
【疫学専門家監修】傾向スコアを徹底解説 - 「治療を受ける確率」で交絡に対処せよ! ゼロから学ぶ因果推論 vol.17
2025.09.28
シリーズ紹介|ゼロから学ぶ因果推論
「医学研究は難しい」、きっと多くの方がそう感じているでしょう。
因果推論は、そんな複雑怪奇な医学研究にスッと一本の軸を通してくれる、まさに医学研究の原理原則とも言える学問です。
因果推論を学ぶことで、複雑に散らばっていた知識の断片が見事なまでに因果推論という幹へと体系立てられていきます。そしてきっと「論文、読めるようになってきたかも」、そんな気持ちになれるはず。
「ゼロから学ぶ因果推論」シリーズは、疫学専門家の監修のもとで「はじめて学ぶ人の気持ち」に寄り添い、具体例や図解を使用して「日本でいちばんわかりやすい因果推論の解説」を目指しました。あなたの歩幅で一歩ずつ。ゼロからの学びをはじめしょう。
はじめに
この記事では、傾向スコア(Propensity Score)についてご説明します。
傾向スコアとは、ある人が特定の治療を受ける確率を計算したもので、様々な交絡因子を一つの数値にまとめたものと考えることができます。
このスコアを使うことで、治療を受けたグループと受けなかったグループの背景をできる限り近い条件に整えることができ、治療効果をより公平に比較できるようになります。
また、傾向スコアを適切に利用することで、観察研究においても、得られる結果の説得力を高めることができるため、私たちの研究の可能性を大きく広げることができます。しかし、使い方を間違えると、誤った結論を導いてしまう危険性もあります。
本記事では、傾向スコアの基本概念、算出方法、推定できる効果と方法、そして分析の点検ポイントまで、その適切な活用法を詳しく解説していきます。
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- シリーズ紹介|ゼロから学ぶ因果推論
- はじめに
- mMEDICI Library | ひらけ、叡智の扉
- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書かれているか
- 因果推論シリーズ
- 執筆者の紹介
- 編集者
- 監修者
- 1.傾向スコアとは何か
- 2.交絡調整の基本
- 3.傾向スコアの役割
- 4.傾向スコアの推定方法
- 5.傾向スコアの活用方法
- 5 - 1.層別化(Stratification)
- 5 - 2.マッチング(Matching)
- 5 - 3.逆確率重み付け(IPW)
- 6.傾向スコアの限界と注意点
- 傾向スコアの重なりが必要
- 未測定交絡へ対処できない
- モデル誤指定の影響
- 7.まとめ
- 因果推論を学ぶならオンラインスクールmJOHNSNOW
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
傾向スコアの定義、算出方法と使い方
傾向スコアを用いて推定できる効果の種類
傾向スコアを正しく使用するためのチェックポイント
この記事は誰に向けて書かれているか
傾向スコアを使った研究に挑戦したいが、最初の一歩がわからない方
傾向スコアを使うと何ができるのかを具体的に知りたい方
傾向スコアの落とし穴と回避策を事前に押さえたい方
因果推論シリーズ
vol.1:因果推論の出発点 - 因果と関連の違いとは? -
vol.2:因果効果の基本を徹底解説 - Individual Causal Effect(個人因果効果)とAverage Causal Effect(平均因果効果)の違いとは? -
vol.3:初心者のためのTarget Trial Emulation(TTE)
- Part 1 ; ETAFOCAフレームワークについて
- Part 2 ; 三つの時点で考えるバイアスとその対処法
- Part 3 ; 論文の実例で理解を深めるTTEvol.4:Exchangeability(交換可能性)を徹底解説 - Randomization(ランダム化)が実現する因果推論の必須条件 -
vol.5:Standardization(標準化)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -
vol.6:Inverse Probability Weighting(逆確率重み付け)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -
vol.7:Consistency(一致性)を徹底解説 - 観測データと反事実アウトカムを一致させよ -
vol.8:Positivity(正値性)を徹底解説 - 因果推論の落とし穴を回避せよ -
vol.9:Immortal time biasを徹底解説 - 臨床研究に潜む「不死の時間」の罠 -
vol.10:効果修飾を徹底解説 - 私たちは「どの集団における」効果を見ているのか? -
vol.11:交互作用を徹底解説 - 複数の介入による相乗効果 -
vol.12:DAGを徹底解説
vol.13:交絡を徹底解説 - 結果を歪める、因果推論の最重要課題 -
vol.14:選択バイアスを徹底解説 - 消えた患者が結果を歪める?-
vol.15:測定バイアスを徹底解説 - ズレたメジャーが、結果を歪める -
vol.16:ランダム誤差を徹底解説 - 研究結果は「運」で歪むのか? -
vol.17:傾向スコアを徹底解説 - 「治療を受ける確率」で交絡に対処せよ! (本記事)
執筆者の紹介
氏名:MK
所属:研究所勤務
自己紹介:公衆衛生学修士、精神保健福祉士。大学卒業後、民間企業にて個人、企業、大学を対象としたメンタルヘルス支援に従事し、これまでに500を超える企業・官公庁・自治体で研修講師を務めた。働く人々の心の健康を支える現場に向き合う中で、支援の質と根拠のある実践の重要性を痛感し、公衆衛生大学院へ進学。科学的根拠に基づく精神保健支援の理論と方法に加え、疫学的研究手法を体系的に修得した。修了後は研究機関に所属し、精神保健分野における調査・研究活動に取り組んでいる。現場と学術をつなぐ実践知の蓄積を通じて、実効性のある支援と政策への貢献を目指している。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の日本・グローバルにおいて疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究に従事。その後、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
1.傾向スコアとは何か
傾向スコアとは、「交絡因子を一つの数値にまとめた指標」です。
もう少し具体的に説明すると、「研究参加者の様々な背景情報(年齢、性別、、、)をもとに、各参加者が“治療を受ける傾向”を確率で表したもの」と言えます。
これら定義を理解するために、まずは「治療とアウトカムにおける因果関係」と「交絡因子」の影響について整理していきましょう。
まず、私たちが治療とアウトカムにおける因果関係を調べたい時には、ランダム化試験(RCT)を実施するのがゴールドスタンダートです。しかし、実際にはコストや倫理上の問題からRCTを実施することが難しい場面も多く、その場合には観察研究で治療効果を推定する必要があるケースも多くあります。
しかし、観察研究においては交絡因子(治療効果の推定を歪める可能性のある要因)の問題が必ずつきまといます。
交絡因子の徹底解説はこちら
【疫学専門家監修】交絡を徹底解説 - 結果を歪める、因果推論の最重要課題
交絡因子の数が一つだけといった場合には、層別化や標準化などの方法で交絡因子による治療効果の歪みを解消することができますが、交絡因子の数が多い場合には層別化による調整が難しくなります。
層別化・標準化による交絡調整についてはこちらの記事をご覧ください。
【疫学専門家監修】標準化(Standardization)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 - vol.5
そして、現実的には、層別化では対処できないほどに交絡因子が数多く存在する場合がほとんどです。
傾向スコアは、こうした多数の交絡因子を要約し、「似た条件の人同士」で公平な比較をできるようにしてくれる、観察研究で治療効果を推定するために役に立つ強力なツールです。
この記事では、まずは交絡因子の調整方法の基本について知識を整理しながら、傾向スコアの特徴や強みについて解説していきます。一つ一つ理解を深めていきましょう。
2.交絡調整の基本
ここからは、RCTと観察研究とを比較しながら、交絡因子の調整方法の基本について理解を進めていきましょう。
ここでは、「ある治療」における「ある症状」に対する因果効果を検証する研究を考えてみます。そして、この治療は「年齢」によって治療への適応が異なり、「年齢」が症状にも影響するため、「年齢は治療と症状の交絡因子」となります。

RCTではランダムに治療が割り当てられるため、十分にサンプルサイズが大きい場合においては、理論的に「治療あり群」「治療なし群」の2群間で年齢のバランスが均一になり、公平な比較をすることができます。その結果、治療効果の推定において、年齢の影響を消すことができます。
ランダム化による交絡調整についてはこちらの記事をご覧ください
【疫学専門家監修】Exchangeability(交換可能性)を徹底解説 - Randomization(ランダム化)が実現する因果推論の必須条件 -
一方、観察研究では、治療の割り当ては担当医による判断や本人の希望によって決まります。例えば、この例における治療が「若者に処方されことが多い」といった状況があり得るのです。
それにより2群間で年齢の割合が異なり、治療効果の推定値は「年齢の偏り」の影響を受けてしまいます。その結果、2群間における症状の差異が、「治療の有無によるもの」なのか、「年齢の偏りによるもの」なのかが分からなくなり、治療の効果を比較できなくなってしまいます。

このように、RCTではランダム化によって交絡因子が調整されますが、観察研究においては交絡因子の偏りが生じてしまう状況にあることがわかります。
現実的には交絡因子は「年齢」以外にも、性別や疾病の重症度、医療へのアクセスなどのあらゆる要素が考えられます。
RCTでは、十分にサンプルサイズが大きい場合には、理論的にあらゆる交絡因子(未測定のものも含め)において、群間で均等にバランスがとれ、その推定値への影響を打ち消せるとされていますが、観察研究においては数多の交絡因子にどう対処するかが非常に難しい課題となるのです。
例えば、もし無限のサンプルサイズの患者をランダムに二つのグループに分け、一方には新薬、もう一方には偽薬を投与したら、「新薬群のグループ」と「偽薬のグループ」とで年齢や重症度といったあらゆる背景因子が統計的にほぼ均等になります。
つまり、「新薬 or 偽薬」以外の要素が全て同じ条件で比較できるのです。この状態で症状の程度を比較した時、その違いは「新薬の効果」だと自信を持って言えるのです。3.傾向スコアの役割
ここからは、傾向スコアの役割について、観察研究における交絡調整の問題に触れながら具体的に考えていきましょう。
先ほどの例では、「年齢」だけが交絡因子であるケースを考えました。この場合、観察研究では対象者を「高齢」「若年者」の二つの層に分けて(層別化)、それぞれの層の中で治療効果を推定することで、交絡因子の問題を対処することできます(層の中では、年齢の偏りをなくすことができるためです)。
しかし、もしも交絡因子の数が10個ある場合はどうでしょうか?層別化をするためには、10^10=1,024 もの層に分ける必要があり、層別での治療効果推定は困難になります。
ここでようやく、今回の解説記事の主題である傾向スコアが登場します。傾向スコアの仕組みを簡単に説明すると、交絡因子の組み合わせから、一人一人の傾向スコアを算出するというものです(例えば、高齢・男性・重症の患者であれば、傾向スコアが0.7となる、といった具合です)。
こうして、傾向スコアを用いることで、例えば傾向スコアを0.1間隔で層別化すれば、対象者を10個の層に集約することができるのです。

このように、高次元の交絡因子を「傾向スコアという一つの数値に要約」して、交絡調整を簡単にすることが、傾向スコアの役割と言えるのです。
複数の交絡因子を調整する方法として、多変量解析モデルを用いた手法もありますが、モデルに入れられる交絡因子の数は症例数によって制限があります。
モデルに含める変数を増やそうとすると、解析に必要なサンプルサイズが膨大になり、現実的ではないケースが多いです。これらの交絡因子を傾向スコアとして一つの数値にまとめれば、必要な交絡因子を漏らさず、かつ簡単に調整できるという利点もあります。4.傾向スコアの推定方法
それでは、傾向スコアはどのようにして算出することができるのでしょうか?
一般的に、傾向スコアは「治療の有無」を目的変数としたロジスティック回帰分析を用いて算出します。
「ロジスティック回帰分析って何?」と思われた方もいるかと思いますが、難しい数式はさておき、その目的は背景因子の組み合わせから、「その人の治療の受けやすさ」を確率で表すことです。
例えば「高齢・男性・重症度が高い人は、治療を受ける確率が70%くらい」「若年・女性・重症度が低い人は、治療を受ける確率が10%」といった形で「治療の受けやすさ」推定することができます。
この時、「年齢」「性別」「重症度」などの説明変数をどのように選択するかが、適切に傾向スコアを推定するためにとても大切です。その基準として、modified disjunctive cause criterion を基に説明変数を選択することが推奨されています。
具体的には以下の三つの基準です。
1.治療より前に測定された変数で、治療と結果(アウトカム)のいずれかの原因である変数を含める。

2.操作変数*と考えられる変数は除く。
*操作変数:治療への割り当てに影響し、結果へは治療を通じてのみ影響する変数です。
例)「特定の治療法に対する、医師の個人的な好み」などがこれに当たることがあります。

3.治療と結果の共通の原因の代理変数**を含める。
**代理変数:直接測定できない交絡因子(例:患者の経済状況、モチベーション)の代わりに用いることができる変数です。
例)「患者の経済状況」→「住んでいる地域の平均年収」「加入している健康保険の種類」
「患者のモチベーション」→「定期健診の受診頻度」「医療機関へのアクセス回数」「治療へのコンプライアンス」など

5.傾向スコアの活用方法
傾向スコアの活用方法として、今回は1.層別化(Stratification)、2.マッチング(Matching)、3.逆確率重み付け(IPW)の三つの方法をご紹介します。
5 - 1.層別化(Stratification)
傾向スコアで層別化し、症例数を使った重み付けで全体の治療効果を推定する方法です。

以下の3ステップで算出します。
1.傾向スコアに基づいて全サンプルを層別化し、各層の症例数に基づいて重みを算出
2.その重みを各層の治療効果(治療あり群と治療なし群の効果の差)に掛け合わせ、各層の重み付け治療効果を算出
3.各層の重み付け治療効果を合算し、全体の治療効果を推定
層別化の仕組みについては、こちらの記事をご覧ください。
【疫学専門家監修】標準化(Standardization)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 - vol.5
5 - 2.マッチング(Matching)
傾向スコアマッチング(PS Matching)という分析手法を目にしたことのある方も多いのではないでしょうか?
これは、「治療あり群」と「治療なし群」から、傾向スコアが近い人同士でペアを作る(マッチングをする)方法です。
(ただし、マッチングできなかった対象者は解析から除外されるので全体の数は減ってしまう点に注意が必要です。)

近い傾向スコアの値を持つ人同士でペアを作ることで、マッチング後は「治療あり群」と「治療なし群」で傾向スコアの分布が整い、すなわち群間の背景因子のバランスが整います。
このようにマッチングした後に、「治療あり群」と「治療なし群」のアウトカムを比較して治療効果を推定します。
また、傾向スコアマッチングにおいては、本当にバランスが整っているかどうかの確認も大切です。この確認には「標準化差」という値を使用します(統計ソフトで計算することができます)。
目安として、各背景因子の標準化差が0.1未満の場合、バランスが取れていると判断されます。
もし標準化差が0.1以上の場合は、傾向スコアを計算するロジスティック回帰モデルに説明変数を増やしたり、交互作用項を入れたりするなどして傾向スコアの算出方法を修正します。
傾向スコアマッチングで推定するのは、「治療あり群」が「実際に治療を受けた場合」と、「受けなかった場合」を比較し、「実際に治療を受けた人にとって、この治療はどれほどの効果があったか?」という問いに答えます(Average Treatment Effect on the Treated: ATT)。
すなわち「実際に治療を受けた人たち」が研究の対象者になります。
5 - 3.逆確率重み付け(IPW)
傾向スコアを用いたIPWでは、「治療あり群」に「傾向スコアの逆数(1 / 傾向スコア)」、「治療なし群」に( 1 − 傾向スコア)の逆数( 1 /(1−傾向スコア))」の重みを付けることによって集団全体への治療効果を推定します。
IPW(逆確率重み付け)の基本解説はこちらの記事をご覧ください。
【疫学専門家監修】逆確率重み付け(Inverse Probability Weighting)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解
傾向スコアは治療を受ける確率です。そのため、傾向スコアが大きい人は、その治療を受ける確率が高く、当然のことながら「治療あり群」に多く「治療なし群」には少ないという分布になります。
そして、逆確率を用いた重みをかけることで、例えば傾向スコアが0.8の人が「治療あり群」にいた場合は1.25倍に、「治療なし群」にいた場合は5倍に重み付けされます。
一方で傾向スコアが低い人は、その治療を受ける確率が低く、「治療なし群」には多く「治療あり群」に少なくなります。
例えば傾向スコアが0.2の人が「治療あり群」にいた場合は5倍に、「治療なし群」にいた場合は1.25倍に重み付けされます。

本来なら少数派であるはずのグループに大きな重みをつけることで、その影響力を増やし、統計的に多数派のグループと同じような構成にします。
この操作により、見かけ上の「治療あり群」と「治療なし群」の人数は等しくなり、両群の背景因子のバランスも整います。この重み付けの後に、両群間のアウトカムを比較して治療効果を推定します。
マッチングが実際に治療を受けた人たちを研究の対象者にするのに対し、IPWは主に、研究対象者全員が治療を受けた場合と治療を受けなかった場合を比較し、「もし全員がこの治療を受けたら、集団全体としてどれほどの効果が見込めるか?」という問いに答えることを目的とする場合に用いられます(Average Treatment Effect: ATE)。
※ただし、重み付けの方法を変えることでIPWでATTを推定することもできます。
このようにマッチングとIPWでは推定する治療効果の対象が異なります。効果を見たい対象は「集団全体か(ATEを知りたいのか)」、「治療を受けた人か(ATTを知りたいのか)」、目的を先に決めてから手法を選択する必要があります。
ATEとATTの使い分けの具体例として、例えば政策など全員が曝露や介入を受ける対象であり、その効果を知りたい場合はATEがよいと考えられます。
一方で、特定の治療など、介入を受ける対象者が全員ではなく、医師が治療の適用を判断するような場合で、実際に治療を受けている人における効果を知りたい場合はATTが良いと考えられます6.傾向スコアの限界と注意点
このように傾向スコアは「治療あり群」「治療なし群」の背景因子のバランスを整え、治療の効果を公平に比べることを可能にしてくれます。
しかし、公平な比較や結果の解釈について、いくつかの限界と注意点があります。
傾向スコアの重なりが必要
マッチング前の傾向スコアの分布が群間で同じような場合は、「治療あり群」と「治療なし群」とで背景因子のずれが少ない状況なので、マッチングの有無で結果は変わらず、マッチングをする意義が少ないです。

また、「治療あり群」と「治療なし群」とで傾向スコアの分布の重なりが少ない場合、マッチングの対象となるのは、分布の重なりがある対象者のみになります。
この時、分布に重なりのない対象者は解析から除外されてしまいます。
こうして得られた結果は、解析から除外症例には適用できず、一般化可能性が損なわれてしまいます。
一般化可能性については、こちらの記事でも解説されています。
【疫学専門家監修】効果修飾を徹底解説 - 私たちは「どの集団における」効果を見ているのか? -
また、IPWでは、極端に小さい、あるいは極端に大きい傾向スコアは巨大な重みを生み、推定が不安定になる恐れがあります。その場合は、極端な重みを持つ対象者を解析から外すなどの対処が必要な場合もあり、解析の際には重みを確認する注意が必要です。
未測定交絡へ対処できない
傾向スコアはあくまでも観測されている交絡因子のみ、「治療あり群」と「治療なし群」でバランスを整えることができます。
そのため、未測定の交絡因子の影響を排除することはできません。その場合、感度分析といった方法で結果の安定性を評価する必要があります。
感度分析とは、解析の仮定を変えて「結果の確からしさ」を確認する方法で、その中に「結果を変えうる隠れた交絡因子はありそうか」を調べる方法があります。
一例として、「得られた結果を打ち消すには、どれくらいの影響の大きさがある未測定交絡因子が必要か」を検討するE-Valueの算出などがあります。
例えば、E-Valueが2.5だった場合、未測定の交絡因子が「研究対象者の治療を受ける確率を2.5倍に高め、結果の発生確率(またはオッズ)を2.5倍にする影響力」を持たない限り、結果は覆らない(結果が安定している)ということを示します。モデル誤指定の影響
傾向スコアを推定する際のモデルが誤っていると、交絡因子の調整が不十分となり、妥当な推定値が得られません。
例えば、先ほどの例では「年齢」「性別」「重症度」を説明変数としたロジスティック回帰分析を考えましたが、もしも「喫煙習慣」が治療の選択にもアウトカムにも影響しているのに、それを変数に入れ忘れてしまったらどうでしょうか。
その場合、傾向スコアは正しく計算されず、治療効果の推定に偏りが残ってしまいます。
誤指定を避けるためには、計画段階で十分に先行研究を確認し、治療効果に影響を与えると考えられる交絡因子のデータをなるべく漏れなく集めるようにすることが大切です。
7.まとめ
・傾向スコアとは、複数の交絡因子を一つの数値にまとめ、観察研究でも「公平な比べ方」を実現するためのツールです。
・傾向スコアは、「治療を受けるかどうか」を目的変数にしたロジスティック回帰分析で推定し、説明変数には「治療とアウトカムに影響する因子」をできるだけ漏れなく入れることが大切です。
・傾向スコアを使った代表的な方法には「層別化」「マッチング」「逆確率重み付け」などがあります(マッチングは「治療を受けた人にとっての効果(ATT)」を、IPWは「集団全体での効果(ATE)」を推定するのに適しています)。
傾向スコアの限界と注意点として、傾向スコアで調整できるのは測定された交絡因子のみで、未測定交絡には対処できません。そのため、感度分析などで結果の安定性を確認することが必要です。また、群間で傾向スコアの分布が重ならない場合は、解析対象者が限定されるため、「誰に当てはまる結果なのか」を見直す必要があります。
傾向スコアは「交絡調整の魔法の道具」ではなく、観察研究でできるだけ公平な比較をつくるための工夫の一つです。傾向スコアを用いて因果効果を推定した後は、その限界を理解した上で丁寧に解釈することが大切です。
参考図書
・Causal Inference: What If
Causal Inference: What Ifとはハーバード大学のSPHで教鞭をとるMiguel Hernan氏とJames Robins氏によって執筆された因果推論の金字塔的書籍です。
・初めての因果推論
https://www.iwanami.co.jp/book/b639904.html
・因果推論レクチャー
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/112204
・できる! 傾向スコア分析 SPSS・ Stata・ Rを用いた必勝マニュアル
https://www.kanehara-shuppan.co.jp/support-top/pscore/
・傾向スコア分析(下川敏雄医療データサイエンス学(附属病院臨床研究センター))
https://waidai-csc.jp/updata/2018/08/seminar-igaku-20180126.pdf
・傾向(プロペンシティ)スコアの各使用法の仮定・解釈の違いを比較してみた(UNBOUNDEDLY)https://www.krsk-phs.com/entry/propensity_score_comparison
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因果推論シリーズ
vol.1:因果推論の出発点 - 因果と関連の違いとは? -
vol.2:因果効果の基本を徹底解説 - Individual Causal Effect(個人因果効果)とAverage Causal Effect(平均因果効果)の違いとは? -
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- Part 1 ; ETAFOCAフレームワークについて
- Part 2 ; 三つの時点で考えるバイアスとその対処法
- Part 3 ; 論文の実例で理解を深めるTTEvol.4:Exchangeability(交換可能性)を徹底解説 - Randomization(ランダム化)が実現する因果推論の必須条件 -
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