
【疫学専門家監修】初心者のためのTTE:ETAFOCAについて - ゼロから学ぶ因果推論 vol.3-1
2024.11.18
シリーズ紹介|ゼロから学ぶ因果推論
「医学研究は難しい」、きっと多くの方がそう感じているでしょう。
因果推論は、そんな複雑怪奇な医学研究にスッと一本の軸を通してくれる、まさに医学研究の原理原則とも言える学問です。
因果推論を学ぶことで、複雑に散らばっていた知識の断片が見事なまでに因果推論という幹へと体系立てられていきます。そしてきっと「論文、読めるようになってきたかも」、そんな気持ちになれるはず。
「ゼロから学ぶ因果推論」シリーズは、疫学専門家の監修のもとで「はじめて学ぶ人の気持ち」に寄り添い、具体例や図解を使用して「日本でいちばんわかりやすい因果推論の解説」を目指しました。あなたの歩幅で一歩ずつ。ゼロからの学びをはじめしょう。
はじめに
本記事では、昨今のデータ分析手法において非常に注目されているTarget Trial Emulation(TTE)についてイラスト付きで医師がわかりやすく紹介します!
以下の3パートに分けて解説していきます。
Part 1 :ETAFOCAフレームワークについて
Part 2 :三つの時点で考えるバイアスとその対処法
Part 3 :論文の実例で理解を深めるTTE
この記事はPart 1であり、「なぜTTEが必要なのか、そしてそれはどんなフレームワークなのか」ということを解説していきます。
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- シリーズ紹介|ゼロから学ぶ因果推論
- はじめに
- mMEDICI Library | ひらけ、叡智の扉
- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書いているか
- 因果推論シリーズ
- 執筆者の紹介
- 編集者
- 監修者
- Target Trial Emulationとは?
- 因果推論とは何か
- 観察研究とRCTの結果の乖離
- Target Trial Emulation〜 ETAFOCAの内容
- 1) 対象者の選択(Eligibility Criteria)
- 2) 治療戦略(Treatment Strategies)
- 3) 治療割付(Assignment)
- 4) フォローアップ期間(Follow-up Period)
- 5) アウトカム(Outcome)
- 6) 因果効果の対比と解析計画 (Causal Contrast of Interest / Analysis Plan)
- Target Trial Emulationのフレームワークのまとめ
- 参考文献
- 因果推論を学ぶならオンラインスクールmJOHNSNOW
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
観察研究のデザインを向上するためのフレームワークであるTarget Trial Emulationを包括的に分かりやすく学ぶ
この記事は誰に向けて書いているか
これから医療大規模データベースを用いた観察研究を行いたいと考えている方
因果推論の手法を学びたいと考えている方
Target Trial Emulationを学びたい、もしくは独学したが挫折してしまった方
因果推論シリーズ
vol.1:因果推論の出発点 - 因果と関連の違いとは? -
vol.2:因果効果の基本を徹底解説 - Individual Causal Effect(個人因果効果)とAverage Causal Effect(平均因果効果)の違いとは? -
vol.3:初心者のためのTarget Trial Emulation(TTE)
- Part 1 ; ETAFOCAフレームワークについて
- Part 2 ; 三つの時点で考えるバイアスとその対処法
- Part 3 ; 論文の実例で理解を深めるTTEvol.4:Exchangeability(交換可能性)を徹底解説 - Randomization(ランダム化)が実現する因果推論の必須条件 -
vol.5:Standardization(標準化)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -
vol.6:Inverse Probability Weighting(逆確率重み付け)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -
vol.7:Consistency(一致性)を徹底解説 - 観測データと反事実アウトカムを一致させよ -
vol.8:Positivity(正値性)を徹底解説 - 因果推論の落とし穴を回避せよ -
vol.9:Immortal time biasを徹底解説 - 臨床研究に潜む「不死の時間」の罠 -
vol.10:効果修飾を徹底解説 - 私たちは「どの集団における」効果を見ているのか? -
vol.11:交互作用を徹底解説 - 複数の介入による相乗効果 -
vol.12:DAGを徹底解説
vol.13:交絡を徹底解説 - 結果を歪める、因果推論の最重要課題 -
vol.14:選択バイアスを徹底解説 - 消えた患者が結果を歪める?-
執筆者の紹介
氏名:吉田拓人(Google scholarはこちら,Linkedinはこちら)
所属:岩見沢市立総合病院外科
経歴:外科専門医・内視鏡技術認定医・公衆衛生学修士・JDLA-E資格。2014年から一般外科医として8年間勤務した後、米国ハーバード公衆衛生大学院でMPH取得。卒業後はカナダのUniversity Health Networkで外科医療AIのリサーチフェローを修了し、2024/09より現職。専門は消化器癌およびヘルニア診療、内視鏡手術。外科医のスキル評価、合併症の低減のためのデータ分析・医療AI開発に取り組んでいる。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の日本・グローバルにおいて疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究に従事。その後、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
Target Trial Emulationとは?
因果推論とは何か
まずTarget Trial Emulation(TTE)を説明する前に、その理解に必要な前提知識を説明したいと思います。
そもそも私たちが行う臨床研究にはどのような種類があるでしょうか?
TTEを提唱したハーバード大学Hernan教授らは以下の三つであると説明しています。
Description(記述)
Prediction(予測)
Causal Inference(因果推論)
記述研究というのは、久山町スタディに代表されるような定量的なデータのまとめであり、疾病の分布や有病割合などデータを記述する研究です。
私の専門の消化器外科領域では、東京大学公衆衛生学教室から、2024年に日本の消化器外科領域の年齢調整罹患率の年次推移などの疫学的データが報告されています[1]。
このようなデータの定量的なまとめは、私たちの社会が抱える現状の課題をわかりやすく特定してくれる大切な研究手法の一つです。
次に予測です。
予測研究とは、個々の患者さんで特定のアウトカムがどのくらいの確率で発生するかを算出するための予測モデルを作成する研究を指します。
過学習をせずに、適切なモデルを選択し、ファインチューニングと呼ばれるモデルの微調整を加えることで、ベストな予測を行うモデルを作成することを目標としています。
近年話題の人工知能(機械学習や深層学習など)も、主にはこの予測研究から脈々と発展した手法です。
三つ目の因果推論とは、ある介入/曝露がアウトカムにどのくらいの効果(因果効果)があったのか、を調べる学問です。
「同じ集団に対して、もし〇〇していたら、結果は××だったのでは、、、?」といった疑問はまさに因果推論の領域であり、少なくとも私と同じ臨床医で臨床研究を行っている人にとっては、多くの場合、興味の中心になっているのではないでしょうか。(ちなみに、この「もし〇〇していたら」は英語ではよく、”What if … ?”といった表現が用いられ、因果推論のバイブルの一つであるHernan先生の本のタイトルにもなっています。)
しかしながら、この因果効果を調べることは容易ではありません。
例えば、胃癌の患者に腹腔鏡手術を行うことで開腹手術に比較して術後30日合併症率が減少するかどうかを調べたいとします。
ある胃癌の患者に開腹手術を行い、30日間フォローアップして術後30日合併症率を測定します。次に、同じ患者で腹腔鏡手術をした際のアウトカムを見るためにタイムマシーンを使って時を戻したとしましょう。
これによって開腹手術・腹腔鏡手術それぞれのアウトカムを比較すれば、その個人における腹腔鏡手術の術後30日合併症に対する因果効果を見ることができます。
しかしタイムマシーンを使うことはできませんから、このように個人において「治療を受けた時・受けなかった時」の双方のアウトカムを観察し、比較することは不可能です。
この不可能に抗って、因果効果を手元にあるデータから推定する手法が因果推論です。
因果効果の推定において、ゴールドスタンダードはランダム化試験(Randomized controlled study: RCT)です。
ランダムに治療を割り付けることで、理論的には治療群とコントロール群は、同じ性質を持った集団とみなすことができ、つまり集団全体に対してタイムマシーンで過去に戻った状況を再現し、得られたアウトカムの差から治療法の差による因果効果を推論できると考えられています。
このようにRCTは因果効果を推定する上で強力な手法である一方で、時間やお金が膨大にかかり、また倫理的な側面や現実的に実現することができない研究テーマも数多く存在します。
例えば開腹手術と腹腔鏡手術で術後の成績を比較したかったとしましょう。
この時にRCTは実現可能でしょうか?
残念ながら倫理的には難しいでしょう、たまたまのくじ引きで「あなたはくじで開腹手術になりました」などと手術の仕方を変えられたらたまったもんではありません。
このように医学以外にも政治・経済・教育・自然現象など、RCTが行いにくい学問はたくさんあります。
そんな時に、RCTではなく実社会で観察されたデータから因果効果を推定する際に用いる手法が因果推論です。
では、観察データにおいてRCTでは理論的に制御されていると考えられる交絡バイアスだけに気をつけて研究をすれば、因果推論を推論することができるのでしょうか?
実は、そんなに簡単な話ではありません。
観察研究とRCTの結果の乖離
ここからいくつかの研究を紹介します。
それらの研究では、交絡以外のバイアスへの対処が不十分だったため観察研究の結果がBiasedなものとなり、RCTの結果と乖離しました。
読者の皆さんは、これらの事例をみてどのように感じるでしょうか?
交絡の対処のみではうまくいかなかった例1:大腸がんの発癌とスタチン内服
読者の皆さんの中には、スタチンは大腸がんのリスクを下げるといった話を聞いたことがある方がいらっしゃるかもしれません。
代謝異常が癌の発生と関係しているとされ、抗炎症作用のあるアスピリン、糖代謝異常に対するメトホルミンとともに、脂質代謝異常に対するスタチンが注目されています。
2005年のNew England Journal of Medicine (NEJM: 医学領域のトップジャーナルの一つ)に報告された観察研究[2]ではスタチンの使用が大腸がんの罹患率を47%減少させたとする報告がされました。
一方、その後の2006年にJAMA(医学領域のトップジャーナルの一つ)から報告された6662症例を対象としたメタアナリシス[3]ではスタチンによる発癌予防効果はないとされ、観察研究の結果と乖離しています。
本当はスタチンによる大腸がんの発癌予防効果などないかもしれなかったのに、その前の観察研究では非常に強い予防効果がある様な報告がされていたこととなります。
交絡の対処のみではうまくいかなかった例2: ホルモン療法と冠動脈疾患
では次にホルモン補充療法が冠動脈疾患に与える効果についてみてみましょう。
2003年にMansonらによって行われたRCT[4]においては、ホルモン補充療法を使用している患者群では、使用していない群に比較して冠動脈疾患のHazard ratio (HR) が 1.24と有害であったことを報告しています。
しかし、2006年のGrodsteinらの観察研究[5]では、ホルモン補充療法の使用群は、使用していない群に比較してHR 0.68と予防効果があったことを示しています。
同じResearch questionに対して行われたRCTと観察研究で、全く異なる研究結果が報告されたこととなります。
この結果をもって、日本産婦人科医会はホルモン補充療法の適応変更に関する警告を出しています。
なぜこの様にRCTと観察研究で全く異なる研究結果が報告されてしまうのでしょうか?
その原因には主に三つあるとされています。(こちらはKRSKさんのブログを参照しました。参照URL: https://www.krsk-phs.com/entry/target.trial.talk#google_vignette)
1.Lack of randomization
2.Other sources of bias (selection bias, immortal time bias, measurement error)
3.Different, and often ambiguous causal estimand非常にややこしいですね。。。
因果関係を調べようとするとついつい交絡に意識がもっていかれがちですが、上記のように交絡以外にも考えるべきことがあります。
交絡バイアス以外のバイアスだと、選択バイアス、不死時間バイアス、測定バイアス
エスティマンド、つまりその研究で推計しようとするアウトカムが曖昧なことによる影響
考えるだけで頭が痛くなってきそうですが、この思考の交通渋滞を綺麗に整理すべく対策を明示的に示したものが、この記事の主題であるTarget Trial Emulationというフレームワークとなります。
Target Trial Emulation〜 ETAFOCAの内容
さて、前置きが非常に長くなりましたが、いよいよここから実際どうやってTarget Trial Emulation(TTE)を行えば良いのかを解説します。
そのためにはETAFOCAと呼ばれるフレームワークを用いて研究デザインを考えることが推奨されています。
研究デザインを考える上で、PICO/PECOというフレームワークが頻繁に用いられてきました(デザインをPopulation、Intervention/Exposure、Comparison、Outcomeの4項目に分けて考えるフレームワーク)。
PICO/PECOはシンプルであるため使いやすいというメリットがありますが、観察研究でより頑健な因果推論を行うためにはさらに複雑なことを考えていかねばなりません。
そのためにHernan教授らが提唱したフレームワークがETAFOCAであり、これを用いてTTEを行っていきます。
TTEとは「そのリサーチクエスチョンを達成するために理想的なRCTを想定し、そのデザインを模倣するように観察研究のデザインを設定していく」ことで、観察研究特有のバイアスを制御していくという思考の枠組みです。

ここでは、実際にTarget Trial Emulationを用いてCOVID-19の重症患者におけるトシリズマブによる治療と死亡率との関連を調査した論文を例に、ETAFOCAを具体的に解説します[6]。
こちらの図は、ETAFOCAの各要素のRCTでの定義と、TTEを行った際の定義を比較しています。

1) 対象者の選択(Eligibility Criteria)
対象者の選択のポイントは、研究するリサーチクエスチョンに対しRCTをやるとしたら誰が適応になるかを考えることです。
TTEではRCTを模倣し、適格・除外基準からなる適格基準を設定します。
COVID-19とトシリズマブの例
COVID-19患者におけるトシリズマブの治療効果を評価した研究では、下記のようにEligibility CriteriaとExclusion criteriaが設定されています。
Inclusion criteria(包含基準)・18歳以上の成人患者
・COVID-19の検査で陽性が確認された患者
・2020年3月4日から5月10日までにICUに入院
・COVID-19による病状が直接の原因でICUに入院
Exclusion criteria(除外基準)・トシリズマブまたは他のIL-6阻害薬を使用するプラセボ対照試験に登録されている
・ICU入院前に1週間以上の入院歴がある
・ICU入院時に肝機能障害(ASTまたはALTが500U/Lを超える)を有する
・ICU入院の最初の2日間でトシリズマブ以外のIL-6阻害薬を使用している
・ICU入院前にトシリズマブを使用している
2) 治療戦略(Treatment Strategies)
ここではPICOのIとCに相当する治療戦略を設定することになります。
COVID-19とトシリズマブの例
参考文献では、ICU入院から2日以内に新たにトシリズマブを投与された患者が治療群とされ、それ以外の患者と比較されました。この2日間という期間を設けることで、患者の状態のばらつきを減らし、早期に治療を受けた場合の効果をより正確に評価することが可能になります。
また、この期間設定により、重症患者に対する早期治療の効果を他の臨床試験の結果と比較しやすくする狙いもあったようです。
3) 治療割付(Assignment)
観察研究においてはRCTのようにランダムに治療の割付が行われず、患者の状態などによって治療が決定されます。この状態がアウトカムに影響を与える場合は交絡バイアスが発生します。
そのため適切に因果推論を行うためには交絡因子を制御しなくてはならず、様々な手法が用いられます。
COVID-19とトシリズマブの例
参考文献では、ベースラインの交絡因子をInverse Probability Weightingという手法を用いて調整しています。調整した因子は以下の通りであり、非常に丁寧に多くの因子が調整されていることがわかります。
A. ベースライン因子
1.年齢:18-49歳、50-59歳、60-69歳、70歳以上
2.性別:男性
3.人種:白人 vs 非白人/その他/不明
4.民族:非ヒスパニック vs ヒスパニック/不明
5.BMI(体重指数 kg/m²):25未満、25-29、30-34、35-39.9、40以上、不明
6.高血圧
7.糖尿病
8.冠動脈疾患
9.うっ血性心不全
10.喫煙者(Current smoker)
11.活動性悪性腫瘍
12.自宅での服薬(各薬剤を個別に二値変数として評価):
・アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬
・アンジオテンシンII受容体拮抗薬
・スタチン
13.症状発症からICU入院までの日数: 0-3日、3日超
B. ICU入院時に評価された重症度因子
1.Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコアの腎・肝成分
・腎(SOFA Renal):クレアチニン値(Cr)、尿量(UOP)、腎代替療法(RRT)、末期腎疾患(ESRD)
・カテゴリー0:Cr < 1.2 mg/dl
・カテゴリー1:Cr 1.2-1.9 mg/dl
・カテゴリー2:Cr ≥ 2 mg/dl または尿量 < 500 ml/日、急性腎代替療法(RRT)を実施、または末期腎疾患(ESRD)
・肝(SOFA Liver):ビリルビン値
・カテゴリー0:< 1.2 mg/dl
・カテゴリー1:1.2-1.9 mg/dl
・カテゴリー2:≥ 2 mg/dl
2.PaO2/FiO2比(酸素化指数):
・人工呼吸器装着なし、PaO2/FiO2比200以上かつ人工呼吸器装着あり、PaO2/FiO2比200未満かつ人工呼吸器装着あり、PaO2/FiO2比不明
3.血管作動薬の使用数: 0種類、1種類、2種類以上
4.発熱(38℃以上)
5.白血球数(/mm³):4000未満、4000–11,900、12000以上、不明
6.炎症状態(以下の三つのカテゴリーのいずれか):
・炎症あり:ICU入院後1-2日目に、以下のいずれかの値を満たす(C反応性タンパク質 >100 mg/L、インターロイキン6 >80 pg/ml、フェリチン >1000 ng/mL)
・炎症なし:すべての値が基準未満であり、いずれも基準を超えない
・不明:三つの値がすべて欠如
7.そのほかの治療(各治療を個別に評価):
・ヒドロキシクロロキン
・アジスロマイシン
・コルチコステロイド
・抗凝固療法
・腹臥位療法
・筋弛緩薬
4) フォローアップ期間(Follow-up Period)
フォローアップ期間は、患者の治療開始後にアウトカムの発生を追跡する期間です。RCTでは通常、治療割付後すぐにフォローアップが開始され、途中の脱落が起きないように細心の注意が払われます。
しかし、観察研究では「患者が診察に来なくなった」、「転院した」などの様々な理由で脱落が生じます。
COVID-19とトシリズマブの例
参考文献では、フォローアップ期間は『退院、死亡、もしくは2020年6月(今回の解析に対しデータベースがロックされる日付)のいずれかが先に起こるまで』とされました。
5) アウトカム(Outcome)
RCTでは、アウトカムの評価者はそれぞれの患者がどの治療群に割り振られているかをマスクして(盲検化)評価することがゴールドスタンダードです。
一方で観察研究では、アウトカムの評価者は患者の治療医であることが通常であり、そのため評価者は患者が受けている治療を当然ながら把握しています。これにより測定バイアスと呼ばれるバイアスが生じえます。
このバイアスを防ぐための方法として、「評価者が患者の治療の有無を知っていても、評価が変わらないアウトカム」を使うことが推奨されます。たとえば死亡ですが、評価者が患者の治療の有無を知っていたところで、「死亡したかどうか」という評価が変わることはありません。
COVID-19とトシリズマブの例
参考文献において、主要アウトカムは院内死亡とされました。このアウトカムは退院時または最終フォローアップ時に打ち切られ、治療履歴に影響されない、客観的で信頼性の高い指標として選択されています。このほか副次アウトカムでは、ICU入院後14日以内に発生した二次感染、肝機能異常、不整脈、血栓症の発生率も評価されています。
6) 因果効果の対比と解析計画 (Causal Contrast of Interest / Analysis Plan)
一口に「治療の効果を測定する」と言っても、実はいくつかのバリエーションがあります。
Intention-to-treat(ITT)効果/解析:ベースラインでの治療割付の効果を評価し、割付毎の治療継続の有無に関わらずアウトカムを比較するもの。治療を割り付けても、現実世界では不遵守や脱落が起こるが、それらは無視して患者は最初に割り付けられが群で解析される。
Per-Protocol(PP)効果/解析:研究プロトコルに従い、実際に受けた治療の効果を測定する。例えば、治療薬Aに割付られた患者が実際には治療薬Bを使用したとしたら、その患者は治療薬B群として解析される。

COVID-19とトシリズマブの例
参考文献では、ICU入室後2日以内にトシリズマブを投与された患者と、投与されなかった患者の間で、治療効果を比較するためにITT解析が行われました。死亡発生までの時間をアウトカムとしてIPWを用いたCox回帰モデルでハザード比を推定しています。
Target Trial Emulationのフレームワークのまとめ

さて、以上がTTEを行う上でのフレームワークとなります。
実際の論文をもとに解説することでより具体的なイメージがわいたでしょうか?
次回のPart2 では、TTEを行う上で考慮すべき三つの時間軸について説明したいと思います。
参考文献
ウェブサイト
UNBOUNDEDLY (https://www.krsk-phs.com/entry/target.trial)
全てのものは、毒であり(https://nothing-without-poison.com/epi3/)
ハーバード流 リアルワールドデータ徹底活用講座〜RCTを模倣し、落とし穴を回避セヨ〜 Target Trial Emulationという僕らの新たな武器について(https://merasmus-r-20240727.peatix.com/view)
参考文献
Higashi, T. & Kurokawa, Y. Incidence, mortality, survival, and treatment statistics of cancers in digestive organs-Japanese cancer statistics 2024. Ann. Gastroenterol. Surg. 8, 958–965 (2024).
Poynter, J. N. et al. Statins and the risk of colorectal cancer. N. Engl. J. Med. 352, 2184–2192 (2005).
Dale, K. M., Coleman, C. I., Henyan, N. N., Kluger, J. & White, C. M. Statins and cancer risk: a meta-analysis: A meta-analysis. JAMA 295, 74–80 (2006).
Manson, J. E. et al. Estrogen plus progestin and the risk of coronary heart disease. N. Engl. J. Med. 349, 523–534 (2003).
Grodstein, F., Manson, J. E. & Stampfer, M. J. Hormone therapy and coronary heart disease: the role of time since menopause and age at hormone initiation. J. Womens. Health (Larchmt) 15, 35–44 (2006).
Gupta, S. et al. Association between early treatment with tocilizumab and mortality among critically ill patients with COVID-19. JAMA Intern. Med. 181, 41–51 (2021).
参考図書:『Causal Inference: What If』
Causal Inference: What Ifとはハーバード大学のSPHで教鞭をとるMiguel Hernan氏とJames Robins氏によって執筆された因果推論の金字塔的書籍です。
mJOHNSNOWでは、こちらの書籍を用いて輪読会を行い因果推論をゼロから学んでいます。
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