施設)を活用できることが大きなメリットでした。
Sep-Dec (Term 1):4科目(授業+セミナー、小論文1本)
Jan-Mar (Term 2):4科目(授業+セミナー、小論文2本)
Apr-Jun (Term 3):科目なし(試験準備)
Jun:筆記試験(LSHTM: Online, LSE: On site)
Jun-Aug:修論(修論時期は学生によって異なります。私は授業と試験準備で精一杯だった ので、試験後に修論に取り掛かりました)
英国大学院留学で得たものは三つ(Academic skill, Network, Awareness)あります。
医療経済と医療政策の知識は、膨大な課題、学生同士のディベート、そして修士論文を通じて、学問の基礎知識を十分に身につけることができたと感じています。(私が授業を選択しなかったため、統計はほとんど学んでいません。そのため、今mMEDICIさんで統計を学んでいます。)
各科目で授業とセミナーがあり、予習と復習をします。(全部は不可能なので、できる範囲でがんばる)毎週の予習論文量は非常に多く(本1冊が課題になることも笑)、Nativeでもすべてを読み切るのは難しいほどでした。
さらに、セミナー課題では答えのない問いに取り組み、科目によっては3000 wordsの小論文を作成しました。試行錯誤しながら大量のInputとOutputを繰り返し、学生とも幅広く議論することで、知識と英語力を自然と身につけることができました。
最終的に10000 words、80ページの修論を書き上げた時は、達成感でいっぱいでした。医療経済・政策の知識がほぼゼロ かつ 英語ギリギリ合格の状態で入学しましたが、1年で学問の基礎を身につけることができたと思います。
「日本の医療制度のココってどうなっているの?」と聞かれ、私は全く答えられませんでした。友人の素朴な問いに十分に答えられなかったことをきっかけに、自分の理解が断片的であることや理解しているつもりであることに気づきました。
学問だけでなく、日本文化や日本人の考え方などもそうです。今まで、空気のような制度や共通理解がある中で暮らしてきたことに気づき、きちんと言葉で説明できないことに気づきました。
前提を確認する意識が身についたという意味で、学ぶ基礎力が身についたように思います。
同じ医療従事者という共通のバックグラウンドがあっても、国や職種が異なれば、実務や教育、医療制度、医療サービス、医療アクセスは大きく異なります。
そのため、同じ認識で議論しているつもりで話していたら、どこかで噛み合わなくなることがよくありました。「当たり前すぎて言語化したことがないこと」のさらに奥にある前提まで遡って説明して、初めて同じ土俵で議論できると気づきました。
また、友人が自分の伝えたい形で解釈してくれるとは限らないため、同じことを別の言い回しで複数回言い換える必要があります(医療経済・政策は文系色の強い学部のため、数値より言葉で説明する場面が多くありました。)。
そのため、自分の考えを正しく伝えるためには、最初にゼロベースかもしれない相手と自分がOn the same pageにいられるように背景情報を丁寧に共有すること、次に1つの内容を別の文章で何度も言い換え(パラフレーズし)ながら説明し、最後に論理を構造的に組み立てる心掛けが重要であると実感しました。
単に専門知識を習得するにとどまらず、無知を知り、緻密に論理を構築しようとする思考力を得られたことが一番の収穫でした(今も修行中です)。
世界中のかけがえのない友人に出会えたことは、言葉では表しきれない価値があります。友人とこれまでの経験や日常について話すだけで新たな発見があり、毎日ワクワクしました。
5人の友人と話すと、一つの話題から五つの気づきと学びがあります。キャリアに悩みながらも留学に挑戦した学生が集まるので、個々人の学業に対するモチベーションは高く、学びの好循環が生まれます。
また、学生生活を共にすることで、彼らの生きる姿勢からたくさんの大切なことを得ることができました。授業やテスト対策情報を共有し合ったり、セミナー課題について他国の状況を質問しあったり、異なる意見をぶつけ合ったり、グループ課題を協力して進めていました。
学業以外の面では、一緒に料理したり、自国あるあるを紹介したり、Pubで過ごしたり、帰り道に最近ハマっていることを話したり、お得なアプリ情報を教えてもらったり、修論の大変さを共有したり、たまには人生の悩みを話したり、全ての思い出に友人がいます。彼らがいたからこそ留学生活を乗り切ることができました。
留学後も日本に来てくれ、互いに刺激を与え合いながら成長できる友人に出会えたことは、私にとって大きな財産です。
海外留学の醍醐味は、”Awareness” にあるのかもしれません。日々新たな気づきの連続で、常に新鮮な刺激を受けていました。友人との会話や海外での生活という新しい比較対象ができたことで、今まで疑問にさえ思わなかったことや潜在的な思考の凝り固まりに気づくことができました。
新しいフィルターを通して自分の価値観や考え方を客観的に見つめることで、柔軟に考えられるようになり、人間力を磨くことができたと思います。
留学前は、自分のことを「ただの病院薬剤師」と捉えており、自信を持てずにいました。
しかし、国連の勤務経験があり、英語も堪能で、人柄も尊敬できる友人から、「私はあなたのような専門性を持っていない。病院薬剤師として働いた経験はすごい」と言われたことで、考え方が変わりました。
それまで大したことないと思っていた経験やスキルが、他者から見れば価値のあるものだと気づき、誇りに思えるようになりました。
日本人同士であれば「何を作っているの?」「煮物だよ」で会話が成立します。
しかし、海外では「日本食だよ」でさえ伝わりません。ルーマニア人に「これはルーマニア料理だよ」と言われても、私たちがイメージできないのと同じです。
異文化圏の人とコミュニケーションする時は、言語以前に「思考」「前提」「背景」「文化」が異なります。根本的な違いがあることを理解した上で、当たり前な情報も丁寧に補足することで、ようやく会話が成り立つという感覚を知りました。
「言わなくてもわかってほしい」と相手に委ねるのではなく、「あえて言語化することで伝わる」と気づきました。
Nativeは言うまでもありません。驚いたのは、Non nativeの英語力とコミュニケーション能力の高さです。彼らは、豊富な語彙を使って、日常会話であっても論理的に話を構成し、説得力のある具体例を盛り込みながら、話を展開します(ビールを飲みながらでも笑)。
また、会話を盛り上げる反応力があり、相手の気持ちに配慮しつつも自分の意見を明確に主張するAssertivenessもありました。特にアジア人の英語力の高さに感銘を受け、自分の未熟さを痛感すると同時に、「自分もこうなりたい」という向上心につながりました。
そして、英語でのコミュニケーション能力を高める上で重要なのは、話し方のテクニック以上に、「何を話すか」という内容そのものであると気づきました。友人たちの世界各国の政治、歴史、時事ニュースに関する教養の高さに圧倒されました。
英語でのコミュニケーション能力を高めるためには、語学力そのものに加えて、教養や思考を深めることが重要であると気づきました。
ロンドンの地下鉄でストライキが起こることは有名ですが、大学の先生のストライキによって授業が中止された経験は「衝撃的」でした。日本では、教育機関がストライキすることはあり得ません。
オンラインでセミナーを継続してくれた先生もいましたが、実際にセミナーがなくなったグループもあり、生徒側からの猛烈な抗議活動がありました。教育機関がストライキすることも衝撃的でしたし、学生側が皆を巻き込んで主体的に行動する姿勢にも本当に驚かされました。
日本の平和な環境は大きな強みである一方で、その平和に対して無自覚でいることへの危機感も抱くようになりました。
留学初期、Nice to meet you!! と挨拶してすぐに「僕の彼氏が待っているからまたね!」と自然に話すイギリス人に出会い、そのオープンさに驚きました笑
冬には、鮮やかなピンク色のコートを着て、颯爽と笑顔でセミナーに遅れてくるフィリピン人がいました。晴れた小春日和、公園のベンチでのんびりと読書を楽しむ若者がいました。夏には、海もないのに、芝生の上でビニールシートを敷いて水着で日光浴をしている人たちがいました。
1年中、家事分担のあり方というGender inequalityの話題だけで2時間飲み続けるミャンマー人、タイ人、マレーシア人がいました。卒業式では、階段の踊り場で突然音楽に合わせて踊り出すアフリカ人家族がいました。
彼らの存在が太陽のようで、そんな彼らが自然に踊る姿を楽しそうに見ている周囲の様子も含めて、私は「なんて自由で温かいのだろう」ととても嬉しくなりました。
多様な価値観や生き方が尊重される環境の中で、人々が自分らしく、力強く生きていることの美しさを目の当たりにし、自分自身もその一部として受け入れられ、溶け込んでいることに、心地よさと安心感を感じました。
海外大学院留学は、学力も、人間力も成長させてくれます。
圧倒的な勉強量で専門知識は自然と身に付きます。 世界中の素敵な友人と出会い、前向きで新しいエネルギーをもらえます。 多様な価値観に触れることで、物事の捉え方そのものがパラダイムシフトし、自分自身を内省することで思考が深まります。
まさにPricelessな経験です。
少しでも「行ってみたい」なら、迷わず『今』行った方が良いと思います。海外大学院留学を検討している方にとって、本記事が少しでも参考になれば幸いです。

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MPHシリーズ
vol.13:【UCSD MPH受験】海外MPH選択の最適解:内科医が挑んだカリフォルニア留学の全貌 - vol.13 前編
vol.12:【LSHTM受験】貧困支援のあるべき姿を問い、ボランティアの真髄を照らすロンドン留学 - vol.12
vol.8:【ジョンズホプキンスMPH受験】臨床と家庭の両立と断念した現地留学:オンライン海外MPHが拓く選択肢 - vol.8
vol.35:【LSHTM受験】医師・母・患者家族として選んだオンラインMPH:守る命と向き合い続けて - vol.35
vol.34:【ハーバードSPH受験】卒試・国試・MPHのトリプル合格記:医学部6年生でハーバードに挑んだ限界突破の記録 - vol.34
vol.28:【ジョンズホプキンスMPH受験】働きながら、臨床と研究に深みを:血液内科医が選んだオンラインMPHという最適解 - vol.28