
【脳梗塞治療エビデンス活用術】「血圧188mmHg。普段の降圧薬をそのまま続けますか?」 - 11のエビデンスで“急性期の血圧管理”を見極める - vol.6
2026.05.28
急性期脳梗塞では血圧が高い患者にしばしば遭遇します。
しかし、血圧を見て「高いから早く下げよう」と反射的に考えると、かえって危ういことがあります。急性期脳梗塞では虚血部位やその周辺で血圧自動調節能が障害され、血圧が下がると脳への灌流も低下しやすくなるためです。
一方で、静注血栓溶解療法や血栓回収療法を行う場面では、高血圧が出血性合併症を増やしうるため一定の管理が必要になります。実際、再灌流療法を行わない症例では早期降圧の明確な利益は示されず、既存の降圧薬を急性期に一律に継続する利益も明らかではありません。
つまり、急性期脳梗塞の血圧管理は、「高いから下げる」ではなく、再灌流療法の有無、血圧推移、神経症状の変動、全身状態、既存薬の適応を踏まえて、個別に考える必要があります。
今回は、その考え方について仮想症例を通じて整理します。
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- mMEDICI Library | ひらけ、叡智の扉
- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 脳梗塞治療エビデンス活用術
- 執筆者の紹介
- 編集者
- はじめに
- 症例提示とグレーゾーン
- 症例提示
- 本症例における臨床判断のグレーゾーン
- 臨床疑問(Clinical Question;CQ)の明文化
- RCTやメタ解析の整理とその限界
- 【補足:再灌流療法を行う場合はどう考えるか】
- RCTのサブ解析・事後解析とRWEによる補完
- RCTとRWEを踏まえた、症例に対する具体的治療戦略
- 総論の七つの問いで最終確認
- Team Communication Note
- Take Home Message
- 参考文献
- 【医学研究を学ぶならオンラインスクールmJOHNSNOW】
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
急性期脳梗塞で一律に早期降圧すべきでない理由
既存の降圧薬を急性期に継続・再開する際の考え方
再灌流療法あり・なしで血圧管理の目標がどう変わるか
この記事は誰に向けて書いているか
急性期脳梗塞で血圧が高い患者を前に、どこまで介入すべきか迷う医師
もともと内服していた降圧薬を、そのまま続けるか中止するかで悩む医療従事者
再灌流療法あり・なしで血圧管理の考え方を整理したい方
脳梗塞治療エビデンス活用術
vol.1 ガイドラインだけじゃない? 脳梗塞治療リアルワールドエビデンスという新たな武器
vol.2 「軽症脳梗塞、失語あり。t-PAを投与しますか?」 - 12のエビデンスで“攻めの治療”を見極める
vol.3 「広範な脳梗塞症例。リスクをとっても、血栓回収療法を行いますか?」 - 9つのエビデンスで“攻めの治療”を見極める
vol.4 発症26時間の軽症脳梗塞。抗血小板療法は「DAPT」にすべき? - 14のエビデンスで治療戦略を見極める
vol.5 急性期脳塞栓症のDOACを「いつ」始める? - 9つのエビデンスで「1-2-3-4 Day rule」を見極める
vol.6 「血圧188mmHg。普段の降圧薬をそのまま続けますか?」 - 11のエビデンスで“急性期の血圧管理”を見極める(本記事)
執筆者の紹介
氏名:蒲生直希
所属:王子総合病院 脳神経内科 主任科長/札幌医科大学 内科学講座神経内科学分野 臨床講師
自己紹介:大学卒業後より脳神経内科医として研鑽を積み、現在は地域中核病院で急性期医療に従事。専門は脳卒中と頭痛で、日本内科学会総合内科専門医、日本神経学会神経内科専門医、日本脳卒中学会脳卒中専門医を取得。臨床の傍ら、研修医・専攻医教育、講演、Web記事や書籍の執筆を通じて、実践的なEBMの普及に取り組んでいる。現在はmJOHNSNOW fellowとして研究デザイン・統計手法も学びつつ、臨床研究にも取り組んでいる。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
はじめに
急性期脳梗塞では血圧が高いことが珍しくありません。 普段の高血圧診療の感覚からすると、高いなら下げるのが自然に思えます。 ところが、脳梗塞急性期ではその発想をそのまま当てはめることはできません。
その理由のひとつは、虚血部位やその周辺では脳血流の自動調節能が障害され、脳への灌流が全身の血圧に依存しやすくなるからです。したがって、急激な降圧はペナンブラへの血流まで低下させ、症状悪化や梗塞拡大につながる可能性があります(Jordan et al. 2012)。
一方で、再灌流療法を行う場面では、高血圧が出血性合併症のリスクを押し上げるため、一定の血圧管理が必要になります。すなわち、急性期脳梗塞の血圧管理は、高いから下げるのでも、高くても放置するのでもなく、病態と治療内容に応じて個別で考える必要があります (Sandset et al. 2021, Prabhakaran et al. 2026)。
このテーマで特に悩ましいのが、再灌流療法を行わない軽症から中等症の症例です。血圧は高いが極端ではない。症状は比較的軽い。しかも患者は普段から降圧薬を飲んでいる。こうした状況で、降圧薬をそのまま続けるべきか、いったん止めるべきか、いつからどのように再開するべきかは、実臨床で非常によく遭遇する疑問になります。
しかも、再灌流療法を行わない急性期脳梗塞では、一律に早期降圧を行う明確なメリットは示されておらず、既存の降圧薬を一律に継続するメリットも明らかではありません(He et al. 2014, Robinson et al. 2010)。
では、再灌流療法を行わない軽症脳梗塞の症例を通して、急性期の血圧管理と降圧薬再開の考え方を具体的に整理します。

症例提示とグレーゾーン
症例提示
まずは症例を提示します。
症例:72歳・男性、右利き
現病歴:朝6時30分に起床した際、左手の動かしにくさと呂律の回りにくさを自覚した。症状が持続するため救急要請し、発症から3時間で搬入された。
既往歴:高血圧症、2型糖尿病、脂質異常症
服薬歴:アムロジピン5 mg、オルメサルタン20 mg、ロスバスタチン2.5 mg、メトホルミン500 mgを内服中
生活歴:妻と2人暮らしで、元々ADLは自立(mRS 0)。飲酒は機会飲酒、喫煙歴10本/日×52年。定年退職後、現在は無職。
身体所見:身長172 cm、体重68 kg。血圧188/96 mmHg、脈拍76/分・整、SpO2 95%(室内気)。呼吸音清。心雑音なし。下腿浮腫なし。
神経学的所見:意識清明。軽度の顔面を含む左片麻痺と構音障害を認める。失語、半側空間無視、運動失調は認めない。NIHSS 4点(顔面麻痺1点、左上肢麻痺1点、左下肢麻痺1点、構音障害1点)。
血液検査:
WBC 8200/μL Hb 13.6 g/dL Plt 25.2万/μL
Cr 0.76 mg/dL TG 126 mg/dL T-Cho 165 mg/dL
HDL-C 58 mg/dL LDL-C 146 mg/dL
血糖120 mg/dL HbA1c 6.3% NT-proBNP 126 pg/mL
頸動脈エコー:両側頸動脈に有意狭窄を認めず、不安定プラークを疑う所見も認めない。
心電図:正常洞調律。
経胸壁心エコー:明らかな塞栓源を認めない。軽度の左室肥大を認める。
画像所見:
頭部CTで出血なし。頭部MRIではDWIで右放線冠から基底核近傍にかけて急性期脳梗塞を認める。MRAでは明らかな主幹動脈閉塞は認めないが、右中大脳動脈M1に軽度の壁不整を認める。T2*WIで左被殻、左視床に微小出血を1箇所ずつ認める。
本症例における臨床判断のグレーゾーン
比較的軽症の急性期穿通枝梗塞の症例です。
発症3時間で搬送されていますが、症状は軽度かつ非障害性(vol.2を参照)、主幹動脈閉塞も認めないため、t-PAや血管内治療などの再灌流療法は行わず内科的治療を行う方針としました。
一方で、本症例は単純なラクナ梗塞として片づけにくい側面があります。病変は右放線冠から基底核近傍の穿通枝領域にあり、分枝粥腫病(Branch atheromatous disease:BAD)が疑われます。
BADは、穿通枝そのものの細小血管病変というより、穿通枝の起始部近くにあるアテローム性病変によって穿通枝領域の梗塞が生じる病態です。そのため、初診時には軽症でも、発症後に麻痺や構音障害が進行する早期神経学的悪化(END)を起こすことがあります。
ここで悩ましいのが血圧です。
血圧は188/96 mmHgと高く、既往に高血圧があり、左室肥大や微小出血も認めるため、普段の高血圧診療の感覚では早めに是正したくなります。
しかし、急性期脳梗塞、特にBADやアテローム血栓性機序が疑われる穿通枝梗塞では、梗塞周囲の灌流が血圧に依存している可能性があります。よかれと思って行った降圧が、かえって低灌流を招き、症状進行を助長するかもしれません。
しかも、普段から降圧薬を内服しているため、いつもの薬をそのまま継続すべきか、いったん中止すべきか、いつから再開すべきかどうかも迷います。
まさにここが、急性期血圧管理のグレーゾーンになります。
臨床疑問(Clinical Question;CQ)の明文化
この症例のClinical Question(CQ)をPICOで整理すると、次のようになります。
P(Patient):
再灌流療法を行わない急性期脳梗塞患者(特に、ENDリスクを伴う軽症〜中等症の急性期脳梗塞患者)
I(Intervention):
早期から積極的な降圧
C(Comparison):
降圧を急がない
O(Outcome):
死亡、機能予後、早期神経学的増悪(END)、脳梗塞再発
このCQをもう少し臨床の言葉で言い換えると、急性期脳梗塞で血圧が高い患者に対して、血圧をすぐ下げたほうがよいのか、という問いになります。
またこの問いに関連して、もともと内服していた降圧薬をそのまま継続すべきか、それともいったん中止すべきか、いつから再開すべきかということも、実臨床では重要な論点になります。
RCTやメタ解析の整理とその限界
まず押さえておきたいのは、再灌流療法を行わない急性期脳梗塞では、一律に早期から積極的に降圧を行うベネフィットははっきりとは示されていないという点です。
欧州の脳卒中ガイドライン2021では、再灌流療法を受けない急性虚血性脳卒中患者で血圧が220/110 mmHg未満であれば、一律の早期降圧を行わないことを提案しています。
また、2026年の米国の急性虚血性脳卒中ガイドラインでも、再灌流療法を行わない症例では、著明な高血圧や他臓器の適応がない限り、急いで降圧するベネフィットには乏しいという見解です。なお、再灌流療法を行う症例では血圧管理の考え方が異なり、別枠で扱う必要があります。
この考え方を支える代表的なRCTがCATISです。CATISは、再灌流療法を行わない急性期脳梗塞で、早期から血圧を下げれば死亡や重大障害を減らせるのかを検証した試験です。CATISでは、発症48時間以内の急性虚血性脳卒中患者を対象に、早期降圧群と非降圧群を比較しましたが、14日時点または退院時点、さらに3か月時点の死亡または重度の障害に有意差はありませんでした。
急性期脳梗塞では、“血圧が下がった”というサロゲートマーカー(代替アウトカム)の改善と、“患者の機能予後がよくなった”という本当に臨床的に重要なアウトカムは同一ではないことを示した点で、この試験は重要です。

次に問題になるのが、もともと内服していた降圧薬をどうするかです。この問いに対して、「発症前から飲んでいた降圧薬を急性期に続けるべきか、中止すべきか」を直接検証した代表的なRCTがCOSSACSです。
COSSACSでは、脳卒中発症前から降圧薬を服用していた患者を対象に、急性期に既存の降圧薬を継続する群と中止する群を比較しましたが、2週間時点の死亡または要介護、あるいは6か月時点での死亡の改善は示されませんでした。
少なくとも、”普段飲んでいる降圧薬は急性期でもそのまま継続したほうがよい”と言えるほどの強い根拠はありませんでした。
この流れを補強するのがENOSです。ENOSは、急性期脳卒中で血圧を下げる治療そのものに加えて、発症前から内服していた降圧薬を急性期に継続するか中止するかも検討した試験です。
ENOSでは、急性脳卒中患者のうち発症前から降圧薬を服用していた患者を対象に、既存の降圧薬を継続する群と7日間一時中止する群を比較しましたが、90日後の機能予後改善は示されませんでした(ENOS Trial Investigators. 2015)。
つまり、別のRCTでも急性期に既存の降圧薬を一律に継続するベネフィットは支持されなかったことになります。
COSSACSとENOSはいずれも重要な試験ですが、個々の試験だけでは細かな患者群まで十分に評価しにくい面があります。そこで、両試験の患者データを統合して再解析したのが、Woodhouseらのメタ解析です。
その結果は、既存の降圧薬を急性期に継続することに明確なベネフィットはなく、特に発症12時間以内に継続した群で機能予後が悪化する可能性が示唆されました(Woodhouse et al. 2022)。少なくとも、超急性期に既存の降圧薬を一律に継続する戦略は支持されにくいと考えられます。
したがって、急性期脳梗塞の血圧管理では、単に高いから下げる、低いほどよい、と考えるのではなく、再灌流療法の有無、再開通状況、梗塞範囲、出血性変化、神経症状の変動を踏まえて考える必要があります。
再灌流療法なしでは一律の早期降圧は支持されず、EVT後であっても一律の強化降圧は支持されない。ここに、急性期血圧管理の難しさがあります。もっとも、これらのRCTやガイドラインだけで目の前の患者に対する答えがすべて決まるわけではありません。
このテーマでも、vol.1で述べたRCTの五つのTooが問題になります。
すなわち、症例数の限界(Too few)、対象患者が限定されること(Too narrow)、平均的な年齢の患者に偏りやすいこと(Too median-aged)、併存疾患や実臨床の複雑さを十分に反映しにくいこと(Too simple)、そして短期アウトカム中心で実際の再開時期や長期的な運用までは答えにくいこと(Too brief)です。
現時点では、再灌流療法を行わない急性期脳梗塞では一律の早期降圧も既存降圧薬の一律継続も支持されず、その先の判断は個別化が必要である、と整理するのが妥当です。
【補足:再灌流療法を行う場合はどう考えるか】
ここまでは、本症例のように再灌流療法を行わない患者での血圧管理を中心に整理しました。では、再灌流療法を行う症例ではどうでしょうか。
再灌流療法を行う症例では、出血性合併症を避けるために血圧管理を別枠で考える必要があります。静注血栓溶解療法では、治療前は185/110 mmHg未満、治療後24時間は180/105 mmHg未満を維持することが標準的です。
これは慢性期高血圧の管理目標ではなく、治療関連の出血性合併症を避けるための管理と理解すると分かりやすいです。さらに血栓回収療法後も、高血圧が出血性変化や不良転帰と関連することから、血圧管理は重要です。
しかし、ここで注意すべきなのは、血圧を下げることと患者の転帰がよくなることは同じではないという点です。
EVT後の強化降圧と標準的血圧管理を比較したRCTを統合したメタ解析では、強化降圧は90日後の良好転帰(mRS 0–2)を改善せず、むしろ良好転帰の低下、全死亡の増加、低血圧エピソードの増加と関連しました。一方で、症候性頭蓋内出血の有意な減少は示されませんでした(Hashmi et al. 2026)。
問い | 主なエビデンス | 読み取り方 |
|---|---|---|
再灌流療法なしで早期降圧すべきか | CATIS | 血圧は下がっても、死亡・重大障害の改善は明確でない |
既存降圧薬は継続すべきか | COSSACS / ENOS / | 一律継続の明確な利益は示されない |
BAD疑いではどうか | CATIS-2事後解析 | 早期降圧により不利となる患者群がある可能性 |
EVT後は強く下げるべきか | Hashmi2026メタ解析 | 一律強化降圧は支持されず、低血圧や死亡増加の可能性 |
実臨床では何を見るか | RWE / 血圧変動研究 | 血圧値だけでなく、変動・症状・全身状態をみる |
RCTのサブ解析・事後解析とRWEによる補完
このテーマでは、RCTのサブ解析や事後解析、さらに観察研究としてのRWEも参考になります。ただし、それらはRCTやメタ解析の主結論を置き換えるものではなく、どの患者で個別化をより強く考えるべきかを補う材料として読む必要があります。
CATISの事前規定のサブ解析では、発症前から高血圧を有していた患者において、急性期の降圧が主要アウトカムそのものを改善したわけではない一方で、3か月時点の複合血管イベント、特に再発脳卒中の低下と関連する結果が示されました(Zhang et al. 2019)。
一方で、CATIS-2の事後解析では、単一の穿通枝梗塞のうち分枝粥腫病(Branch atheromatous disease:BAD)が疑われる症例では、早期の降圧が90日後の要介護または死亡リスク増加と関連したことも報告されています(Wei et al. 2024)。これらは、急性期の血圧管理が一枚岩ではなく、病型や病態によって影響が異なる可能性を示唆しています。
さらに、RWEとして血圧変動に注目した研究も参考になります。BADを対象とした前向き多施設研究では、急性期の収縮期血圧変動がENDおよび90日後不良転帰と関連することが示されています(Zhou et al. 2025)。
ただし、これは降圧薬を早く再開すべきことを直接示すものではありません。急性期脳梗塞では、血圧を下げるかどうかだけでなく、急激な低下や大きな変動を避けることも重要である可能性を示す結果として読むのが妥当です。
したがって、再灌流療法を行わない急性期脳梗塞では一律の早期降圧は支持されないという大枠を保ちつつ、BAD疑い、ENDリスク、血圧変動といった患者ごとの要素を踏まえて個別化する、という整理が実践的です。
RCTとRWEを踏まえた、症例に対する具体的治療戦略
本症例は、再灌流療法を行わない軽症の急性期穿通枝梗塞で、血圧は188/96 mmHgです。
CATISやガイドラインの流れを踏まえると、この血圧だけを理由に急いで降圧する明確なベネフィットには乏しいと考えます。
むしろ本症例では、BADまたはアテローム血栓性機序が疑われ、発症早期に麻痺や構音障害が進行するENDのリスクがあります。したがって急性期には、血圧を正常値まで戻すことを目標にせず、神経症状と血圧推移を慎重に観察します。
既存の降圧薬についても、来院直後に機械的には再開しません。来院時の高血圧が急性期反応の一部である可能性があり、COSSACSやENOSでも既存降圧薬の一律継続による明確なベネフィットは示されていないからです。
降圧薬の再開を考えるのは、神経症状が安定し、血圧高値が持続し、脱水や腎機能悪化がないことを確認してからです。発症24〜72時間程度をひとつの目安として、アムロジピンまたはオルメサルタンのいずれか1剤を少量から再開する方針が現実的です。
一方で、麻痺や構音障害が進行している、離床や血圧低下に伴って症状が変動する、摂取不良や脱水がある場合には、降圧薬再開を急がず、灌流低下を避けることを優先します。
つまり、本症例では、急性期には一律に降圧せず、既存降圧薬も一律には継続しない。ENDの有無、血圧推移、全身状態をみながら、降圧薬の再開時期を決める、という方針が無難と考えます。
総論の七つの問いで最終確認
この研究の対象者と、自分の患者はどれくらい似ているか?
CATISやCOSSACSの対象は、再灌流療法を行わない急性期脳梗塞患者という点で、本症例に比較的近いと考えられます。一方で、本症例のように微小出血を伴い、BADが疑われる軽症穿通枝梗塞という細かな背景までは十分に代表していない可能性があります。臨床研究のセッティングは、自分の現場と近いか?
急性期病棟での血圧管理や既存薬の継続・中止という意味では、日本の急性期脳卒中診療にも十分近い問いです。アウトカム指標は、自分と患者が大事にしたいものと一致しているか?
死亡、機能予後、依存は、患者にとっても医療者にとっても重要なアウトカムです。単なる血圧低下ではなく、患者中心のアウトカムが評価されている点は重要です。
介入と比較群は、自分の選択肢とズレていないか?
「急性期に血圧を下げるか、下げないか。」「既存の降圧薬を続けるか、中止するか。」これは現場の迷いそのものです。
リスクとベネフィットのバランスは、この患者ではどう見えるか?
本症例では、早期降圧による明確なベネフィットは期待しにくい一方、BADが疑われ、ENDを起こしうる症例です。したがって、急性期に過度に降圧して灌流を低下させるリスクは無視できず、まずは急いで下げないという判断が優位になります。自分の施設・地域のリソースで本当に実行可能か?
血圧の経時的観察、神経症状のフォロー、脱水や腎機能の評価、経口薬再開の判断ができる急性期病院であれば十分実行可能です。患者さん本人の価値観と合致しているか?
患者や家族には、「急性期は血圧をすぐ正常値に戻すことが必ずしもよいわけではなく、脳の血流を守りながら安全に経過を見る時間が必要です」と説明することが重要です。これは一般の高血圧診療との違いでもあり、丁寧な説明が納得につながります。
Team Communication Note
対象 | 医師と共有すべき方針や指示 |
|---|---|
To 看護師 | 【共有事項】 |
To 薬剤師 | 【指導】 |
To リハビリ | 【ゴール設定】 |
Take Home Message
・急性期脳梗塞では、再灌流療法を行わない限り、血圧が高いという理由だけで一律に早期降圧するベネフィットは示されていません。
・元々内服していた降圧薬も、急性期に一律に継続すべき根拠は強くなく、血圧推移と全身状態を踏まえて個別に再開時期を決めるべきです。
・再灌流療法を行う症例では血圧管理が必要ですが、再灌流療法後であっても低ければ低いほどよいというわけではありません。血圧低下や出血性変化の抑制といったサロゲートマーカーだけでなく、機能予後や死亡など患者にとって重要なアウトカムで判断することが重要です。
参考文献
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