
【疫学専門家監修】媒介分析を徹底解説 - 治療効果のメカニズムを解き明かせ ゼロから学ぶ因果推論 vol.18
2025.10.31
シリーズ紹介|ゼロから学ぶ因果推論
「医学研究は難しい」、きっと多くの方がそう感じているでしょう。
因果推論は、そんな複雑怪奇な医学研究にスッと一本の軸を通してくれる、まさに医学研究の原理原則とも言える学問です。
因果推論を学ぶことで、複雑に散らばっていた知識の断片が見事なまでに因果推論という幹へと体系立てられていきます。そしてきっと「論文、読めるようになってきたかも」、そんな気持ちになれるはず。
「ゼロから学ぶ因果推論」シリーズは、疫学専門家の監修のもとで「はじめて学ぶ人の気持ち」に寄り添い、具体例や図解を使用して「日本でいちばんわかりやすい因果推論の解説」を目指しました。あなたの歩幅で一歩ずつ。ゼロからの学びをはじめしょう。
はじめに
この記事では、媒介分析 (Mediation Analysis)について解説します。
因果推論によってある介入がアウトカムにもたらす因果効果を調べた時、どのような機序で効果をもたらしたのか、そのメカニズムに関心を向けることも大切です。
そして、媒介分析は「その介入が、なぜ効果をもたらすのか?」という疑問に答えるための分析手法です。
本記事では、媒介分析の基本的な考え方や具体的な理論について、初学者に向けてわかりやすく解説していきます。
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- シリーズ紹介|ゼロから学ぶ因果推論
- はじめに
- mMEDICI Library | ひらけ、叡智の扉
- この記事のまとめ
- この記事を読むと分かること
- この記事は誰に向けて書かれているか
- 因果推論シリーズ
- 執筆者の紹介
- 編集者
- 監修者
- 1.媒介分析とは?
- 2.媒介分析の基本
- 3.媒介分析の手法について
- 古典的な手法(Baron & Kenny など)
- 古典的手法の課題
- 4.反事実的アプローチの基本
- 1.反事実(counterfactual)の考え方
- 2.効果を分解する:自然直接効果(NDE)と自然間接効果(NIE)
- 3.NDE(自然間接効果)とNIE(自然直接効果)の具体例
- 4.ADE(平均直接効果)とACME(平均因果媒介効果)
- 5.媒介分析の注意点と限界
- 6. まとめ
- 因果推論を学ぶならオンラインスクールmJOHNSNOW
- 【YouTubeラジオコンテンツ 耳から学ぶシリーズ】
この記事のまとめ
この記事を読むと分かること
媒介分析の概要
媒介分析の古典的手法と反事実的アプローチについて
媒介分析の具体例
この記事は誰に向けて書かれているか
因果推論の勉強をはじめた初学者
媒介分析の概要について学びたい方
媒介分析で因果関係のメカニズムを整理したい方
因果推論シリーズ
vol.1:因果推論の出発点 - 因果と関連の違いとは? -
vol.2:因果効果の基本を徹底解説 - Individual Causal Effect(個人因果効果)とAverage Causal Effect(平均因果効果)の違いとは? -
vol.3:初心者のためのTarget Trial Emulation(TTE)
- Part 1 ; ETAFOCAフレームワークについて
- Part 2 ; 三つの時点で考えるバイアスとその対処法
- Part 3 ; 論文の実例で理解を深めるTTEvol.4:Exchangeability(交換可能性)を徹底解説 - Randomization(ランダム化)が実現する因果推論の必須条件 -
vol.5:Standardization(標準化)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -
vol.6:Inverse Probability Weighting(逆確率重み付け)を徹底解説 - 交絡調整の基本をわかりやすく図解 -
vol.7:Consistency(一致性)を徹底解説 - 観測データと反事実アウトカムを一致させよ -
vol.8:Positivity(正値性)を徹底解説 - 因果推論の落とし穴を回避せよ -
vol.9:Immortal time biasを徹底解説 - 臨床研究に潜む「不死の時間」の罠 -
vol.10:効果修飾を徹底解説 - 私たちは「どの集団における」効果を見ているのか? -
vol.11:交互作用を徹底解説 - 複数の介入による相乗効果 -
vol.12:DAGを徹底解説
vol.13:交絡を徹底解説 - 結果を歪める、因果推論の最重要課題 -
vol.14:選択バイアスを徹底解説 - 消えた患者が結果を歪める?-
vol.15:測定バイアスを徹底解説 - ズレたメジャーが、結果を歪める -
vol.16:ランダム誤差を徹底解説 - 研究結果は「運」で歪むのか? -
vol.17:傾向スコアを徹底解説 - 「治療を受ける確率」で交絡に対処せよ!
vol.18:媒介分析を徹底解説 - 治療効果のメカニズムを解き明かせ(本記事)
執筆者の紹介
氏名:A.F
所属:東京大学SPH
自己紹介:認定理学療法士(循環)、保健学修士、心臓リハビリテーション指導士。地方国立大学・大学院を卒業後、大学病院等で心血管疾患の再発予防のため、心臓リハビリテーションに従事し、予防医学の重要性を実感。現在は東大SPHに所属し、公衆衛生や生物統計についての勉学に励んでいる。
編集者
氏名:菊池祐介
所属:mMEDICI株式会社
専門性:作業療法学修士。首都大学東京(現東京都立大学)・東京都立大学大学院を卒業後、病院勤務を経て専門学校・私立大学にて作業療法教育、地域共生社会の醸成に向けたリハビリテーション専門職の支援に関する研究に従事。現在は心身の健康とその人らしさの実現に向け、保険内外でのクライアント支援を展開している。作業療法の社会的意義向上を信念に、mMEDICI株式会社に参画。
監修者
氏名:廣瀬直紀
所属:mMEDICI株式会社
専門性:保健学博士・公衆衛生学修士。東京大学・東京大学大学院を卒業後、外資系製薬企業の日本・グローバルにおいて疫学専門家として薬剤疫学・リアルワールドデータ研究に従事。その後、全ての人がアクセス可能な一流の知のプラットフォームを作り、「知に繁栄を、辺野に豊穣を」実現すべく、mMEDICI株式会社を創業。
1.媒介分析とは?
皆さんは、「ある治療法が、ある症状に効果がある」ことが知られている時に、「どのような機序で効果をもたらすのか?」と疑問を感じたことはあるでしょうか?
例えば、「禁煙プログラムが心筋梗塞を減らすか?」という問いに対してランダム化比較試験(RCT)が実施され、「禁煙プログラムにより心筋梗塞の減少効果を認めた」という結果が得られたとします。
ここで、「禁煙プログラムは、心筋梗塞リスクを減らす効果がある」と結論付けるだけでなく、実際には「なぜ禁煙プログラムが心筋梗塞に効果的なのか?」と調べることにも大きな意義があるはずです。
例えば、禁煙プログラム → 喫煙数が減る → 血圧改善 → 心筋梗塞予防 というように、介入(禁煙プログラム)とアウトカム(心筋梗塞)との間にある要因、すなわち媒介因子についてに検証することで、「なぜ効果をもたらすのか」という疑問を明らかにするのが媒介分析という分析手法なのです。
媒介因子についてはこちらの記事で解説しています。
【疫学専門家監修】DAGを徹底解説 - 応用編:調整してはならない?コライダーと媒介変数の落とし穴
媒介分析のイメージを掴むために、いくつかの具体例で考えてみましょう。
例① 糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬)による心不全増悪予防のメカニズムの確認
例えば、「糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬)による心不全増悪予防効果」について考える時、SGLT2阻害薬 → 媒介因子(利尿作用や交感神経の活性抑制、心筋エネルギー代謝改善) → 心不全増悪予防改善 というメカニズムがあるとしましょう。
この場合には、媒介分析によって、利尿作用や交感神経活性抑制などの複数の薬理作用のうち「どの要素がどの程度、心不全の増悪予防に寄与しているのか」を定量化できるかもしれません。
例② 肥満治療プログラム(体重減少や生活習慣の改善)による血圧改善効果の検証
この例では、肥満治療プログラム → 媒介因子(体重減少、睡眠改善) → 血圧改善 という機序が考えられるとしましょう。
媒介分析によって、「体重減少」よりも「睡眠の質の改善」の方が血圧改善への影響が大きいことがわかった場合、「睡眠への介入」を強化したより効果的なプログラムを開発することに役立てることができます。
例③ 大気汚染(PM2.5)による心血管リスクの増加への介入
例えば、「大気汚染(PM2.5)による心血管リスクの増加」への介入について考えるとしましょう。このように、曝露に直接介入できない(大気汚染を改善することはできない)場合において、媒介分析によって介入可能な媒介因子(血管内の炎症や血圧上昇)を明らかにすることで、大気汚染(PM2.5)による心血管リスクの増加に対して介入できる可能性があります。
※実際には、「媒介因子に介入することで本当にアウトカムが改善するか」という妥当性の検証が必要です。
2.媒介分析の基本
ここからは、媒介分析の基本について理解を深めるために、先ほどの「なぜ、禁煙プログラムが心筋梗塞を減らすのか?」という例をもとに説明していきます。
ここでは、禁煙プログラム → 実際に喫煙量が減る → 血圧が改善する → 心筋梗塞リスクが減少する、というメカニズムを想定して考えてきましょう。
媒介分析では、「介入(暴露)がアウトカムに与える効果」を「直接効果」(direct effect, DE)と「間接効果」(indirect effect, IE)の二つの要素に分解して分析することで、「介入(暴露)がアウトカムに効果を及ぼすメカニズム」を明らかにしていきます。
ここでは、以下のような具定例で考えていきましょう。
曝露因子 (A:禁煙プログラム)
媒介因子 (M:血圧)
アウトカム(Y:心筋梗塞リスク)
まず、禁煙プログラムにより心筋梗塞の発症を減らすという効果をDAGで示します。
※ここでは、禁煙プログラム(A)による心筋梗塞発症予防(Y)は介入の総合効果(Total effect, TE)を見ていることになります。

次に、総合効果(TE)のDAGを、直接効果、間接効果に分けて考えてみましょう。
DAGの矢印のうち、A(禁煙プログラム) → M(血圧低下) → Y(心筋梗塞リスク減少) という経路に注目してください。 このように媒介因子(M)を介してアウトカム(Y)に影響を与える効果を間接効果(IE)と言います(図の赤い矢印)。

一方で、禁煙プログラムを受けたことで対象者の健康意識が高まり、運動頻度が増えたり喫煙以外の生活習慣が改善することも想定されます。媒介因子(M)である血圧の低下を介さずに得られる効果を直接効果(DE)と言います(図の青い矢印)。

※理解を単純にするため、今回設定した間接効果以外の経路をまとめて直接効果としています。
以上が、媒介分析の基本となる「直接効果」「間接効果」の概念の説明になります。
そしてもう一つ、媒介分析の基本として理解しておきたい概念があります。
それは、因果推論における基本概念である反事実(counterfactual)という概念です。
簡単に説明すると、ある個人が「もしも介入を受けたら」「もしも介入を受けなかったら」という場合を想定して、介入効果を比較することを言います。
反事実的アプローチについてはこちらの記事で解説しています。
【疫学専門家監修】因果効果の基本を徹底解説 - Individual Causal Effect(個人因果効果)とAverage Causal Effect(平均因果効果)の違いとは?
そのような反事実(counterfactual)を用いて直接効果と間接効果を表現したものが、
自然直接効果 (natural direct effect, NDE)
自然間接効果 (natural indirect effect, NIE)
となります。
この反事実的アプローチに基づいたNDE(自然直接効果)やNIE(自然間接効果)についての詳細は「4.反事実的アプローチの基本」で解説します。
ここではひとまず、直接効果と間接効果という概念について理解し、次の章で「媒介分析の手法」について学んでいきましょう。
3.媒介分析の手法について
媒介分析の手法については、従来から用いられるBaron & Kenny法や、反事実的アプローチに基づく手法などがあります。
本記事の解説は反事実的アプローチに基づいて理解を深めていきますが、まずはその基本とも言える古典的手法について簡単に理解した上で解説を進めていきましょう。
古典的な手法(Baron & Kenny など)
ここではDifference Method(差の方法)とProduct Method(積の方法, Product-of-Coefficients Method)という二つの古典的手法について紹介していきます。
① Difference Method(差の方法)
差の方法では、以下のような数式を用います。(この数式を理解する必要はありませんのでご安心ください。)


考え方はとてもシンプルで、「媒介因子(M)を入れない式」と「入れた式」とでそれぞれの値を求め、その差を「媒介因子を経由した効果(間接効果)」と捉える、とてもシンプルな方法です。
先ほどと同様に、曝露因子(A:禁煙プログラム)、媒介因子 (M:血圧)、アウトカム(Y:心筋梗塞リスク)の例として、差の方法の方法について考えてみましょう。
まずは、「禁煙プログラムの有無」だけを計算に加え、心筋梗塞リスクの差を求めます。ここで差があった場合、その差は「禁煙プログラムの総合効果(Total effect, TE)」と考えます。ここでは「禁煙プログラムによる心筋梗塞リスクが7%低下」であったとしましょう。
次に、「禁煙プログラムの有無」に加えて「血圧」も計算に加え、心筋梗塞リスクの差を比べます。ここでは、「心筋梗塞リスクが2%低下」であったします。
この時、媒介因子である血圧(M)を計算に含めることで、心筋梗塞リスクが5%小さくなったことになります(7% → 2%)。
この5%の変化を「血圧が改善したからこそ生まれた効果(間接効果)」と捉えます。
そして、血圧(M)を計算に入れた後も残る「心筋梗塞リスク2%減少」という結果は、「禁煙プログラムによる、血圧の変化以外の経路(直接効果)」という理解となるのです。
このように、差の方法は「媒介因子(M)の有無」で比べることで、直接効果と間接効果を求める方法です。
② Product Method(積の方法, Product-of-Coefficients Method)
積の方法では、以下のような数式を用います(ここでも、この数式を理解する必要はありませんのでご安心ください)。

積の方法は、この数式を用いることで「禁煙プログラムによって、血圧がどれくらい変化するのか?」「血圧が変化すると、心筋梗塞リスクはどれくらい変わるのか?」を調べることで、間接効果と直接効果を求める方法です。

例えば、「禁煙プログラムが血圧を大きく改善する」「血圧が改善すると、心筋梗塞リスクも下がる」という関連が強ければ強いほど、間接効果(禁煙プログラム → 血圧 → 心筋梗塞リスク)も大きくなるはず、と捉えるのが、積の方法の基本的な考え方となります。
古典的手法の課題
差の方法(Difference Method)と積の方法(Product Method)などの古典的手法は、直感的で理解しやすい手法ですが、いくつもの課題が指摘されています。
その中でも重要な問題点は「未測定の交絡に弱い」という点です。
古典的手法で直接効果と間接効果を推定するためには、次の四つの強い仮定が必要とされています。
仮定①:曝露因子(A)―アウトカム(Y)の交絡(C)の調整
仮定②:媒介因子(M)―アウトカム(Y)の交絡(C)の調整
仮定③:曝露因子(A)―媒介因子(M)の交絡(C)の調整
仮定④:曝露因子(A)から影響を受ける媒介因子(M)―アウトカム(Y)の交絡因子(L)がない
DAGによる交絡の理解については、こちらの記事で解説しています。
【疫学専門家監修】DAGを徹底解説 - 基礎編:因果推論の必須ツールで交絡因子を可視化する

特に仮定④に注目すると、交絡因子(L)は、暴露(A)のアウトカム(Y)に対するの効果の媒介因子( A → L → Y )でありながら、媒介因子(M)のアウトカム(Y)に対する効果の交絡因子( M ← L → Y )にもなるため、対処がより複雑になる。
こういった問題に対処するために、本記事の後半で解説する反事実的アプローチ(自然直接効果・自然間接効果) が発展していきました。
4.反事実的アプローチの基本
「2.媒介分析の基本」でも軽く触れましたが、ここから反事実的アプローチに基づく媒介分析の概念や手法について具体例を交えながら解説していきます。
1.反事実(counterfactual)の考え方
まずは、因果推論における基本的な概念である反事実(counterfactual)についておさらいしておきましょう。
因果推論では、ある個人において「もしが禁煙した場合」と「もし喫煙なかった場合」を比較して、その違いを因果効果として解釈します。この「もしも」の世界を考えることを反事実と言います。
しかし、現実世界では、ある個人において「もしが禁煙した場合」と「もし喫煙なかった場合」の両方を観測して、値を比較することはタイムマシンがない限り不可能です。つまり、個人における因果効果(個別因果効果:Individual Causal Effect)を調べることはできません。
そのため、因果推論では因果推論の識別3条件(Exchangeability、Consistency、Positivity)が保証された集団を比較することで、集団全体での平均的な因果効果(平均因果推論:Average Causal Effect)を求めます。
反事実的アプローチについてはこちらの記事で解説しています。
【疫学専門家監修】因果効果の基本を徹底解説 - Individual Causal Effect(個人因果効果)とAverage Causal Effect(平均因果効果)の違いとは?
反事実的アプローチに基づいた媒介分析では、上記の文脈のように「もし曝露は変わらず、媒介因子が変わったらどうなったか(間接効果)」と「もし媒介因子は変わらず、曝露が変わったらどうなったか(直接効果)」の、2種類の「もしも」について検討していきます。
2.効果を分解する:自然直接効果(NDE)と自然間接効果(NIE)
次に、反事実的アプローチに基づいた自然直接効果(NDE)と自然間接効果(NIE)について「個人単位」での例を使いながら説明していきます。
ここでは、以下のような具定例で考えていきましょう。
曝露因子(A:禁煙プログラムの有無)
媒介因子(M:血圧の値)
アウトカム(Y:心筋梗塞リスク)
媒介因子である血圧(M)の値について、「もしも」の反事実的な視点で考えてみましょう。
① M(0):“もしも禁煙プログラムなし( a = 0 )”の時の血圧
② M(1):“もしも禁煙プログラムあり( a = 1 )”の時の血圧
※ここでは“下付き文字”の数字を小括弧 ( ) で表現しています。
例えば、A、B、Cの3名について、この「もしも」の血圧 M(0)・M(1) の値を見てみましょう。

AさんとBさんは、禁煙プログラムを受けると血圧が下がる。
Cさんは、禁煙しても血圧が変わらないタイプ。
このように、個人によって「禁煙が血圧に与える影響」は異なると考えられます。
ちなみに、集団全員をM = 140 のような特定の値に固定し、a = 0 と a = 1 とを比較することで求められる効果を「制御された直接効果(Controlled Direct Effect, CDE)」と言います。
CDEは、媒介因子の影響を無くして、曝露因子によるアウトカムへ与える純粋な効果を見ている指標で、効果の分解(直接効果と間接効果)や媒介の経路の特定まではできません。
① 自然直接効果 (Natural Direct Effect, NDE)
自然直接効果 (NDE)では、「もしも、媒介因子(M)の値が変わらなかった場合、曝露がアウトカムに及ぼす効果はどのくらいか?」を調べます。
具体的には、媒介因子(M)をM(0)(もしも、禁煙プログラムなしの場合の血圧)で固定し、禁煙プログラム(A)だけを a = 0 → a = 1 に切り替えた時のアウトカムYの変化を見ていることになります。
式で表すと以下のようになります。

つまり「もしも“血圧は変わらない”としても、禁煙プログラムそのものにどれだけの効果があるのか?」を測っていることになります。
② 自然間接効果 (Natural Indirect Effect, NIE)
自然間接効果(NIE)では、「もしも、“曝露(A)が変わらなかった場合”、媒介因子の変化がアウトカムに及ぼす効果はどのくらいか?」を調べます。
具体的には、禁煙プログラム(A)を a = 1 に固定し、媒介因子(M)だけを M(0) → M(1)(禁煙プログラムによって自然に下がっていたはずの血圧)に入れ替えてアウトカムYの変化を見ていることになります。
式で表すと以下のようになります。

つまり「血圧の低下そのものが、アウトカムにどれだけ効果を与えたか?を測っていることになります。
そして、総合効果(TE)は TE = NDE + NIE と分解できることから、以下の式で表すことができます。

直感的なイメージとして、「禁煙プログラムの効果のうち、どのくらいがプログラムそのものによる直接作用で、どのくらいが血圧低下(媒介)を介した作用か?」を見ているものと理解してください。
3.NDE(自然間接効果)とNIE(自然直接効果)の具体例
先ほどのNDEとNIEの考え方に、実際に数値を当てはめて考えてみましょう。
計算をわかり易くするために、以下のような条件で考えていきます。
・禁煙プログラムなしの場合の血圧:M(0) = 140mmHg
・禁煙プログラムありの場合の血圧:M(1) = 130mmHg
・ベースライン( A = 0 , M = M(0) )の心筋梗塞リスクは20%
まず、NDE(自然直接効果)は、媒介因子である血圧(M)を M(0) = 140mmHg に固定し、暴露(A)だけを a = 0 → a = 1 に変化させた時の効果を測ります。
心筋梗塞リスクが20% → 18%に低下した時、自然直接効果(媒介因子である血圧を経由しない、禁煙プログラムによる効果)は2%となります。
次に、NIE(自然間接効果)は、禁煙プログラム(A)を a = 0 に固定し、媒介因子である血圧(M)を M(0) = 140 → M(1) = 130 に変化させた時の効果を測ります。
心筋梗塞リスクが20% → 15%に低下した時、自然間接効果(媒介因子である血圧を経由した効果)は5%となります。
最後に、総合効果(TE)は以下のように求めることができます。
TE = NDE + NIE =(−2%)+(−5%)=−7%
この結果から、禁煙プログラムによって心筋梗塞リスクが 20% → 13%に低下することがわかると同時に、血圧の低下による心筋梗塞リスク低下の効果が大きいことから、例えば禁煙指導に加えて降圧治療を強化することで、さらに心筋梗塞リスクを下げられるという対応にもつながるかもしれません。
備考
ここで説明した「個人の中での直接効果(NDE)・間接効果(NIE)」は、同じ人について「禁煙プログラムを受けた場合」と「受けなかった場合」の両方を同時に観測できないため、現実のデータからそのまま求めることはできません。
そのため、「集団で平均する」方法について次章で説明していきます。4.ADE(平均直接効果)とACME(平均因果媒介効果)
先ほどまでは個人単位でNDE(自然直接効果)とNIE(自然間接効果)について考えてきましたが、先述の通り、ある個人において「もしも禁煙プログラムを受けた場合」と「もしも喫煙プログラムを受けなかった場合」の両方を観測することは不可能です。
そのため、集団レベルでNDEとNIEについて考える必要があります。
※「個人における効果」と「集団における効果」の考え方については、以下の記事で解説していますのでぜひご覧ください、
NDEとNIEを集団平均で表したものが、ADE(Average Direct Effect)と
ACME(Average Causal Mediation Effect)です。
① ADE(Average Direct Effect)
媒介因子(M)の値を変えないまま、介入(A)を行った時に、平均してどれくらいアウトカム(Y)が変わるか。言い換えると、集団全体で見たNDE(媒介因子を通らない、介入による直接の効果)です。
② ACME(Average Causal Mediation Effect)
介入によって媒介(M)が変化し、その変化が平均してどれくらいアウトカムを動かしたか。つまり、集団全体で見たNIE(媒介因子を通じた効果)です。
個人レベル(NIE、NDE)では「Aさんの禁煙プログラムが、血圧をどのくらい下げ、それが心筋梗塞リスクにどれだけ影響したか」を考えていました。
集団レベル(ADE、ACME)では、「この禁煙プログラムを多くの人に行った時、平均してどれくらい血圧を介して心筋梗塞リスクが下がるのか?」を見ます。
集団全体の効果(TE)は個人におけるNDE、NIEの時と同様に、以下の式で考えることができます。
TE = ADE + ACME
この解説では説明しきれていない複雑な理論が背景にありますが、実際には媒介分析を統計ソフトで実施できますので、今回は媒介分析について概念に理解していただければゴールとなります。5.媒介分析の注意点と限界
媒介分析は、介入や曝露が「どのような経路で効いているのか」を理解するために有効や手法ですが、いくつかの注意点と限界があります。ここでは代表的なポイントを整理します。
古典的手法の課題でも触れましたが、媒介分析の注意点として「未測定の交絡因子」があるとバイアスが生じて、効果の推定が不安定になることが挙げられます。
また、因果効果の分解(直接効果、間接効果)は可能でも、全ての媒介因子(経路)を網羅することは保証できず、交絡等により解釈が難しくなる点でも限界があります。
そのため、「なぜ効くのか?」という検証に有用ではありますが、交絡を把握するためにDAGによって仮定を明示するなど、慎重に検討する必要があります。
6. まとめ
今回は媒介分析について解説しました。
「治療がなぜ、どのように効くのか?」という問いに答える手法が「媒介分析」であり、因果効果を「直接効果」と「間接効果」に分けることで、因果関係のメカニズムについて検証することができます。
媒介因子を理解することは、「因果効果の推定」にとどまらずに、因果関係のメカニズムの理解につながり、より有効なアプローチの検証にも発展させるためにも有効です。まずは本記事で解説したように、基本的な概念を理解していきましょう。
本記事が、媒介分析を学び始めた方々の理解促進につながれば幸いです。
参考資料
Tyler J. VanderWeele.(2016)Mediation Analysis:A Practitioner’s Guide
UNBOUNDEDLY. 因果効果のメカニズムを検討する:媒介分析(Causal Mediation Analysis)入門①~既存の手法の問題点~- Unboundedly
UNBOUNDEDLY. 因果効果のメカニズムを検討する:媒介分析(Causal Mediation Analysis)入門②~反事実モデルに基づく媒介効果の定義~ - Unboundedly
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