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【疫学専門家監修】効果修飾を徹底解説 - 私たちは「どの集団における」効果を見ているのか? - ゼロから学ぶ因果推論 vol.10

【疫学専門家監修】効果修飾を徹底解説 - 私たちは「どの集団における」効果を見ているのか? - ゼロから学ぶ因果推論 vol.10

2025.03.25

シリーズ紹介|ゼロから学ぶ因果推論

「医学研究は難しい」、きっと多くの方がそう感じているでしょう。

因果推論は、そんな複雑怪奇な医学研究にスッと一本の軸を通してくれる、まさに医学研究の原理原則とも言える学問です。

因果推論を学ぶことで、複雑に散らばっていた知識の断片が見事なまでに因果推論という幹へと体系立てられていきます。そしてきっと「論文、読めるようになってきたかも」、そんな気持ちになれるはず。

「ゼロから学ぶ因果推論」シリーズは、疫学専門家の監修のもとで「はじめて学ぶ人の気持ち」に寄り添い、具体例や図解を使用して「日本でいちばんわかりやすい因果推論の解説」を目指しました。あなたの歩幅で一歩ずつ。ゼロからの学びをはじめしょう。

はじめに

この記事では「効果修飾」について解説しています。

治療や介入の効果は、すべての人に同じように現れるとは限りません。
性別・年齢・居住地などの属性によって効果が変化すること。それが効果修飾(Effect Modification)です。

効果修飾を理解することは、研究から得られた知見を深く読み解き「誰に介入すべきか」「誰に適用できるか」を判断するための鍵となります。

本記事では効果修飾についてイラストを用いてわかりやすく解説していますので、ぜひ最後までお読みいただき効果修飾の理解を深めましょう。

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この記事のまとめ

この記事を読むと分かること

  • 効果修飾因子とは?

  • 効果修飾因子の種類

  • 効果修飾因子の理解がなぜ重要なのか

この記事は誰に向けて書かれているか

  • 効果修飾の理解が曖昧な方

  • 因果推論の理解を深めたい方

  • 論文を正しく読み解き、知見を適切に応用したい方

因果推論シリーズ

  • vol.1:因果推論の出発点 - 因果と関連の違いとは? -

  • vol.2:因果効果の基本を徹底解説 - Individual Causal Effect(個人因果効果)とAverage Causal Effect(平均因果効果)の違いとは? -

  • vol.3:初心者のためのTarget Trial Emulation(TTE)
    - Part 1 ; ETAFOCAフレームワークについて
    - Part 2 ; 三つの時点で考えるバイアスとその対処法
    - Part 3 ; 論文の実例で理解を深めるTTE

  • vol.4:Exchangeability(交換可能性)を徹底解説 - Randomization(ランダム化)が実現する因果推論の必須条件 -

  • vol.5:Standardization(標準化)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -

  • vol.6:Inverse Probability Weighting(逆確率重み付け)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -

  • vol.7:Consistency(一致性)を徹底解説 - 観測データと反事実アウトカムを一致させよ -

  • vol.8:Positivity(正値性)を徹底解説 - 因果推論の落とし穴を回避せよ -

  • vol.9:Immortal time biasを徹底解説 - 臨床研究に潜む「不死の時間」の罠 -

  • vol.10:効果修飾を徹底解説 - 私たちは「どの集団における」効果を見ているのか? -

  • vol.11:交互作用を徹底解説 - 複数の介入による相乗効果 -

  • vol.12:DAGを徹底解説

    - 基礎編;因果推論の必須ツールで交絡因子を可視化する
    - 応用編;調整してはならない?コライダーと媒介変数の落とし穴

  • vol.13:交絡を徹底解説 - 結果を歪める、因果推論の最重要課題 - 

  • vol.14:選択バイアスを徹底解説 - 消えた患者が結果を歪める?- 

執筆者の紹介

氏名:Mio K (X: @nutdoughnut0119)
所属:ブラジルの公衆衛生研究機関
自己紹介:総合診療科専門医、公衆衛生学修士。神奈川で6年間プライマリケアに従事した後、London School of Hygiene and Tropical Medicineに留学。その後、カンボジア・プレアビヒア州のNGOにて小児低栄養改善プロジェクトでの調査活動を経て、現在ブラジルの公衆衛生研究機関 Fundação Oswaldo Cruz(Fiocruz) に属する研究センターで、主に健康関連データの統合と分析を行っている。

氏名:岡部陽介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:理学療法士。大分リハビリテーション専門学校を卒業後、病院勤務を経て現在は専門学校にて専門職養成に従事。また、医療におけるパターナリズムに対する問題意識から医療者と患者の共有意思決定(SDM:Shared Decision making)に関心を抱き、国際医療福祉大学公衆衛生専門職大学院に進学。「全人にとって一流の知を享受できるプラットフォーム」を目指す企業理念に共感し、mMEDICI株式会社に参画。

編集者

氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に対する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。

監修者

氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の日本・グローバルにおいて疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究に従事。その後、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。

1.効果修飾因子(Effect modifier)とは?

この記事では効果修飾因子(Effect modifier)について解説します。

さっそくですが、皆さんは「治療や介入の効果が、対象者によって異なる」と感じたことはありませんか?

例えば、とあるトレーニングが「男性グループでは明らかな効果を示す」一方で、「女性グループではほとんど効果を示さない」ということを経験したことがあるのではないでしょうか。

このように「対象者の性別」によって「治療の効果が異なる」場合、性別は「効果修飾因子」と呼ばれます。

効果修飾の定義

効果修飾(Effect modification)とは、ある処置(A)がアウトカム(Y)に与える因果効果が、共変量(V)のレベルに応じて変化すること。この場合のVを効果修飾因子(Effect modifier)と呼ぶ。


この定義に沿って、もう少し具体的に効果修飾について考えてみましょう。

例えば次のような研究があったとします。

「処置:蚊帳(かや)の使用」 が「アウトカム:マラリア罹患」を予防する効果を検証

この研究において、「共変量:対象者の居住地域(都会 or 田舎)」によってマラリア罹患のリスクに次のような違いがあったとしましょう。

蚊帳によるマラリア予防効果 居住地域による効果修飾

都会に住む人 → 蚊帳を使うことでマラリアのリスクが0.1低下
田舎に住む人 → 蚊帳を使うことでマラリアのリスクが0.3低下

このように、「蚊帳」による「マラリア予防」の因果効果が「居住地域」によって異なる場合、「居住環境」は効果修飾因子であるといえます。

2.なぜ効果修飾が重要なのか?

先ほどの「蚊帳によるマラリア予防」の例から、効果修飾因子を考慮することで「対象集団が変わると、因果効果も変わり得る」ことがわかりましたね。

因果推論や医学研究において効果修飾が重要である理由には、次の三つのポイントがあります。


1.Transportabilityを明らかにする
ある研究で得られた治療効果が、他の集団にも適用できるとは限りません。効果修飾を理解することで、Transportability(この結果は別の人たちにも適応できるのか?)という問いに答えやすくなります。


2.介入によって最も恩恵を受ける集団を見つける
冒頭の例で「対象集団が変わると、因果効果も変わり得る」ことがわかりましたね。効果修飾因子を特定して「どの集団で特に効果的か?」を明らかにすることで、より適切な医療や公衆衛生的な介入を講じることができます。


3.暴露とアウトカムのメカニズムを理解する
効果修飾因子を特定することで「なぜこの介入が効果があるのか?」をより深く理解できます。例えば、都会と田舎で蚊帳の効果が異なる理由を探ることで、マラリアの伝播メカニズムについての新たな知見が得られるかもしれません。

(これら三つのポイントについては記事の後半でより詳しく解説しますので、ここでは「ふむふむ」と概要を掴んでいただければ十分です)

これら三つのポイントを踏まえて効果修飾について考えることは、「誰に対して、どのような効果があるのか」を見極め、「研究の問いを研ぎ澄ますこと」でもあります。

冒頭の「蚊帳によるマラリア予防」の例を考えると、「蚊帳はマラリア予防に効果があるか?」という問いを「どの居住環境において最も効果があるのか?」という問いに発展させることもできますね。

この記事では、効果修飾の定義や種類について、一つ一つ丁寧に解説していきます。

最後まで読み終えた時には「効果修飾の大切さ」「効果修飾の考え方」が理解できるはずですので、少しずつ読み進めていきましょう。

3.効果修飾因子を考慮して研究を進めよう

ある研究において「ある国の全体集団における、蚊帳の使用とマラリア予防における因果効果」を知りたいとします。

ここで大切なことは、「研究のデータ収集を始める前に」効果修飾因子についてしっかりと検討して仮説を立てる必要があるということです。

例えばこの研究においては「居住地域(都会 or 田舎)」によって「蚊帳によるマラリア予防効果が異なる」という仮説、すなわち「居住地域が効果修飾因子である」という仮説を、あらかじめ立てておく必要があります。

もし研究者たちが「居住環境による効果修飾」の存在を全く考えていなかったとしましょう。

そして、都会の方がデータを集めるのが便利なので、都会からのみデータを集め始めたのでした。果たして、この研究にはどのような問題が生じるのでしょうか?

ここで「国の全体集団における」蚊帳によるマラリア予防効果を見てみましょう。(これは研究者たちが知り得ない「神のみぞ知る」データです)

蚊帳によるマラリア予防効果 居住地域による効果修飾

都会:蚊帳の使用(A)によるマラリア罹患(Y)のリスク差は0.1
田舎:蚊帳の使用(A)によるマラリア罹患(Y)のリスク差は0.3


「リスク差」に注目すると、都会と田舎とで蚊帳によるマラリア予防効果が異なることがわかります。つまり「国の全体集団における」マラリア予防効果を知るためには、都会だけでなく田舎からもデータを集めなければなりません。

ところが、研究者たちは都会のデータしか収集していません。

「国の全体集団における蚊帳によるマラリア予防効果」を調べたいというのに、都会のデータのみに基づく「蚊帳の使用(A)によるマラリア罹患(Y)のリスク差は0.1」という結果しか観測していないのです。これでは田舎のデータを無視した偏った数値と言えます。

それにも関わらず、この結果を「国の全体集団における蚊帳によるマラリア予防効果」として公表してしまっては、誤った情報を世に発信してしまうことになり得るのです。

効果修飾について十分に検証せずに研究を行い、偏りのある情報を公表することで、世界中の人々に悪い影響を与えてしまうかもしれません



ちなみに、研究者たちが論文を書いている途中で「居住地域による効果修飾」に気がついたとしても後の祭り。そもそも収集していない田舎のデータを再現することは不可能ですね。この場合は「都会における」蚊帳のマラリア予防効果として公表しなければなりません。

ここまでの説明で、「研究のデータ収集を始める前に」効果修飾因子についてしっかりと検討して仮説を立てる必要があることがよく理解いただけたと思います。

どうやって効果修飾因子を仮定するのか?

まず前提として、効果修飾因子や交絡因子をデータドリブンに「みつけてくれる」便利な統計手法はありません。

確かに、特定の統計手法(相関分析など)を使って変数同士の関連を調べた場合、それぞれの変数間の関連性を見つけることはできます。

変数間の関連と効果修飾因子、交絡因子、媒介因子の説明

しかし、その関連性が交絡因子の存在を示すのか、効果修飾因子の存在を示すのか、あるいはそれ以外なのかはデータからは判断することはできません。

効果修飾の存在について仮説を立てるためには、先行研究や基礎研究、医学的妥当性などから判断されるメカニズムをもとに吟味する必要があるのです。


さて、ここまで効果修飾因子について考えてきましたが、次の章からは様々な効果修飾因子の種類について解説していきます。

実は「効果修飾」と呼ばれる変数の関係性はいくつかの種類があり、それぞれの性質を理解することは因果推論の考え方を深めていくことに繋がります。

次の章から一つずつ理解を深めていきましょう。

4.効果修飾因子の種類

Additive/Multiplicative effect modifier

まずはAdditive effect modifier(加法的効果修飾因子)Multiplicative effect modifier (乗法的効果修飾因子)について解説します。

「加法的」「乗法的」という表現からわかるように、効果修飾因子の存在を数式によって表現することができます。

それぞれについて、先ほどの「蚊帳によるマラリア予防」の例で考えていきましょう。


Additive effect modifier:加法的効果修飾因子
「加法的」ですから、足し算引き算で「差を求める」計算式(加法的尺度)において、値に差が生じる場合にAdditive effect modifierといいます。

数式で表すと以下のようになります。

Additive effect modifier 加法的効果修飾因子

加法的尺度において「都会(V=1)」と「田舎(V=0)」とで「リスク差」が異なる時に、「V :居住地域」を加法的効果修飾因子といいます。


Multiplicative effect modifier:乗法的効果修飾因子
「乗法的」ですから、掛け算割り算で「比を求める」計算式(乗法的尺度)において、値に差が生じる場合にMultiplicative effect modifierといいます。

数式で表すと以下のようになります。

Multiplicative effect modifier 乗法的効果修飾因子

乗法的尺度において、「都会(V=1)」と「田舎(V=0)」とで「リスク比」が異なる時に「V :居住地域」を乗法的効果修飾因子といいます。

Point

Additive effect modifier(加法的効果修飾因子) では「リスク差」が異なる
Multiplicative effect modifier (乗法的効果修飾因子)では「リスク比」が異なる

上記の説明では、数式を眺めて大まかにAdditive effect modifier と Multiplicative effect modifier の違いがお分かりになれば大丈夫です。

ここからは、「蚊帳とマラリア予防」の研究において、「居住地域」がAdditive effect modifierである場合と、Multiplicative effect modifier である場合について、それぞれ具体的な数値を用いて考えてみましょう。


Additive effect modifier(加法的効果修飾因子) である場合(リスク差が異なる)

蚊帳によるマラリア予防効果 居住地域による効果修飾 Additive effect modifier:加法的効果修飾因子

田舎・都会それぞれのリスク差、リスク比を計算すると次のようになります。

都会 リスク差:0.02-0.01 = 0.01 (1%)  リスク比:0.02/0.01=2 (200%)
田舎 リスク差:0.2-0.1 = 0.1 (10%)   リスク比:0.2/0.1=2 (200%)


田舎と都会では、蚊帳によるマラリア予防効果のリスク比は同じ(どちらも200%)ですが、リスク差は10倍も違います(都会 0.01、田舎 0.1)。

このような場合に、「居住地域」はAdditive Effect modifierであるといえます。


Multiplicative effect modifier (乗法的効果修飾因子)である場合(リスク比が異なる)

蚊帳によるマラリア予防効果 居住地域による効果修飾 Multiplicative effect modifier:乗法的効果修飾因子

田舎・都会それぞれのリスク差、リスク比を計算すると次のようになります。

都会 リスク差:0.15-0.05=0.10 (10%)  リスク比:0.15/0.05=3 (300%)
田舎 リスク差:0.20-0.10 = 0.10 (10%)  リスク比:0.20/0.10=2 (200%)

田舎と都会では、蚊帳によるマラリア予防効果のリスク差は一緒(どちらも 0.1 )ですが、リスク比が異なります(都会 300%、田舎 200%)。

このような場合に、「居住地域」は Multiplicative Effect modifierと言います。

どちらが重要?Additive effect modifier とMultiplicative effect modifier

例えば私たちが保健所スタッフであるとして、先ほどの「蚊帳とマラリア予防」の研究結果を根拠に「蚊帳をより重点的に配布する地域を決定しよう」と考える時、Additive effect modifierにおける「リスク差」とMultiplicative effect modifier における「リスク比」のどちらに注目するべきでしょうか?

結論としては、公衆衛生学的な意思決定においてはAdditive effect modifier (リスク差)がより重要な意味を持ちます。

再び「蚊帳とマラリア予防」の研究で考えてみましょう。

蚊帳によるマラリア予防効果 居住地域による効果修飾 Additive effect modifier:加法的効果修飾因子

「居住地域」の違いによってリスク差が異なりますので、「居住地域」がAdditive effect modifierとなっていますね。

それでは、さらに「リスク差」の値に注目してみましょう。

田舎におけるリスク差は10%ですね。例えば田舎の住民100人に蚊帳を配ったとすると、蚊帳を配らない場合と比べてマラリア罹患を10人減らせることを意味します。

一方で、都会におけるリスク差は1%です。例えば都会の住民100人に蚊帳を配った場合、蚊帳を配らない場合と比べてマラリア罹患を1人減らせることを意味します。

このように、加法的尺度で求められるリスク差に注目することで、田舎の住民に蚊帳を配った方がより多くの人のマラリア罹患を予防できることがわかります。

もしこの国に蚊帳が100個しか備蓄されておらず、都会と田舎のどちらかに配布するのか選ばなければならない、、、という判断を迫られたとすれば、「田舎の住民に配布した方がより多くの人々をマラリアの脅威から救うことができる」というように意思決定に役立てることができるのです。

公衆衛生学的な視点で「介入によって最も恩恵を受ける集団を見つける」ためには、加法的効果修飾因子に注目して「リスク差」を考慮することが重要であることがお分かりいただけたと思います。


Multiplicative Effect modifier と「リスク比」の解釈
先ほどの「蚊帳をより重点的に配布する地域を決定しよう」という場面において、「居住地域」がMultiplicative Effect modifier である場合、すなわち「リスク比」に差がある場合を考えてみましょう。

蚊帳によるマラリア予防効果 居住地域による効果修飾 Multiplicative effect modifier:乗法的効果修飾因子

「リスク比」に注目すると、都会におけるリスク比が「300%」田舎におけるリスク比が「200%」です。

言い換えると「都会で蚊帳を配った場合、マラリア罹患率が1/3になる」「都会で蚊帳を配った場合、マラリア罹患率が1/2になる」と解釈できますね。

「リスク比」だけに着目すると「都会に蚊帳を重点的に配布すべき」と考えてしまうかもしれません。

しかし、「リスク差」に注目すると都会も田舎も「10%」です。

つまり、都会でも田舎でも「人口100人あたりで蚊帳により予防できるマラリア罹患数は10人」です。

「蚊帳の配布によって予防できるマラリア罹患者数」に差がありませんので、都会と田舎とで蚊帳を配布する優先順位をつける理由があるませんよね?

このように、公衆衛生学的な介入においては「リスク比」だけでなく「リスク差」を考慮した意思決定が必要と言えるのです。

Quantitative/Qualitative effect modifier

ここからは、Quantitative effect modifier(量的効果修飾因子)Qualitative effect modifier(質的効果修飾因子)について解説します。


Quantitative effect modifier(量的効果修飾因子)
「量的」という言葉通り、効果修飾因子によって「因果効果の大きさ」が異なる場合をQuantitative effect modifier(量的効果修飾因子)と呼びます。

Quantitative effect modifier(量的効果修飾因子)とQualitative effect modifier(質的効果修飾因子)

例えば、前の章で登場した「蚊帳とマラリア予防」の因果関係においては、田舎・都会のいずれでも蚊帳はマラリアの予防効果がありました。そして「田舎の方が、蚊帳によってより多くの人のマラリアを予防できる」という結論でしたね。

このように、効果修飾因子によって因果効果の方向(効果あり・なし)が同じで、因果効果の大きさが異なるの効果修飾因子がQuantitative effect modifierです。

Quantitative effect modifierに注目することで、例えば公衆衛生的な施策において、「より介入による効果が大きい集団」に対して優先的に戦略を策定できることでしょう。


Qualitative effect modifier(質的効果修飾因子)
効果修飾因子によって「因果効果の向き」が異なる場合をQualitative effect modifier(質的効果修飾因子)と呼びます。例えば「特定の患者では有益だが、別の患者では有害になり得る」場合です。

Quantitative effect modifier(量的効果修飾因子)とQualitative effect modifier(質的効果修飾因子)

「蚊帳とマラリア予防」の例を少しアレンジして、Qualitative effect modifierについて考えてみましょう。

この研究では「蚊帳の使用」「死亡率」に及ぼす影響を調べているとします。

そして、「遺伝子X」を効果修飾因子として付け加えて考えます。

「遺伝子Xがある人」は、蚊帳に対して重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)を起こすとしましょう。

実はマラリア予防で使用される蚊帳にはピレスロイド系殺虫剤が塗布されており、LLIN(長期残効型防虫処理蚊帳)と呼ばれています。この例では、「遺伝子X」は蚊帳に塗布された殺虫剤に対してアレルギー反応を示すことを仮定しています。

(実際にはLLINは人体への有害事象はほぼなくWHO, UNICEF等により推奨されており、アナフィラキシーの報告はありません。架空の例です。)

この場合、「遺伝子Xがない人」は蚊帳の使用によって死亡率が低下しますが、「遺伝子Xがある人」では、アナフィラキシーにより死亡率が増えると考えられます。

このような場合に、「遺伝子X」は蚊帳と死亡率の関係におけるQualitative effect modifier(質的効果修飾因子)であると言えます。


Qualitative effect modifierを特定することで、特定の集団には治療を推奨し、別の集団には推奨しないという判断に役立ちますね。

更には個別化医療の方針を立てることで、副作用を防ぎつつ最大限の治療効果を得ることが可能になるのです。

Surrogate effect modifierとCausal effect modifier

Surrogate effect modifierとは、真の効果修飾因子(Effect Modifier)を直接測定できない場合に、それを代替する指標(Surrogate)として機能する変数です。

一方で、Causal effect modifierとはアウトカムに直接影響を与え、かつ暴露と相互作用する場合を指します。

さて、ここまでずっと「田舎と都会における蚊帳の効果の違い」の話をしてきましたが、果たしてこの効果の違いはなぜなのでしょうか?

それは、マラリアを媒介する「ハマダラ蚊」が田舎に多く生息するためです。
田舎に住むこと自体がマラリア罹患と因果効果があるわけではありません。

マラリア罹患率に対して効果修飾をもたらすのは「田舎」ではなく「ハマダラ蚊の数」です。

このような場合、「居住地域」をSurrogate effect modifier「ハマダラ蚊の数」をCausal effect modifierといいます。

Surrogate effect modifierとCausal effect modifier

5.Effect modificationの意義

ここまでは、Effect modifier の種類やその性質について解説してきました。

ここからは、冒頭でも登場したように「なぜEffect modifierが重要なのか?」について詳しく解説していきます。

①Transportabilityについて洞察するため

Transportability(移送可能性)とは、ある集団における因果効果を、別の集団に適用できる性質です。効果修飾因子を明らかにすることで、Transportabilityについて深く検討することができます。

いくつかの例を用いて、効果修飾因子とTransportabilityについて考えてみましょう。


例1 蚊帳とマラリア予防
アフリカのある地域で「蚊帳がマラリア予防に有効である」が、「居住地域によって効果が異なる(効果修飾)」という研究結果が発表されたとします。

このアフリカで得られた知見を「東南アジアのマラリア流行地域」にも適用できるか、すなわちTransportabilityについて、効果修飾因子「居住地域」に注目して考えてみましょう。

居住環境を考慮したTransportabilityの考察

東南アジアでは、インフラの違いから蚊の生態がアフリカとは異なり、屋内には少なく屋外で活発であるため、屋内で効果を発揮する蚊帳はあまり有効でないかもしれません。むしろスプレータイプの防虫剤を肌に塗布する方が有効である可能性もあります。

このように、効果修飾因子「居住地域」に注目することで、アフリカで得られた「蚊帳がマラリア予防に有効である」という知見を東南アジアには適用しにくい(Transportabilityが低い)ことがわかるのです。


例2 糖尿病治療の新薬A
ブラジルで実施された研究で、「新薬A」が糖尿病患者に対して効果的であることが示されたとします。日本の糖尿病患者にも同じ効果が期待できるか、Transportabilityについて考えてみましょう。

前提として、「新薬A」の効果は効果修飾因子「BMI」によって異なることがわかっているとします。(高BMIでは有効、低BMIには副作用が大きい)

ブラジルの研究対象者と比べて日本人に低BMIが多い場合、日本人には新薬Aは推奨されないかもしれませんね。

しかし、ブラジルの研究ではしっかりとBMIで層別化して効果検証されており「低BMI群では減量投与で十分な効果があり、副作用も少ない」こと示されていたら、日本の低BMIの糖尿病患者に対しても適切に研究結果を適用できるかもしれません。

このように、効果修飾因子を考慮して分析を行うことで、研究結果のTransportabilityを高めることができます。


TransportabilityとGeneralizability
Transportabilityと似た概念としてGeneralizability(一般化可能性)という概念がありますが、理解を混同してしまう方も多いのではないでしょうか?

ここではTransportabilityとGeneralizabilityの違いについて解説します。

TransportabilityとGeneralizability

先の例では、「ブラジルで開発された新薬A」が「日本人にも適応できるか?」を考えるのがTransportabilityでした。

それに対して、新薬Aが「ブラジル人全体」に対しても有効と言えるのか?を考えるのがGeneralizabilityです。

例えば、ブラジル全体に糖尿病患者が10万人いると推計されているとしましょう。

そして、この新薬Aの効果を調べる研究では、1,000人の対象者を募る予定です。

このとき、「研究対象の1,000人」が、「ブラジル全体の糖尿病患者10万人」を代表する集団であるかどうかを慎重に検討する必要があります。

なぜなら、ブラジル全体の糖尿病患者には、「高齢者」「併存疾患を持つ人」「妊娠中の方」など多様な属性を持つ方が存在しているからです。

したがって、研究対象者1,000人を選定する際には、「年齢層」「併存疾患の有無」「妊娠の有無」などを考慮し、ブラジルの糖尿病患者全体を代表するようなバランスの取れたサンプルを確保することが不可欠です。(もし研究対象者が若年者や初期の糖尿病患者に偏っていれば、その研究結果をブラジル全体に適用することは難しくなります)

このように、研究結果を広い集団に適用できるかどうかを検討することがGeneralizabilityの本質です。Generalizabilityを念頭において適切に代表性のある集団を確保することで、より正確な意思決定につながります。

②介入によって最も益される集団を見つけるため

効果修飾因子を考慮することで、治療が最も有益な集団を特定することができます。
Qualitative effect modifier(質的効果修飾因子)のように、ある治療が特定の患者には有益でも、別の患者には害を及ぼすことがあります。

そのため、患者ごとに適切な治療を選択するためには、効果修飾因子の理解が重要です。


不整脈治療と抗凝固薬(DOAC)
不整脈を持つ患者では、血栓を予防するために抗凝固薬(DOAC)が処方されることがあります。しかし、すべての患者にとって有益とは限りません。

このことについて検証した本邦からの論文を参考にして「抗凝固薬(DOAC)によって最も益される集団を見つける」ことについて考えてみましょう。

Kanaoka, et al. Oral anticoagulation after atrial fibrillation catheter ablation: benefits and risks. Eur Heart J, 2024. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38117227/

こちらの論文によるとCHADS₂スコア(年齢や基礎疾患などから血栓リスクを評価するスコア)を用いて患者を層別化すると、抗凝固薬の有効性が異なることが分かっています。(つまり、CHADS₂スコアは抗凝固薬の効果修飾因子)

CHADS₂スコアが高い(3以上)患者:抗凝固薬の継続使用により血栓リスクが0.6倍に低下し、出血リスクは増えない。
CHADS₂スコアが低い(1以下)患者:血栓リスクに変化はなく、むしろ出血リスクが1.5倍に増加

つまり、血栓リスクが高い患者には抗凝固薬が有益だが、リスクが低い患者では抗凝固薬が有害になり得るのです。


このように、効果修飾因子(CHADS₂スコア)を考慮することで「抗凝固薬(DOAC)によって最も益される集団を見つけること」がご理解いただけたのではないでしょうか?

③生物学的・社会的なメカニズムを理解するため

効果修飾因子を特定することで、集団レベルで観察された結果からその背景にあるメカニズムを解明する手がかりとなることがあります。

例えば、ある研究で「糖尿病と食生活の関係」を調べているとしましょう。

そこで「同じ食事をしても、ある人は糖尿病になりやすく、ある人はなりにくい」という現象が見られたとしましょう。

これをきっかけとして「特定の腸内細菌を多く持つ人は、糖尿病になりにくい」と分かった場合、「腸内細菌の組成」が「食事と糖尿病の関係」に対する効果修飾因子になっていると考えられます。

さらに研究を進めることで、特定の腸内細菌が産生する物質がインスリン感受性に影響を与えることが解明され、糖尿病治療の新しい可能性が生まれるかもしれません。


このように、効果修飾を特定することで「なぜその疾病が起こるのか」という疾病のメカニズム解明のきっかけとなり、新しい治療法の開発などに発展する可能性をもっているのです。

6.まとめ

この記事では、効果修飾の定義や効果修飾因子の種類、そして「なぜ効果修飾が重要なのか」について解説してきました。

ほとんどの場合、「あらゆる対象者に対して普遍的に利益をもたらす治療」などというものはなく、背景にある効果修飾因子について洞察することが必要です。

効果修飾について洞察し「誰に対して、どのような効果があるのか」を見極めることは、まさに研究の問いを研ぎ澄ますことに他なりません。

それは因果効果の推論をより頑健なものとし、適用可能な集団を明確にし、ひいては疾患や治療のメカニズム理解にもつながります。

これから皆さんが論文を読まれるときに「性別で層別分析しているのは、つまり性別を効果修飾因子と捉えているんだな!」という視点で吟味していただけたら、より一層理解が深まることと思います。

本記事が公衆衛生・疫学を学ばれる皆様の一助になったら幸いです。


参考図書:『Causal Inference: What If

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「パブリックヘルスを、生き様に」をミッションに、『初心者が、自立して臨床研究・パブリックヘルスの実践者になる』ことを目指して学んでいます。初心者の方も大勢所属しており、次のような手厚いサポートがあるので安心してご参加ください!

・オンデマンド動画があるから納得するまで何回でも、いつでも学び直せる
・チャットコンサルで質問すれば24時間以内にスペシャリストから複数の回答が
・初心者専用の「優しいピアグループ」で助け合い、スペシャリストが”講義の解説”講義を毎月開催

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【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】

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YouTubeラジオコンテンツ「耳から学ぶシリーズ」は、仕事や育児で忙しい人が10分のスキマ時間に“ながら聞き”で学べる音声コンテンツです。

すべてのコンテンツを疫学専門家が監修し、完全無料で毎日投稿していきますので、ぜひチャンネル登録してお待ちください。

シリーズ一覧

シリーズ紹介|ゼロから学ぶ因果推論

「医学研究は難しい」、きっと多くの方がそう感じているでしょう。

因果推論は、そんな複雑怪奇な医学研究にスッと一本の軸を通してくれる、まさに医学研究の原理原則とも言える学問です。

因果推論を学ぶことで、複雑に散らばっていた知識の断片が見事なまでに因果推論という幹へと体系立てられていきます。そしてきっと「論文、読めるようになってきたかも」、そんな気持ちになれるはず。

「ゼロから学ぶ因果推論」シリーズは、疫学専門家の監修のもとで「はじめて学ぶ人の気持ち」に寄り添い、具体例や図解を使用して「日本でいちばんわかりやすい因果推論の解説」を目指しました。あなたの歩幅で一歩ずつ。ゼロからの学びをはじめしょう。

因果推論シリーズ

  • vol.1:因果推論の出発点 - 因果と関連の違いとは? -

  • vol.2:因果効果の基本を徹底解説 - Individual Causal Effect(個人因果効果)とAverage Causal Effect(平均因果効果)の違いとは? -

  • vol.3:初心者のためのTarget Trial Emulation(TTE)
    - Part 1 ; ETAFOCAフレームワークについて
    - Part 2 ; 三つの時点で考えるバイアスとその対処法
    - Part 3 ; 論文の実例で理解を深めるTTE

  • vol.4:Exchangeability(交換可能性)を徹底解説 - Randomization(ランダム化)が実現する因果推論の必須条件 -

  • vol.5:Standardization(標準化)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -

  • vol.6:Inverse Probability Weighting(逆確率重み付け)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -

  • vol.7:Consistency(一致性)を徹底解説 - 観測データと反事実アウトカムを一致させよ -

  • vol.8:Positivity(正値性)を徹底解説 - 因果推論の落とし穴を回避せよ -

  • vol.9:Immortal time biasを徹底解説 - 臨床研究に潜む「不死の時間」の罠 -

  • vol.10:効果修飾を徹底解説 - 私たちは「どの集団における」効果を見ているのか? -

  • vol.11:交互作用を徹底解説 - 複数の介入による相乗効果 -

  • vol.12:DAGを徹底解説

    - 基礎編;因果推論の必須ツールで交絡因子を可視化する
    - 応用編;調整してはならない?コライダーと媒介変数の落とし穴

  • vol.13:交絡を徹底解説 - 結果を歪める、因果推論の最重要課題 - 

  • vol.14:選択バイアスを徹底解説 - 消えた患者が結果を歪める?- 

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